第24話 無理に聞き出そうとは思わんが
「イルヴィス、私たちも同行するか?」
「いや、気持ちはありがたいけどよ。とりあえず俺一人で十分だ」
あの男たちの目的が単なるナンパだっつうなら……こう言っちゃなんだが、火に油的な状況になりかねん。なんせ保護者のひいき目を抜きにしても、うちの子らも美人さんぞろいだからな。
そんなことを考えながら、シズレッタたちの元に近づいてみると……。
「だからさ、絶対俺らについてきた方が得だって、悪いことは言わないからさ?」
「そうそう! お、そのアクセとか手作り? 良いね~そういうの、素朴っつーかギャップがあって。ちょっと良く見せてよ?」
「あーもうウザいっての! こっちはそういう気分じゃないって言ってんじゃん! ……ほらネーリャ、もう行こ!」
「はいはーい。……まぁそーいうわけでー、悪い……とは思わないけど、他あたってくれるー?」
「そう言わないでよー? 君ら旅行者でしょ? 俺らこの島に別荘も持ってるし、絶対タイクツはさせないって! あ、心配しなくても、もう何人かも誘ってるし、変なことは起きないからさぁ、ね?」
うーん、分かりやすいほどにナンパってヤツだ。
そんで思った通り、シズレッタもネーリャも誘いに乗る気はないらしい。
しかしおっさん、こういう光景に遭遇すんの何度目だ?
どうにも良い傾向とは言えんが……まぁそれはいいとして、とりあえず声でもかけてみるか。
「ようシズレッタ、ネーリャ。奇遇だな」
「ったく、今度はなに……って、うげ!? おっさん!? なんでこんなとこに……!?」
いや流石に『うげ』ってのはあれじゃない……?
おっさんほれ、結構傷ついちゃうよ……?
「あー? なにおっさん、悪いけど今取り込み中でって……あれ? ひょっとして……うっわ! イルヴィスさんじゃーん!! なっつ!!」
「え、なに知り合いなん?」
「いやほら何年前だっけ? あの荷物持ちの……」
「荷物持ち……あー! いたいたそんな人! レベルばっか無駄に上がってた……あ、もちろん良い意味でよ? いい意味で」
『良い意味でってつけりゃ何でも許されると思ってんの?』って疑問は置いておくとしてだ。
言われてからよーく顔を見てみれば、確かに俺にも覚えがある。
数年前に随伴したパーティの……どこぞのボンボンだったはずだ。
道楽で冒険者をやってる、なんてことを、さも将来への投資のように仰々しく語ってたことを覚えている。
意識高い系、なんて言葉を聞いたことがあるが……こういうことを言うのかね?
正直、あの時期は俺も必死で、あちこちのパーティに随伴してたからなぁ。
良い依頼主ばかりを選んでられる余裕もなかったって話だ。
まぁいい、とりあえずは……。
「そん時はどーも。まぁそんでだ、その子らは俺の知り合いでな。できれば解放してやってくれるとありがたいんだがね?」
「解放って……いやいや待ってよ、それじゃ俺らが悪人みたいじゃん?」
「そうそう、俺達はあくまでも、『せっかくならこの子らにもこの旅行を最大限楽しんでもらいたい』っていう親切心から……」
はっ、男四人で女の子囲って『親切心』、ね。
よく言うぜ。
とはいえ、なるべく感情的にはならんようにしねぇと。
俺一人ならなんてことはねぇが……こんなところで騒ぎを大きくしちまえば、せっかく楽しみにしてきたアイツらも巻き込んじまうかもしれん。
二泊三日の短い息抜きなんだ。
逆恨みでもされて台無しされちゃかなわんからな。
「そうかい、まぁ俺の言い方で嫌な思いをさせちまったのは謝るよ、悪かった。しかし、さっきも言ったがその子たちは俺の知り合いでな……」
「声をかけるのをやめてほしいって? そう言われたらこっちも無理強いはできないけどさぁ……あーでもこれ言っちゃっていいのかなぁ?」
