47 ドラデモ的大勝利計画について/雑兵は夢見る、火を囲う幸せを
人間の神は、戦いの神。火を司る。
だからワタシは、戦う。火を振るって。
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実家からステーキ肉が送られてくるとか天変地異の前触れだろーか。
はい、いもでんぷんです。にわかグルメ中。
肉超うま。慎重に焼いたからでしょうか、表面はちょいカリッとして噛めばジュワッとジャストミート。おもむろにチクワも焼いたら、これまた美味ですもの。
やっぱ火は偉大だなー。インスタントでレンジな生活を改めよっかなあ。
ドラデモも調子いいし乾杯したくなりますが、お酒には手を伸ばさないんだぜ。肉汁的にワインか日本酒辛口がほしい感じだけど、駄目絶対。戒め。
だから、ほうじ茶でカンパーイ!
鬼神への信仰値、増し増しでバンザーイ!
いやー、いい流れが来ましたね。西地の村々といい砦といい、鬼神信仰が強く広く根付き始めましたよ。ヴァンパイアハンティングの効果も相まって、高校二次関数的に総信仰値が増えていくですよ。
これ、やっぱクロイちゃんとシラちゃんのおかげですかね?
こう、使徒や従僕を配置すると周囲が信心深くなる的な……?
ま、よくわかんないですけども。だって、エルフやヴァンパイアでプレイしてもそういう要素なかったんですもん。魔神や竜神って信心大前提でしたもん。むしろいかに祟られないか戦々恐々としてましたね。そういうマゾゲー。
人間は守護神がいなかったから、DXでは布教プレイが楽しめるってことなんですかねえ……ほら、シラちゃんの周りで皆祈ってるし。クロイちゃんの方だって。
ん? んはっ、あはは!
クロイちゃんのとことシラちゃんのとこと切り替えると、二人ともキョトンって顔でこっち見てくるんですけど。何これ面白い。ポチポチっと高速切り替え。うわ面白。制作チームめ、芸が細かいじゃないか……お? 新システムが解放?
別小窓で従僕ビュワーをおいとける……と。
ああ、うん……パッパカ切り替えるのは推奨された遊び方じゃないってことね。何このたしなめられた感。さじ加減知らん連中にいい加減にしろって言われた感。
き、気を取り直して、人間大勝利計画を推進しようじゃありませんか。
まあ、人間勢力を維持しつつヴァンパイアの兵数削るってだけの話ですけどね。土地とか奪っても、どうせ最後は魔神が出張ってきてしっちゃかめっちゃかになりますから意味ないし。その、お出ましのタイミングを調整する感じですな。
トリガーとなるのはヴァンパイアの使徒の残数なわけですが、さて、大陸中央はどんな塩梅かなー。何でか『艶雷』と『絶界』のマーカーがついてるところは。
んー、よくわかんない……使徒だけわかってもなあ……まあ、どっちも何十万って兵数だとは思いますけどね。最終戦争モードなので。下手すればデーモンやドラゴンも出現済みかも。現実における核兵器みたいなもんですけども。
んん? おっとお?
何やら南下してきてませんかね……あ、ほら、今も動いた。
これは……まずい。
東西に押したり引いたりするんじゃなくて、『艶雷』が隙をついて南から迂回しようとしてる感じですかね? それって物凄く迷惑なんですけど?
何のかんのと頑張ってきてますが、人間の戦力はまだまだですからね。ヴァンパイアの主力とぶつかったら木っ端微塵になっちゃいますよ。万単位のヴァンパイアとか来られたら、そんなん、もう災害ですよ。天変地異の類ですよ。
どうするかな……ガッツリと南に流れ込まれると、それもうどうしようもないって気もするけど……でも、どうにかしないと!
クロイちゃん、何にせよ西地はこれまでだ。
開拓地へ行けばサチケルちゃんがいる。とりあえず『艶雷』の攻撃は封じてもらえるはず。その上で騎兵の速さを活かすしかない。何とか粘って時間さえ稼げば、エルフの本隊が来るはず……はずはずばっかで、見積もり甘すぎだけども。
何にもしないで見過ごすなんてのは、ダメだ。絶対に。
とにかく駆けるぞ、クロイちゃん。イケメン騎士たちもフォロミー。
ここからだと、まずは黄土新地だ。そこで補給して、一刻も早く開拓地へ!
