謝り方と気持ちの確認の仕方
「申し訳ありませんでした!」
「た、高津先生、朝なんでもうちょっとボリュームを・・・」
「あっ! すみません!」
「だからボリューム・・・」
二回目の注意で、やっと理解してくれたのか、ボリュームを下げると同時にシュンとする高津先生。
そんな高津先生の様子がおかしいらしく、天野は引き抜いた掛布団に顔をうずめてプププと笑っている。
ベッドの上で正座した高津先生は、キョロキョロと周りを見回している。
大丈夫。洗濯物とかは全部撤去してあるし、見られて困るものはない。
「ここ、武田先生のお家ですよね?」
「えっ? そうですけど」
「どうして天野さんがいるんですか?」
あ。
そうですよね。なんで天野がいることをすっかり忘れていたんだ?
教師の家に生徒がいることが一番おかしいじゃないか。
「もしかして、武田先生が言ってた『瑠璃ちゃん』っていうのが天野さんのことで、本当は『瑠璃ちゃん』なんていなかったんですか? 二人で暮らしていることを自慢したいけどバレたら困るから『瑠璃ちゃん』って言って自慢してたんですか?」
「違います」
なんだその妄想は。ビックリしたわー。
「じゃあ証拠はあるんですか? 天野さんと瑠璃ちゃんが別人だっている証拠は・・・」
「はいっ」
ベッドの脇に立っていた天野が、自分のスマホを操作して画面を見せた。
俺も横からのぞき込んでみると、瑠璃ちゃんと天野が二人で写っている画像だった。瑠璃ちゃんがピースしてる。カワイイ。
「こ、これは?」
「瑠璃ちゃんと私は友達なの。未来の娘になるかもしれませんけど、今現在は友達で、昨日の夜からウチに泊まってて、その着替えとかランドセルとかを取りに来たんですー。だから瑠璃ちゃんはそんざいしてますー」
ちょっと小バカにしたようにそういう天野は、ちょっと輝いて見えた。さりげなく一言多かったのを除けば完璧だ。
それにしても助かった。
「・・・というわけです」
「そうですか。取り乱してすみませんでした」
正座したままペコリと頭を下げると、ベッドから立ち上がって足元にあったカバンを手に取り、玄関へと向かった。
俺は天野と顔を見合わせると、天野が顎で『見送れ』みたいなサインを送ってきたので、俺だけ玄関まで高津先生を追った。
靴を履いてる高津先生の背中に声をかける。
「天野とはなんにもないですからね」
「それは私じゃなくて天野さんに言ってあげてください」
「どういう・・・」
「私、天野さんに勝てる気がしないです。それに、武田先生も天野さんのこと好きみたいですし」
何言ってんだ、この人?
「俺は別に天野のことは生徒であり瑠璃ちゃんの友達としか思ってないですよ」
「恋っていうのは見つけるものじゃなくて落ちるものだそうです」
「それがなにか?」
「落ちたときに手が届かなくても後悔してはいけないってことです。チャンスは掴むものであり、恋は落ちながら掴むものだそうです。私の友達が言ってました」
「・・・深いですね」
「その友達は、落ちたときに掴んだそうですが、手放してしまったそうです」
「・・・・・・」
「でもその相手の人は掴んでくれるまで一緒に落ちてくれたそうです。今も一緒に落ちてるんだとか」
そう言って背を向けたまま小さく笑った。
「私はもう一度落ちるまで頑張ります。だから武田先生は掴んであげてくださいね」
そう言って振り向いた高津先生は笑顔だった。
「じゃあ、ご迷惑おかけしました」
「いえいえ。気をつけて帰ってください」
「はい。では」
高津先生が出ていって、玄関が静かに閉まり、俺は大きく深呼吸をした。
天野の元へ戻ると、我が家同然で瑠璃ちゃんの服が入ったタンスを泥棒のごとく漁り、壁に貼っている時間割を確認しながらランドセルに勉強道具を入れていた。
俺は天野のことが好きなのだろうか?
でも教師と生徒だし・・・もし教師と生徒じゃなかったら?
・・・どうなんだ?
俺が天野を見ながら考えていると、天野が俺の視線に気がついてこちらを見て首を傾げた。
「なに?」
「ん? ちょっと考え事」
「ふーん」
「天野って、俺のこと本気で好きなのか?」
「うん」
「そっか。・・・あー聞いただけ」
天野は不思議そうな顔をすると、また勉強道具をランドセルに入れ始めた。
そして準備ができたのか、スタスタと玄関に向かう天野。
しゃがんで靴を履いているその背中に声をかける。
「瑠璃ちゃん、なんだって?」
「ちょっと悩み事があったみたい。反抗期とかじゃないから安心してよ」
「そっか」
・・・ちょっと天野に違和感を感じた。
「なぁ」
「なに?」
「怒ってるのか?」
「・・・別に」
あー完全に怒ってるわこれ。
高津先生が言ってたのはこーゆーことか。
「高津先生とは何もなかったからな。ただおぶって連れてきただけで、会話すらしてないからな」
「わかってるって。でもこんな状況を目の当たりにしたら平気じゃないのくらいわかってよ」
「・・・すまん」
「いや、武田は悪くないんだよ。だってやましいことも悪いこともしてないんだもん」
「あのな」
振り向いた天野の目からは涙が流れていた。
かなり我慢してたのだろう。泣いているというよりも涙が出てしまったという表現のほうが近い気がした。
俺は今まで何を見てきたのだろうか?
教師と生徒の関係なんてすぐに終わるものだ。
その垣根を越えた先には何が見えるのかを考え直すと、笑っている天野の顔が思い浮かんでいた。
そしてこうやって俺のことを考えて涙を流してくれる天野が目の前にいる。
俺は前から恋に落ちていたのかもしれない。
あとはここに差し出されている天野の気持ちを掴んであげるだけだろう。
「俺はお前が好きみたいだ」
その言葉に天野が目を見開いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
面白くなってまいりました!
書きながらニヤニヤが止まりませんでした!
妄想乙!
新連載投下してます。
次回もお楽しみに!




