62 ドラデモ的サバイバルとリアリティについて
神とのつながりを感じる。強く、深く、大きなつながりを。
届け、ワタシたちの祈り。この戦乱の世界に、鬼神、あれかし。
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せんべい、食パン、ハム、リンゴ。柿ピー、チーカマ、チョコ、カルパス。
これに野菜ジュースと缶コーヒーで、準備オッケイ。よーそろー。
自宅にてゲーム中でも、時にはサバイバル失敗! いもでんぷんですっ!
いやー、死ぬかと思った。失神って寝落ちと違って悪寒とか不快感とかヤバイんですね。そして乾いててもピザのうまかったことうまかったこと。少し絶食したくらいで倒れたり、ピザのひと切れで元気になったり、不健康なのか健康なのかー。
そしてもって、クロイちゃんの食べっぷりよ。
「クロイ、あんた……また食べているのかい? ずっと食べてないかい?」
砦で食べる。行軍中も食べる。訓練中も食べる。野営時も食べる。すんごい。
「その芋、そんなに気に入ったのかい……って、あんたそれ、蒸かしてもいないじゃないか。それでおいしいのかい?」
「ん」
どこのオラワクワクする人か、はたまた怪盗三世のオジサマか。いや、モンスターをハンティングする系女子なら当たり前なのか。いやそれ別ゲーだけども。
「……よく噛むんだよ。あと、水も飲みな」
「ん」
今も馬上でモグモグとまあ……あはは、シラちゃんも真似してる。
なんか、見てるだけでこっちもお腹いっぱいになるっていうか、ちょっと元気になってきますわ。やっぱり、生きることって食べること。チーカマうっま。
そういえば、さっきコンビニ行ってきて、いもでんぷん思いました。
モニター前で不安と恐怖とか……はっは! 気にしすぎ!
確かに電話は通じないしメールもできない。監視もされてるかもしんない。でも部屋の外は平和な街じゃん。インフラの整った、治安いい、のどかな日常じゃん。ホラーやらサスペンスやらの入る余地ないですって。
日本だもの、ここは。豊かで穏やかで幸せな。
すわ第三次世界大戦かという米中戦争も、両国に挟まれる位置でありながら無傷だった国ですよ。アメリカの圧勝劇を観戦する余裕を見せつけたお国柄ですよ。
こんな恵まれた場所にいて、会社も行かず……行けるものなら行きたいけど……朝から晩までゲームしてるだけのくせして、何が怖いんだって話です。いやまあ、クレジットカード情報とか抜かれてたら怖いけど、ちゃんちゃらヌルいんですよ。
だって、死なないし。殺されないし。何の苦労もしてないし。
ほら、モニターの中とは比べるべくもないですよ。
「ほほう、芋ですか。いいですね。次の休息で僕がたくさん茹でましょう。風呂を炊くのと似たようなものですからね……さてもクロイ様、あちらをご覧ください」
騎兵や歩兵の向こう側、進路こそ塞がないようにはしているものの、いやそれどう考えてもスルーできないでしょっていう数の人の群れ。
「安住の地を離れざるをえなかった民ですね」
ボロボロのマントを羽織った爺さん。マント代わりに布きれをかぶった婆さん。大八車的なものに家財を積んだおっさん。赤ん坊を抱えたおばさん。着ぶくれた妊婦。背負われた怪我人。兄妹なのか手をつないだ泥まみれの子供。
「見たところ、難所のひとつや二つは越えてきたようです。西から流れてきたのでしょう。随分と派手に荒らされたようですからね……」
何十人何百人もの、老若男女の、着の身着のままの有り様。見たことあるし経験もしたよ。被災した人たちの姿だよ、これ。
日常を失って……それでも何とかして今を生きようっていう、顔という顔。
ほんっと、こういうところ生々しすぎます。ドラデモって。
「僕とウィロウ卿とで話を聞いてきます。アンゼ殿は融通する物資の用意を。パイン君は歩兵隊から護衛分隊の準備を。オデッセン殿は手品などをひとつ」
「シラは? シラも何かできる?」
「では、ウサギをご準備ください。素晴らしいモフモフを」
イケメン騎士と腹黒司祭が近づいてきますね。何やかやあって、クロイちゃんにもお呼びがかかるイベントです。ほら、出番がきました。馬から降りずに寄っていって、たくさんの人に囲まれて、祈りを捧げられるまででワンセット。
「し、使徒様。どうかこれを献じさせてくだしゃりませ。一等よくできた棒菜でごじゃります」
「ん」
「わあ、生のまま食べていただいた! ありがたいことじゃあ」
あー、鬼神の総信仰値カウンタが回っていくんじゃー。増える増えるー。
過剰じゃねって数字だった兵糧カウンタもまた回っていくー。減る方向でー。やっぱり救援の最たるものは食料だものね。何気に毛布とかも配ってるっぽい。
そして、十人ほどの歩兵が引率する形で、避難民的集団は北へ向かうわけです。行く先は砦なんでしょうね。あそこ、すんごい量の食料溜め込んでますし。どういうわけか山ん中にも相当な量を隠してあるっぽいですし。
王都へ到着するまでに、あと何回、これ系のイベントが起きますかねえ。
