第25話 なんでお前、上着てねぇの?
「――ですと……シズレッタさんはオークのハーフですのね?」
「うん、そういうことそういうこと。だからさ、別に日焼けとかじゃなくて、この肌は地でさ――」
結局その後、なんやかんやでシズレッタたちも俺達と合流することになった。
のだが……。
「…………」
「…………」
……やはり、なんて言っちまうととアレだが、二人とネルネはまだ少しぎくしゃくとしているようだな。
あれからも色々あって、こう……わだかまりみたいなモンは大分薄れてるみたいだが……。まぁそういうモンが無くなったとしても、すぐに何もかもが解決するワケじゃあねぇからなぁ。
むしろそっからの方が……なんてことは、特に珍しい話でもないだろう。
罪悪感だったり、苦手意識だったり、その他いろんなもんだったり……全部が全部あっさりと解決するってんなら苦労はしないって話だ。
とはいえだ、それでも随分いい方向に向かっているってのは、なんとなく見ていてわかる。
少しずつ、変わってきてるってことなんだろうね。……お互いにな。
あとは何か、きっかけでもあればあるいは――。
「そうですわ! せっかくこれだけの冒険者が集まっているんですもの、少しダンジョンへ足を運んでみませんこと?」
っと、リーズシャリオにあるダンジョンか。
確か――。
「――ふわぁ! すっっっごいねぇ!!」
トリアがたまらずといった様子で、感嘆の声をもらす。
――ハーミナイトラグーン。
リーズシャリオに存在する、入江のようなダンジョンだ。
昔はこの島にももう一つダンジョンもあったそうだが、そっちはすでに枯れちまってるらしい。
そんなわけで、ここが唯一のダンジョンってワケだな。
浅層であれば難易度は低く、第一、第二階層程度なら、一般人でも観光目的の立入を許されている。
もちろんその場合、護衛はしっかりつくそうだがね。
「わわ……! 見てくださいクヨウさん! またお魚さんが泳ぎ出してきましたよ!」
「本当だな……! それだけでも随分幻想的で……ふふ、見ていて飽きないものだ」
「ええ、そうでしょう? ハーミナイトラグーンは『大気』と『海』の両方の性質……つまり二つの『属性』をもつ特殊な空間で満たされていますの!」
なるほどなぁ、それで足元の浅い海からも、魚たちが空中に泳ぎ出してくるってワケか。
まるで海中を散歩しているような感覚で……いや悪くないね、こういうのも。
あえて一つ難をあげるとするならば……。
「け、けど……み、水着のままっていうのは、その……こ、心もとないっていうか、は、恥ずかしいっていうか……」
「にゃふふ……! こんなところでこんな格好だなんてー、いつも以上にオジサンの視線が気になっちゃうってカンジ?」
「いやお前はいつもとそんなに変わらんだろ……」
だからおっさんの視線を捏造するんじゃないよ。
まぁともかくだ、ハーミナイトラグーンでは『水着でいないと呼吸ができない』ってんで、俺達は全員水着のままでここまでやってきている。
もちろん武器なんかは装備しているが……あくまでも念のためってヤツだ。
観光が目的なら第三階層以降へ行く理由もないしな。
マッフィーノもいるが、この辺で遭遇する魔物程度であれば、今の俺たちなら素手でも余裕だ、特に大きな問題はないだろう。
「そういえばさ、ジョーダインさん……だっけ? 付き人って言ってたけど、マッフィーノ、今日は一緒じゃないんだね?」
「えぇ。今ジョーダインには別の仕事を任せておりますの。うふふ、付き人といっても、身の回りの何もかもをさせているわけではありませんのよ?」
「ほぉ、そんなもんかね。……だとさトリア」
「……むー、なんでそれをわざわざボクに言うのさ!」
「いやー? 別に他意はないけどよー?」
「あー! ぜったいウソだもん! ほら! それならちゃーんとボクの目を見て言えるの!? ねぇってば!!」
おいおい疑り深くて困った子だよ。
とか思いながら、俺はくいくいと引っ張ってくるトリアの方へと振り替える。
……のだが。
意に反して、すぐさま顔をそむけることになってしまった。
「あ! ほらおっちゃん顔そらしたじゃん! ウソじゃないならちゃんとボクの目を見て……って、……? どしたのおっちゃん? なんかヘンだよ?」
いや、どしたのっつーか……。
「………………なんでお前、上着てねぇの?」
「上? 上っていうと…………ひゃわああぁあぁああぁあ!!!!????」
俺の言葉で気付いたトリアが、上半身を隠すように座り込む。
……良かった、エテリナに悪い影響でも受けちまったのかと心配したぞ?
