第34話
そのまま右に薙ぎ払うように極黒を振ると異形の上半身と左腕を斬り飛ばし、飛びかかってくる無数のワームも斬り伏せる。
さらに刃が届かなかったワームたちが俺の周りを取り囲むように飛び跳ねて襲いかかってくる。その瞬間、俺の反射と動きが加速する。
津波のように襲いかかってきたワームの波を唯一空いている通ってきた道をバックステップで戻り、今まで俺がいた場所に空気を使う。
破裂するような衝撃に弾き返され大量のワームが引きちぎられ、バラバラになり肉片になって落ちていく。
ワームの飛びかかりがそれでも休むことなく俺を襲うが、両手に極黒を構えた俺は魔力の刃で纏めて斬り裂く。この状態になった俺をワーム程度で止めるのは難しい。
さらに魔力を広げている周囲に複数の空気をばら撒きワームを肉片に変えていく。
その瞬間、探知範囲内の〝異形達〟が動き出す。
俺が危険な相手だと理解したのか残り5体が同時に俺に向かってくる。音緒さんに向かって行かないことにほっとしつつ、身体から熱が湧き上がってくる。
——やっと全力で戦える!
意識したわけではないが、口元が緩んでいるのを自覚する。集中力が爆発的に上がっていき、周囲の温度が下がったような感覚、脳裏に〝黒い異形〟との戦闘が思い出される。
あの時の優希くんの〝必殺技〟今なら再現できそうな気がしてくる。戮力協心と縮地の合わせ技。
爆発的な一瞬のスピードで敵を切り裂く。さらにそこに空気を混ぜる。
考えていた事がある。空気は空気の圧縮だ。圧縮すると何が起こるか?
それは熱だ。
昔見たサバイバル動画を思い出した。空気の圧縮で火をつける道具。名前は忘れたが同じ事ができるはず。
上下左右から襲いかかってくるワームを斬り捨てながらイメージする。
溜めは数秒……いけるっ!
ふっと息を吐きだすと、向かってくる一番近い異形の方へ一歩踏み出す。爆発的な加速とともに周囲の景色が停止する。飛びかかってくるワームが空中で止まっているように見える中、身体がいつもの動きができていないのがわかるぐらいにブレる。身体の制御ができない。
全身が震える中で止まっているワームを切り裂きながら異形に接近し、刃が通る位置に空気を作り出す。
極黒が空気を切り裂いた瞬間、極黒から黒い炎が吹き出し、一振りで黒い炎に掠った周囲のワームと直撃した異形を
——消滅させる
これで二体目。
振り切った極黒をさらに振り回すとワームが溶けて消えていく。
優希くんの〝必殺技〟は一瞬、そして一刀で直線。だが俺のは違う。相手が止まって見えるようなスピード、さらに極黒の攻撃力。
【人類の反逆者を討伐しました】
一瞬遅れてくる脳内に響くアナウンスを無視しながら三体目に向かおうとした瞬間、限界が訪れる。
景色が元に戻り、黒い炎——黒炎は消え、踏み出そうとした足が一瞬動かなくなる。
俺は躓きそうになりながらなんとかバランスをとりその場に踏みとどまる。……限界が早すぎる……。
身体に掛かる脱力感を感じながら何とか身体を動かし、黒炎で消滅した範囲外から飛びついてくるワームを極黒で斬り裂く。
「継続時間が短いっ……黒炎も消えるんじゃ使う場面が限られるっ」
だが、身体は脱力感はあるものの痛みなどはない。無理をしなければまだまだ戦える。元々今の全力状態は過剰だった。
「空気」
圧縮した空気を目の前に作りだし飛びついてくるワーム共々斬っていく……極黒が纏うのは黒炎ではなく普通の赤く燃える炎。どうやら全力状態で振るった極黒じゃないと黒炎は発生しないようだ。
それでも油が多いのか炎がワームを包み込み燃やしていく。これなら何とかなりそうだ。
すぐにターゲットにしていた三体目の異形が近づいてきており、肥大化した右腕が蠢き弾丸のようにワームを飛ばしてくる。こんな芸当も可能なのか!ワームが飛びついてくることを考えるとできて当たり前のことだと考え直す。
ならその後の腕は?
