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親心の悩み方

午後の職員室。

生徒たちは今頃教室で昼ご飯でも食べているだろう。

教師はここでご飯を食べたり、午後の授業の準備をしたりなんやしている。

俺は前者で、先生がまとめてとっている店屋物のそばを食べていた。毎日コンビニで買ってきた弁当とかで店屋物ではないんだけど、今日はそんな気分だったから、店屋物をとった。

このくらい食べないとやっていけませんよ!

と、そんな俺の意味不明な苛立ちを察したのか、隣に座ってそばをすするナイスミドルな秋山先生が声をかけてきた。


「武田? どしたんだ? なんかイラついてるのか?」

「あぁすみません。ちょっと瑠璃ちゃんが・・・」

「あー預かってる女の子か」

「はい」


秋山先生には、瑠璃ちゃんを親戚から預かってる子どもということで話している。

意外と単細胞な秋山先生はそれで納得してくれた。天野レベルだったので助かった。中村レベルだと、正直大変なことになるところだった。


「んで、その子がどうしたって?」

「女の子ってやっぱりオシャレしたがるものなんですかね?」

「そりゃまぁ女の子だからな。オシャレしたがるのは必然だろ」

「やっぱりそうなんですかねぇ」

「その子がオシャレにでも目覚めたのが原因か?」

「いや・・・そうなるんですかね・・・」

「まわりくどいな。どうしたんだよ」


そばを食べていた手を止めて、その箸の先を俺に向けてくる秋山先生。

俺は覚悟を決めて言った。


「瑠璃ちゃんが・・・髪留めをつけていたんです」

「・・・・・・は?」

「いや、だから」

「いやいや。そういう意味じゃねぇって。それだけ?」

「それだけってなんですか!」

「ス、スマン」

「・・・いえ。僕の方こそすみません」


思わず勢いで秋山先生に大声を出してしまった。


「その髪飾りが何か問題なのか?」

「その髪飾り、僕が買ったものじゃないんですよ」

「あー・・・」

「朝はつけてなかったんですけど・・・ってゆーか、買ったこともなかったので、つけてるはずがないんですけど、家に帰ってみたら髪に可愛い髪留めがついてて」

「学校でもらったってことか」

「多分。最近友達が出来たって言ってたんで、その友達にもらったんだと思います」

「友達にもらったんならいいじゃん。楽しく学校生活を送れてるって証拠だろ」

「はぁー・・・」


その言葉を聞いて、俺はさっきよりも深い溜息をついた。


「秋山先生はわかってないですよ。その友達、男の子なんです」

「・・・まさかとは思うけど・・・嫉妬してんか?」

「僕が小学生に嫉妬なんてするはずないじゃないですか」

「いや、今現に嫉妬してるだろ」

「だって相手は小学生ですよ? 別に髪留めの一つや二つ、僕だって買ってあげますよ。でも髪留めをつけていたからとかじゃないんです。それをいつもの3割増しで喜んでいる瑠璃ちゃんを見ていると、なんかくやしくて・・・」


バキッと音を立てて、持っていた割り箸が折れていた。

秋山先生が予備の割り箸を差し出してくれたので、それを受け取ってそばをすする。


「めっちゃ怒ってるじゃん」

「怒ってませんってば」

「お前もすっかり親バカだな」

「・・・別にそんなんじゃないです。瑠璃ちゃんには幸せになってもらいたいだけです」

「それを親バカって言うんだよ。親心子知らずって言うけどよ、子心親知らずとも言うだろ。そんな時は親の方が大人なんだから、グっと我慢して、子どもが大きくなってから、一緒に酒飲みながら話すんだよ。『あの頃のお前は本当に可愛かったよ』ってな」

「秋山先生・・・」

「結婚してない俺が言うのもなんだけどな。ハハハ」


『なら今すぐにでも僕と結婚しましょう!』と言いかけたが、さすがに思いとどまった。世間体もあるから、こんな場所で言うのは間違ってると思った。

それにしても持つべきものは先輩だ。素晴らしい的確なアドバイスをしてくれる。


「その瑠璃ちゃんだって、育ててくれているお前にだって感謝はしてると思うぞ? 親戚の子どもとはいえども、ここまで愛情持って接してくれてるんだから、感謝しないはずがないって。もうちょっと自分に自信を持てよ」


そう言って俺の肩をポンポンと叩いて、そばをすする秋山先生。

マジでカッコイイ。

俺が女だったら、『抱いてー!』って抱きついてるところだったわ。

よし。俺も秋山先生みたいなナイスミドルになるために、瑠璃ちゃんにはもっと大人な態度で接しよう。

そして大人になった瑠璃ちゃんと一緒に酒飲みながら・・・


「あれ? 瑠璃ちゃんってお酒飲みますかね?」

「そこまでは知らん」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると大変嬉しいです。


ダンディ秋山のターンでした。

ずぶずぶと秋山先生の魅力にハマっていく正親だった。


次回もお楽しみに!

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