復活の兆し
激しい激闘が続いている。
俺たちと「害虫」、その存在を懸けた戦いだ。激しくなるのは当然なのだけど。
ビアンテの剣が「蛇」を斬り裂き、〈銀の弾丸〉の団員たちが操る銃火器が「蛇」を撃ち砕く。
ボンさんが黒い「俺」と対等に切り結び、香住ちゃんとミレーニアさんが、数人のエルフたちの支援を受けながら、それぞれ自分の偽物と互角以上に打ち合う。
CTに搭乗したブレビスさんが、最前線で「蛇」の侵攻を食い止め、セレナさんは作戦指揮用のトレーラーから常に指示を飛ばして、戦場全体を支える。
そして、上空へと舞い上がった勇人くんとフロウちゃんが、魔法の落雷やら〈アマリリス〉とかいう武器やらで、「巨人」にダメージを与えている。
もちろん、こちらも無傷ではない。「蛇」は銃弾を数発受けたぐらいでは滅びることはなく、その巨体や牙でもって、〈銀の弾丸〉の団員たちに怪我をさせていく。時には、例の見えない爆撃で味方を吹き飛ばすこともある。
ジョバルガンの頑丈な体は見えない爆撃をくらってもびくともしないが、他のみんなはそうはいかない。
トレーラーやCTであっても、一発だけならともかく数発食らうと危険な感じだ。
負傷した団員たちは、トレーラーの陰で瑞樹やかすみちゃん、そしてフィーンさんたちエルフの治療を受けている。
そんな彼らを護るのは、文字通り巨大な体を張るジョバルガン。彼はその巨体を盾にして負傷者や治療に専念する瑞樹たちを死守する。
そして、この状況でも笑顔を絶やさないオスカルくんが、手段は不明だけど瑞樹たちに近づく「蛇」を一瞬で細切れにしていく。
ホント、彼は何者なんだろうね? そして、どんな攻撃手段で「蛇」を斬り刻んでいるのかも不明だ。彼はただ、涼やかな笑みを浮かべて立っているだけで、特に動いている様子もないんだよなぁ。それなのに、負傷者たちに近づく「蛇」は、一瞬でずたずたにされるんだ。
まあ、彼が敵ではないのは間違いないだろう。彼が瑞樹たちを護ってくれているからこそ、負傷者はいても死者は出ていないのだから。
そして、俺はと言うと……実は何もしていなかったりするんだな、これが。
先ほど、カーリオンの声が久々に聞こえたんだ。
いわく、俺という存在を基点にして、それぞれの小世界からみんなをこの内面世界へと呼び込んでいるそうだ。まあ、勇人くんとかフロウちゃんとか、例外的な存在もいるらしいのだが。あ、きっとオスカルくんも例外扱いだろうな。
俺が異世界へ行くことで生じた絆。その絆をキーにして、カーリオンはみんなをこの内面世界へと召喚した。
つまり、俺がこの内面世界から消える──要は死ぬってことだけど──と、みんなを内面世界に留めておくことができなくなるそうなんだ。
だから、俺には動かないでいて欲しい、とカーリオンから頼まれたのである。
そういや俺、「世界の基点」とかいう存在だったっけ。そして、ここでも俺は基点的存在なわけだ。俺、ホントに基点と縁があるな。
もう少しカーリオンの力が回復すれば、俺も彼のサポートを受けて動けるようになるとのこと。現状、イモムシが全て消えたことで、カーリオンは徐々に力を取り戻しているらしい。
だけど。
俺は今も空に存在している黒い穴を見上げる。
そこからは今も「蛇」がぞろぞろと現れている。さすがにあの「巨人」が出てくることはないし、もうイモムシが出てくることもない。
「害虫」どもが何を考えているのかは不明だけど、おそらくイモムシを繰り出してカーリオンの力を奪うより、「蛇」を出して俺たちを直接倒すことを選んだのかもしれない。
まあ、今イモムシを出してきても、フロウちゃんとか勇人くんとかが纏めて倒しちゃいそうだしな。連中も無駄なことはしないつもりなのだろう。きっと。
現在、カーリオンの力は仲間たちの攻撃が「害虫」どもに影響を与えるためと、香住ちゃんとミレーニアさんの行動補助に回されているそうだ。
要するに、俺をフォローするだけの余裕がないんだね。もう少しカーリオンの力が回復すれば、俺のフォローに回せるそうだけど……それっていつ?
