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セカイノタマゴ



 今……今、この黒いイモムシたちは何と言った?

 確かに、以前から黒い霧が俺の聖剣を「タマゴ」と呼んだことはあった。だけど、「セカイノタマゴ」ってどういう意味だ?

 そもそも、セカイ……世界って、卵から生まれるものなのか? 世界って卵生なの?

 いやまあ、あいつらが言う「セカイ」が、俺が思っている「世界」と同じなのか分からないけど。

 混乱しまくっている俺を……いや、俺と聖剣を、黒いイモムシがじっと見ている。

 あ、ちょっと間違い。じっと見ているだけじゃなく、俺たちを見ながらも、その口は依然として動いたままだ。つまり、砂浜の砂を食べ続けているんだ。

 そうやって砂を食べ続けながら、イモムシがゆっくりと俺たちへと近づいてくる。

 二匹の黒いイモムシが、ずりずりと近づいてくる。イモムシが這った場所には、何も残っていない。

 うん、まさに「何も残っていない」んだ。

 連中が這った跡が、白い砂浜に黒い線としてくっきりと刻み込まれている。

「あ、あれ……」

 俺の背後で、香住ちゃんの震える声が聞こえる。

「あ、あれ……あ、あの黒い(すじ)、一体どうなっているんですか……? まるで、そこに何もない……ぶ、ブラックホールみたいで……」

 ブラックホール。

 誰でも一度は聞いたことがある言葉だと思う。だけど、実際のブラックホールは何もないわけではなく、極めて密度が高く、また大質量で、重力が極めて強いために物質どころか光でさえ脱出することができない天体のことである。

 そう、ブラックホールは天体であり、そこにしっかりと存在するものなのだ。

 だから、あの黒い条をブラックホールに例えるのは間違いだ。だけど、もしもあの黒い条に落ちたら、本物のブラックホールに吸い込まれるのと同じように、二度と脱出できないのではないだろうか。

 それぐらい、あの黒いイモムシと黒い条から危険なモノを感じてしまう。

 近づいてくるイモムシたちから視線を離すことなく、思わず数歩後ずさる。

 いつもであれば、どんな相手にでも果敢に挑みかかっていく聖剣が、あの黒いイモムシには攻撃をしかけない。

 それだけ、あの黒いイモムシが危険な相手だってことだろう。

「香住ちゃん……イノたちを連れて、もう一度離れていてくれ」

「え……? し、茂樹さん……?」

 彼女の方を振り返らなくても、今、香住ちゃんが心配そうな顔をしていることが分かる。分かってしまう。

 だからこそ、香住ちゃんたちだけでも安全な場所に避難させないといけないんだ。

「今日だけは黙って聞き入れてくれ。お願いだ」

 少し強めの口調でそう言うと、息を飲み込んだらしい気配が伝わってきた。

 ごめんよ、香住ちゃん。でも、今はこうするしかないんだ。

「わ、分かりました……で、でも、絶対に無理はしないでくださいね? 危ないと思ったら、必ず逃げてください」

 うん、逃げることなら任せてくれ。危なくなったら遠慮なく逃げるからさ。

 ちょっと情けないけどな。



 遠ざかっていく複数の足音を聞きながらも、黒いイモムシから注意を逸らすことはない。

 その黒いイモムシたちは、砂浜に黒い条を刻みつつ、俺の間近まで迫っていた。もう、数歩踏み込めば聖剣の間合いに捉えられるぐらいだ。

 それほどまでに近づいたというのに、聖剣はまだ動かない。

 それだけ、あのイモムシたちが危険だということなのだろうか。

 聖剣がここまで警戒するなんて、本当にあのイモムシは一体何なのだろう?


──あれは「虚無」から生れ、全てを「虚無」へと反し、そして「虚無」を生み出すもの。


 え?

 い、今の声……誰の声?

 目だけを動かして周囲を見てみるが、俺の周囲には当然誰もいない。だけど、幻聴などではない。確かに、俺はその声を聞いたんだ。

 そして、あれは「例の声」でもなさそうだ。「例の声」は軋むような不快感しか与えない声だけど、今の声は全く違うものだった。それこそ、聞いているだけで安心できるような、そんな声だったのだ。

 も、もしかして……俺はちらりと視線を落として手の中の聖剣を見た。

 い、今の声、もしかしておまえの声なのか?

 心の中で聖剣に問いかけるも、聖剣は今まで通り反応してくれない。

 だけど、さっきの声はおそらく聖剣のものだったと思う。黒いイモムシがどのようなものなのか、それを俺に教えてくれたに違いない。

 しかし、「虚無」から生まれて全てを「虚無」へ反し、そして「虚無」を生み出すって……どういうことだ?

 どうせ教えてくれるのなら、もっと詳細にかつ具体的に教えて欲しかった。

 なあ(あい)(ぼう)、もう一度何か言ってくれない?

 そう問いかけてみるが、やはり俺の聖剣は相当な恥ずかしがり屋さんらしく、再び声を聞かせてくれることはなかった。

 だけど、聖剣が喋ることができると分かったのだ。であれば、いつかまた俺に声を聞かせてくれるだろう。

 何となく浮かれた気分になってしまう。おっと、いけない。今、目の前には厄介な敵がいるのだ。浮かれ気分になっている場合じゃないよな。

 気持ちを切り替え、改めて黒いイモムシを見る。

 二体いるイモムシの片方が、その頭らしき部位を俺の方へと向けつつ、ぶるりと漆黒の体を震わせた。

 途端、俺の身体が勝手に動き、頭を守るように聖剣を構える。

 と、聖剣を持つ両手にがつんと重い衝撃がきた。

 え? な、何、今の? も、もしかして、見えない攻撃ってやつ?