砦より出発して、ゲーム内時間でもう結構な時間が建ってます。一路南へと行軍してるわけですが、行程の半分も進んでません。先の赤兎馬もビックリな弾丸超強行軍でなし、堅実なスピードですし、日に何度も今みたく一時停止しますからね。
お、システムがご機嫌よさげ。高速進行モードオン。積極的に使ってかないと、行軍だけでどんだけ時間かかるかわかんないですからね。旅ゲーになっちゃう。
ふぅ、野菜ジュースぐびー。気分転換にニュース流し読みー。
おお、今日も地球はヤバヤバだなー。
テロ、難民、貧困、飢餓、内戦、環境破壊、通貨危機……原子力潜水艦はいまだ行方不明で、トップニュースは相変わらずのアメリカ叩き。これ不思議ですよね。何で、世界中のニュースサイトで、トップニュースだけは共通してるのか。
しかし、しみじみと思いますけど、インターネットって不思議です。ありとあらゆる情報が手に入るのに、どうしてこんなにリアリティが感じられないんでしょ。
スーパーAIさんのサービス満点なこのご時世、本当に色々と便利になって。
世界のことわかったつもりにはなれるんですけどね。ちっとも心が動きません。
ぶっちゃけ、これならよっぽどドラデモの方が現実っぽいや……って、あらら、システムさんご不調ー。観戦モードへ移行ー。まだまだ行軍中ー。
ああ、ちょうどまたイベントですね。
兵士の列が分かれて、古ぼけた甲冑の男が案内されてきました。テラ勇ましげ。
「火兎守様におかれましては、御前への目通りを感謝いたす。拙者は緑ヶ丘耕地の郷士ドントと申す。近隣の郷士に声をかけ、郎党も残らず引き連れまかり越した。非才非力の身なれど、救国救世の軍勢の末端にて戦う栄誉を賜りたい」
男はひざまずいて、これまた古ぼけたショートソードを差し出してきましたよ。よく磨いてはあるけども、うん、特にこれといった特性やボーナスはナッシング。
ああ、でも、アイテム説明を読むに先祖伝来の家宝ではあるんですねえ。
クロイちゃんは馬上でそれを受け取り、ひと撫でして、消し去ります。収納したんですな。こんな風にも《アセプト・ブレード》の在庫は増えるわけですねえ。
「おお……我が家の誇りが、神の力として迎えられた……おお……!」
男は離れて、この軍団の兵力が三十騎と百五十卒増えましたとさ。
この兵隊参加イベントも何回目でしょ。引率で減る数より現地参加してくる数の方が多いので、徐々に増えてきます。一万強の兵力だったこの軍団も、今や二万を超えそうな勢い。総信仰値も上がりまくり。
ああ、ほら、また来ました。別の方角から郷土色豊かな旗を掲げた一団が。あれは兵士半分、輜重隊半分って感じですね。物資持参はレアだと知った今日この頃。
戦争は数と兵站だーって、ストラテジーゲーマーは主張しますけども。
戦争……か。
ニュースで読み上げられる犠牲者数って、交番の事故掲示板みたいな感じで、別にどうってこともないんですよね。とりあえず神妙にはしますけど。
でも、これは……ドラデモって名無しキャラの造形もハイクオリティだから、割とショック受けたりするんです。敵も味方も、顔憶えちゃうとダメですね。やり直させてくれない仕様ですしね。
特に今回のプレイは……思い入れがひとしおで。
クロイちゃんを筆頭とする、開拓地の面々。めっちゃ頑張ってますよね。
ずっと付き従ってきた騎兵や歩兵。砦で合流した残存兵。方々から集まってくる数も兵種もバラバラな兵力。どれもこれも個性が感じられて。
戦争イベントなんてないゲームだったらよかったのにって、思っちゃうんです。もっと対象年齢低めのやつで、こう、スポーツとかの対決でいいじゃんって。それならそれで、クロイちゃんをポチポチ動かすし……誰も死なないで済むのに。
ゲームなのに。これゲームでしかないのになあ。
なんでこんなに、心が震えるんだろ。
ん? インターホンが鳴りました。なんじゃらほい。
…………え、はい、そうですけど。はあ、荷物ですか。
…………は? え、何これ……はあ!? 嘘でしょ!?
えー、ちょっと大変なことが起きました。普通に考えたら超不気味なことなんですけども、ゲーマー的には超嬉しいというか、うわ変なテンションになってきた!
なんか、VRマシンが届いたんですけど。
いや、ゲーマーですから、もちろん普通に持ってはいるんですけど……スペックが桁違いのやつですこれ。高級外車並みのお値段する、最先端産業用のやつです。前に仕事で見たことあるから間違いない……うわあ、ビニールすら畏れ多い……。
え……っていうか、これ……どゆこと?
え…………サンタクロースとか?
いや、でも、その……いもでんぷん的には、今これ要らないんですけど……ドラデモガチ勢のプレイスタイル的に考えて。
あ! メッセージカード! なになに、何て……うっわ出たよ。またこれかよ。ってか、カードに書いてあったらコピペできないじゃん。翻訳サイト使えないよ。
普通にキーボード打っても出ないからね、ルーマニア語の、この不思議文字!