どがん、という大きな爆音と衝撃。
思わず音がした方へと目を向ければ、〈銀の弾丸〉のトレーラーが一台、横倒しになっていた。どうやら、見えない爆撃を同時に数発受けてしまったらしい。
幸い、横倒しになったトレーラーは主に団員の休息に使う居住用トレーラーだった。そのため、戦闘中トレーラー内は無人であり、倒れたトレーラーの下敷きになった者もいなくて負傷者は出なかった。
だけど。
「おおおおおおおっ!? と、居住用トレーラーがっ!? あ、あの中には俺の秘蔵の酒コレクションが……っ!!」
「あ、あれを修理するのに、一体どれだけの費用がかかると思っているのよ……っ!?」
約二名ほど、悲痛な叫びを上げていたけど。ごめん、ブレビスさんにセレナさん。そればっかりは俺もカーリオンも力になれそうもない。あ、修理費用ってことであれば、邪竜王の財宝の一部を渡すって手もあるな。後でビアンテやミレーニアさんと相談しよう。だけど、酒の方は本当にどうにもなりません。
それはともかく、他にも問題はある。
現状、三台のトレーラーを防壁代わりにして負傷者を手当てしていたわけで、その防壁の一角が崩されてしまったのだ。
エルフのエリクサーが劇的な効果を現すため、重傷者の数はそれほど多くはない。それでも、防壁の一部が崩れことは物理的にも心理的にも影響は大きい。
治療中というある種無防備な状況を敵に晒すことになるのは、負傷者たちには恐怖以外のなにものでもないだろう。
そして、数体の「蛇」から、慌てて避難しようとする負傷者めがけて、実際に見えない爆撃が繰り出された。
【そうはさせん!】
横倒しになったトレーラーに登り、その身を爆撃に晒して盾にするのはもちろんジョバルガン。見えない衝撃が、その岩のごとき体に襲いかかる。
ぎぃん、という金属音にも近い衝撃音が数回響き、ジョバルガンが吹き飛ばされようとする。だが、彼はその無数にある足をトレーラーの装甲に杭のように突き立てて衝撃に抗う。
【ぬぉぉぉっ、こ、ここで負けるわけにはいかぬっ!! 「ジョバルガン」の名とグルググの誇りに懸けてっ!!】
ジョバルガンの触角が激しく明滅する。
「よう、Roly-polyの旦那! おまえさん、随分とカッコいい真似するじゃねえか! 仲間のために体を張れるおまえさんみたいなやつ、俺は嫌いじゃねえぜ!」
CTに搭乗したブレビスさんが、ジョバルガンの体をCTの機体で支えるようにしながら、手にした巨大なライフルを連射する。
CT用の巨大ライフルは、その口径が実に30ミリもあるそうだ。「蛇」は見えない障壁でライフル弾を防ごうとするが、さすがの障壁も30ミリ弾という強烈なパンチを防ぐことは叶わない。
それでも最初の数発だけは障壁で防ぐことに成功するが、連続して叩き込まれる30ミリ弾が障壁を貫通し、「蛇」はその身に弾丸の雨を浴びて塵へと返っていった。
【シゲキの同胞よ。助かった、礼を言わせてくれ】
「あ、あー? そのぴかぴかしたのがあんたらの言語だっけ? シゲキがそんなことを言っていたが──ん? あれ? Roly-polyの旦那の言いたいことが理解できるぞ? 何故だ?」
【ふむ? 確かに君のその鳴き声の意味が私も理解できるな。これはなかなかおもしろい現象だ。この戦いが終わったらゆっくりと考察してみよう】
それはね、ブレビスさんにジョバルガン。
カーリオンがひっそりと通訳してくれているからだと思う。
でないと、ここに集まった仲間たちで、意思の疎通が難しいもの。その辺り、俺の聖剣は気配りができるからね。ちょっと自慢。
「助太刀する!」
「おお、感謝いたす!」
黒い「俺」と対峙していたボンさんに、ビアンテが援護に入った。
でも、あの二人を一緒にさせても大丈夫だろうか? ビアンテにしてみればボンさんは魔獣に見えるかもしれないし、ボンさんにしても俺たち以外の人間をどう思っているのか謎である。
「私はシゲキ師匠の弟子にして、アルファロ王国の騎士ビアンテ・レパードなり」
「某はシゲキ殿の友にして、カスミ先生の教え子であるボンと申す者でござる」
「なんと、貴殿は奥方様の弟子であられたか」
「そういう其許はシゲキ殿の弟子でござるか」
「ならば」
「うむ、お二人の弟子として、師の前で恥ずかしい姿は見せられぬでござるな?」
「いかにも!」
うんうん、何か弟子同士ってことで、気が合ったみたいだ。二人は初めて会ったとは思えないような連携を見せて、黒い「俺」を追い込んでいく。
「我が師を愚弄するその姿、断じて許し難い!」
「うむ、同感だ。シゲキ殿の友として、その友を穢すような真似は許すわけにはいかぬでござる!」
ビアンテが正面から「俺」と対峙し、そしてボンさんが素早く移動しながら、「俺」の隙を突くようにして攻撃を浴びせる。
確かに、黒い「俺」は強敵だ。だけど、ビアンテとボンさんの二人を一人で相手にするのは厳しいようだ。
そもそも、ボンさんは一人でも黒い「俺」とは互角だったのだ。そこにビアンテが加われば、その天秤がどちらに傾くかなんて考えるまでもなく分かること。
「ったく、なんなんだよ、おまえたちはっ!? 次から次へと現れやがって、台所に出る黒いやつかってのっ!!」
いや、「害虫」であるおまえにそれだけは言われたくないぞ。いやまあ、「害虫」って勝手に俺たちが呼んでいるだけなので、あいつらとしても台所の黒い悪魔と一緒にされたくないのかもしれないけど。
ってか、先ほどは苦しそうで呂律もよく回っていなかったけど、いつの間にか回復しているな。あの黒い「巨人」ほどではないものの、「害虫」には共通して再生能力があるのだろう。
と、俺がそんなことを考えている間に、黒い「俺」は二振りの剣を両手にそれぞれ持ち、二刀流でボンさんとビアンテの剣を受け流していた。
「ふ、所詮は見た目を似せただけの偽物か。我が師が持つ剣の冴えが……神聖さが貴様にはまるでない!」
「ビアンテ殿の言う通りでござる! 所詮、貴様と我が友シゲキとでは格が違うのだよ、格が!」
ビアンテとボンさんのギアが上がる。二つの鋼色の竜巻が黒い「俺」へと襲いかかっていく。
どうでもいいけど、そんなに俺を神格化したり持ち上げたりしないで! 俺、ただの大学生だから! 聞いている俺の方が恥ずかしいから!
