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やっぱりこうなるか


 村に到着すると、さらわれた子供に気が付いた村人が大騒ぎをしたためにすぐに全員集合となった。

 無事に三組の親子の感動な再会を果たすのをよかったと眺めていたが、違和感に気が付いた。

 私の足にしがみつく一人の少年。

 村人は少年に目を向けることもない。


「すいません、この子の親はどこですか?」


 近くにいるもらい泣きをしている男に声をかけた。


「ん?この子はこの村の子じゃないな」


 その答えにはもう嫌な予感しかない。


「他所の村から攫われた子じゃよ」


 やっぱりね~。

 村長らしき人がすまなそうな顔でこちらを見た。

 もうその顔を見ただけでこの先の展開がわかります。

 どんなに言いつくろっても結局はお約束のパターンですね、はい。






 結局、村長の家に招かれてお礼に夕食を振舞われて楽しいひと時を過ごした後に言われた。


「この子の親がいる場所まで送ってくれんか?それか大きな町の孤児院に連れて行ってくれ」


 そういって細やかだが依頼料を出した村長の人柄は真面目か策士か。

 頼まれもしないのに子供達を救出してくれたのはありがたいが、厄介ごとも連れてきて困るんだよね、ウチは隠れ里だから余所者はちょっと困るから、連れてきたお前らが何とかしろ、金もちょっと出してやるから文句言うな。

 という事をオブラートに包まれ遠まわしに付け足してきた。

 子供に罪はないし、目的もないし、そろそろ自己研鑽にも飽きたこともあるし、何よりも異世界の町ってどんなところ?という好奇心に負けて引き受けることにした。






 私たちは村長の家に一晩泊ることになり、少年と私は同室になった。

 秘密なんだよね、と目をキラキラさせていた少年は見る影もなく。

 ハイライトの消えた目を窓の外に向けていた。

 他の子が親にあえて甘える姿をみちゃったら、自分は?ってなるよね。

 

「そういえば君、名前は?」


 本当に今更感のある問いかけに、少年はのろのろとこちらを向いた。


「ジーク……」

「かっこいい名前だね。今、いくつなの?」

「……5歳」


 日本ならば幼稚園生ということは、自分の身の回りの世界をある程度理解しているはずだ。

 この世界の子は大人びているから、幼稚園生というよりは小学一年生と考えて付き合ったほうがいいかもしれない。


「お父さんは何をやっている人?」

「庭で剣を振り回している人」

「うん……職業は?」

「軍人の、偉い人」


 子供のいう事だからどこからが偉いのか不明だが、大人のいう事をそのまま口にしていると考えれば一兵卒ではなく、少なくとも部下のいる地位。

 剣を振り回せる広さを持つ家に住む、軍関係のお偉いさん。


「自分の国の名前、わかる?」

「ウルトロン」

「そっか。じゃあ明日になったらウルトロンに行こうね」

「うん!」


 目に光が戻ったジーク少年はようやく笑顔を浮かべてくれた。

 少しだけ、仲が良くなったかな?

 あとはウルトロンに向かいながらぼちぼち情報を引き出せばいいか。

 私はジークと一緒に布団に潜り込んで目を閉じた。

 子供の体温は温かいから……温かい?

 むしろ私の方が体温が高く、奪われている気がする。

 しかもジークは寝相が悪い。

 腹に入ったかかとの固さに、私の記憶は途切れた。






 目が覚めるとおなかがシクシクと痛んだ。

 ヤバイ、病気か?

 鈍痛の原因はなんだろうかと焦っている私の目に、床に転がった毛布による簀巻きのジークの姿が目に入った。

 原因がわかった気がした。

 何しろ遠慮なしに腹を殴られたことなどなかったので、病気かと思って焦ったよ。

 格闘技やっている人たちとか、ストリートファイトやっている人にはおなじみの痛みなのだろうか。

 血尿が出ないことを祈る。


「お嬢様~、おはようございま……」


 お約束か、と突っ込みたいタイミングでカーリーがドアを開け、ベッドの上にいる私と床に転がっているジークを見て動きが止まった。

 カーリーの目が一瞬だけ怪しく光ったような気がしたのは気のせいだろう。

 いや、今はそんな呑気にしている場合ではない。

 開けたままで固まっているカーリーの向こうに、ナーガの姿が見えた。

 通りすがっただけのようで、すぐに姿が見えなくなったが、ニヤリと口角が上がったのが確かに見えた。

 あれは確実に……わかったうえでからかってくるなぁ……。

 脳内バカ息子にどうしようかと尋ねれば、達観したような眼差しで空を見上げていた。

 私も彼の横で同じように空を見上げたいけれど、そうもいかない。

 そろそろ現実に目を向けようか。


「カーリー。ジークをベッドにあげてくれる?」

「は、はいっ」


 フリーズから解かれたカーリーが嬉々として床で寝ているジークを抱え上げた。


「ええっと、何があったんですか?」

「私も想像だけど、寝相の悪いジークが毛布をひっつかんだままベッドから落ちて床を転がったんじゃないかなぁと」

「そうだったんですね」


 納得したと言わんばかりのカーリーの様子にほっとする。

 まだであったばかりの付き合いだが、カーリーは私にだいぶ恩義を感じているみたいだ。

 そのうえ、盲目的になっている。

 はっきりとは言えないけど……狂信的な感じ?

 私が男だったら惚れちゃっていたかもしれないけど、同性だから敬愛を通り越して崇拝って感じがする。

 早く命の恩人はすごい人フィルターが剥がれ落ちる事を祈るしかないだろう。

 せっかくできた同性の仲間だもん、主従関係より友達関係になりたいな。

 簀巻きのジークをニマニマとした顔で眺めるカーリーからそっと目をそらした。


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