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山椒の書置きどころ。  作者: 山椒
ディバイン・ヴァルキュリア
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ディバイン・ヴァルキュリア:英雄になれない男。

 俺、ジルダ・ポリトフは現在重労働を終えて職場へと戻っている途中である。外にて一週間以上不眠不休で働き続け、最後には直帰ではなく一度職場に戻ってこいと言われたため、疲れた体を鞭打って職場へと向かっている。


「ねぇ、あの人大丈夫かな?」

「さぁ? 何か大丈夫そうじゃないけど・・・・・・」

「逆に何か怪しくない? 普通はあんなに怖い顔にならないよ」


 職場へと向かう賑わっている街の道を歩いている道中、周りの人たちにひそひそ話をされているが、気にしている余裕はないため無視する。


「ホワイト・ナイトを呼んだ方が良いんじゃないの?」

「そこまで? 害を与えているわけではないし・・・・・・」

「それでも害を与えてくるかもしれないじゃん。何を考えているのか分からないし」

「そう言われるとそうだけど」


 酷い言われようにため息を出しそうになるも、一層疲労が蓄積しそうなためため息を抑え込んで着々と職場へと向かう。道中では、とある同僚を思い浮かべ、同時に恨みつらみを内で爆発させている。


 歩いていると、俺を見て驚いた表情を浮かべている人もいれば、一層俺から離れる人もいるが、街はいつも通り賑わっている。その光景に少しばかり口角を上げ、元気が内から湧き出てきた。


 そして、国の端を歩いていても上層が見えるくらいにこの国で一番大きな建物の全貌が見えてきた。襲撃者から守るための高い壁に、壁がない上空からの襲撃者を防ぐ結界が張られている建物、フレイズ・キャッスル。


 普通のお城より大きなフレイズ・キャッスルを見て、根っからの庶民の俺は何度見ても圧巻されつつ入口の門の前にたどり着いた。入口の門の前には二人のガタイの良い男二人が立っており、どちらも重装備をしている。


「ここに何の用だ? 用がないのなら立ち去れ」


 ガタイの良い男二人の片割れが威圧しながら俺にそう言ってきたが、その言葉に驚いてしまった。俺がここに来たのはつい最近ではなく、十年ほど経過している。


「い、いや、中に入りたいんですけど・・・・・・」

「用があるのなら用件を言え」


 もう一度言えど答えは変わらず、俺は動揺を隠しきれずにいた。


「その、自分はここの関係者なんですけども」

「そんなはずがないだろう! 関係者なら俺たちが知らないはずがないだろう! 門番をなめているのか!」


 門番の言うことは最もなのだが、俺を忘れてしまっているからどうしたらいいか困惑している。どうしたものかと考え込みながら、いつもどうやって入っているのかを思い出す。


「・・・・・・あっ」


 記憶をたどると、俺は一人でこの門を通ったことがなく、この門番の人たちと一度も放したことがない。誰かと一緒にいるか、空間を操る戦乙女に目的地に送ってもらっているかをしていた。


