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 番外編 魑魅魍魎01



「久しぶりに、ランダムで異世界転移をしてみたいと思う」

 とある週末。いつものように異世界へ行くために俺の部屋に集まった香住ちゃんとミレーニアさんを前に、俺はそう告げた。

「それは別に構いませんけど……」

「どうして、今回はランダムで異世界へ行くのですか?」

 きょとんとした顔で、香住ちゃんとミレーニアさんが問いかける。まあ、そう思うのが自然だよね。

「最近は行き先を決めてから異世界へ行っているけど、偶にはどこへ行けるか分からない状態で行ってみるのもおもしろいんじゃないかと思うんだ」

 以前、久しぶりにランダムで異世界へ行ったら、それまで行ったことのない世界へ繋がったことがあるしね。

 でも、あれから設定画面の行き先設定で、ガムスたちがいた「小世界」への設定が出ないんだよね。どうして、あの「小世界」だけ行き先設定できないんだろう?

 ひょっとしたらランダムで異世界へ行けば、またあの世界へ行けるんじゃないかって期待も少しはあるし。

 それに、この前みたいに知らない世界へ繋がる可能性だってある。未知の世界への扉は、いつだって期待と夢に満ちているものなのだよ。うん。

 店長いわく、異世界転移の行き先がある程固定されているのは聖剣の能力が「近場」までしか及ばないかららしいけど、聖剣もちょっとは成長しているだろうし、今なら新しい「小世界」へも行けるんじゃないかな?

 なんて期待もあるんだよね。

「そんなわけで、今回はランダム転移でどうかな?」

「私は構いません」

「ええ、シゲキ様のなさりたいようになさってください。わたくしはどこまでもシゲキ様について行きますわ」

「わ、私だって茂樹さんと一緒ならどこへだって行きますっ!!」

 不敵な笑みを浮かべながら、互いに見つめ合う香住ちゃんとミレーニアさん。最近、こういうことが多いんだよね、実は。

 理由はもちろん理解している。だけど、ごめんよミレーニアさん。やっぱり、俺は香住ちゃん一筋なんだ。

「じゃ、じゃあ、準備を済ませたら、今回はランダムで異世界へ行こうか!」

 場の雰囲気を誤魔化すように、俺は慌ててそう言った。

 さて、できれば新しい世界へ行けますように。

 俺は手にした聖剣を見つめながら、そんなことを考えた。


◇  ◆  ◇  ◆


「──おのれっ!!」

 (やつがれ)が振り下ろした剣を、目の前の魍魎はするりと避けた。こやつら、避ける必要などないというのに、敢えて避けて見せるのは僕をいらつかせるためだろうか。

 実際、宙に浮いた魍魎はにたにたとした笑みを浮かべて僕を見下ろしている。

──ウケケ、無駄よ、無駄。我らに剣は通じぬぞ。

 そう。魍魎どもには剣も弓矢も通用しない。奴らに効果があるのは、僧や陰陽師たちが用いる法術や陰陽術だけだ。

 だが、それは相当に修行を積んだ、少数の優れた僧や陰陽師に限られる。伝え聞く話によれば、平城の都では多くの僧や陰陽師たちが結界を張って都を守っているらしいが、魍魎どもは好き勝手に都へと入り込んでいるらしい。

 それでもある程度は結界で魍魎どもを遮ってはいるのだろう。これは僕の推測でしかないが、効果のある結界を張れるだけの術者は多くはないため、都の中でも重要な区画だけを結界で守っているのではないだろうか。

 最近では都の内部にあまりにも魍魎が増えすぎたため、都を遷都しようという話も出ているとか。

 そんなことは、今はどうでもいいかもしれない。目の前で僕を見下ろす魍魎──怪異などとも呼ばれている──を何とかせねば、僕の命が危ないのだから。

 魍魎は人に取り憑く。そして、取り憑いた宿主の精気を啜るのだ。当然、その宿主は遠からず命を落とす。

 魍魎に取り憑かれたら、二度と魍魎を宿主(しゅくしゅ)から引き剥がすことはできないとされている。どれだけ優れた僧や陰陽師が祈祷しようが、魍魎を宿主から引き剥がすことはできないのだ。中には魍魎を祓うことに成功したという話も伝え聞くが、おそらくは出鱈目や法螺の類であろう。

──さあ、貴様に取り憑いてやろうぞ。そして、貴様の精気を啜ってやるわ。()()(そく)の精気ともなれば、さぞ珍味であろうて。

 優婆塞。それは出家することなく仏に仕える者を指す。僕──ダイカクもまた、優婆塞の一人であり、修行の旅の途中で魍魎に襲われてしまったというわけだ。

 手にした剣を構え、口の中でオン・マユラ・キランデイ・ソワカ、と孔雀明王真言を唱える。

 孔雀明王は病魔を払い、毒や厄を遠ざけるお力を持つと言われている。今、僕の目の前にいる魍魎を遠ざけるため、そのお力をお借しください。

──ケケケ。貴様ごときの真言ではまったく効かぬわ!