「なんでぇ!? なんでなくなってるのぉ!?」
いや、それはむしろこっちが聞きたいところだが……。
っと、とりあえず何とかしてやらねぇとな。
「と、トリアさん! ……はっ! そう言えば聞いたことがありますわ……!」
「! マッフィーノ、何か知ってんのか?」
「えぇ……! 水着が波にさらわれたりしてはずれてしまった時……意外に気付かないこともあるのだと……!」
あ、そっち?
そっちは今はいいんだよ、知りたいのは原因の方でな?
「そうじゃなくてこう……ほれ、いつの間にか水着が消えちまってたーとか、そんな感じの話がこのダンジョンであったりなんかは……」
「えっと、いえ、そんな話は特に……。聞いたことがあるとすれば……そうですわね、第五階層以降に、背景に溶け込むように擬態して水着を狙う、タコの様な魔物がいるとか……」
「いや絶対それでしょ……つーかなにその魔物絶対遭遇したくないんですけど?」
だよなぁ、おっさんだって嫌だよ。
しかしなんで第五階層以降の魔物が第一階層にって疑問は出てくるが……。
フリゲイトの干渉……ってワケじゃあないだろう。
それならハクが気付くだろうしな。
「あの、トリアさんごめんなさい……! あんまり強くない魔物さんの魔素は、ダンジョンの中では気付きにくくて……」
「ハクのせいじゃねぇさ。とりあえずほれ、おっさんのであれだけどよ、こいつでも着とけ?」
「う、うん……。うぅ、またおっちゃんに見られた……」
いやまぁそいつは悪いとは思ってるよ?
けどほれ、『また』とかつけると色々と誤解を生むからちょっと勘弁してくんない?
そんなことを考えながら、羽織っていた上着をトリアにかけてやる。
ラッシュガードっつーんだったか? ダンジョンがこれを水着判定してくれていて助かったねホント。
「にゃふふ! トリニャー、ウチので良かったら水着も貸したげるよ? ウチはほら……オジサンにだったら見られちゃっても平気だし?」
「お前はまたそういうこと、を……? …………いやエテリナ、多分その提案はお前にも無理なんじゃねぇかなぁ……? あとその、クヨウにも」
「ふぇ!? わ、私? 何故そこで私の名がって……きゃぁあああぁぁ!!?」
「にゃ? ……にゃふふ! 確かにこれでは、トリニャーに水着をお貸しすることはできませぬなー?」
どうやら二人とも気付いたようだな。
……自分達も、上の水着が無くなっちまってることに。
「うぇ!? まだ近くにいるってコト!?」
「あ、でもそっかー。あれじゃん? 三人とも水着、ストリングタイのだったからじゃない? アタシのはホルターネックだしー、シズレッタのはチューブトップだし……」
「す、すとりんぐ……? ほるたー……?」
「ふふ、イルヴィスおじさまはもう少し女の子のこと勉強しないとねー? 分かりやすく言えば紐結びってこと。首とか、背中とかでほら、結んでたでしょ? こーんなかんじで……」
分かりやすいジェスチャー付きで説明をしてくれるネーリャ。
「なるほど、そう言われてみるとそうだったな……。確かにあれなら脱がしやすいか……」
「ふわぁ!? もーおー! 脱がしやすいって何さ! おっちゃんのえっち!! ばかー!!」
「いやいや待てって、今のは言葉のあやっつーかなんつーかだな……」
ぷんすかと抗議をしてくるトリアに気おされながら一歩後ろに後ずさる。
「あ! イルヴィスさんそこは……!!」
――と、マッフィーノの声が聞こえた瞬間、バンッと音を立てて足元の感触が無くなった。
あー……これはあれか? もしかしなくても……。
「――落とし穴!? うっそだろおいぃ!?」
畳みかけてくる怒涛のイベント。
おっさんもう少し、ゆっくり観光とかするつもりだったんだがなぁ……。




