55 ドラデモ的怪奇と不思議と縛りプレイについて
神の心が動く時、ワタシの心も動くから。
ワタシの心が動く時、神の心もまた動くのだろうか。
◆◆◆
へ? 「おかけになった電話は現在どこにもお繋ぎできません」て。えへえ?
電話がぬかしおる。いもでんぷんです。
どういうことなの……うわ、IP電話も動作しないんですけど。掲示板への書き込みはホラーな現象起こすし、メールはどこへ送信してもエラーでデーモンだし。わー、いもでんぷんってば都会の片隅でスタンドアローンじゃーん。
まあ、でも? ピザならクリック数回で注文できるし? ほら、できたし?
問題ナイナイ…………んなわけない。
わ、笑えない。
この実況動画の録画停止ボタンをクリックもできない。
だってこれ、保存確定したら、見られる。や、もしかしたらリアルタイムで見られてるのかも。それを心底怖がるべきなのに……実際怖いのに……生放送主として何となく慣れてる自分に不思議気分。今も編集点とか意識しちゃうし。うふう。
落ち着くためには、慣れ親しんだ作業がよいよい。ということでポチポチ。先程からクロイちゃんには高速反復横跳びをしてもらっているわけですが。
もののついでに観察してるこのキャラ、何なんでしょうねえ。
「うう……気持ち悪い……何なんの、その動きは……儀式? 呪詛?」
浅黒の肌の美女さん。全方位から灯火で照らされてるもんだから、どこでも余すことなく観賞できますね。ダイナマイトボディだし地下牢だし手枷だしで、こう、背徳的な雰囲気がやばいですね。
うーん。腰のくびれから尻にかけてのラインがワンダホ。エロくてビュリホ。
「ぐ、う……こ、この凄まじい気配が……鬼神……!」
こないだの戦闘で捕虜にしたネームドで、ターミカさんとやら。
まず種族がヘンテコ。「ヴァンピーラ」ってなんやねん。ネット検索によると吸血鬼と人間のハーフらしいですけども……それっておかしな話でして。
ドラデモのヴァンパイアって、子づくりできないんですよ。
だって、みーんな、試験管だの培養ポッドだので生産される人造生物ですもん。魔城の生産工場はさながらフランケンシュタイン製作所って感じですからね。SFなんだかホラーなんだかジャンル不明な雰囲気で。
「も、もう十分に、情報を渡したでしょう。まだ何か話せっていうの?」
「……混血?」
「な! なんで……それを……!」
「何となく……」
「何となくって……そんな……馬鹿な……」
ステータスもおかしいんですよね。何と魔神への信仰がナッシング。その代わりとばかりに「精霊信仰」って表示されてます。ほらこの通り。
で、多分それと関連してるんでしょうけど、使える魔法の系統が「闇魔法」ですってよ。何それとっても厨二臭い。《陰見》だの《沈影》だの《闇呑》だのと割かし多彩ですな。内容もトリッキーなのが多くて、ちょっと忍者みたい。
「闇と……影?」
「わかっていて、この牢なのでしょう? 魔法の火による影封じ……」
実際、この方、戦場に落ちてた盾の影に潜んでましたしね。レーダーには丸映りでしたから、剣でツンツンしたら慌てて出てきましたけども。
「陰に隠れた、生」
「……ええ、そうですよ。私は世界の陰に潜むもの。混血種。父はヴァンパイアの生殖試験体で、母は父へと与えられた母体候補……あるいは餌の内のひとり」
やっぱりDX版の新要素なんですかねえ。エルフにおけるダークエルフ的な被差別存在だったりして。闇属性のイメージ的に考えて。
「魔神の手慰みのような実験は、百年もしない内に飽きられ放っておかれて……星の光も見えない暗闇の中で、私は生まれた。呪わしくも奇跡的な誕生ですよ」
「奇跡が、呪わしい?」
「君にはわからないでしょうね。人間の中で人間らしく育ち、生きる君には。共食いに苦しむ母の傍らで、母の同族を喰らわねば育てなかった者の想いなど……!」
うーん……決して美人だからってわけじゃないんですけど……何だか同情してしまいますね、このターミカさん。どう考えても幸せな生い立ちのわけがないもの。
そりゃ、所詮はゲームのキャラクターですよ? しかもパッと出で思い入れもありませんよ。でも、このドラデモってやつはどうにも心に差し迫るところがありますから……絵空事な他人事って突き放せないというか何というか。
ほら、今だって、胸にじんわりと広がっていく悲しみがありますよ。
「……親は知らない。故郷は沈んだ。奴隷として生きてきた」
「それは……それでも使徒でしょう、君は」
「全てを捧げて、戦っている」
「口ではどうとでも言えます。私のよく知る使徒は、名前すらありませんでした」
「今の名前は、神様がくれた」
「そう、なのですか……そう……本当に」