「あの、その、自分は本当にここの人間です。戦乙女の誰かを呼んで来てもらえば分かることなので」


 誰か分かる人を呼んでもらうしかないと判断した俺は、門番の人たちにそう言った。


「こんなことであのお方たちを呼ぶわけがないだろう! 分を弁えろ」

「・・・・・・しつこい」


 俺の考えもむなしく、すぐに却下された。そしてさっきから黙っていた門番の片割れが不機嫌そうな声音で俺が邪魔だと言い始めた始末だ。


「えぇ・・・・・・、えっと・・・・・・」


 仕事の疲労に加えて、こんなことが起こるとは夢にも思わずに思考がぐちゃぐちゃになっているため、切り抜ける方法が全く思いつかない。


「あっ、あの人です! あの門の前にいる人です!」


 本気で焦っているところで、後ろから女性の声が聞こえてきた。不意に振り返ると女性と、白を基調とした服と鎧を着ている騎士の男性がそこにいた。


「・・・・・・ホワイト・ナイト」


 この国を警備している白の騎士団、ホワイト・ナイトが来たということは、本当に通報されたんだと悲しい気持ちになる。


「あなたが通報にあった不審者ですか。申し訳ないですが、屯所までご同行願えますか?」

「や、別に怪しいものではないです。ここで働いているだけで――」

「早く連れて行ってください。さっきからこう言ってしつこいんです」


 騎士が俺を連れて行こうとするも、俺は少しの抵抗をするが門番の片割れに連行の後押しをされる。


「ここでは目立ちます。屯所でゆっくりと話しを聞きますね」

「・・・・・・はい」


 ここで抵抗しても問題が大きくなるだけであるから、俺は騎士に大人しく付いて行くことにした。




 騎士に連れられて国の端にあるホワイト・ナイトの第五駐屯所にたどり着いた。そこで俺は小さな部屋で四人の騎士に囲まれた状態で座って取り調べを受けている。


「で、君は一体何者なの?」

「だから、自分はフレイズ・ヴァルキュリアに所属しているジルダ・ポリトフです」

「それは聞いたから。で、何者なの?」

「何、この無限ループ?」


 目の前に座っている四十代くらいの優しそうな顔と声音が一致している騎士の男性が俺に何者かと聞いてきて、俺は正直に自身の名前を伝えているが、信用してくれない。


「ていうか、君寝てる? すごい目つきが悪いけど、寝不足なんじゃないの?」

「まぁ、そうですね。今すぐにでも寝たいです」

「ダメだよ、ちゃんと睡眠はとらないと」

「・・・・・・自分もそう思います」


 普通のことを見ず知らずの騎士に言われた。今でも家に帰りたいと思っているが、連行されてしまったのは良い口実だとも思ってしまった。


「それよりも、どうしてジルダ・ポリトフの名前を出したんだい? もう少し違う人がいたんじゃないかな?」

「いえ、その、本人なので違う人も何もないんですけど」


 ジルダ・ポリトフという名前は有名であるが、名前だけが有名になり顔は知られていないのが仇となった。ヴァルキュリアとしての顔出しは他のヴァルキュリアがしているため、俺自身が表に出ることはほとんどない。


「でも、それなら門番の彼らが知っているはずだよね?」

「それは自分が一番聞きたいくらいですけどね」


 目の前の初老の騎士の言葉に俺は反論する言葉が見つからない。己のせいと言えばせいなのだが、こんなにも俺自身の認知度がないことに改めて思い知らされた。


「それにしても、ジルダ・ポリトフはどういう人間なんだろうね。名前だけが有名で、十年以上ここにいる僕でさえ一度も見たことがないなんて、顔出ししたくないのかな?」


 英雄を育てる、もしくは探している他のヴァルキュリアと違い、俺は頻繁に戦場に駆り出されることが多いため、民衆に顔出しをする機会がないだけで、顔出ししたくないというわけではない。


「顔出ししていないとこうして偽物が現れるから、顔出しくらいはしてほしいくらいだね」


 この騎士は俺を偽物だと信じて疑わない様子だ。俺は自身がジルダ・ポリトフだと主張するのを諦め、おそらく騒ぎを聞きつけたフレイズ・キャッスルの誰かに身元引受人になってもらうことにした。


「ジルダ・ポリトフと言えば、最近の彼の活躍はすごいね」

「活躍?」


 初老の騎士の話題に、俺は首を傾げた。俺のことであるため、自分自身ではあまり分かっていない。


「何だい、知らないのかい? よくそれでジルダ・ポリトフを名乗ろうと思ったね」

「はっ、ハハハハッ、・・・・・・そうですね」


 こうして認めるのは癪であるが、認めないのも話が進まないため愛想笑いをして肯定することにした。


「ようやく認めたようだね。最初から分かっていたことだけど。それよりも、最近のジルダ・ポリトフの活躍を知らないのなら教えておいてあげよう」


 俺がようやく認めたことに初老の騎士は呆れた表情をするが、その後に俺の話題を話そうとすると顔が生き生きとしだした。


「今、世界各地で邪神を崇拝する信者の暴動やモンスターの活発化が激しくなっていく中で、彼は一人で世界各地を飛び回り、さらにはそれを一ヶ月も経たないうちに制圧しきった。まさに英雄のごとき所業だよ」


 フレイさまの命令で俺は世界各地で混乱を収束させた。だが、根本的な部分は解決していないためまた世界各地を飛び回ることになるかもしれない。


 ここで、話を聞いていく中で一つの疑問がわいてきた。この人は俺の活躍をどうしてこんなにも嬉しそうに話しているのかということだ。


「支部長、また興奮しそうになっていますよ。一回落ち着いてください」

「これが落ち着いていられないよ。彼は他の英雄よりも人々に尽くし、戦果を挙げている。それも一切の見返りもなく、世界を救っている。これだけで彼は評価されるべき人物だ」


 フレイズ・キャッスル以外の人間や亜人などの声を聞いたことがなかったため、こうして評価してくれる人がいることに嬉しさを感じる反面、少しだけ行き過ぎている感情だと思ってしまう。


「また支部長のあれが始まったよ」

「あぁ、あれな。いつもは良い人なのに、ジルダ・ポリトフの話になった瞬間におかしな人になる症状。あれさえなければ奥さんに逃げられずに済んだのに」


 近くにいた騎士二人の話を聞いて、俺のことを知らなければ奥さんに逃げられずに済んだのではないかと、少しだけ申し訳ない気持ちになる。


「失礼します、支部長。少しよろしいですか?」

「うん? あぁ、何だい?」


 ノックをして入ってきた若い男性騎士が目の前の男性を呼んだ。話を止めた初老の男性は立ち上がって入ってきた騎士に近づいて、若い騎士が初老の騎士に耳打ちをした。


「・・・・・・ふむ、分かった」


 話が終わったらしく、初老の男性が俺の前の前に戻ってきた。


「お迎えが来たみたいだね。女性らしいけど、恋人かな?」

「断じて違います」


 俺には恋人がいないため、即座に否定した。俺を知っている女性で誰が来たのかは、数名のヴァルキュリアしかいないが分からない。


 俺は初老の男性の後ろを歩いて、屯所の出入り口まで来た。屯所の出入り口のところには、数人のホワイト・ナイトの騎士たちと、胸部まで伸ばしている艶やかな黒髪に、お淑やかで整った顔立ち、そして濃紺を基調とした上着にスカートと、黒のストッキングを着ており、その佇まいから誰から見ても美しくできる女がそこにいた。