 魍魎が嘲りながら、一気に僕を目指して降下してくる。

 ああ、僕もここまでか。修行の道半ばで倒れることに悔いが残る。だが、これもまた運命というものであろう。

 だが、ただでは死なぬ。奴に取り憑かれた瞬間、手にした剣で自らの喉を突く。さすれば、せめて奴に精気を吸われることはなくなり、僅かなりともこやつの企みを阻めるだろう。

 間近に迫った魍魎が、にたりと嗤う。半ば透けた体にもかかわらず、僕にはそれがはっきりと見えた。

 オン・マユラ・キランデイ・ソワカ。オン・マユラ・キランデイ・ソワカ。

 最後まで孔雀明王の真言を唱えながら、僕はその瞬間を待った。



 (やつがれ)は今、目の前の光景が信じられない。

 突然現れた若い男が、僕に迫る魍魎を斬り裂いたのだ。

 そう。

 剣や弓矢は一切効果がないと言われる魍魎を、手にした剣で斬り裂いたのだ。

 一体、いかなる神仏の奇蹟を用いたというのか。

 男が持つ光り輝く剣が、確かに魍魎を斬り裂いたのを僕は見た。

「おお…………なんたる…………」

 思わず声が零れ出る。それほど、男が持つ剣は神々しく輝いていた。

「あ、あの……大丈夫でしたか?」

 光り輝く神剣を持った男が、心配そうに僕を見る。

 よく見れば、男が身に纏う衣もまた、日の光を受けて輝いていた。

 伝え聞く話によれば、異国には輝く羽を持つ孔雀という雉によく似た鳥がいるらしい。もちろん孔雀明王とも関係が深く、神聖な鳥として崇められているとか。

 男が纏う衣は青く輝いており、伝え聞く孔雀の羽とはこのような輝きを宿しているのではなかろうか。おっと、今はそんなことを考えている場合ではないな。

「危ういところを助けていただき、お礼の言葉もありませぬ」

 その場に跪き、男に礼を述べる。

「いやいや、そんな畏まらなくても……頭を上げてください」

「相当お力のある優婆塞殿と拝見致しました。僕は出雲より旅をして参りましたダイカクと申します」

「ああ、俺は茂樹と言います。ところで、先程のアレは〈鬼〉ですか?」

「い、いえ、あれは魍魎であり鬼ではございませぬが……?」

 一般的に鬼とは堕ちた神仏を指す言葉である。堕ちたとはいえ神仏には違いなく、その力は魍魎よりも遥かに強大であり、魍魎とは一線を画す存在とされている。

 目の前の男はそんなことも知らぬのだろうか? これほどの神力を秘めた剣──おそらくは不動明王の利剣かそれに準ずる神剣であろう──を所持し、孔雀明王を連想させる輝く衣を纏うというのに?

 脳裏に浮かぶ疑問を余所に、僕の言葉を聞いた男は何やら考え込み始めた。

 「ここは瑞樹のいる異世界じゃないのか?」とか、「さっきのが〈鬼〉じゃないとすると……」と、何やら呟いているのが僕の耳に届く。

「シゲキ殿……と申されたか? そこもとはどこで魍魎を斬り裂くほどの神剣を?」

「これはネットオークションで手に入れて……って、言っても分からないですよね。ははは」

 と、シゲキ殿は笑う。

 はて、ねとおくしょ? そのような言葉は聞いたこともないが……もしや、シゲキ殿が修行し、神剣や輝く衣を与えられた霊験あらたかな場所……神山のような所のことであろうか?

