第26話 つい、最近ね?
「……どうにも、はぐれちまったみたいだな」
「えと、はい……。こっちのみなさんに怪我とかは無いみたいですけど……」
「と、とりあえずそこは、ふ、不幸中の幸いかな……」
さっき俺が引っかかっちまった落とし穴。
そいつは別の階層へと繋がるタイプのものだったみたいだが……どうやら途中で行き先が分岐しちまっていたらしい。
こっちにいるのは……。
「ネルネにハク……それと、シズレッタにネーリャ。そんで俺の五人か」
となると、向こうはトリア、エテリナ、クヨウ、マッフィーノの四人。
こういった場合、どちらかに大きく人数が偏るなんてことはまず無いからな、つまり、二手に別れたと考えて良いはずだ。
これも幸い……と言って良いかは微妙なとこだが、マッフィーノと一緒なのが勇者候補の三人なら、ある程度心配はないだろう。
いくら落とし穴っつっても、十も二十も下の階層へ行くことは無いはずだしな。
しかし……。
「はぁ……。悪いなぁ四人とも、俺の迂闊さに巻き込んじまってよ……」
落とし穴、結構大きさだったからなぁ……。
まさか全員を巻き込むほどのモンだとは……。
トラップがあるってことも、事前にマッフィーノから話を聞いてたっつーのに……ホント、なにやってんだろうねって話だ。
油断っつーか奢りっつーか、良くないなぁこういうのは……。
「あ、あのおじさま、そんなに落ち込まないでください……! 失敗は誰にでもあるって、特訓の時もハクに言ってくれてるじゃないですか……!」
「そーそー、過ぎちゃったことはしょうがないじゃん? ね?」
ハクとネーリャが、慰めるように背中を撫でてくれる。
うぅ、おっさんはダメな大人だよホントに……。
「…………アンタは慰めたりしなくていいの? あれ」
「え? え、えと……そ、そうしたいのはやまやまなんだが、その……お、おっちゃんの恰好が、えと……」
「恰好? ただの水着じゃん? さっきの上着は、あのトリアって子に貸しちゃったままみたいだけど……」
「う、うん……。う、海にいた他の男の人の恰好を見ても、な、なにも思わなかったんだけど……な、なぜかおっちゃんにだけはその……、本当に、な、なんでだかわかんないんだけど……えと……」
「あー……。なるほどね、そういうこと」
「……?」
「――とりあえずあれだ、一度入り口に戻ってみるか」
ダンジョンってのは本来、公平性の保持やらなんやらのために、特定の誰かの所有物になることはない。
が、探索以外の実入り……例えばここなら『観光』だな。そういったもんが見込めるごく一部のダンジョンに限り、冒険者ギルド、商人ギルドの両方に認可された特定の人物や団体が、運営、管理を任されたりすることもある。
一般人相手の護衛の手配だったり、同じく安全性の確保だったりと、そういったもんの見返りに、入場料なんかの収益の一部を……って感じだな。
んで、このダンジョン『ハーミナイトラグーン』の運営には、マッフィーノが一枚かんでいるらしい。
トラップの位置を知っていたのもそれが理由だ。
おかげで入場料……リバントンミュージアムの時と違い、今度は本当にちゃんとした入場料だが、そいつをまぁ、またおまけしてもらったりもした訳で……。
なぜだかこう……長細いロープのようなイメージが一瞬頭をよぎる。
……さてなんでだろうね?
まぁとにかくだ。そうなると、恐らくだがマッフィーノはある程度ダンジョンの構造も把握しているはず。
向こうにはエテリナやクヨウもいるからな。アイツらなら、むやみにダンジョン内での合流を考えたりはしないだろう。
恐らく四人もダンジョンの入口へ向かって進んでくれているはずだ。
それなら俺達も――。
「あれ……? ウソ!? 無い!? 無くなってる!!」
そんな思案を巡らせていると、ふとシズレッタが焦ったように声をあげる。
……まさか。
と、俺は念のために顔をそむけながら、一言たずねてみたりする。
「あー……シズレッタ? ひょっとしてお前も水着を……」
「な!? そっちじゃねぇよ! なにヘンな想像してんだこのエロおやじ! ……そうじゃなくてネックレス……ネックレスが無くなってんの!」
いや変な想像なんぞしとらんし、流石にエロおやじは勘弁してくれよ……。
おっさん割とダメージデカいよ? いやホントに……。
……しかし、ネックレスか。
「ひょっとして、落とし穴に落ちた衝撃でどっかいっちまったのか? だとしたら俺のせいで……」
「ううん、多分それは違うかなー。アタシもそのネックレスのことは知ってるけど、けっこうフィットしてるタイプので、そんな簡単に取れるようなモノじゃ無いと思うし」
「まぁ、確かにそうだけど……」
ふーむ、となると頭からすっぽり抜けちまうってことはなさそう、か。
しかし現状、実際に無くなっちまってるってのは確かな訳で……。
……ん? 無くなってる……?
「……なぁシズレッタ? 頭が通らない程フィットしてたっつーなら、どうやって着けてたんだそのネックレス」
「どうやってって、そんなのこう、首の後ろ側に小さな止め具があって、そこで…………あっ!?」
「そ、そうか……! さ、さっきマッフィーノが言ってた……!」
「じゃあひょっとして、シズレッタさんもトリアさんたちの時と同じで……!」
そういうことだろうな。
第五階層以降に出るっつう、水着を剥がすタコの様な魔物。
恐らくそいつにやられちまったってことか。
「そんな……! どうしよ……そんなの探せるワケが……」
「確かに難しいかもしれんが……その、あれか? ダンジョンにまで身に着けてくるぐらいだ、ひょっとしなくても、大事なモノだったりしたのか?」
「……! ……べつに、おっさんにはかんけーねぇじゃん……。同じパーティでもないんだし……」
「いやまぁそいつはそうかもしれんが……」
唇をとがらせて、プイとそっぽを向くシズレッタ。
どうにも、俺に対しては未だにあたりが強いんだよなぁこいつ。
おっさん嫌われてんのかねぇ? それとも――。
「……はぁ。シズレッタさー、もういい加減そういうのやめたらー?」
「は? ……なにネーリャ、ケンカ売ってんの?」
「そーじゃないけどさー。つか逆じゃん? いつまでも変な意地はって、ケンカ腰みたいになってるのはそっちでしょー?」
「……っ! それは……」
「まてまてまてって、ほれ、事情は良く分からんが、こんな時に言い合いなんかすんなってのに……」
少し険悪な様子の二人の間に割って入ってやる。
いざこざを止められる、とまでは思わんが、他人が目に入ると冷静になる部分もあるだろう。
「……ん、ごめんイルヴィスおじさま、ちょっと頭に血がのぼっちゃった。……ねぇシズレッタ、アンタが話さないなら、もうアタシから話すけど?」
「…………」
シズレッタはネーリャの言葉に返事をするでもなく、視線を斜め下に向けたまま不機嫌そうな顔をしている。
……いや、不機嫌とは少し違うか?
「あーっと……いいのか? 黙ったまんまみたいだが……」
「いいのいいの、素直にはーいって言えないことぐらい知ってるし。これでもけっこう、付き合い長いからさー」
なるほどな。
確かに、付き合いの長さで分かることってのはあるだろう。俺も身に覚えがあったりするもんだ。
さて……。
「さっきさぁ、『他のパーティメンバーはどうしたのか』って聞かれたよね?」
「あぁ、そいつは確かに聞いたが……」
「――アタシらね、二人とも抜けちゃったんだー。つい、最近ね?」




