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人はまず見た目から

「お嬢様。不可能なる挑戦のために、そろそろ人里に足を向けてはいかがでしょうか?」


 朝食の席でナーガがそんなことを言い出した。


「不可能なる挑戦?」


 ウルバルが不思議そうに首をかしげてこちらを見る。


「いちいち言い方が大げさなだけですから、気になさらずに」


 目指せ一般市民のどこが不可能なる挑戦なんだよ。

 もともと私は目指さなくても由緒正しい埋没する一般市民なんだよ。

 やさぐれそうになるが、目の前の男、すなわちウルバルを見て私は深いため息をついた。

 ウルバルみたいな超絶美形の青年こそ一般市民に溶け込むなんて不可能なる挑戦に相応しいと思う。


「お嬢さん、人の顔を見てため息をつくのはやめてくれないか?」


 不快そうに眉をひそめてウルバルが抗議してきた。

 畜生、眉間のしわすら芸術的じゃねーか。

 マッチの一本でもそこに挟んで私から笑いを取って見せろやっ!

 ……ごめん、嘘ですっ、想像したら笑えなかったしドン引きしました。


「人嫌いなお嬢様の事を考えますと、まずは森の隠れ里を訪れてみるのがよろしいかと」

「ああ、そういえばナギも言ってたっけ。隠れ里があるからここを選んだんだよね」


 自分の生活を顧みてショックをうけた。

 日々修行に明け暮れるって、いったいどこの少年漫画!

 ウルバルじゃないけど、私はいったいどこを目指しているんだろう。

 おかしいよね、一般市民だったのに。

 しがないOLだったのに……もはやOLって何だっけってレベルだよ。


「魔の森というのはどの国に所属していない事はごぞんじですね?」

「はい。強い魔物が多いから領土にするより放置の方が、メリットがあると聞いています」

「その通りなのです。どこの国にも所属していない場所という事で、罪人の流刑地としても名高い場所でして、隠れ里というのは生き残った罪人たちの子孫でございます」

「ふぅん」


 だからどうした、というのが私の感想だ。

 冤罪だろうが断罪だろうが子孫には関係のない話だし、冤罪でがけから突き落とされた私には親近感しかない。


「私も久しぶりに訪れる場所なので下見にまいりましたところ、村はすっかり大きくなっておりまして、専門店がいくつかある程度には大きな村でございます」

「専門店?」


 限界集落最後の食品店をなんとなく想像する。


「貧乏な村では何でも自分でこなさねばなりませんが、少し裕福な村になると鍛冶屋、薬屋、雑貨屋などの専門店があります」

「村としての規模はそこそこといったところか?」


 ウルバルの質問にナーガがこくりと頷いた。

 専門職でも食べていけるだけの客がくるくらいの規模って、どれくらいなんだろう。


「活気があるとまでは言いませんが、穏やかで静かな村です」


 ナーガは意味ありげな目を私に向けた。


「小さな村ながら、人種のるつぼでございます。お嬢様は大丈夫ですか?」

「何が?」

「ノクトンの人間は人間以外を認めない者が多いので」


 ナーガと主従契約した時点でお察しだろうが、これはきっと私に確認を取るフリをしながらウルバルに問いかけているのだろう。

 だって彼の目は今、ウルバルに向けられているから。


「私はノクトン出身だが、辺境育ちだ。王都の人間のように染まってはいない」

「おや、ウルバル様はそうでございましたか」


 しらじらしくナーガが頷く。

 いったい何が気に入らないのか、ナーガは初対面からウルバルを敵視しているように思える。

 ナーガはウルバルに向けていた目を私に向けたので、素直に答える。


「会ったことがないから何とも言えないけど、村人は今も隠れ住んでいるんだよね?」

「はい、そうでございます」

「だったら大丈夫」


 一番怖いのは、密告されることだから。

 モフモフも羽毛も爬虫類もバッチこいだから、アニメとか映画に出てくるような容姿なら問題ない。

 魔物みたいに血をしたたらせながら生肉にかぶりつくようなのはちょっと勘弁してほしいけど。


「ああ、でも服が……」


 薄汚れた修道服はさすがに訳ありですと言っているようなものだ。

 しかしこれ以外の洋服はもっていない。


「私がそのような手落ちをするとでも?ご安心めされよ。お嬢様に相応しい貧乏くさい粗末なお洋服をご用意させていただきました」


 そういって取り出したのは微妙に薄汚れていて、ところどころほつれたところを慣れない裁縫を頑張りましたよてきな感じがアクセントのワンピースだった。

 これを着た自分を想像すると、絵にかいたような薄幸の貧乏人の出来上がりで泣けてくる。


「……私に相応しい、のか……ック」


 こぶしを握ってしまっても誰も責められないよね?

 誰か巨大ハリセン持ってきて~っ!

 フルスイングしてお星さまにしてやりたい。


 もちろんこの服を用意したナーガの意図はわかっている。

 隠れ里に行くのだから着飾ったら怪しさ満載で警戒されること間違いなし。

 だから真逆な粗末ななりで行ったほうが安全だ。


 わかってはいるが、言い方ってもんがあるだろーがっ!

 ナーガの歴代の主は躾に失敗したようだ。

 ウルバルの何か言いたそうな顔には気が付いたが、あえてスルーさせていただこう。

 私の精神衛生上ね!






 ナギは小さくなって犬のふり。

 私はナーガ渾身の作品、貧乏人が着るワンピースを着用し、心身ともに貧乏人となる。

 ナーガはなぜかぱりっとした執事服のまま。

 そしてウルバルに至っては、薄汚れた服を着ているがよく見れば物がいいしそこはかとなく気品が漏れているのでいかにもお忍び感があふれる貴族のご子息。

 おぼっちゃまではなく、ご令息ね。

 この組み合わせだと、ナーガはウルバルの使用人で、ナギは飼い犬。

 私は彼らに物乞いして付きまとっている通りすがりの貧乏人……。


 色々と納得いかーんっ!

 何かおかしくない?ねぇ、おかしいよね?誰かおかしいと言ってくれ……。

 脳内のバカ息子が私を憐れむ目で見るとすっと目をそらしたような気がした。




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[一言] 主人公が脳内バカ息子へ勝手に親密度を上げている件について。
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