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第12話

 俺の突き出した短剣を手甲で捌き、さらに一歩近づいてくる。


 左、右と振われる拳を余裕を持って避けると、身体を加速させて脇腹に短剣を叩き込む。


 鈍い感触とともに短剣が刺さるが、浅い。


 服が破れほんの擦り傷程度しか刺さらない。厄介な。


 だがそこは織り込み済みで素早く下がると、すぐに蹴りが飛んでくる。


「テメェ……。さっきとはまるっきり動きが違うじゃねぇか。手加減してやがったな!」


「手の内見せずに逃げる気だったから、ね」


 話しながら飛び込んで自分の間合いに持っていく。


 斑鳩くんはさらに間合いを詰めようとするがそれはさせない。


 間合いを詰めにきた瞬間に一歩下がり、左右に動いて間合いを外す。蹴りが飛んでくるがそれも躱す。


 躱しながら短剣で斬りつけるが服が多少破けるだけでたいしてダメージが通らない。


 この服も強化されているんだろう。


 動きでは完全に俺が上回っているが、ダメージは擦り傷程度しか与えられない。


 だが何より手甲が厄介だ。甲の部分で捌かれるし、手の部分は上手く合わせられると短剣が破壊される恐れがある。


 短剣の予備は数本持っているけど、できることなら壊されたくない。


 これは時間がかかる。いつまで【金剛】や【二兎掌握】が効いているのか。


 だが時間が経てば経つほど俺が有利なのは変わらない。


 そしてすぐに俺に有利になる声が聞こえてきた。




「ぎゃあぁぁぁっ!誰がぁ〜!はやぐっ、はやぐ、ごろしてくれっ!」


 肉塊を相手にしていた方から叫び声が聞こえてくる。


 チラリと見るとどうやってそうなったのか不明だが、一人が肉塊の異形に脇腹を食らいつかれているのが見えた。


 肉塊は3メートルほどの巨体で円錐状の身体だ。咥えられると槍などの長物じゃないと届きにくい。


 咥えられた人間の絶叫で周りの人間が竦んでいる。早く殺さないと死に戻りができず〝異形〟になる。


 このままだと異形が増えていくだけだ。斑鳩はどう判断するのか。



「どうする?助けに行かないのか?異形化は傷にもよるが数分から十数分。あれだけ派手に噛みつかれていると一分ももたないかもしれないな」


 助けに行ってくれないかと思いつつ俺を見て動かない斑鳩に問いかける。


「ちっ!テメェのせいだろうがっ!テメェがコアを奪わなきゃこんな事にはなってねぇ!」


 額に青筋をたてながら斑鳩が怒鳴りつけてくる。


 だが、俺は涼しい顔だ。フード被ってるから見えないだろうけど。

 攻めてきたのは幽有斗飛悪(ユートピア)だから俺の中ではセーフ。


「言っておくが俺は簡単にはやられない。助けに行った方がいいんじゃないか?時間を掛ければかけるほど仲間は異形になっていくぞ」


 まるで悪役のような台詞を吐きながら俺は斑鳩を見る。できることなら早めに仲間を助けに行ってほしい。


 異形が増えるのは誰にとっても脅威だ。敵対してきたから俺は助けるって選択肢はないし、とっとと逃げたい。


 彼の選択がどちらだとしても安全圏がなくなった以上はショッピングモールに立て篭り続ける事はできなくなる。


 囲いがなく、一階がガラスばかりの建物じゃすぐにゾンビや異形が入ってくるだろう。


「速攻でテメェを倒して、デブも片付けるっ!」


 そう言った斑鳩が飛び込んでくる。


 逃がしてはくれないか。だが俺は時間を稼ぐだけで幽有斗飛悪(ユートピア)は瓦解する。


 焦りがあるのかさっきよりも斑鳩の攻撃が雑だ。


 右に左に振り回される拳や足をそのたびに短剣で斬り裂いていく。ダメージは微々たるものだが塵も積もれば、多少は効果が出るかもしれない。


 実際には俺が狙っているポイントは一点だけ、ここなら確実にダメージが通る。


 斑鳩が大振りになった一瞬の隙をついて攻撃に移る。


 斑鳩の右腕を外側に回転するように避ける。


 回転した勢いそのままに逆手で首筋に短剣を、突き立てる!


