はっきりと
店長いわく、やはり俺の聖剣には想定外の負荷がかかってしまったらしい。
負荷の原因は、「同行者」に設定していない人物が一緒に転移したこと。
俺の聖剣は、人間で言えばまだまだ小学校入学前ぐらいの年齢に相当するのだとか。そんな小さな子供に無理をさせたら、どこかに影響が出るに決まっているよね。
今回、転移の間際にミレーニアさんが俺に抱き着いたことで、彼女も一緒にこちらの世界へ来ちゃったわけだが、これ、実は結構危険な行為だと店長は言う。
今回はたまたま無事に転移できたが、下手をするとどこか「遠く」の「小世界」へ飛ばされていた可能性もあるし、俺たち三人がばらばらに別の「小世界」へ転移してしまう可能性もあったとのこと。
やはり、「同行者」に設定していない人物を一緒に転移させることは、とても危険らしいのだ。
ただし、非生物ならそれほど問題はないみたい。とはいえ限度ってものは当然あって、極端に大きな物とか重量のある物とかと一緒に転移するのはやはり危険とのこと。
あくまでも「荷物」──身に着けて無理なく行動できるぐらいが目安──として認識できる範囲であれば、特に危険はなく転移できるそうだ。
以上のことを店長がはっきりと告げると、ミレーニアさんもさすがにしゅんと項垂れていた。自分がどれだけ危険なことをしたのか、今になって理解したのだろう。
「も、申しわけありませんでした……」
「ミレーニア姫……でいいかな? 水野くんの聖剣は極めて強力な力を有するが、それでも決して万能ではない。今後、絶対に無茶なことはしないように。分かったね?」
「はい、承知致しました……えっと……テンチョウ様……とお呼びすればよろしいでしょうか?」
ああ、しまった。そう言えば、まだ正式に店長のことをミレーニアさんに紹介していなかったっけ。あれこれとばたばたしていて、すっかり忘れていた。
ミレーニアさんがこっちの世界へ来てしまったことは、俺の頭にとっても相当な負荷だったのかもしれない。
「えー、では改めて紹介しておくね。こちらの女性が、俺のバイト先の店長……と言ってもミレーニアさんには理解しづらいと思うけど、アルファロ王国でも話した俺の上司で、茉莉花・T・ザハウィー・館山さん。俺や香住ちゃんは、店長って呼んでいるよ。で、店長。こちらが異世界に存在するアルファロ王国の第二王女様で、ミレーニア・タント・アルファロさんです」
「上司なんて堅苦しいことは言わず、ここは友人と紹介して欲しかったね、私としては」
と、店長はひょいと肩を竦めた。
いや、そうは言いますけどね、店長。俺としては、店長はやっぱり店長なんですよ。
「ともかく、茉莉花・T・ザハウィー・館山が正式な名前だが、長いので茉莉花と呼んでくれるかな、ミレーニア姫」
「承知致しました、マリカ様。では、わたくしのことは単にミレーニアとお呼びください」
よしよし、これでまずは一段落かな? って、本格的な話はこれからなんだけどね。
ってか、今更だけど店長とミレーニアさん、普通に会話しているよね。きっと、ミレーニアさんか店長のどちらかに、聖剣の翻訳機能が作用しているのだろう。
……案外、店長は素で異世界の言語、理解していたりして。この店長ならあり得るぞ。うん。
まず、聖剣に関しては店長に数日預けることに。ついでだから、聖剣のメンテナンスも行うそうだ。
メンテナンスするってことは、もしかして聖剣が更にパワーアップしちゃったりして? そういや、ガムスたちがいる「小世界」で、聖剣先生は「すっげぇ光の剣」みたいな攻撃をキノコの化け物に繰り出したけど、あれが本格的に使えるようになっちゃったり? それに店長が以前にいつか時間を超えることができるとも言っていたけど、それも可能になっちゃったりする? いやー、夢が膨らむね!