 平城の都よりも遥か東の彼方に、天に届くほどの霊峰があると聞く。ひょっとするとねとおくしょとは、その霊峰のことかも知れぬ。

「して、シゲキ殿はどうしてこのような場所に?」

「え、えっと、たまたまこの辺りに転移して……い、いや、た、旅の途中でして」

 今、僕たちがいる場所は人里離れた野原である。山野というほど樹々は密生していないが、周囲にあるのはまばらに樹も生えているちょっとした林のような場所である。

 魍魎に襲われることを考えれば、このような場所を旅するのは僕のような修行途中の優婆塞ぐらいか、もしくは山岳信仰の行者ぐらいだろう。

 ここから少し離れた所には葛城という山があるらしく、そこには山岳信仰の行者たちが数多く集まっていると聞く。

 無論、優婆塞や行者も魍魎に襲われることがある。だが、それらを下せるほどの神力や霊力を得るため、彼らは日々厳しい修行を積んでいるのだ。

「もしかして、シゲキ殿は優婆塞ではなく山岳信仰の行者であられたか?」

「い、いえ、そんな大袈裟なものじゃないですよ。本当にただの旅人です」

 ただの旅人が魍魎を斬り裂ける神剣を持っているはずがない。ひょっとすると、この人物は行者を纏める立場にあるやも知れぬ。

 と、目の前の人物のことを推測していると、遠くより女人(にょにん)の声がした。

 む? このような場所に女だと? 人里離れた場所に女がいるわけがない。さてはまたもや魍魎の類が現れたか?

 警戒しつつ声のした方へと振り向けば、そこには二人の人物。

 一人は女だというのに妙に髪の短い者。

 今の世、女の髪は長いのが当たり前とされている。特に貴族の女ともなれば、身の丈以上の長さの髪をしている場合も少なくはない。

 高貴な女性ともなれば、他人にその素顔を見せないのが嗜みであるとされる。だが、その髪は他者の目に留まる場合がままある。そこで高貴な女性と対面した男たちは、その髪の美しさを女性の美の基準とするほどだ。

 高貴な出自ではないとはいえ、肩よりやや長い程度しかない髪の女というのはやはり異様に思える。だが、その女はシゲキ殿と同じ孔雀の衣を纏っていた。

 そして、それよりも問題なのはもう一人の女だ。こちらの女は見たこともない髪と目をしているのだから。

 日の光を集めたような金色の髪に、翡翠よりもさらに透き通った碧の瞳。肌も異様なまでに白く、とても人間とは思えない姿をしている。顔立ちは美しいとはとても呼べないが、どこか気品のようなものが感じられなくもない。

 そして、こちらの女もやはり孔雀の衣を着ていた。

「二人ともお疲れ様。それでどうだった?」

 どうやら、この女たちはシゲキ殿の知り合いらしい。いや、あの到底人間とは思えぬ金の髪や、女とは思えぬほど短い髪をしていることを考えると、もしかするとこの者たちはシゲキ殿が操る式神の類やも知れぬ。

 式神であれば、女なのに異様に髪が短いことや、人に非ざる色を持つことも理解できる。

「周囲にはもう〈鬼〉はいないみたいです」

「途中、何度かオニ……でしたか? あの怪物が襲い掛かってきましたが、聖剣が追い払ってくれましたわ」

「ああ、それなんだけど……あれ、どうやら俺たちが知っている〈鬼〉とは別物らしいんだ。こちらのダイカクさんの話によると、魍魎って呼ばれているらしい」

「そういえば……剣を持っているというのに、襲い掛かってきましたね」

「そうなんだよね。もしも〈鬼〉なら、刃物を持っていれば襲い掛かってくるはずがないんだ」

 その後も、シゲキ殿は式神たちと何やら話し込んでいた。

 ちらちらと聞こえてくるのは、「ミズキたちのいる世界の過去かと思ったけど違った」とか「新しい異世界かも」という言葉。正直、僕にはよく理解できぬ言葉が多かった。






 この時代、いわゆる「平安美人」が美の基準だとすると、某姫様はきっと美人とは認識されないんだろうなー、なんて思ったり。


 今年の更新はこれまで。

 本年中は皆さまに本当にお世話になりました。

 新年は1月13日より更新を再開します。

 引き続き来年もよろしくお願いします。

 来年こそ完結させるぞ(笑)!



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― 新着の感想 ―
[一言] 茂「久しぶりに、ランダムで異世界転移をしてみたいと思う」 とある週末。俺の部屋に集まった香住ちゃんとミレーニアさんにそう告げた。 茂「偶には行き先不明状態で行ってみるのも面白いんじゃないかと…
[良い点] 本年最後の投稿、お疲れさまでした。 今年も一年を通して楽しめました。 来年もよろしくお願いします。 前話の学園生活も面白かったですが、今度は古代日本に近い異世界ということですね。 それに…
[一言] 平たい顔族の瓜実顔が美人の価値観だと、彫りの深い西洋人は…ねぇ。
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