「がぁ……!」


 刺さったのはほんの少し、だがここには血管がある。ほんの少しでも刺されば致命傷だ。


 刺さった短剣に力を入れ、そこを支点に強引に自分の身体を斑鳩の背後に持ってくる。


 短剣が抜けて吹き出す血と首を刺された衝撃で斑鳩の身体が少し揺れる。


 その少しが命取りだ。


 斑鳩の動きが一瞬止まった時には逆の首筋に短剣を突き立てる。少し浅いがこれで十分。



「ぐっ……があぁ!」


 両の首から血を撒き散らしながら斑鳩が強引に裏拳を放ってくるがそんな適当な攻撃は俺には当たらない。



「テメェ、覚えてろ……次は、負けねぇ……」



 両手をダラリと下げて顔色は悪い。全身を血に染めて立つ斑鳩が最後に捨て台詞を吐く。


 ゆっくりと前に倒れていき、そして……ピクリとも動かなくなった。




 唐突に吐き気が込み上げてくる。


 やってしまった事に身体が震える。どんどん斑鳩の身体から血液が出て地面を赤く染めていく。


 血の匂い……自分が殺した罪悪感で気持ちが悪くなってくる。


 初めてゾンビを倒した時のような、いや、それ以上の不快感が迫り上がってくる。


「ぐぇ……」


 吐き気をなんとか抑えるように、息を吸おうとするが血の匂いで逆にさらに気持ちが悪くなってくる。


 上手く呼吸ができずよろめきながら少し離れる。その時



 ——斑鳩の死体が()()()



 俺の目の前から綺麗さっぱり、何もなかったかのように。地面に流れ出た血はなくなりその部分は黒い跡になっている。


 これが生き返る時の消えるってやつか。


 このままここにいるとセーブポイントで生き返った斑鳩がまたすぐにくるだろう。


 ……急いで離れないと。


 生き返るとわかっても不快感と罪悪感は消えない。


 肉塊の異形と戦っている人達を尻目に俺は吐き気を堪えて駐車場を歩いていく。あっちはあっちで肉塊の異形を必死で抑えているのでまだ斑鳩が負けたことに気がついていない。


 さっき食らいつかれた人はもう悲鳴を上げず咥えられたまま四肢をだらりと力なく下げている。もうすぐ異形に変異するだろう。


 今のうちに少しでもここから離れて休めるところへ行きたい。




 その時、後ろから悲鳴にも似たざわつきが聞こえてきた。


 後ろを振り向くと肉塊の異形に咥えられていた人間が


 ——〝異形〟化した


 咥えられたまま髪の毛がごっそりと抜け落ち、首から肌が白くなっていく。目鼻は白い肉でグジュグジュと埋められていく。


 完全に異形化したのだろう。肉塊は咥えていた口を開き、肉塊の身体を転がりながら異形がボトリと地面に落ちる。


「ひっ……!?」


 転がってきた異形を避けるように人垣が割れ、ゆっくりと立ち上がった異形の口元が笑う様に歪む。


 いつもの異形だ。今回は左腕が肥大化、その腕で周囲のステータス持ちを蹂躙するだろう。そして何人かは確実に異形化する……。



 俺には関係ない。ゾンビが溢れている中で人を駒や奴隷として扱おうと思う集団を助ける義理なんてない。


 できるなら全滅して欲しいぐらいだ。



 肉塊の異形と違い、片手が肥大化した異形は力が強く人間と遜色ない動きをする。


 近くにいた一人が吹っ飛ばされて動かなくなる。

 もう一人も殴られて数人を巻き込んで倒れた。

 少し離れたところにいる人達は完全に足が竦んでいる。


 全滅するか、ターゲットにされない事を祈りつつこの暗闇の中を逃げ惑うか。すぐにそうなる。


 特攻服を着た数人が囲んで攻撃しようとしているが、肉塊の異形がすぐ近くにいるので上手く攻撃できていないし防がれている。


 また一人吹っ飛ばされて転がっていく。


 肉塊の方はゆっくり人が多い方に歩いていく。集まれば集まるほど肉塊のターゲットになるようだ。



「俺の目の前でそうなるのは……無しなんだよな……」


 ——見捨てる。


 その選択肢を取ったはずなのに。


 身体から不快感は少し無くなり。


 異形が、二体いる方へ。


「助けるわけじゃない。……レベル上げだ」



 人が吹っ飛ばされて人垣が割れる。ちょうど俺の真正面。


 俺は走り出すと左右にいる人達を追い越して異形に接近する。まずは腕の肥大化した異形。


「邪魔だ。離れろ!」


 異形を囲んでいる特攻服達に声を掛けるとそのまま異形の攻撃範囲へ入っていく。


 異形は走ってきた俺を確認したのか腕が俺を捕まえようと左腕を伸ばしてくる。短剣で方向を逸らし、短剣の間合いに入り込む。


 すぐに胸に短剣を突き立て、まず一体。


【レベルが上がりました】


【人類の反逆者の討伐に成功しました】



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― 新着の感想 ―
[良い点] 理由を付けようが、それでええんよ。 状況がどうあれ、人殺しを仕方ないと割り切ってしまえば魂の変質は避けられない。 人間辞めてケダモノに堕ちるのは敗けたときや。
[一言] 面白い
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