と思ったら、実はこれまでに何度も聖剣のメンテナンスは行われていたらしい。単に俺が知らなかっただけで、店長がこっそりと聖剣を調整していたらしいんだ。
ある日突然、聖剣に新しい機能が追加されたりしたけど、あれがメンテナンスの結果なんだって。
それはともかくとして、聖剣にはゆっくりと休んでもらうのが重要かな。聖剣はまだまだ子供らしいから、休むことは大切だ。
そして、その聖剣のメンテナンスが終わるまでの間、ミレーニアさんは店長の家で過ごすことに。助かりました店長。ミレーニアさんを快く泊めてくれて。
ああ、そうそう。ミレーニアさんには、聖剣の秘密も説明することにした。こうなったら、説明するしかないからね。でも、他言無用はしっかりと約束してもらった。特にビアンテに対しては。
最近のビアンテ、俺のことを本気で師匠だと思っているからなぁ。実は強いのは俺じゃなくて聖剣でした、なんて今更言えないんだよね。
そして、今回ミレーニアさんがどうしてこのような暴挙と呼んでもいいようなことをしでかしたのかと言えば。
どうも、ミレーニアさんのお兄さんとお父さんの入れ知恵……というか、そそのかされたというか……まあ、要はクゥトスさんと国王様が元凶ってことらしい。
ミレーニアさんの説明によれば、俺と香住ちゃんはアルファロ王国において神様かその眷属だと思われていたらしいんだ。
邪竜王に攫われて窮地に陥ったミレーニアさんを突然現れた俺が救ったり、目の前でいきなり消えたり、雷を呼び寄せたりしたことが、誤解の原因らしい。
それで、俺たちを神様だと誤解したクゥトスさんと国王様は、ミレーニアさんを俺に嫁がせるつもりだったようなんだ、これが。
アルファロ王国において、「神々、もしくはその眷属と婚姻関係を結ぶ」ということは、極めて神聖であり、名誉なことであり、かつ政治的にも重要なことらしい。
以前にもちょっと聞いたけど、アルファロ王国を建国した初代国王様には、兄弟とも親友とも言われている相棒的存在がいたそうなんだ。で、その相棒さんというのが、どうも天界からやって来た御使いと呼ばれる存在だと信じられているらしい。
ある日突然、どこからともなく現れたその御使いは、アルファロ王国の建国王に助力して強大な魔獣を倒した。そして、建国王は魔獣を倒したという名声を武器にアルファロ王国を建国した、と歴史書などに記されているとのこと。
そしてその御使いは、魔獣を倒すとすぐに姿を消したそうなんだ。
突然現れて、突然消える。うん、まるで俺みたいだね。しかも、その御使いは俺の聖剣と同じ銘の剣を持っていたっていうから、そりゃアルファロ王国の人たちにしてみれば、誤解するなってのが無理な話なわけで。
「父と兄から、次にシゲキ様が来たら、何としてでもわたくしを娶りたくなるように売り込めと言われまして……わたくし、どうしたらシゲキ様に気に入ってもらえるのか考えたのですが、いい考えが全く思い浮かばず……」
なるほど。悩みに悩んだ挙句、俺と一緒にこっちの世界に行こうと考えたわけだ。俺と一緒の時間が増えれば、今まで見えていなかった部分も見えるようになるし、そうすれば俺に気に入ってもらえるかもしれないってことか。でも、一緒にいることで欠点も見えてしまうことだってあるだろうから、ミレーニアさん的には賭けだったのかも。
「俺や香住ちゃん、もちろん店長も神様とかじゃなく、ごく普通の人間なんだ。ただ、ちょっと不思議な聖剣を手に入れただけでね。あ、店長は『普通』じゃなかったですね」
「おいおい、私のどこが普通じゃないって? ありふれたコンビニの店長でしかないよ、私は」
いやいや、そうは言うけど魔術師の末裔なんて普通じゃありませんよ、店長。
しかし、ミレーニアさんのお父さんとお兄さん……アルファロ王国の国王様とクゥトスさんは、ミレーニアさんと俺を結婚させるつもりだったのか。
王族なんて政略結婚が宿命みたいなものだろうけど、それでもどこの馬の骨か分からない人間に娘を嫁がせるかな?
まあ、その馬の骨は神様と勘違いされていたわけだけど。
でも、さすがにミレーニアさんとの結婚はなぁ。
やっぱり、はっきり言わないといけないよね、男としては。
「あ、あのね、ミレーニアさん。俺……というか、この国では複数の奥さんを持つことはできなんだ。だから…………」
俺を見るミレーニアさんの両目に、透明な雫が浮かび上がる。
そして、そんな俺たちを心配そうに見つめる香住ちゃんと、にやにやとおもしろそうな雰囲気を隠そうともしない店長。
確かに、ミレーニアさんは美人だし、気立てもいいし、お姫様だし、欠点を探す方が難しいぐらい素晴らしい女性だと思う。
だけど。
だけど、俺にはもういるんだよ。心の底から一緒にいたいって思う女性が。
だから、ミレーニアさんと結婚することはできないんだ。
そのことをはっきりと告げた時。
彼女の両目に浮かんでいた透明な雫が、つうと滑らかな頬を伝わり落ちた。
本年中は最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
引き続き、来年もよろしくお願いします。
次の更新は1月15日の予定です。
では、皆さまよいお年をお迎えください。




