コーヒータイムの過ごし方
朝5時。
結局朝まで寝ずに資料を作ったりしてて、徹夜してしまった。
これでしばらくは資料なんて作らなくてもいいだろう。
しかし徹夜なんていつぶりだろうか。大学の時に何回か、レポート提出とか飲み会とかで徹夜した以来か。5、6年ぶり? なんか大学時代も懐かしいなぁ。
そんなことを考えながら、朝のコーヒーを飲もうと湯沸かし器に水を入れて沸かしていると、玄関からガチャガチャと音が聞こえ、扉が開く音が聞こえた。
まさか瑠璃ちゃん?
そりゃ帰ってくるよな。今日も平日だし学校だもんね。
そう思ってドアが開くのを台所で見ていた。
「おじゃましまーす」
「は?」
意外や意外。
ドアを開けて入ってきたのは天野さんでした。
少しだけ迫ってきていた眠気が一気に吹き飛んだ。
「あ、武田。おはよ」
「おはよう。って、えっ? 天野?」
「天野です」
「瑠璃ちゃんは?」
「まだウチにいるよー。昨日盛り上がっちゃったから、まだ寝てる。そんで仕方ないからランドセルとか着替えとか持っていって、ウチから学校行かせようと思って」
「そっか。瑠璃ちゃん、寝起き悪いんだよなぁ」
「ハハハ。それも自分で言ってた。朝起きられるようにするにはどうすればいいのかって聞かれたもん」
「なんて答えた?」
「夢の中で気がついたら無理やりにでも目を開けようとするって言ったけど、理解できなかったみたい」
「それは俺も理解できん」
立ったまま台所付近で立ち話をしていると、お湯が沸いたようで、湯沸かし器がカチッと鳴った。
「天野もコーヒー飲んでくか?」
「甘いのなら飲める」
「はいはい」
そう言って天野の分のコーヒーも用意した。インスタントだけど。
お客様用のマグカップにお湯を入れて砂糖をドバドバと入れて、天野に手渡した。
「ありがと。武田って早起きなんだね」
「いや、今日は寝てないだけ」
「寝てない?」
俺は目だけでテーブルの上を指すと、天野は納得してくれたようで『あー』と声をもらしていた。
そのまま話しながら二人で朝のコーヒータイムをしていると、奥の寝室からもぞもぞと布団が擦れる音が聞こえた。
あっやべっ。忘れてた。
その音に天野も気づいたようで、閉まっている寝室の扉を見ながら首をかしげた。
「誰かいるの?」
少しだけ天野の視線が鋭くなる。
まぁ気になるわな。
なんて言えばいいんだ・・・?
「えーっと・・・天野も知っているというかなんというか・・・」
「宏太さん?」
「いや、宏太ではないかなー」
「じゃあ・・・誰?」
ってゆーか別にやましいことをしたわけじゃないんだから、正直に言ってもいいんじゃね? と俺の中の天使が囁いた。
悪魔に動きはないようなので、天使の言っていることを信じてみよう。
「あー・・・高津先生・・・です」
「はぁ? 高津先生? なんで?」
「昨日、かくかくじかじか・・・」
天使の言うとおり正直に昨日の経緯を話した。
天野は眼光鋭く俺の話を聞いていた。
そして最後にため息をついた。
「はぁ。武田ってどこまでお人好しなのさ。そーゆー中途半端な態度が一番ダメなんだっての」
「仕方ないだろ。あそこで置いていくわけにもいかなかったんだしさ」
「まぁ・・・それもそうかもしれないかも・・・」
「だろ?」
「・・・ちょっとだけ覗いてもいい?」
気持ちを切り替えたらしい天野は、忍び足で寝室の扉へと接近。
「こらっ。女性の寝てるところを見るのは失礼だろうが」
「じゃあ武田は見ないでね」
「バカ。ここは俺の家だ。どうしようと俺の勝手だ」
俺だって見てみたい。
他人の寝言とか聞くの楽しいじゃん
静かに音をたてないように扉を開けると、そーっと中をのぞき込んだ。
するとベッドの上で、かけ布団を抱き枕のようにして顔をスリスリと押し付けて、エヘヘへと笑っている高津先生がいた。スーツのまま寝ているので、その足が大胆にも大きく露出していた。
「なんかエロいな」
「やっぱり年上が好きなのか」
「そーゆーんじゃないけど、見えそうで見えないっていうのは男心をくすぐるんだよ。つまりエロティックだな」
「パンチラには萌えるけど、モロで見えてるのはちょっと引く的なアレ?」
「ちょっとどれかわかんないけど、そんな感じ」
まさかのエロトークをしていると、高津先生がムニャムニャと言い出したので、二人して声をひそめる。
「んー・・・えへへ・・・武田先生・・・えへへへー・・・」
天野の冷たい視線が下から刺さる。
「武田の布団で寝てるから武田の夢見てるんじゃない?」
「・・・かもな」
「あの人もう30になるんでしょ? いい歳して・・・あーなんか腹立ってきた」
「あっ、コラっ」
そう言うと、天野はズカズカと高津先生が寝ているベッドの横まで行き、布団を掴んで思いっきり引き抜いた。
その衝撃で高津先生はハッと目を開きガバッと上半身だけ起き上がると、見たことのない部屋に驚いているのか、キョロキョロと周りを見渡して俺と天野の姿を視認した。
「おはよーございますー」
「えっ、天野さんに、武田先生?」
「はい。おはようございます。よく寝てましたね」
「あれ? これは夢ですか?」
「いいえ。現実です」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
天野ちゃんは朝に強すぎます。
次回もお楽しみに!




