45 ドラデモ的MP管理について/童女は志願する、皆への伝道を
神の気配を何かに例えるのなら、それは背を照らす篝火。
熱く、力強く、煌々としていて……パチリパチリと鳴る。
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会社から電話かと思ったら仮想通貨のセールス。えらく情熱的で、きょどる。
というわけで、いもでんぷんです。地道にコツコツがモットーです。
そして、ゲームにおいてもそれは変わらないのであります。イケメン騎士たちと一緒にヴァンパイアをハンティング! コツコツとしらみつぶしに! 無双ゲーでも地図から敵マーカー全消しする派なんで! ガンガンにハンティング!
まあ、でも、モンスターをハンティングする某狩猟ゲーは苦手です。チュートリアルで草食獣の親子狩るのが無理すぎて積みました。ピギーって鳴くし。無理。
その点、人間でヴァンパイア狩るのは心が痛まなくていいですな。こいつら人間のことリアル食材扱いですからね。崩壊世界ゲーにおける荒野のヒャッハーたちを彷彿とさせます。もしくは生物危機ゲーにおけるハンター。倒して爽快。
なーんて……別ゲーのことが色々と思い浮かんでくるあたり、ドラデモ長期プレイにも疲れてきましたかねえ。相変わらずパソコンは絶好調なんですけどね?
ふう。この村も解放っと。
ゲームとはいえ、子供を隠して親が喰われてたとか……心に来ますわ。
まったく。こんなだから制作チームは犯罪組織呼ばわりされるんですよ。PTAとか女性団体とか米軍とかに。最後の何でやねんってツッコむところまでが、ドラデモ愛好家のお約束です。いやホント何でやねん。
さ、しばらくはイケメン騎士たちによる村の救難活動かな。そこら辺はオートでざっくりやってもらって、クロイちゃんはMP回復の小休止ですわ。
こまめな休息。これ大事。
先の戦争イベントにおけるクロイちゃんのピンチって、結局のところ持久力というか継戦能力の問題ですもん。逆に『黄金』を倒せた理由もそれ。MP切れにつけ込んだ形。最後に《サモン・デーモン》やられるかどうかは微妙なとこでしたね。
その点、イケメン騎士たちと一緒に行動している分にはクロイちゃん無敵です。騎兵が速いし強いからMP管理余裕です。補給もあちこちで受けられますし。
さーてと。観戦モードはどんな具合かな……また不安定。もう慣れっ子やー。
んじゃ、この間に他所をチェックしましょうかね。ふっふっふ。今まで使いどころのなかったシステムを使うチャンスなのですよ。
それは、従僕ビュワー。
読んで字のごとく、従僕をTPS視点で観察できるシステムです。多分きっと。初めてのことなんでちょっとドキドキです。だって、使徒プレイとかしたことなかったですからね。ギリでエルフの従僕プレイまでしか。
ポチっとな。おお、切り替わった。シラちゃん、めっちゃうどん食べてる。
っていうか……あれ? 開拓地じゃないぞ? どこだろここ……おお? 砦? いつの間に移動してたんだろ。お、ちゃんと白黒ウサギのシロクロスケもいるな。
あ、シラちゃんキョロキョロしてる。かわいい。そしておもむろに歩き出した。あはは、シロクロスケを背負うんだ。キャラ物のリュックサックみたい。テクテクと砦の廊下を進んでいって……礼拝堂? 食後に寄るとこかなあ?