頭ではわかってるんですけどね。それどころじゃないって。身辺の怪異的にゲームどころじゃないし、そのゲームにしたって、捕虜の設定に思いを馳せるよりも人間勢力の心配をすべき。
使徒マーカー、やばいなんてもんじゃないですもん。
だってこれ……この位置この動き……『崩山』ってば王都入り目指してますよ。
「……いいんですか? こんなところで私の相手なんてしていて」
「ワタシは、ひとりで戦っているんじゃ、ない」
「ふ……君ひとりが狙われているのに」
「ワタシ、ひとりが?」
「正確には、秘宝と使徒の二つです。でも人物としては君ひとり」
「秘宝?」
「あるでしょう、人間にも。精霊を宿し封じた宝物が。種族の象徴として」
「……火?」
「そう。火の『始原灰』。人間の王が隠し持っているのでしょう?」
王都王城が陥落しちゃうと、人間の敗北はほぼ確定です。
多分、火魔法が超弱体化するから。
少なくとも、無印ドラデモでエルフプレイした時にはそうでした。属性のシンボルである風の『祖霊樹』と水の『海流珠』を奪われて、魔法が上手く使えなくなっていって……反攻作戦もおぼつかずに投了。弓矢だけで勝てるわけもなし。
「ヴァンパイアも保有していますよ。ドワーフから奪った土の『源鉱石』と、インセクターから奪った雷の『天震蝋』を。それぞれに偉大な精霊を封じ込めて」
「精霊……」
「魔法の源にして、森羅万象の秩序を司るもの。いわゆる神の加護も、魔法に関しては、精霊の力を増幅しているものにすぎません。不当な支配の成果として」
「不当?」
「それはそうでしょう? もともと、この世界には神などいなかったのですから。秘宝を通じて精霊が信仰されていたのに……魔神が現れて、世界を歪めて」
だから、何としてでも『崩山』を止めなきゃいけないのに。
「『崩山』が秘宝を得た後は、君です。鬼神の使徒」
今からじゃ……ここからじゃ、もう間に合いっこないんです。見過ごすとか諦めるとか、そういう気持ちの問題じゃなくて、単純に距離と速度の問題。馬でも無理だし、エルフの飛行者でも無理。どうにもならない。
「わかります? 人間滅亡の、最後の仕上げが君ってことですよ。使徒とは属性魔力の焦点。鬼神の支配する火の力は、君の命に結晶されていて……秘宝と君とを取り込むことで、魔神は三つ目の力を手に入れる……手に入れてしまう」
「雷、土……火」
「火は水に対抗できます。すぐに水と風をも支配するに至るでしょうね……そういう意味では、君の死は、世界の終わりの始まりかもしれません」
「世界が、終わる?」
「きっと全てが崩れ果てる……灰のようにして」
嫌だな。ここまできて、ゲームオーバーなんて。
またあれを見るなんて。あの、魔神の大哄笑を見せ付けられるなんて。開拓地の皆が、皆の努力が、嘲笑されるなんて。その上で誰も彼も死に絶えるなんて。
「こ、これは……この熱は……魔力? 何をする気だ、君っ」
クロイちゃんが殺される……なんて。そんなの。そんなこと。
嫌だ。認められるわけがない。
「ああ! 熱い! 灯火が、灯火が燃え盛って……そんな! 影が! 服の袖の影までが、委縮して……闇の精霊が怯えている!?」
いいさ。間に合わなくたっていい。火魔法が使えなくなったからって、何さ。
我こそはいもでんぷん。こんなにもボタンポチポチが巧みであるぞ。
「え? え、うわあ! 怖あっ! やっぱり何かの儀式なんだ!!」
見よ、この円を描く横跳び。分身の術っぽい。
そう、何のことはないですよ。クロイちゃんの鍛え上げたステータスと、このいもでんぷんの磨き上げたプレイヤースキルでもって、『崩山』を倒せばいい。火魔法なしとか上等ですよ。縛りプレイなんてやり込みゲーマーの嗜みですよ。
やってやる……絶対に!
華麗に『崩山』ぶっ倒して、『始原灰』を奪還すれば、それで万事解決!
「ク、クロイ! それ以上は捕虜を殺してしまうぞ!」
ん? いつの間にかイケメン騎士が来てましたね。どうしたのさ。んん? ターミカさんが失神しちゃってますね。そちらもどうしたのさ。
「凄まじい火勢だったな……いや、あるいはこれも神の啓示というものか」
あ、そうだ。またイケメン騎士たちと一緒に駆ければ、道中の諸々を心配しなくて済むなあ。超強行軍をやるとしても、食う寝る飲むは必要なわけで。
「朗報だ。フェリポ司祭がエルフと臨時軍事協定を結んだ。南下してくるヴァンパイア軍三万に対してはエルフ軍が当たる。『万鐘』だけでなく『水底』も参戦するという。『艶雷』を討つ好機と捉えたようだ」
さて、行くと決まれば、まずは砦へ超特急ですな。最短距離でゴーゴーです。現場のシラちゃんはどんな様子かなー……えへえっ!?
「つまり、我らは全軍をもって砦以南へと進軍できるということだな」
ちょ、シラちゃん、何で武装してんの!?
え、うわ、出撃する気だ! 砦の南側に、ヴァンパイアの軍勢!!




