第23話 海上の楽園
「んー………………う! み! だぁー!!」
大声で叫びながら、走っていくトリア。
おいおい転ぶなよ? ま、気持ちは分からんでもねぇけどな。
――海上の楽園『リーズシャリオ』。
ラティ大陸の大国、アニマドの海域に存在する、二つ名どおり海の上に作られた人工島だ。
随分昔に、多数の資産家なんかが共同出資して作り上げたらしい。
観光名所としても有名な、いわゆるリゾートってヤツだな。
……いやなんつーかこう、金の力ってすげぇなぁ。
島だよ島? 『ちょっと砂でお城作ろうぜ!』なんて話とはワケが違うねホント。
ビーチにはそこそこの人影は見てとれるが、それほど混雑してるっつー感じでもない。まぁリゾートを銘打っているだけあって、島内には他の娯楽施設なんかも多いからな。
俺達も昨日の昼頃にここに到着してからは、ショッピングやら観光やらにといそしんでたもんだ。
んで、今日は朝から海へと繰り出したってワケだね。
……昨日、か。
アニマドの港からここへ来るまでの船の中、まーた何か変な夢を見た気がするんだがなぁ……。
なんつーかこう、結構重要な感じの――。
「おっちゃんどしたの、ぼーっとして……あ! ひょっとしてボクらの水着姿に見惚れちゃった? も~しょうがないな~おっちゃんはー。ほらほら、特別だよまったくー?」
ビーチボールを頭の上で抱えたたトリアが、これ見よがしにポーズをとる。
というか、またお前はおっさんをそんなキャラに……。
「にゃふふ! クーよんも恥ずかしがってないで、こーいうときにこそアピールしないと! たとえばー……こーんなふうに?」
「な!? わ、私は別にそんなの……その、水着だって本当は、もう少し落ち着いたものを買うつもりだったのだ。それなのに……」
「う、うぅ……。み、見るのも恥ずかしいし、見られるのも恥ずかしいし……。わ、わたしはいったいどうすれば……」
「えへへ、大丈夫ですよネルネさん! とっても似合ってますから!」
それぞれが昨日買ったという水着に身を包む。
こうしてみると、選ぶ水着にも個性ってのが出るもんだな。みんな良く似合ってるよホント。
……エテリナは正直、もう少し抑えてくれてもかまわんかったがね。
「しかし……あの時の借りもまだ返せてねぇってのに飛行船まで手配してもらっちまって、ホントなんて言やいいのか……」
「ふふん、かまいませんわ! むしろせっかくおともだちとしてご招待させていただいたんですもの、お気になさらず楽しんでくださいまし?」
隣に立つマッフィーノがふふんと胸を張る。
四日前うちに届いた封筒。その中にはここ、リーズシャリオへの招待状やら飛行船のチケットやらが同封されていたってワケだ。
「……そうかい? それじゃあせっかくだ、お言葉に甘えさせてもらうとしようかね」
ハクの夏休みも、あと一週間を切っている。
冒険もいいが、たまにはこうして羽を伸ばすのも悪くないだろう。
そんなことを考えながら、俺は封筒が届いたあの日のこと思いだしていた。
……………………
…………
……
「あのエンフォーレリアのダンジョン。アイツらがあの場に現れたのは、恐らく姿を隠しておく必要がなくなったからだろうな。いや、『メリットが無くなった』といってもいいかもしれん」
「えと、メリットですか?」
「あぁ、あの時ハクがマジューリカさんの、つまりフリゲイトからも感じる『ぞわぞわ』があると確信したろ?」
「あそっか! それならもう顔がわからなくても、ハクが近くにいればわかっちゃうもんね?」
ま、そういうことだ。
今考えればハクは、それぞれの『ぞわぞわ』の違いを感じ取っていた。
マジューリカさんと初めて対峙した時も、『エータ達の時の気配によく似ているのがわかる』なんてことを言っていたしな。
「で、でもおっちゃん……そ、それでもわざわざわたしたちの前に、す、姿を現す必要はないって思うけど……」
「あぁ、普通に考えりゃあそうだな。だからこっからは推測でしかないんだが……そいつが恐らく、アイツらの目的と関係しているんじゃねぇかと思っているのさ、俺はな」
『楽しそうだから来てあげた』、と、アーデムはそう言っていた。
『不落の難題』、『あの方』、『娯楽』、そして……『魔王候補』。
それらは恐らく……すべて、繋がっているのだろう。
……
…………
……………………
「ふはー! 泳いだし遊んだー!! ……ねぇおっちゃん? そろそろお昼だし、みんなのお腹がすく頃なんじゃない?」
「はっ、なーにが『みんなの~』だよ。そう言うお前が一番腹減ってんじゃねぇのか? ほれほれ」
「むに!? むぅー!! そーいうとこだよおっちゃん!? まったく! デリカシー無し無しおじさんなんだから……!」
はは、悪かった、悪かったって。
頬をつついてやったお返しとでも言いたげに、ぺしぺしと抗議をしてくるトリアを受け流しながら、全員で別の場所へ向けて移動する。
マッフィーノの話によると、どうやら近くにバーベキューなんかができるスペースがあるらしい。
食事の用意もしてくれてるってんだから至れり尽くせりだねホント。
……いやホント、借りも含めていつかちゃんと返さねぇとなぁ、マジで。
――ん? なんだ? なんか足元で光って……。
「っと、こいつは……釣り糸か? なんでこんなとこに、……って、おいおい釣り針までついたまんまじゃねぇか危ねぇな……」
「え!? おじさま大丈夫ですか? お怪我は……!?」
「大丈夫だよ、よーしよし……」
踏んじまう直前に気付けてよかった。
俺ならまだしも、他の子らが怪我をしちまう可能性だってあったしな。
しかし……。
「釣り糸……ですの? 確かに向こうの入江にお魚が集まる場所はあるみたいですけど……そもそもこのあたりは禁漁区ですわ。例え個人単位での釣りだとしても、例外ではありませんことよ?」
「だよなぁ」
「うわ!? ねぇおっちゃん、こっちにはお酒の瓶も落ちてるんだけど……」
「こ、こっちには、ご、ごみが捨てられちゃってるみたいだ……」
あー、なるほどなるほどそういうことね。
しかしホント、どこにでもいるもんだなぁこういうしょうもないことするヤツってのはよ……。
「すぐ近くにゴミ捨て場は……無いか。しかたねぇ、とりあえず適当な袋に入れといて、後で捨てておくとするかねまったく……」
流石に背中の一坪は背負ってきてないが、適当なアイテムバッグ程度は持ってきているからな。
それまではそこにしまっとくか。
「……にゃ? ねぇねぇオジサン、あれって……」
ゴミを拾い集めている途中、エテリナがくいくいと腕をひっぱる。
そのまま指をさす方に目を向けてみれば……ふーむ、六人の男女が何か言いあってるようだ。
あれか? いわゆるところのナンパってヤツか?
「む? イルヴィス、あの声をかけられている方の二人組だが……」
「えっと、お二人とも女性の様ですわね? ひょっとしてお知合いですの?」
「ん~どれどれー? ……あ、ほんとだ! あれってネルネの元のパーティの人たちだよね?」
「う、うん……。し、シズレッタとネーリャだ……。い、いるのは二人だけで、他のパーティメンバーは近くにいないみたいだけど……」
トリア達にならって、俺も右目を凝らしてみる。
……ホントだな、どうやらあの二人で間違いないみたいだ。
しかしどうにも、いい雰囲気ってワケじゃあなさそうだな。
となると……ま、仕方がねぇか。余計なお節介でも、焼きに行くとしようかね。




