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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第2章【明かされる未来と過去】
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39話 拓の過去③

 墓参りを済ませ、後は帰るだけとなった帰り道。

 その声は唐突に響いた。


「拓!!」


 バス停へと向かう海沿いの道を進み、また施設の前を通りかかったとき、聞きなれない女性の声が届く。反対車線の歩道でこちらに手を振る女性が写った。漆黒のロングヘアがほんのり焼けた肌に似合っていて、Tシャツにジーンズというカジュアルなスタイルが彼女の活発さを物語っている。両手を名一杯に掲げ、ここに居るよと主張するように大きく左右に振る彼女の姿を拓はどこか呆然とした顔で見遣った。


「あの、もしかして……あの人が奈津さん?」


 写真を記憶していた満里奈がいち早くその名前を出す。拓は声にはせず、小さく頷いて見せた。

 体を微動だにしない相手に痺れを切らしたのか、奈津であろう彼女は車の流れが途切れると、急いで道路を横断してきた。


「ねえ、拓でしょ!?」


 迷うことなく拓の目の前に立ち、満面の笑顔で訊く。その問い掛けにすら、拓は答えられないほど驚いていた。しかし、それに動じることなく彼女はニコニコと笑顔を向け続ける。


「今日、両親の命日だったの知ってたからさ。絶対に拓来るだろうなって、今日こそは会いたいって粘ってたんだよね! すごい大人になったね! でも一目見て拓だって分かっちゃった!」


 周りにいる博たちに目を向けることもなく、彼女の言葉は途切れることを知らない。それほど再会に感激していたのだろう。


「ずっと拓に会いたかったんだけど連絡先もプライバシー保護とかで教えてもらえなかったから諦めてたんだけど……施設もなくなっちゃうし、わたしもここにはもう来れなくなっちゃうから、拓だけが心残りで」


 そっと彼女の手が拓の頭を撫でる。


「けど、会えたね」


「奈津、さん」


 拓がやっと振り絞ってだした出した声に奈津は満足げに笑う。


「なによなによ! さん付けなんて他人行儀じゃない!」


 わしゃわしゃと両手で拓の髪の毛をかき混ぜるように撫で回すと、拓はちょっとだけ笑顔を取り戻した。


「奈津さんは相変わらずだね」


「あら、綺麗になったねぐらいのお世辞言えないわけ?」


「ごめんごめん、綺麗になったよ」


 見る人からには本当の姉弟のように見えるふたりの姿を何も言わないまま見つめていると、我に返った拓が慌てて奈津から一歩体を引く。


「あの、さっき話しにも出た結城 奈津さん」


 次に拓は奈津の方に体を向け、今度は落ち着いた口調で言った。


「紹介するよ、今の俺の大切な友達」


 はじめましてと、奈津も博たちも小さくお辞儀を交わす。


「拓のお友だちにも会えるなんて嬉しいです。短い間だったけど拓の姉代わりをしてたから、離れてからどうしてるか心配してたけど……拓のことをちゃんと分かってくれてる友達が出来たんだと分かって本当に安心しました」


 今度は奈津だけが深々と頭を下げる。


「これからも弟をよろしくお願いします」


 改まって言われ、みんなも再度お辞儀し直す。


「あの、まだバスの時間まで余裕があるので狭山くんと話してきてもいいですよ。せっかく会えたんですから」


 満里奈の提案に奈津は残念そうに頭を振った。


「そうしたいのは山々なんだけど、もう迎えが来るから待ち合わせ場所に行かなきゃいけないの」


「そうなんですか?」


「気を回してもらったのにごめんね」


 そう謝りつつ、奈津は拓に体を向ける。


「拓、わたしね……結婚するんだ」


 意外な報告に拓は目を見開く。


「結婚を期に旦那さんの地元に引っ越すことになって、それで今日施設に挨拶に行ってきたの。ここに来られるのも今日で最後になるだろうから、一目でも拓に会えて良かった。拓が今はたくさんの友達と幸せな毎日を送ってる姿を見られて心底安心できたから……心置きなくお嫁に行けます」


「おめでとう、奈津」


「やっと“さん”付けやめてくれたね」


 そう言いながら笑う奈津の目に涙が滲む。


「お互い幸せになろう。辛い過去を乗り越えてきたんだから、思う存分わたし達はこれからの幸せを大切に生きていこう」


「うん、そうだね。大切に生きていこう」


 拓の頬に一滴の涙が伝った。そっと握手を交わす。


「離れててもわたしは拓の姉だから、拓の幸せを願ってるね」


「俺も奈津の幸せを応援してるから」


「ありがとう!!」


 勢いよく奈津が拓に抱きついた。戸惑うも、拓はそっと奈津の背中に手を回す。


「これで本当に拓とちゃんとお別れできる」


 そっと体を離す。


「さよなら、元気で」


「奈津も元気で……あの時はありがとう。本当にありがとう」


 そう告げ、奈津はまた大きく手を振りながら道路を駆け足で渡った。姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続ける奈津を拓はただなにも言わず見送る。


「いいお姉さんですね」


 満里奈の一言に、拓は涙を脱ぐいながら大きく頷いた。


「うん、いい姉さんだよ」


 最高の笑顔を浮かべると、拓も一歩踏み出す。


「みんな、今日はありがとう」


 突然のお礼に、みんなキョトンとする。


「みんなと来なかったら、またいつも通り墓参りだけ済まして帰ってきたと思う……みんなのおかげで施設へも行けたし、奈津に最後のお別れも言えた。感謝してる」


「何言ってるんだよ。俺たちはただついて来ただけだよ」


「そうだよ」


 博と文也が言うと、満里奈が遠慮がちに近付く。


「わたし、狭山くんのことが知れてとても嬉しかったです。だから、お礼を言うのはわたしの方です……狭山くんのことを教えてくれてありがとうございました」


「そんなお礼言われるなんて思ってなかったよ。けど、これからはもっと博たちに今まで言えなかったこととか話していけるようにしていきたいって思ってる。だから、その時は聞いてほしい」


「当たり前だろ。友達なんだから拓のことならいつでも真剣に聞くよ」


 博が拓の肩を軽く小突く。


「なんでも話せ」


 その一言に拓は涙で瞳を滲ませた。


 こうして、短い旅は終わりを告げる。

 様々な想いを抱きながら、拓たち帰路についのだった。

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