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相棒は先生

『俺に名前をつけろ。でないとずっとお前に同じことを延々と繰り返すぞ』

「おなじこと?」

『俺に名前をつけろ』

「まさか、それをずっと?」

『俺に名前をつけろ』

「じゃぁ、あかさたな、とか?」

『俺に名前をつけろ』

「名前を付けたのに今、スルーしたよね?」

『俺に名前をつけろ』

「これって契約じゃないの?」

『俺に名前をつけろ』

「クーリングオフはきくの?」

『俺の名前をつけろ』

「ライトノベルだと血の契約って強固な感じだけど、本当にいいの?」

『俺の名前をつけろ』

「私は何もしてあげられないし、何もするつもりがないから後悔してもしらないよ?」

『俺の名前をつけろ』


 こいつ、けっこう頑固だな。

 私は子犬?とにらみ合った。

 が、子犬の様子が変わる。


「ま、まさか……おい、こら、ちょっと、それは卑怯じゃ……やめろーっ!」


 つぶらな瞳でこちらをひたと見据え、ウルウルいう擬音語が聞こえてきそうなほどに濡れていく瞳。

 しかもちょっと震えて見せるというあざとい演技つき!

 こちらの罪悪感と良心を煽りまくり、抱きしめてあげたくなる。

 絶望と孤独だった私にとってこの攻撃はクリティカルヒット、会心の一撃、いや、一撃必殺といったところだろう。


 がっくりと肩を落として地面に手をついた。

 あざとくもその腕にすり寄ってくる様は、くそ、可愛いじゃないか。

 悔しいからセオリーから外れてやる。


「…………ナギ」


 口にしたのは疾風とは真逆の凪ぎ。

 ちょっと意地が悪いかもしれないが、これが私という人間だ。

 でも、ナギだって響きはいいと思うよ。


『俺の名はナギ』


 体をブルりと震わせる。


『お前の名は?』

「西城静香」

『さいじょーしずか』

「静香でいいよ」

『シズカ』


 かみしめるように私の名前を呟いたナギ。

 いやぁテレパシーだからなんとなくなんだけどね。


『聖獣ナギはシズカとの主従契約をここに受け入れることを宣誓する』

「うわっ?」


 どこが、と言葉にするのは難しいけれど、何かが熱くなった。

 魂に刻まれた。

 なぜかそう思った。

 魂って何だよ、呪いかよっ。


「犬じゃなくて聖獣なんだ。……で、聖獣って何」


 そこから?という呆れた顔。


『俺を知らないのか?』

「あ、ごめんね。私、異世界人。この世界に来てまだ半年もたってないし」


 ナギが絶句した。


『なんと……俺より希少種なのだな』

「そう、なるのかな?」


 同じ人間だと思っていたけれど、この世界の人族と私は種族が違うのか?

 そっちの方がショックなんだけど。

 地球産と体のつくりが違ったりするのだろうか。

 え~、でもダメ王子は千葉さんの事を舌なめずりしそうな感じで見ていたから、作り的には同じでいいのかな。

 こんなの誰に聞けばいいのさ。

 召喚した人?神様?

 なんにせよ、今の私には何の伝手もないしボッチだから誰にも聞けない……。


『ゴホン。聖獣とは精霊より偉く、神より下だと思っておけばいい』


 ざっくりとした説明をありがとう。

 それだけでもなんか特別な存在だってわかる。


「ナギは、現実だよね?」

『意味が分からん』

「だよね~。ええっと、妖精みたいに見える人が限定されるとか?」

『精霊は精霊眼という特殊な目を持たなければいかなる生物にも見えない存在だ。だが、妖精は誰もが見える』

「そうなんだ。妖精と精霊は違うんだ」

『よくわからんが、静香のいた世界は見えないのか?』

「見えないというか、存在自体がおとぎ話」


 ナギはちょっと驚いたように目を丸くさせていた。


「ひょっとしたら存在しているのかもしれないけど、見える人がいないなら、いないも同然だよね」


 存在とは認識されて初めてそこにあるものなのだ。


『妖精は精霊とエルフの間に生まれたとされている』

「二足歩行で生活するのは人間しかいない世界だけど」

『……ドワーフや魔族は?』

「妖精と同じ、話の中の存在」

『どういう世界なのだ、お前のいた世界は』


 ナギはかなり混乱している。

 神様に近い存在とは言え、知能というか知識は普通なのかもしれない。


「物理と化学が絶対の世界」

『魔法は?』

「お話の世界」


 現代にもシャーマンとか呪術師とかいるけれど、科学的根拠も科学的結論もない眉唾物だと私は思っている。

 大半は思い込みで何とかなるのが地球における魔法の限界だ。

 もちろん、私の知らないところでアニメのように魔法を駆使した戦いとか魔法使い育成学校なんかもあるかもしれないけれど、一握りの人間しか知らない事はなかったことと同じなのだ。


『なんて面妖な世界なんだ……』


 私からすれば、魔法がすべての世界の方がよっぽとおかしな世界だけど。


「そうだ!ナギって魔法は使えるの?」

『当然だ』

「じゃあ魔法、教えてくれない?」

『俺が、教える……』


 何がツボに入ったのか、目がキラキラと輝いている。


『ゴホン、か、かまわないけど』

「ありがとう、ナギ」


 そうして私は聖獣ナギを魔法の師と仰ぐことになった。


「ところでナギ、聖獣ってどんな生き物?」

『…………………聖獣という生き物だ』


 なんだそりゃ、と思った私は悪くない。

 そういう種類の生き物なのだ。


「聖獣って誰が言い始めたの?」

『人だ。我らは神の眷属でもある』


 ナギの話を聞くと、地上を管理する神様の補佐をするために生み出された存在で、神様に用を言いつけられない限り自由にすごしていいらしい。

 何それ、すっごいホワイト企業じゃん。

 と思っていたら、単に神様が自分たちの事を忘れてほったらかしになっている場合が多いと聞いてなんともいえない気分になった。


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