番外編・お祝いと紹介の仕方
瑠璃ちゃんの卒業式も終わり、家に帰ってしばらくゆっくりし、日も暮れて暗くなってきた頃に天野に連絡をして居酒屋へと向かった。
天野も少し心細いのか、一緒に中村を連れてきてもいいか聞いてきたので、もちろんOKをしておいた。
これで必然的に前にここに来たメンバーと同じになってしまったわけだが、それはそれでいいだろう。
瑠璃ちゃんと手をつないで居酒屋へ向かうと、入口の前には二人が立っていて、手を振りあった。
「待ったか?」
「ううん。私たちも今来たとこ」
「こんばんわ」
「こんばんわー。瑠璃ちゃん、卒業おめでとー」
「ありがとー」
中村と瑠璃ちゃんがハイタッチ|(身長的にずれてるけど)をしているのを見て、天野が俺に耳打ちしてきた。
「ま、まだ瑠璃ちゃんには言ってないんだよね?」
「天野が言うなって言うから今日まで何にも言ってない。今日も瑠璃ちゃんとお前ら二人の卒業祝いってことにしてるし。中村には・・・ってかあいつは見てたもんな」
「今日は私から言うからね」
「お前から?」
「ダメ?」
「何話してるの?」
ふと瑠璃ちゃんがこっちを見ていて、俺と天野は顔を離して『何もしてませんよー。やましくないですよー』な空気をさりげなく作る。
「ん? 打ち合わせ、かな」
「打ち合わせ?」
「今日のお祝いのこと」
「まぁいいじゃん。早く入ろう。あたしお腹減ったー」
瑠璃ちゃんの頭の上にハテナが増えてきたタイミングで、中村が瑠璃ちゃんの背中を押して中へと入っていったので、俺と天野は顔を見合わせて小さく笑い、二人のあとを追った。
前とは違う席ではあるが作りは同じなため、4人がけのテーブル席に通される。中村が瑠璃ちゃんを連れて並んで座った。そうなると必然的に俺と天野が並んで座ることになる。結局前と同じ配置になった。
俺と天野の向かいには、何を食べようかと笑顔でメニューを見ている瑠璃ちゃんと、一緒にメニューを見ているフリをして俺と天野のことをニヤニヤと見ている中村がいた。
とりあえずメニューから飲み物を頼んだ。
「こうやって4人で食べるのって久しぶりじゃない?」
天野が切り出した。
「うんっ。久しぶりだよねー。恭子ちゃんと香恵ちゃんと会うのたのしみにしてたのー」
「瑠璃ちゃんはめんこいなぁ」
ムツゴロウさん並みに瑠璃ちゃんをグリグリと撫で回す中村。
「でも今日はね、瑠璃ちゃんがビックリするようなことがあるから楽しみにしててね」
「びっくりするようなこと?」
「香恵っ!」
「おっとこれはまだ秘密だったかー。ごーめんごめん」
天野が顔を赤くしながら腰を浮かせると、中村は全く悪びれずに謝った。
早く瑠璃ちゃんの反応が見たい中村と、いつ言おうかタイミングを見計らっている天野。
どっちもどっちだな。
ドリンクが到着し、食べ物をいくつか頼む。今日は全員ソフトドリンクだ。高校入学前に飲酒でもさせて問題になったら困る。
俺はウーロン茶、瑠璃ちゃんはオレンジジュース、中村はジンジャエール、天野はアップルジュース。
「い、今言ってもいいかな?」
ウーロン茶を飲もうとしたタイミングで天野が耳打ちしてくる。
「タイミングは任せるよ」
「よしっ。じゃあ言うからね」
俺はウーロン茶を飲まずに置いて、天野の言葉を待った。
隣で小さく深呼吸するのが聞こえた。
「瑠璃ちゃん」
「ん?」
「あのね、今日は瑠璃ちゃんに大事な話があって・・・」
「どうしたの?」
「えっと、その、ね・・・」
顔を赤くする天野。首を傾げる瑠璃ちゃん。笑いをこらえる中村。
なんでこんなに緊張してるんだよ。見てられん。
「俺たち、付き合い始めたんだ」
「えっ?」
「今、天野と付き合ってるんだ」
言い方を変えてもう一度言った。テーブルの下で天野の手が俺の太ももに置かれた。
