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携帯電話のねだり方

「ここをこうやるとこうなるんだって」

「え? 今どうやったの?」

「だから右上のボタンを押して・・・」

「あ、わかった。これか」

「そうそう。んで、これ押したらこれが出てくるから、ここの設定でいろいろ設定すんのさ」

「そういうことかぁ。ありがと」

「なれればそんなむずかしくないって」

「・・・・・・」


ぼくは長谷川さんがヒロトに携帯電話の使い方でわからないところを教わっているのを、オレンジジュースとチョコチップクッキーを食べながら横目で見ていた。

ぼくだけ携帯電話を持っていないから、さっきの会話にぜんぜん入っていけない。

長谷川さんは機械によわいみたいで、わからないところをヒロトによく聞いたりしている。そのたびにぼくは横で見ていることしかできない。

ぼくも携帯電話ほしいけど、お母さんに『中学生になったら買ってあげる』と言われているから、きっと今お願いしても、同じこと言われて終わりだと思ってる。


「はぁ」


ぼくが小さくため息をつくと、それに長谷川さんが気づいたみたいで、首をかしげながらぼくのほうを見た。


「どうかしたの?」

「べつにー」

「?」


ぼくがオレンジジュースをゴクゴクと飲み干すのを、長谷川さんは首をかしげて見ていた。

なんか面白くないなー。

さいきんは携帯電話のせいで、長谷川さんはヒロトとばっかり話してるし、そのおかげでぼくはだまって見てるしかできない。


「言いたいことは言ったほうがらくになるって、まさちかさんも言ってたよ」

「言ったってムリなことだってあるんだよ」

「そのこと言ってみたの?」

「・・・お母さんにはけっこう前に言った」

「じゃあこんどもう一回言ってみれば?」

「きっと同じこと言われるだけだもん」

「言ってみないとわからないよ」


なんか今日の長谷川さんは、押しが強い気がする。


「そんなこと言ったってムリなもんはムリだって」

「やる前からあきらめるなんて怜央くんらしくないよ」


ぼくらしいって何さ。

ぼくと長谷川さんの会話に気づいたのか、ヒロトがこっちを見ていた。


「・・・なにさ」

「なんかイライラしてね?」

「してない」

「・・・今日は帰るわ」

「・・・うん。わかった」

「帰るの?」

「長谷川も帰るぞ」

「でもまだ怜央くんと話が途中」

「いいから。ほら立って」


腕をつかんで長谷川さんを立たせたヒロトは、そのまま玄関の方へとつれていって、帰ってしまった。


「はぁ・・・」


ヒロトに言われてイライラしてることに気づいたぼくは、1人になってちょっと冷静になった。

どうしてぼくはこんなにイライラしてるんだろ。

トントントンと誰かが階段を上ってくる音が聞こえた。

そしてそのままぼくの部屋の方へと向かってきて、ドアがばこーんと開いた。

ぼくはせなかを向けたままだったけど、誰が来たかなんてわかった。人の家のドアをこんな開け方するのは1人しかいない。


「・・・どうしたの」

「それはこっちのセリフだ。ずっとイライラしやがって」

「ヒロトには関係無いじゃん」

「関係あるだろ。どうしたんだよ。そんなにケータイ買ってもらえないのがイヤなのかよ」

「携帯電話を持ってるヒロトにはわかんないよ」


そう言うと、ヒロトがぼくの頭をバシッと叩いた。

ぼくは叩かれた頭を押さえながらヒロトを見た。


「な、なにさ!」

「言いたいことがあるならハッキリおばさんに言えばいいだろ。なのにグズグズしやがって。オレの親友の怜央はそんなことでイライラウジウジするようなやつだったのか? ガッカリだわ」


座ってるぼくを思いっきり見下しながら言うヒロト。

真剣に言うヒロトを見て思った。

ぼく、ヒロトに叩かれたの初めてだ。それ以前にヒロトが誰かを叩いたりしているところを見たことないかも。

それだけ真剣っていうこと・・・でいいんだよね?


「なんか言い返してみろよ」


その言葉に、ぼくは覚悟を決めた。

くやしい。ヒロトに言われたのがくやしい。ヒロトにこんなことを言わせた自分がなさけない。

ぼくはヒロトをキッとにらんで、1階にいるお母さんの元へと走った。


「お母さんっ!」

「わっ! びっくりした。どうし」

「ぼく携帯電話ほしい!」


そう言うとお母さんはちょっとあきれたように『ふぅ』と息をはいた。


「・・・中学生になってからって言ったでしょ?」

「やだ! 今ほしい!」


ぼくの言葉にビックリしたようで、お母さんは目を丸くしていた。


「中学生になったら勉強も頑張るし、お手伝いもするから! お願い!」


こうやってお願いしたのって、初めてかもしれない。

そのお願いが通じたのか、お母さんは小さく笑って言った。


「わかったわ。そこまで言うなら買ってあげるわよ」

「ホントっ!?」

「お父さんに聞いてみないとわからないけど、お母さんも言ってあげるわよ」

「やったぁ!」


ぼくは自分の部屋に戻って、ヒロトにこのことを伝えた。


「買ってくれるって!」

「ほらな? 言えばなんとかなるんだっての」

「へへっ。ありがと」

「おう。長谷川にもあやまっておけよ。悪いと思ったらあやまるんだろ」

「うん。ちゃんと明日あやまる」

「今あやまれよ。ほれ」


窓の外を指さすヒロト。

なんのことかと思って外を見てみると、長谷川さんが外からこっちを見ていた。

ふり向いてヒロトを見ると、携帯電話をブラブラとゆらしていた。

やっぱり持つべきものは親友だと思った。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただきありがとうございます。

・・・あっ。気が早かったか。


久々の怜央くん回です。

必死にお願いする怜央くんを想像すると萌え禿げた。

前に瑠璃ちゃんで禿げた分もあるので、もうツルピカです。


次回もお楽しみに!

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