男の一人がわかりやすく、さも困ったような大げさな動作で口元に手をあてる。
「俺ら結構、顔広いからさぁ? 『ちょっと嫌なことあったー』って愚痴っただけでも、思った以上に広まっちゃうんだよねぇ?」
「あーわかるわかる。こっちはそんな気無いってのに、勝手にね? こういう時、無駄に影響力持ってると困るっつーか……」
「ま、いわゆる有名税ってやつかなーって感じで諦めてるんだけど……」
……いや凄ぇなコイツら。
なかなか言えないよ? 自分で自分のことを『影響力がデカいー』だの『有名だー』だの。
そういう意味では、ある意味大物なのかもしれん。
ちっとも褒めてやる気はねぇけどな。
「イルヴィスさんさぁ? フリーの荷物持ちも重要でありがたーい仕事だとは思うけど、どうしてもほら……依頼が無いとじゃん? 今回の件でそっちの方に迷惑がかかっちゃうかもなーって思うと俺達も……なぁ?」
「そーそー心が痛むっていうかさぁ?」
「けど逆に言えば『良い意味』で話が広まるってこともあるし……ここは回れ右して見なかったことにしたほうが、お互いの得になるんじゃない? いや、あくまでも一つの提案としてよ? ……あくまでもね?」
……なるほどね。
なんつーかこう、わかりやすい連中だよホント。だが――。
「ご忠告どーも。しかしまぁ、おっさんどうにも最近運が良くてな。今じゃ結構ステータスも結構上がって、そこそこの冒険者としてやっていけてるんだよ」
「あーそうなの? でもほら、それでもやっぱり……」
「……けどな、仮にそうじゃなかったとしても――その反吐が出るような提案に乗ってやる気はさらさら無ぇって話だ」
「〰〰なっ!?」
意外な返事だとでも言いたげな様子で、顔をしかめる男たち。
つーかよ、二つ返事で『はいわかりました!』とでも言うとでも本当に思ってたのか? おっさんそんなに薄情そうに見えるのかね?
「……あーはいはい。あれね、一回はカッコつけちゃうとかそんな感じ? わかる、ここですぐに頷いたら情けないもんねぇ? ……けどさぁ、自分で吐いた言葉には責任を持たないといけないって知ってる? あんま調子に乗ってっと……」
「だから『良い』っつってんだよ。その広い顔とやらついてる無駄に影響力のある大口で、好きなだけべらべらと愚痴りゃあいい、誰にでもな」
「てめぇ……!」
「ただし、その二人をここに置いてった後でだ。……『無理強いはできない』んだろ? 自分の吐いた言葉には……責任を持たねぇとな?」
……
…………
……………………
「…………別に、助けてほしいなんて頼んでないけど?」
「お前はまーたそうやってなぁ……ま、いいさ。この間のほれ、孤児院のときは世話になったからな。そん時の借りを返したとでも思ってくれりゃあいい」
「あ、アタシはちゃんとお礼言うしー? ありがとねーイルヴィスおじさま?」
引き下がっていった男達を尻目に、相変わらずの悪態をつくシズレッタ。
……つーかネーリャの奴も、ついこの間までは俺のことオッサン呼ばわりしてなかったか? どういう心境の変化かね。
「っと、そういやお前ら、他のパーティメンバーはどうしたんだよ? 一緒に来てないのか?」
確か、シズレッタ達のパーティは全員で五人だったはずだ。
それだけいれば安心……とは言いきれんかもしれんが、少なくとも二人だけってよりは幾分かマシだろうに。
「……別に、おっさんにはかんけーねぇじゃん。そういうのって――」
「あーアタシらねー……」
「ちょ!? ネーリャ!?」
? なんだ? なんか言いにくい事情でもあるのか?
まぁそれならそれで、無理に聞き出そうとは思わんが……。




