第27話 ただそんだけの話だ
「抜けたってのは、あーっと……」
「うん、言葉通りそのままの意味。パーティ、抜けちゃったの。アタシも、シズレッタもさ」
マジか。
確かにそれなら、他のメンバーが一緒にいなかったことにも説明がつくが……。
「え、えっと……そ、そうなのかシズレッタ……? その……ど、どうしてそんな急に……」
「……はぁ、なんでアンタがそんな顔するんだっての。……別に、良くある話。方向性の違いっつーか、そんな感じの? そんな急ってワケでもなかったし……」
狼狽えるネルネに、少しずつ口を開くシズレッタ。
「……アンタも知ってると思うけど、そもそもあたしらのパーティはさ、必死に頑張ろうって感じじゃなかったじゃん? むしろ、そういうのダサって思ってたっつーか……」
「ネルネをパーティに誘ったのだって、回復とか状況把握とかのめんどくさいことは、まとめて押しつけちゃえばいいって思ってたからだしねー? ……今は少し、悪いことしたかなって思ってるけど?」
「ネーリャ……。う、ううん、も、もういいんだ……。な、なんとなく、そう思ってくれてるのはその、わ、分かるから……」
「そう? ……ふふ、そっか。じゃあもう気にしーないっと。それでえっと……そうそう、まぁ意見がぶつかっちゃうよねー? そんな中で『変わりたい』なんて思っちゃうとさぁ?」
「変わりたい……ですか?」
「うん。ちょっとさー、もう少しだけがんばっちゃおうかなーなんて。……まぁそんな感じ?」
ハクの頭を優しく撫でながら答えるネーリャ。
「……実際パーティのヤツらにはバカにされてたけどね。『なに急に必死になってんの? ウケんだけど?』って」
「まぁ自業自得って感じかなー? アタシらもそういう人のこと、同じ風に思ってた……ううん、同じ風にバカにしてたしねぇ?」
馬鹿にしてた、か。
あえて言い直すあたり、色々と思うところがあるんだろう。
「それでさ、イルヴィスおじさまには言わないでーって、おばーちゃんとかシーレちゃんとか、みんなにも口止めしてたんだけど……あれからもアタシら、あの孤児院に行ってたんだー。何かできることないかなーって」
「……! そうなのか!?」
シーレには念のため、少しの間、孤児院周りの警戒を頼んである。
アイツこの前の宅飲みに遅れて来た時も『ほほ、ないしょじゃないしょ』なんて理由を話さなかったが……ひょっとしてこういうことだったのかもしれんな。
「しかし……なんで黙ってたんだよ? 別にやましいことしてるわけじゃねぇってとに……」
「だって……なんつーか、言い訳してるみたいじゃん……。『私は心を入れ替えて、真面目に良いことをしています』って、わざわざアピールしてるみたいでさ……」
「……って、シズレッタが言うからさー?」
「はは、なるほどなぁ。……なんだよお前もたいがい、めんどくさい性格してんなぁホント?」
「う、うっさいな! つか、勝手に撫でんなし……」
そう口にしながらも、手を払いのけたりはしないシズレッタ。
「……あれからまだ一週間ぐらいだけどさ、特にオーリエなんかは、シズレッタに懐いてるよねー」
「ん、まぁ境遇が似てた……って訳じゃないけど、あたしのママも少し荒れてた時あったから……」
「えと、オーリエちゃんっていうと、あの時の……」
三ヶ月ほど前に新しく入ったっつー女の子だ。
色々あったが、最後には誕生祭を楽しんでくれてたのを覚えている。
「……誕生祭に持ってったプレゼントの中に、唯一の芸術家を使ってアクセを作ろうってのがあってさ……子供用のだから、そんなにしっかりしたのじゃなかったけど……」
唯一の芸術家。
俺も以前、肩代わりの依代を隠すために使ってたマジックアイテムだな。
「オーリエが、それで作ったのをくれたの。『いつもありがとう』って、まだったった一週間だってのにさ? ……そんな風に貰った物なんて初めてだった。宝物だっていう、綺麗な石までつけてくれて……」
……!