◆◆◆
背中で白黒がビックリしてる。何でかってこと、シラにはわかるよ。
神様が来てるから。
すぐそばに神様がいて、シラたちのことを見てるから。
大丈夫。クロイ様に何かあったわけじゃない。だって、神様は怒っても悲しんでもないもの。もしかしたら、シラがあったかいものを食べてたから、来たのかも。
すごくいい時に来てくれたって、思うんだ。
「おや、もう食べたのかい」
よかった。礼拝堂には、まだ紅華屋のおばさんがいた。ここへはお仕事で来てるから、奥の方へ行かれちゃうと会えない。シラはお願いして一緒の馬車に乗せてもらったんだから、お仕事の邪魔はできないし、我侭なんて言えないもの。
「ああ、紹介しとくよ。この子がシラさ。着いた時には眠っていてね」
おばさんと話していたのは、白い帽子のお姉さん。綺麗な人だな。赤色の髪が長くて、波打ってて、ところどころ跳ねてるのが火みたい。
「シラ、この人は大神院のヒクリナ侍祭だ。以前からあたしの商売に協力してもらっていてね……って、あんた、どうしたんだい?」
目も口も真ん丸にして、侍祭のお姉さんは声も出ないみたい。
わかるよ。感じ取ってるんだね、神様を……その大きな大きな気配を。
「か、神よ……」
「ん? ああ、そうか。そういうことなのかい、シラ?」
「うん。さっき来てくれた」
紅華屋のおばさんは、神様を感じるのが得意じゃない。魔法も苦手。でも、いつも熱心にお祈りをしてる。きっと、もう会えない誰かのことを祈ってるんだね。
「おお……デ、アレカシ……」
「……シラ。まさか」
「大丈夫だよ。シラがおいしいなって食べてたからかも」
「ああ、なるほど。あの時みたいにか。献椀のし甲斐がある話だねえ」
神様の加護って不思議。人によって、場所によって、時間によって、強かったり弱かったりする。日向と日影みたい。見上げればお日様があるみたいに、お祈りする先にはいてくれるから、置いてかれちゃうって不安はないけど。
それでも、いてくれるよねって確かめたくもなるから、皆でお祈りして。
色んな人に祈られて……神様はどんどん大きくなってくんだよね。
だって、祈るって、強くなることだから。うずくまって助けて助けてって泣くことじゃなくて、起き上がったり動き出したりすることだから。前へ進むんだから。
「あなたが……あなた様が、使徒なのですね?」
お姉さんに手をつかまれた。痛い。お父さんが邪魔しなかったってことは、シラに悪いことしようってつもりじゃないんだろうけど。でも痛い。
「違うよ」
「えっ」
「何を聞いていたんだい。使徒はクロイ火兎守だって言ったろうに。この子は彼女の従者だよ。まあ、彼女に次いで、神のご加護を授かってもいるけれどね」
「使徒の従者……すなわち従僕……」
「手、放して」
「え、わ、ごごごめんなさい!」
つかまれてたところが赤くなってる。これ、きっと、シラじゃなかったら怪我してたと思う。それだけの力。このお姉さんも戦う人なのかもしれない。
「あの、わたしはヒクリナと申します。大神院にて侍祭を務めさせていただいております。シラ様におかれましては……」
「やめな。舞い上がる気持ちはわからないでもないけれど、シラはまだ子供だよ。大人の堅苦しさなんざしまっておくのが却って礼に適うってもんだ」
「そ、そうですね……すいません。重ね重ね」
ペコペコと頭を下げながらも、お姉さんはシラの後ろをすごく気にしてる。神様のことをわかってる。それに……神様もお姉さんを見てる?
「……でも、全て納得しました。アンゼさん、わたしをここへ呼んでくれてありがとうございます」
「そうかい。ま、百の文言よりも一の体験さね」
「はい。フェリポ司祭の無茶なやり方にも、なるほど納得です。畏くも、神ぞ、在らせられる。どうして因習に囚われんや、です」
「無茶ねえ……新聞に取材させたり、童歌を作ったり?」
「あと、魔術師組合の見解付きの意見状を大神院へ送りつけたり、砦以北の総意として王城への訴状をしたためたり、ですね」
「呆れた。無茶なことをしていたもんだ。貴族の抱き込みも済んでないってのに」
「いえ。権力闘争は迂遠の道。むしろ最も避けるべき方法だったのかもです。広く物議を醸さないと、戦う前に滅んでしまったのかも」
「……例の、ヴァンパイア恭順派の話かい?」
「はい。最終戦争宣言は彼ら『星明かりの団』にとって追い風となりました。多くの民が彼らの元へ……わたしたちの手を振り払って」
難しい話をしてるけど、シラにもわかることはあるよ。
お姉さんは、頑張って頑張って、どうしようもなくなって……でも絶対に諦めないぞって頑張り続けるから、ここへ来たんだ。そういう目だよ。火の色の髪で。
あ。だから、神様来たのかな。大丈夫だよって伝えるために来てくれたのかな。
「二人とも、聞いて」
そうだといいな。でも、そうでなくても、来てくれただけで嬉しいんだ。
「シラね、今なら、いつもよりも色々できると思うの」
お父さん、出てきて。手だけじゃなくて、全部出てきて。神様が見守ってくれてるから、大丈夫だよ。ほらやっぱり。久しぶりの抱っこだね。ほっぺたをスリスリするのも、本当に久しぶり。ずっと見たかった、お父さんの笑顔だ。
「砦の皆にね、シラ、お話するよ。怖いけど頑張ろうって、言うよ」
またお祈りを始めた二人へ、笑顔で言うんだよ。
「神様が一緒だから大丈夫だよって、伝えたいんだ。伝えなきゃなんだ」