 もし、本当にイモムシに目には見えない攻撃手段があるのなら、聖剣が慎重になっていた理由はこれかもしれない。

 俺が驚いていることなどお構いなしに、今度は二体同時に体を震わせるイモムシたち。

 今度は聖剣で受けるのではなく、横に大きく飛び退いて回避する。ちょっと前まで俺が立っていた場所が、まるで爆発したかのように砂を舞い上げた。

 どうやら、本当に見えない攻撃をしかけてきているようだ。

 イモムシの攻撃を回避した俺たちは、そのまま弧を描くように砂浜を駆ける。その俺たちを追うように、イモムシたちは頭を巡らせる。

 そして、再び起こる爆発。いや、正確には爆発じゃないのかもしれないが、俺には砂浜が爆発しているようにしか見えないんだ。

 俺たちを追いかけるように、何度も砂浜が爆ぜる。舞い上がった砂が頭上から大量に降りかかるが、今はそれを気にしている余裕はない。

 よし、向こうが遠隔攻撃をしかけてくるのであれば、こちらも遠隔攻撃だ!

 俺たちにだって、電撃という攻撃手段があるのだからな。さあ、やっちゃえ、聖剣!

 俺の思いに応えてくれたのか、聖剣がばちばちと帯電し、次いでイモムシ目がけて電光が奔る。

 空気を切り裂き、周囲にオゾン臭を放ちながら、電撃が黒いイモムシに直撃した。

 いや、直撃したかのように見えた、が正しい。

 黒いイモムシに電撃が突き刺さるその直前、まるで見えない壁に遮られたかのように、聖剣が放った電撃は防がれてしまったのだ。

 あ、あのイモムシ、見えない攻撃だけじゃなく見えない防御手段まであるのか?

 見えない攻撃に、見えない防御。このイモムシ、体こそ先程まで戦っていたゴカイやエイに比べると遥かに小さいけど、今まで相手にしてきたどの敵よりも間違いなく強い。

 そう思うと、俺の背中に冷たいものが走る。

 俺の身体はまだ走り続けている。俺が走るその後を、追いかけるように何度も爆発が起きている。いや、実際に俺たちを追いかけているわけだけど。

 俺たちも走りながら何度も電撃を放つが、それらは全て見えない障壁のようなものに遮られてしまった。

 こ、これ、どうすればいいんだ? どうすれば、あのイモムシを倒すことができる?

 俺は俺なりに必死に考える。そもそも走るのは聖剣任せなので、俺にできることといえば考えることぐらいだ。

 いっそのこと、距離を詰めてみるか? あの見えない障壁のようなものって、ひょっとしたら遠隔攻撃にしか効果がないかもしれないし。

 なあ、聖剣。このアイデアどう思う? と心の中で聖剣に語りかけたら、それまでイモムシたちを中心に弧を描くように走っていた俺の身体が、その進路を突然イモムシへと変更した。

 どうやら、俺のアイデアを採用してくれたようである。

 とはいえ、真っ正面から突っ込むわけではない。時に横に大きく移動するなど、見えない攻撃への牽制も忘れない。さすが聖剣だな。

 そうして、遂に剣の間合いまでイモムシへと近づいた。走る勢いを殺すことなく、片方のイモムシに向かって真っ直ぐに刺突を繰り出す。

 だが。

 だが、聖剣の切っ先は、イモムシから数センチの所で止められてしまった。

「────ち、駄目か!」

 思わず舌打ちをする俺。遠距離・近距離共に見えない障壁で防がれては、こちらはお手上げである。

 攻撃をしかけるために足を止めた俺たちに、もう片方のイモムシが見えない攻撃を放つ。

 その攻撃が俺たちに直撃する直前、俺の身体が再び宙へと駆け上がる。

 そして、空中へと上がった俺を追うように、爆発のような風圧が迫る。

 直撃こそ何とか回避できたものの、その後に発生した爆風まで回避するのはさすがの聖剣でも無理だったみたいだ。

 爆風に煽られ、俺の身体が更に高く舞い上がる。

 ちょ、ちょっと、コレ、さすがにヤバくないっ!? だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!

 空中でくるくると宙返りを強制させられつつ、俺は内心で情けなく叫んでいた。

 う、うおおおおおおおおおおおおおおおっ!! め、目がっ!! 目が回るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!

 それでも、自分の身体が上昇から下降へと移ったことは分かった。こ、これ、このままだと地面に激突しちゃわないかっ!? い、いくら下が砂浜とはいえ、ちょっとマズいんじゃないだろうかっ!?

 上空から急降下するのを感じながら、何とか視線をある方向へと向ければ。

 そこには、ぐんぐんと迫る白い砂浜が。おおおおおおっ!? あ、頭から地面へダイブ・インっ!?

 俺は思わず目を閉じる。だが、地面に激突する衝撃はなく、代わりに自分の身体がくるんと回転したことが分かった。

 どうやら、地面に激突する瞬間に上手く受け身を取ったらしい。ははは、さすがは俺の聖剣、こんな芸当まで持ち合わせていたとは!

 それでも、全くのノーダメージでは済まなかった。肩と背中にぎりぎり無視できる程度の痛みが走る。

 とはいえ、軽傷と言って済ませられる程度だ。俺は慌てて視線を巡らせ、黒いイモムシたちを探す。

 お、いた!

 で、でも……あ、あれ?

 俺の視線の先で、二体のイモムシは真っ二つに斬り裂かれていた。

 二つに断たれたイモムシたちの背後には、俺が持っている物と同じ聖剣を振り抜いた姿勢の水着姿の少女。

 どうやら、俺が空中散歩を強制されていた間に、香住ちゃんがイモムシたちを倒してくれたらしい。




 来週はゴールデンウィーク明けのお休み(笑)!

 次回の更新は、5月15日の予定です。


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