すぐに足元のワームが異形に取りつき、蠢きながらワームが異形の身体を這いまわり無くなった腕にワームが取り付いて元の大きさに戻った。
異形の身体自体がワームによって攻撃、防御、再生と、今まで近距離でしか攻撃できなかった異形の戦力を引き上げている。
左手の極黒で周囲のワームを払い、右手で飛んでくるワームを斬り裂きながら極黒が纏っている炎に注目する。
異形がワームを飛ばしたことで俺にもできるのではないかと考える。俺が使うのはもちろんワームじゃない。極黒が纏っている炎だ。空気を使えるなら炎だっていけるはず!
イメージは炎の槍。ありきたりなイメージかもしれないが、炎を棒状にして飛ばす〝ファイアランス〟右手の極黒を振るい炎を飛ばすイメージ。
ワームを斬りながら異形に向かって腕を振るう。
極黒から炎が一つの棒状の塊になり飛び出していく。多少歪な形ではあるが、できることはわかった。後はイメージを固めるだけ。
極黒から飛び出した炎は異形の肥大化した右腕に振り払われると、そのまま消えることなく右腕のワームから一気に全身に火が燃え移っていく。
ワームには炎が効果的。
炎を振り払おうとでもいうのか、異形がめちゃくちゃに炎に包まれている腕を振り回す。周りにいるワームに炎が飛び火し、異形の周りから円状に炎が広がっていく。
一瞬、洞窟の中で火を燃やして大丈夫なのかと思ったが、こうなってはどうしようもない。焼け焦げて灰になっていくワームを見ながら俺は下がった時に別の異形が二体同時に接近してくるのを感知する。
かなり近くまで接近されている。だが近くまで来てくれるならやりやすい。
振り向きながら極黒の魔力の刃を振るい二体同時に胸から上を両断する。両断された二体の異形はそこから火がつき燃え上がる。しっかりと倒した感触が手に伝わってくる。
ちらりと炎に包まれて暴れている異形を確認すると6体目の討伐に向かう。
両手の極黒を振るい向かってくる異形に炎の槍を飛ばすと、異形は避けるように身体を逸らすが完全に避けることはできない。掠った部分のワームから火が周りこの異形も炎に包まれる。
これで炎に包まれて暴れている二体だけになった。このまま一気に倒してしまおう。スナイパーライフル・黒葬を取りだすと火だるまになっている異形へと弾丸を撃ちこむ。
燃えているからかワームの爆発反応装甲は機能せず、難なく異形の胸部を貫通させる。そのままビクリと震えると火だるまのまま地面に崩れ落ち周囲のワームごと焼いていく。
もう一体……初めに火だるまにした異形はほとんどのワームが剥がれ身体が露わになっている。
「これは!?」
異形は身体中がボロボロに食い破られ、身体のところどころに穴が空き、そこからワームが筋肉のように張り付いている。異形の身体にワームが纏わりついていたのではなく、異形の欠損部位を補うようにワームが補完していた。
この時に初めて見たが、異形の心臓部に当たる部分に黒い岩のような塊が見え隠れしている。これが、弱点になる部分だろう。
俺はスナイパーライフル・黒葬を構えると、炎が弱まってきた異形に弾丸を撃ちこんだ。
心臓部に見える黒い塊が閃光に貫かれ消滅するのを確認。異形も倒れ伏し動かなくなる。
これで異形は倒した。空洞内に敷き詰められるように存在したワームは火の回りが早かったのかどんどん連鎖的に燃えていっている。これはこのままでもワームが全滅するのは時間の問題だろう。
音緒さんを見るとハンドガンやショットガンで残りのワームを着々と倒している。大量のワームが倒されているので茶色や灰色だった地面のほとんどが黒く染まって不気味な色に変色していた。
ここを一掃したら、コアを探さないと……。
俺も残りを片付けようと黒葬を仕舞い、極黒で少し離れて火に巻き込まれていないワームを倒していると、探知範囲内でワームより早く動く物を感知する。
気がつくのが遅れた!振り向くと倒したはずの異形、たぶん1体目が音緒さんの方に走っていく!
しくじったっ!異形の身体はワームでできている。1体目は単純に極黒で胸部を破壊しただけだ。確実に倒した感覚はあったが、まさか他の異形が腕をワームで再生するように、胸部も再生した!?
「音緒さんっ!」