瑠璃ちゃんは驚いているというよりは、意味が分かってないみたいだった。
「瑠璃ちゃん?」
「えっと、付き合ってるの?」
「うん」
「それって、恭子ちゃんがまさちかさんの彼女になったっていうこと?」
「そういうこと」
「・・・おぉっ!」
少し間があってから、理解したらしい瑠璃ちゃんが声をあげた。
中村はすでに笑いを堪えきれずに両手で顔を隠して震えている。
「じゃあ恭子ちゃんとまさちかさんは両思いっていうこと!?」
「まぁ、そういうこと」
「おー。やったね恭子ちゃん」
「うんっ。ありがとっ」
緊張が解けたのか、笑顔でそう答える天野。
瑠璃ちゃんも俺と天野のことを喜んでくれているみたいで、嬉しそうにしていた。
俺が太ももに置かれた天野の手を握ると、ピクッとその手が動いて、天野が顔をこっちに向けた。
少し赤さは残っていたが、そんな顔で微笑まれると、つられて笑顔になってしまう。
「ちゅーはしないの?」
「「ちゅー!?」」
瑠璃ちゃんの言葉に思わず叫ぶ俺と天野。
そしてここぞとばかりに中村も参戦してくる。
「そうだよ。恋人同士なんだからキッスの一つや二つするもんだろー。なぁ瑠璃ちゃん」
「恋人同士はちゅーするって笹木さんも言ってたもん」
「ほら。笹木さんも言ってたってさ」
中村は笹木さん知らないだろうが。
俺と天野は目を合わせてどうしようかと視線で相談する。
すると天野がスっと目を伏せた。
「えっ!? マジで?」
「おーっ! 恭子は待ってるぞ!」
俺は瑠璃ちゃんと中村の顔を見てから天野に視線を戻す。
そしてちょっと間を置いて・・・
「ダメだダメだ! こういうのは二人っきりの時にするもんだ! 見世物じゃなーい!」
そう言って天野の肩を押して顔を話した。
残念そうな中村と、『そうなの?』と言わんばかりの視線を向ける瑠璃ちゃん。
そして、
「ホントにされたらどうしようかと思った」
と胸を押さえて顔を赤くする天野。
そんなこともあったが、料理が到着してそれをワイワイと食べて、店を出ることとなった。
店を出ると、前で寒そうに雪がちらつく空を見ている瑠璃ちゃんと中村。
そして隣に天野が立っていた。
「天野」
「ん?」
呼ばれてこっちを向いた天野の唇にキスをした。
驚いて目を見開いて俺を見る天野。
「さっきできなかったからさ」
そう照れ隠しのつもりで言うと、天野は顔をみるみる赤くした。
そしてバシバシと俺のことを叩くと、抱きついて胸に顔をうずめてきた。
それも二人に気づかれないようにと短い間だけで、前の二人がこちらを向いたときにはすでにからだは離れていて、そこらへんの雪を手にとって顔に当てている天野と、手袋をはこうとしている俺が立っているだけだった。
第一部・完
今まで読んでいただきありがとうございました。
感想とか書いていただけると瑠璃ちゃんと正親も喜びます。ついでに言うと僕も喜びます。
はい。これで第一部が完結となります。
えー。勘違いしないでください。
主人公は正親です。瑠璃ちゃんではありませんw
そして正親にとっての正ヒロインは天野ちゃんです。
瑠璃ちゃん>天野ちゃん
人気はこんな感じになってます。・・・おかしいなぁw
僕の中では天野ちゃんのほうが多数で取り合いが始まると思っていたんですが、まさか瑠璃ちゃんにここまで票数(?)が集まって『俺の娘』『私の娘』って言う取り合いが始まるとは思ってませんでした。
そしてここまで人気が出るとは思ってませんでした。
ありがとうございました。
これもひとえにみなさまの応援と、僕の文才と、休止中ものんびりと待ってくれた皆さんのおかげだと思ってます。
第一部は終わりましたが、明日から第二部が別作品として連載スタートしますので、またお楽しみいただければ嬉しいです。
では第二部もお楽しみに!