◆◆◆
「ムラソウ、お前泣いてんのか?」
什長が聞いてくるから、骨付き肉にむしゃぶりつきながら、ウンウンと頷いた。
だって、うまい。こんなに遣る瀬無いのに。
この肉、村ひとつが皆殺しにされちゃってて、もうどうにもならないからって、潰した豚だ。誰かがここまで育てたやつだ。その誰かが殺されちゃって、生き残ってたこいつを俺が泣きながら食ってる。うまいうまいって。
「……まあ、もっと食っとけよ。俺たちは土塗れになって働いたんだ。食わなきゃ身体がもたねえし、墓の下の連中も怒りゃしねえからさ」
頷く。頷いて、肉を噛み締める。うまい。
焚火の周りには、他にもうまいもんが沢山ある。生野菜も、煮込みも、酒まで。今夜はたらふく飲み食いして、英気を養うんだ。建てまくった墓に手を合わせて、運べるだけの食料を大村へ運ぶんだ。避難できた皆に食わすために。
「クロイ様、行っちまったな……」
ゆっくりと頷く。そう、クロイ様は帰っちゃったんだ。西地を荒らしまくったヴァンパイアを退治し終わって、だからって休みもしないで、次の戦いへ。北地へ。
「凄かったよな。あの恐ろしい化物たちを、まるで雑草でも刈るみたいに片づけちまってさ。そのくせいっつも澄まし顔で、なんとも綺麗なんだから……ありゃ確かに愛されてるわな」
誰に、なんて聞くまでもない。神様だ。人間の神様にってことだ。
クロイ様がいるってことが、そのまんま、神様がいるってことなんだ。
「それに、騎士さん方も普通じゃなかったぜ。速くて強くて……恐れを知らねえ。ウィロウ家っていやあ、そりゃ勇猛果敢で有名だけどよ。そりゃ魔物や賊徒を相手にした時の話だろ。化物をああも倒してのけるなんてなあ……」
騎士さん。アギアス・ウィロウって名乗ってたっけ。ピカピカの剣で、縄でつながれてた俺たちを助けてくれた。食料から人間に戻してくれたんだ。
俺たちはあんな風に戦えない。あんな風にカッコよくない。
馬に乗れないとか、剣を使えないとかじゃなくて……勇気がない。戦う勇気が。
「おいおい、情けない顔すんなって。あんなの誰にでもできるこっちゃねえだろ。むしろ凄えな、お前。憧れるってのならわかるが、悔しがるなんてよ」
什長が顔を覗き込んできたから、焚火の方を向いた。
バチバチって鳴る炎は、強くて熱くて、ゆらゆらと綺麗で、クロイ様と騎士さんたちみたいだ。夜の闇になんて負けないところが、凄くいい。
俺も、こんな風ならいいのに。眺める方じゃなくて、こんな風なら。
「……今できることを、一生懸命にやる。それでいいんじゃあねえか?」
腹の底から汲み上げたみたいな声だ。だからか、こっちの腹の底にたまってく。隣にいるのに遠くも聞こえる。きっと什長も炎を見ながらしゃべってる。
「クロイ様にしかできねえことがある。騎士さん方にしかできねえこともな。だからさ、俺たちにもできるところは、俺たちがやるんだ。生き残った人間や掻き集めた物資を、えっちらおっちら大村まで運ぶ……これも必要なことなんだぜ?」
燃え盛る炎の下の方、積み重なった薪を見た。焦げて崩れて消えてくそれらを。そういえば、バチバチって音を立ててるのは、火じゃなくて薪なんだっけ。
「確かに俺たちは助けてもらった。だけどな、きっちり助かるってのも、これでなかなかに難しいもんさ。皆してってなると、もしかしたら戦うことよりも難しいかもしれねえ。神様だって、空から食いもんを降らせられやしねえんだし」
おどけたように言うから、俺も少し笑った。人間の神様は火と戦の神様だ。肉と酒の神様じゃない。
もしもそうなら、クロイ様は戦士じゃなくて料理人になるのかな。それで騎士さんたちは助手や給仕で、村々を巡っておいしいものを振舞ってくれるんだ。皆喜ぶだろうな。俺も洗い物とか掃除とかを手伝ってさ。
いいな……そんな風でも、凄くいい。楽しいだろうな。
「さ、食ったら寝ちまえよ。明日は朝早くからの出発だ。恐ろしい北へ背を向けて、南へ南へ、山の麓の大村までってな」
頷いて、横になる。満腹でほろ酔いで、火も近くて暖かだ。まだ飲み食いしてる皆の声もいい。まだまだ一緒に頑張れるって気がする。
神様。炎の中に見えるかもしれないっていう、神様。
俺たちは俺たちで、やれることをやります。一生懸命に頑張ります。だから、どうか、クロイ様と騎士さんたちに勝利を。一番頑張ってる人たちに一番の祝福を。
そして、いつか……皆して大きな火を囲えるといいな。
凄く楽しいだろうな……頑張って生きてきてよかったって、笑えるだろうなあ。




