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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第一章【2度目の余命宣告】
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27話 小さな出会い

 目を開ける。しばらくの間、視界を閉ざしていたせいか、先ほどよりも日差しが強く感じられた。自然と目を細め、手のひらで影を作りながら空を仰ぐ。

 先ほどの恐怖が少しだけ和らぎ、拓は安堵するように息を吐いた。


(これから片倉を守らなきゃならないのに、余計なことを考えてたら迷惑かける)


 しっかりしろ、そう繰り返し心の中で自分を諭す。

 食べかけのパンと牛乳を胃に流し込み、拓は病室に戻るべく立ち上がった。病院の中へと戻ると、冷房の風がひんやりと肩先に触れる。少し肌寒さを感じ、日差しの差す窓際を歩いた。すると、こちらへ向かってパタパタと足音を立てながら小さな女の子がこちらへと走ってくるのに気づく。女の子と一瞬目が合う。拓の横を擦り抜けた女の子を横目に、さほど気にせず前へと視線を戻した瞬間だった。足に重石を付けられたかのように、ずしっと重くなる。どういう訳か歩けない。

 足元に目線を移す前に、慌てて走ってきた若い看護師さんが拓に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい!」


 なぜ謝られてるのか分からないまま、ようやく足の重石の正体に目を向ける。それはすれ違ったはずの女の子だった。両手で拓の足をがっしり掴んで、拒絶を示すように大きく首を左右に揺らしていた。どうやら看護師から逃げてきたようだが、どうして自分を盾に選んだのかいささか疑問に思う。


「ほらっ、患者さんから離れてね」


 優しい口調を掛けながら、看護師が拓の足元でしゃがみ、女の子を誘導するように手を伸ばす。その気配に女の子は思いっきり拒絶の声を上げた。


挿絵(By みてみん)


「いやっ!!」


 小さな手が勢いよく看護師の手を弾き返す。


「そんなに嫌がらなくても……困ったな」


 少し焦りを滲ませる声を零した姿に拓はとうとう耐え切れずに声を掛ける。


「あの……この子、患者さんなんですか?」


「ああ、本当にごめんなさい。この子は患者ではないんだけど……今、先生とこの子のお母さんがお話しされてるので、少しの間だけ託児所に預けようとしたら嫌がって逃げてしまって」


 けど……と、言葉を濁しながら看護師は手首につけた時計に目線を移した。

 看護師という職種は多忙だ。何人もの患者を受け持ち、決められた時間に様々な業務をこなさなくてはならない。何度も検査入院をしたりしていた拓だから、その大変さはよく見てきたから理解できる。

 だとすると、この小さな女の子ひとりにかなりの時間ロスをしていることになるのだ。


(……さすがに可哀想だな)


 こういう時、見て見ぬ振りができない性格の拓は、決まって面倒ごとを引き受けてしまう。


「あの、俺でよかったら彼女のこと見てますよ? 検査も終わったし、今は体調に問題はないので……時間になったら、お母さんの病室へ連れていきます」


「いえ、そんな! 患者さんにそんなことを押し付けるなんて!」


 この看護師は20代前半でかなり若いから、きっと新人さんなのかもしれない。ベテランの看護師さんに比べると物腰も柔らかすぎだし、どちらかというと子供の扱いにあまり慣れていない感じがした。だから尚のこと、この子を不安にさせているのかもしれない。


「俺、ちょうど退屈してたんで気にしないでください。それに、なんだか俺に懐いてるみたいだから……その方がいいかもしれないですよ?」


 拓はちらっと女の子の様子を確認する。未だに足に絡みついてはいるが、若干、前髪から覗かせた大きな瞳は期待に膨らんだ輝きを放っているように映った。


「なら……お言葉に甘えてしまってもいいですか? 先生のお話もあと1時間ほどで終わると思うんですが……そのぐらいにわたしがまた迎えに来ますので、それまでお願いします!」


「なら、外の方で飲み物でも飲んで待ってるんで」


「本当にご迷惑かけてすみません!! ありがとうございます!!」


 何度も頭を下げながら、看護師は慌ただしく来た道を早足で戻っていく。その姿を見届けると、ようやく足の重石がなくなり、締め付けから解放された。


「お兄ちゃん、ありがとうございます」


 女の子は見た目よりしっかりした口調で深々と頭を下げた。大人の対応に驚き、拓もつられて頭を下げる。


「あの託児所、何度も行ってるからつまらなくて。ひとりで居れるって言ってるのに、あの人しつこくて嫌になっちゃう」


 さっきまで足にしがみついていた子とは思えないほどの変貌ぶりに、拓の口は半開きだ。黒髪のロングヘア、大きな瞳に長い睫毛、幼い顔立ち、その全てが子供らしいのに、口調はかなりませている。


「君、名前は?」


「わたしは雛梨(ひなり)……お兄ちゃんの名前は?」


「俺は拓っていうんだ」


「そうなんだ。わたしは小学1年生……お兄ちゃんは高校生ぐらい? 見知らぬ女の子を助けるなんて、なかなかのイケメンっぷりね」


 ニコッと笑う彼女はどう見ても子供そのもの。しかしながら、顔と口調があまりにもギャップがありすぎて、拓は返答に困ってしまう。その場しのぎの愛想笑いで誤魔化す。


「ジュースはわたしが奢るわ。助けてくれたお礼よ」


「いや、さすがにそれは」


 こんな子供に奢らしてしまうのは、お礼という名目でも申し訳なさすぎる。拓は慌てて首を振った。


「飲み物はごちそうするよ。その代わり、一時間は俺から離れないで……いくら小学生でもひとりになるのは危ないから」


 雛梨はじっと拓を見つめてから、また無邪気な子供らしい笑顔を浮かべた。


「そうね。()()()()から離れたら、あの看護師の慌てふためく姿が目に浮かぶもの……なら、お茶をしながらお喋りしましょう」


「たっくん?」


「さすがに年上の人に呼び捨ては出来ないでしょ?」


 この子供といるとどうも調子が狂うと、拓は隠れて小さく溜息を漏らした。

 しかし、あることを思い出す。


(……もしかして、この子がアキ?)


 アキが今の時代で小学生だとしたら、この子がアキ本人という可能性は捨てきれない。髪や瞳の色はまるっきり違うが、髪色や目の色なんて簡単に変えられるものだ。


「……あのさ、雛梨ちゃん?」


 売店でジュースを選ぶ雛梨に声を掛けるも、喉まで出かかった質問を飲み込む。


「なに?」


「いや、なんでもないよ」


 この時代の雛梨はほんの7歳の少女。しかも1年後の未来に何が起こるかなんて知るはずもない子に、アキについて質問したって無駄に決まっている。しかもアキについて知っている情報は何もない。アキという名前さえ偽名ならば、目の前の雛梨にできる質問などないのだと拓は痛感した。

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