 その女性は俺の方を見ると小さく手を振って微笑んできた。しかし、俺は少しだけ嫌な顔をしてしまったものの、向かいに来てくれたのだから感謝しなければならないため嫌な顔をひっこめた。


「ジルダさん、帰りましょうか。それでは皆さんお世話になりました」

「・・・・・・あぁ」


 清楚と思わせている女性こと、エステル・マルシャンは俺を声をかけた後にホワイト・ナイトの騎士たちに軽くお辞儀をした。俺も騎士たちに軽く頭を下げてエステルの元へと歩き、そのまま屯所から出た。


 駐屯所から出て並んで歩いているが、しばらく俺たちの間には沈黙が続いた。あまり今、彼女と話したくないから、俺は沈黙を貫き、貫き通せればと思っている。だが、当の彼女は俺のことをジッと見てきている。一種の怖さを含んでいる顔に思える。


「ねぇ、ジルダさん」

「何だ?」


 さっきからこちらを見ていたエステルがこの沈黙を破ってきた。俺は内心ひやひやしながら平常心を保ち返事をした。


「私に何か言うことはないんですか?」

「あぁ、そう言えばそうだな。来てくれてありがとな。助かった。それよりも、今回の――」

「は?」


 エステルの問いに軽い感じで返して別の話題に変えようとしたところを、エステルは真顔かつ低い声でその一言を放った。その一言には背筋が凍った。


「まさかそれだけで済むとは思っていませんよね? 私は仕事が忙しい中、自らの不注意で連行された同僚をわざわざ連れて帰っているのですよ? 軽い感じで済ませられるとでも?」

「まぁ、それは、言われてみればそうだが・・・・・・」


 俺に淡々と事実を突きつけてくるエステルから目をそらさずにはいられなかった。だが、俺が全面的に悪いと言われるのは納得がいかない。


「ちょっと待て、俺が一方的に責められるのはおかしいだろう。そもそも俺が自宅に直帰していればこんなことにはならなかったはずだ。エステルが、帰ってきたら家に帰らずにすぐにこちらに来てくださいとか言い出したせいだろう」

「仕事が終わってからすぐに報告するのは当たり前ではありませんか?」

「いや、前にエステルが二日ぶっ通しの依頼を受けた時は、その日は帰って次の日に来てただろ」

「――チッ」

「おい、聞こえてるぞ。何ですかぁ、その舌打ちはぁ? 何か腹が立ったことでもありましたかぁ?」


 俺がエステルの行動と今回の言葉が矛盾していることを指摘すると、エステルは真顔で舌打ちをしてきた。しかも隠すとかではなく、思いっきり俺に聞こえるくらいの舌打ちだ。それに対して少しだけお返しをと、エステルを煽ることにした。


「もしかしてぇ、自分がされて嫌なことを人にやったんですかぁ? 子供の時に――」

「あら、こんなところに大きな虫が」

「がっ⁉」


 もうやめておかないと危険だなと思っていたところで、エステルは変なことを言いながら肘で俺の腹を強打してきた。俺はその威力にたまらず腹を押さえて悶えてしまう。涼しい顔をしながら、かなりの威力があった。


「大きな虫がいて耳障りだったのですが、ようやく収まったようなので良かったです。それよりもお腹を押さえてどうしたのですか? ジルダさん。何かを食べてお腹を壊したのですか?」

「・・・・・・この鬼畜暴力女が」

「あらあらあらあら、まだ虫を退治できていなかったようですね」

「すみません、自分が悪かったです」


 良い笑顔のエステルに対して、俺が少しの抵抗として暴言を吐いたところ、本気で俺に攻撃しようとしていたため、俺は素直に謝った。


 お嫁さんじゃない同僚の女性に尻に敷かれている状況を悲しみながらも、俺とエステルは並んで歩いている最中、通り過ぎようとしていた少し狭い路地裏から複数人の声が聞こえてきた。それはエステルも同じようで、エステルも足を止めた。


「何だ? あれ」

「何ですかね? あれ」


 見覚えのある服を着て肩まである黒髪で可愛らしい顔で愛想笑いをしている十五歳くらいの女の子と、スキンヘッドにセンスのない服にいかつい顔の三拍子が揃って顔に靴跡がついているガタイの良い男が怒って少女の前に立っており、男の傍らには子分らしき同じような格好をしている男二人がいる。見過ごすわけにはいかず、止めに入ることにした。

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