第28話 良いことってのはしとくもんだ
「階層図と照らし合わせてみると……この辺りは第四階層みたいだな」
念のため、事前に階層図を購入しておいてよかった。
しかしあの落とし穴、一気に三階層分まで跨いでやがったのかよ……。
「――おじさま、あそこ……!」
岩陰に隠れながら、ハクが指差す方向を確認する
どうやら、目的の場所に到着したようだ
「あれは……マーメイドクイーンか」
――マーメイドクイーン。
ランクAのマーメイド系上位種だ。
周りにはギルマーマンにリトルクラーケン、ミミックシェルなんかもいるな。……それもちょっとひくぐらいに大量にだ。
おそらく、あのマーメイドクイーンがエリアボスになってるんだろう。
もともとマーメイドクイーンは、そうやって集団で冒険者を襲い、落としたアイテムなんかを収集する性質があるらしいからな。
……まぁ今回は、特にお気に召したモンがあったみたいだが。
「えぇ!? え、えとおじさま、あの魔物さんがマーメイドさんなんですか……? その、お話の挿絵にあったのとは随分……」
「「「あー……」」」
ハクの言葉に、他の全員が『わかる』みたいな反応をする。
初めてマーメイドを見る冒険者は結構そうなるんだよなぁ、こう……『いや魚感つよくね?』って感じで。
ラミアやアラクニアなんかと違って、物語なんかのマーメイドはちょっと美化されてるところがあるからな。無理もないって話だ。
「ま、そんな落胆すんなって、ああいうのはどっちかというとマーメイドの亜人をモチーフにしてるんだよ。そいつは別の機会まで取っておくとしてだ……」
目を凝らしてみれば……あった、予想通りだ。
マーメイドクイーンの左手、小さなネックレス持っているのが何とか見える。
「ほんとだ……! よかった見つかって……!」
「オーリエの持ってた綺麗な石ってのがあったろ? 恐らくそいつがヘイト管理系のマジックアイテムでな。多分、魔物を引き付ける効果をもってるんだろう」
それがマーメイドクイーンの性質と相まって、魔物にイレギュラー的な行動をとらせていたって寸法だな。
魔物を引き付けるっつーと危険にも聞こえるが、冒険者ならきちんと管理にさえ気をくばりゃ、さほどの問題はないアイテムだ。
現に、レベリングのために使われてるもんもあるぐらいだしな。
……が、これが一般人となると、また話が変わってきちまうからなぁ。
オーリエが母親に『不幸を運んでくる』なんて言われてたのも、そのへんが関係していたのかもしれん。……あんまり、気分の良い話とは言えんがね。
「でも……イルヴィスおじさまの強さは知ってるけど、この数の魔物を相手に、あの小さなネックレスを無傷で取り返すのは難しくない?」
……ふーむ、ネーリャの言うことはもっともだ。
確かにランクAの魔物とはいえ、今俺なら周りのヤツらを合わせて相手にするのも難しくはねぇし、姿が見えねぇっつう例のヤツも、戦闘力解放さえ使えば傾向限界突破で感知できるだろう。
が……ただでさえネックレスが魔物を引き寄せるってのに、敵さんは自由に空中を泳げるときている。
この状況の組み合わせが、抜群に最悪なんだよなぁ……。
地の利が向こうにある以上、どうしたってネックレスを巻き込みかねん。
そんでもってこの数だ、戦闘のどさくさで壊れちまう、なんてオチは避けたいところだ。
「ど、どうするおっちゃん……? い、一度トリア達と合流するか……?」
「そいつがどうにもなぁ……。アイツらがあの格好のままって以上、そういうわけにもいかんっつーか……」
「まぁ確かにね。……つかひょっとして、一回り以上年下の女の子の相手に変な意識しちゃってんの? ちょっと軽くヒくんですけど?」
「えー? んふふ、もしかしてアタシらもそんな目で見られちゃってるー? こまるんですけどー?」
おいやめろ。
つーか、二人とも完全に面白がってんじゃねぇか。
……ま、そういう風にいつも通りでいてくれてた方が、俺も気が楽でいいがね。
変に遠慮されちまうってのはどうにもってヤツだ。
「お、おっちゃんその……あ、あんまり気にしなくてもだいじょうぶだからな……? お、おっちゃんがす、すこしその……え、えっちなことは、わ、わたし達はもう知ってるから……」
「えと……ハクも平気です! だって……えへへ、おじさまにはいつも見てもらってますから……!」
「はぁ!? おいおっさん!? アンタこんな小さい子に何させてんの!?」
うーん、全然大丈夫じゃないしなんもしてないし……濡れ衣の追いがすごい。
自分で言うのもなんだが、面倒を見てもらってるとかそういうお話だからね?
『お世話になってるからこんなことで幻滅しません』っつーそんな感じの。
……だからもう少し、あともう少しだけ頑張って言葉を付け足そうなハク?
シズレッタのヤツがものすごい形相で俺を睨んでるぞ? ははは。
「いやいやいや、とりあえず落ち着けって。つか、意識してるとかそういう話じゃねぇっつの。……よーく考えてみろ? ここがどういうダンジョンなのか、忘れた訳じゃねぇだろ?」
「どういうダンジョンか? つーと……」
「えと、『大気』と『海』の両方の属性を持ってて……だからあの魔物さん達も空中を泳げてるんですよね?」
「ほ、他にはえっと……そ、そのせいかわたし達も、み、水着じゃないと呼吸ができなくて………………あ」
どうやら、ネルネは気付いたようだな。
「あそっかぁ。水着じゃないとダメってことはー、ひょっとしてハダカにされちゃってもダメなんじゃん?」
ま、そういうことだ。
少なくとも向こうの四人中三人は、あと一枚しか猶予が無いってワケだな。
「つまりだ、あの例の魔物。あれは娯楽小説であるような『ちょっとエッチなハプニング』なんて生易しいもんじゃあねぇ。――生きるか死ぬかの、死活問題ってわけだな」
「きゅ、急に重い話に……」
だよなぁ。
水着を剥がす魔物なんて、それだけ聞いたら完全に『何それふざけてんの?』って感じだぜ? ホント。
「かと言ってだ、今から外で新しい水着をそろえて出直す……ってのも現実的とは言えん。こんな浅層にマーメイドクイーンがいるのも、あのネックレスにつられて来たってところだろうからな」
目的のモンを手に入れた今、いつまでもここに留まってはいないだろう。
深く潜られれば、それだけ探すのも困難になっちまうだろうからな。
……最近はよく実感するね。
例えデカい力を持っていようが、何でもかんでもぱぱっと出来ちまうわけじゃあないってことをよ。
「じゃあどうしようもないってこと? そんな、せっかく見つけたのに……」
現状を把握したシズレッタが肩を落とす。
確かにこの状況だけを考えれば、確実な方法ってのは無いように見える。
が――。
「――心配すんなって、ちゃんと手はあるからよ? なんとおっさん、そのためのアイテムまで用意してあるんだなこれが」
「あ、アイテム……? い、いつの間にそんなもの用意したんだおっちゃん……?」
「そいつはあれだ、……ま、良いことってのはしとくもんだってところかね?」
「……?」