それが、あのネックレスか……。
「あたしは正直言って、良いニンゲンってワケじゃなかったよ? それは自分でもわかってる。……でも変わろうって、変わりたいって思ったの。……あの地下水路の時から、ちょっとずつ……」
「ネルネに助けられてー、イルヴィスおじさまにお説教されてー。バンダルガでも協力したり、孤児院のことでも頼られたりさぁ。……悪くないなって、思っちゃったんだよねー、アタシもおんなじ」
「し、シズレッタ……。ネーリャ……」
……なるほどな。
なんとなく分からんでもないよ、こう……そういった部分を見せたくないって強がる気持ちはよ。
俺へのあたりが強かったのも、その辺のアレが関係してたんだろう。
ネーリャの言う『変な意地』ってのも……ま、そういうことってワケだ。
「なのに……それなのに、なくしちゃった……。やっぱさ、罰が当たったのかな……? 今さら変わろうだなんて都合がいいって……」
……罰が当たった、ね。
「……お前らが以前からどういう奴だったのか、俺はネルネのこと以外は詳しく知らんが……それでもああいった扱いを他のヤツらにもしてたってんなら、そいつは確かに褒められたもんじゃあねぇなぁ」
「……」
「そんでもって、どれだけ心を入れ替えたとしても、今でもお前らのことを許せないってヤツはいるだろう。……この先も、ずっとな」
「……っ! ……わかってるし、だから罰だって――」
「――けどよ、お前らが心の底から変わりたいっつーなら、『償うこと』や『許されないこと』が罰だったとしても、『不幸』が罰であっちゃならねぇと思うがね」
「…………え?」
俺の言葉に、目を丸くするシズレッタ。
「そうだろ? 考えてもみろって、女神様が悪いヤツら全員に天罰をくだしてくれるっつーならよ……ほれ、衛兵なんてもう、お仕事無くなっちまうぞ?」
清濁併せ持ってこその人間。だからこそ、人を裁くのは人であるべきで、それはこの上なく難しいってもんだ。
……ま、戦女神であらせられるジエム様の受け売りだがね?
「だからよ、探してみようぜ、諦めちまう前にもう少しぐらいはよ」
「で、でも、こんな広いダンジョンから見つかるワケが……」
「いいやそいつがな、手がかりが無い訳じゃあねぇのさ。……さっきから話に出てたがよ、そもそもその魔物は第五階層から先に出現するって話だったろ? だとしたら、なんで第一階層に現れたのか……」
ハクが反応しなかったってことは、フリゲイトの干渉じゃあない。
となれば何か、イレギュラーが起きた原因があるはずだが……。
「な、なぁおっちゃん……。あ、あんまりいい言葉じゃないんだが、あ、あの時、オーリエが言ってたこと、お、覚えてるか……?」
「あの時? つーと……」
『――お母さんも言ってた、私が疫病神だって、不幸を運んでくるんだって……!』
「疫病神……不幸……か。 ――! なぁシズレッタ、ネックレスについてた石、オーリエは宝物だって言ってたんだろ? 他に何か聞いてねぇか?」
「え? えっと……確か、おじいちゃんからもらったとかなんとか……」
ビンゴだぜ……!
何故そんなもんを、なんて詳しい背景は今は置いておくとしてだ。つまり、その石は孤児院に入る前から持ってたもんってことになる。
それならひょっとして……!
「おじさま! ここから少し離れたところに、魔物さんが集まってる場所があるように感じます! もしかしたら……!」
「っと……さすが、二人とも頼りになるよホント」
「そ、そんな、て、照れる……!」
「えへへ……!」
「え、えっとー……? イルヴィスおじさま、どういう……」
「ま、一言で言っちまえばそうだな……。――取り戻しに行こうって、ただそんだけの話だ……!」