そんな俺の心の声がビアンテとボンさんに聞こえるはずもなく、
そして、そんな猛攻を繰り出す二人に、黒い「俺」の守りが遂に崩れた。
「俺」はそれまで何とか二刀でビアンテとボンさんの攻撃を凌いでいたが、とうとう二人の剣速が「俺」を上回ったのだ。
神速で振るわれたビアンテの剣が、「俺」の二振りの剣を弾き上げる。そんな大きな隙をボンさんが見逃すはずがなく、一瞬で「俺」の懐に飛び込んだボンさんは、「俺」の体にナイフを深々と突き立てた。
「ぐ……おぉ……」
黒い「俺」が大きく目を見開き、その口からごぼりと黒くて粘ついた液体を吐き出す。
「俺」が受けたダメージは思いのほか大きいようで、先ほどブレビスさんが黒い穴にミサイルを撃ち込んだ時よりも苦しそうだ。
いやいや、もしかすると、先ほどのミサイルのダメージがあったからこそ、「俺」はあそこまでくるしそうなのかもしれない。
「疾く去れ! 師の紛い物よ!」
ビアンテの裂帛の気合と共に銀閃が奔る。迸った銀の雷は黒い「俺」の首を見事に両断し、「俺」の首が刎ね飛んでその足元にごろりと転がった。
「師の下劣なる紛い物、我、アルファロ王国が騎士ビアンテ・レパードと、師のご友人ボン殿が共に討ち取ったり!」
剣を空へと掲げ、勝利宣言をするビアンテ。自分だけの手柄ではなく、しっかりとボンさんの活躍も盛り込む辺り、彼が精神的にも成長したことを実感する。
だけど。
「ビアンテ、油断するな! そいつらは首を刎ねたぐらいじゃ死なない!」
「シゲキ殿の言う通りでござる。そもそも、首だけになっても死ぬはずがないでござろう?」
俺の注意とボンさんの言葉に、ビアンテが再び剣を構える。
あと、ボンさん。普通は首だけになったら生き物は死にます。ボンさんとか森林世界のエルフとかは死なないかもしれないけど、俺たちはその状態になったら死ぬんだよ?
「かかかか……なかなかやるねぇ。でも、まだまだ我らは負けていないんだよな、これが」
実際というかやはりというか、黒い「俺」はまだ死んではいなかった。ビアンテが刎ねた首こそ地面に転がっているが、体の方はまだしっかりと立っている。
そして、足元に落ちている自分の首を拾い上げ、元々あった場所に戻した。
「ふむ、ちょっと違和感はあるが、まあ、問題ないだろ」
くきくきと首を動かし、にたりとした笑みを浮かべる黒い「俺」。
「ちょいと予想外のことが続き、思ったより手こずったけど……そろそろ、こちらもエンジンが温まってきたしな」
黒い「俺」が嗤う。同時に、やつの手元から何かが放たれたことに俺は気づいた。
あ、あれは……見えない斬撃かっ!?
「ビアンテ! ボンさん! 気をつけろ!」
俺が注意喚起すると同時に、見えない斬撃がビアンテとボンさんを襲った。
その時、俺はビアンテとボンさんに注意を向けていて、まったく気づいていなかった。
俺の手にある聖剣が、淡く輝き始めていることに。
それは、俺の相棒たる聖剣──カーリオンが力を回復させつつある証だったのだ。
最近、一話あたりの文字数が多くなりがち(笑)。
なお、来週の更新はお盆休み! 次回は8月25日(水)に更新します。




