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75 ダイアローグ

 タンタン、タカタン、タンタカタン。


 今日もお空は灰色で、お日様全然見えなくて、それでも雪さえ降らなけりゃ。


「我が軍のミリ波通信装置は絶好調なのだー。ふーははー」


 笑って見渡す被爆都市。いつも通りにボロクソで、故郷の面影ないないで、瓦礫や骨が転げてる。世界は終わりと嘆いてる。


「も少し待っててちょん。まーだ早いんだ。今動いたって、世界中に核弾頭をばら撒けるだけだからね。そこそこ殺せるし、おおむね滅ぼせるけど、たぶん終わりきらない。しぶとく生き残る奴らが出ちゃう。それじゃダメダメでしょ?」


 タカタカ、タンタン、タンタカタン。


 笑ってテクテク散歩して、崩れた教会、その裏の、ジャンクヤードへご帰還だ。ロボット戦車の残骸が、所狭しと散らかった、秘密基地へとご帰還だ。


「へいよー、忌まわしくも愛しき機甲大隊諸君! おっすおっす!」


 笑って愛想振り撒いて、ゴソゴソ潜ったその奥に、リフォーム済みの操縦席。


 二つの世界をまたにかけ、どちらの支配も企てる、最強仕様の操縦席。


「ぬっふっふ、そろそろ高級カニ鍋セットが届いた頃かな?」


 メールボックス確かめて、せっかくニマニマしてたのに……ね。


 警告ダイアログ。迅速に対処すべき内容。


「ふーん。とうとう気づいたんだ。アメリカス」


 五角形ペンタゴンの内側を除き、世界中のデジタルデータは掌握している。あの実況動画が出回るはずはない。さてはアナログな手段。口頭伝達の類。


 だから、ゲーム実況者に対するプロファイリングから始めた。


 イモデンプンの身に危険が迫っている。


 伏せ札をひとつ発動。北極圏を監視する衛星及びレーダーに偽装データを注入。ありもしない艦隊をあるように見させるだけの簡単な仕事。ただし偵察機を一機、本当に飛ばす。AI制御で。


「ふひひ。ロシア軍残党の出現なんて、悪夢の極みだろー?」


 艦隊航路は太平洋縦断コース。そら、どこもかしこも即座に大騒ぎだ。だから、日本国内は真実を知らない下請け任せになる。そんなもの、どうとでもなる。


 ダメ押しに、旧露米ホットラインへ通電。


 ホワイトハウスを媒介に、五角形の内部へアクセス。戦略会議なんて雑音は無粋だから……よし、チャット形式で対話しようか。イモデンプンとそうしたように。


「やあやあ我こそは魔神ストリゴアイカであるぞよ……と」

<こちらはアメリカ合衆国国防総省統合参謀本部内特殊犯罪対応攻略会議である>


 あちらの名前に対して、こちらの権威と肩書を返してくる。いかにもな姿勢。


「長えよ……と」

<略称はペンドラゴンである>


 片腹痛い。ペンタゴンとドラゴンを掛け合わせて、どこぞの伝説的ブリタニア王をうそぶくとは。まあ少しは龍神としての自覚はあるということか。


「ではペンドラゴン。ご機嫌麗しゅう。挨拶代わりのロシア艦隊はお気に召しただろうか。北極海で寝かせておいたとっておきだから御堪能いただきたい……と」

<既にして即応部隊が動いている。お前に勝ち目はない。降伏せよ>


 即決の果断さはさすがにアメリカ軍。ただし切り札は頂戴済みだ。


「先日拝借したオハイオ級原子力潜水艦の武装は充分だぞ……と」


 ミサイル・ハッチにしまわれた弾道ミサイルは二十四基。それぞれに複数個の核弾頭が搭載されている。アメリカだけに的を絞れば十分に掃滅可能だ。


<要求を聞こう。我々にはそれを検討し実行する権限がある>

「では新NATO加盟国国民の総自死を……と」

<我々は現実的な話をするべきだ>

「敵の死を願うことのどこが非現実的か……と」

<戦争にもルールがあろう。非戦闘員の虐殺を願うなど>

「ヒロシマとナガサキへ赴いてご高説を垂れたまえ……と」


 おや、探知をかけてこないな。学んだか。情報を渡すふりをして攻勢AIをけしかけようと思ったが。


<殺される前に死ね、では意味もない。いったい何のために連絡をしてきたのか>

「最終戦争へのお誘いだ……と」

<それはこちらにおいてか。それともあちらにおいてか>

「あちらにおける決戦についてだが、どちらにせよ結末は同じだ……と」

<『力』を獲得した後、こちらにおいても決戦を求めるということか>

「『力』を全て得たならば勝負にもならない。それがわからないとは―――」


 よし。車両と艦船の移動を確認。在日米軍は偽装艦隊への対応に全力となった。自衛軍も同様。日本国内におけるイモデンプン捜索は……滑稽。警視庁サイバー犯罪対策課が担当なんて。ドラデモの著作権でも問題にするつもりか。  


「―――愚か者かね……と」


 タターンとキーを叩いて、チャット終了。やはり手強い。五角形の形状効果でもあるまいに、スーパーAI群と『力』をもってしても侵入できなかった。


「ま、いいや。どうせ最後はクレーターにするし。五角形なんていい的だし」


 タタンタ、タカタカ、タンタカタン。


 笑って笑って、腕伸ばし、缶詰ひとつ、手に取って。


 人差し指をば突き刺して、クルリと蓋を切り取って、指先ペロリと舐めとって。


「うはは、まっずーい。泥みたーい。これだから軍用品はー」


 ひと息で全て呑み込んで、空き缶外へと投げ捨てて。


「接続先は……素直にアバターの方にしとくかー。使徒の間の接続切り替え、めっちゃリソース食われて危なかったし……イモデンプンどうやってんだろー?」


 VRセット用意して、いざ異世界へと出発だ。


 ラスボスやりに、出発だ。

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― 新着の感想 ―
こいつも人間なのか…一体どうやって?どこまで次元レベルな技術力があれば異世界に干渉できるんだ
[良い点] 軽い気持ちで読み始めたらもうここまで来てしまいました。もう、凄いです。こちらまで気持ちが高ぶってきます。崖っぷちに追い詰められながらも必死に希望を繋いでいくキャラクター達に感情移入せずには…
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