第5話
赤城コミュニティは暗い雰囲気に包まれていた。
亡くなったって、何でだ?まさか俺がやりすぎたのか?
「すまん、久我さん。俺達がもっと警戒していれば……」
「いや、それよりも状況を教えてほしい」
息を切らせて帰ってきた俺を肉森くんが見つけ謝ってくる。
「もうすぐ会議が始まるから、久我さんも来てください。そこで詳細をお話しします」
俺が肉森くんと会議室に入った時には赤城コミュニティの代表達、優希くんや優里亜さんが既に集まっていた。
「肉森くん。それでは改めて状況の説明を」
俺が席に着くと、赤城さんが説明を促す。
「わかりました。昼のことがあった後……」
肉森くんの説明はこうだ。
俺が彼らを叩きのめした後、尋問をする為に体育館の隣にある倉庫に閉じ込めていたそうだ。手足は縄で縛っていたので監視を置いて気絶から目が覚めたら尋問を始める気だったらしい。
一度は目が覚め尋問をしていたがまともに答えるような事はなく、食事を取らせる為に数人で監視しながら手を縛っている縄だけ解いたそうだ。
初めは大人しく食事をしていた彼らだが、少し目を離した隙に隠し持っていた万能ナイフで自分達の首を深々と切りつけ自殺した。
攻撃には備えていたが、まさか自殺するとは思わず対処が遅れてしまったそうだ。
これが事件の経緯だ。
「そして四番隊隊長がこう言い残して命を経ちました『お前達の情報は【幽有斗飛悪】が手に入れた。確実に殺しにいくから待っていろ』と」
重苦しい沈黙が会議室を支配する。
情報を手に入れた、か。なぜ死ぬ必要があったのか?
「赤城さん。このコミュニティで今日外に出て帰ってきていない人は?」
優希くんが質問するが、裏切り者がいると考えているのか。だが、いたとしても彼らが自害する必要はないのではないか。それに今まで封鎖されていたのに、そんな簡単に連携が取れるとかあるのか?
自殺は捕まったことを恥じて、情報を吐かない為?そんな度胸のあるやつが存在するのか?そんなの映画や時代劇でしか観たことない。
「ああ、それはすぐに調べた。だがそんな人はいない」
赤城さんの言葉にみんな黙り込む。
「久我くんは、何か気がついた事はなかったかね?彼らを叩きのめしたのは君だろう」
気がついたことか……この結果があってこそだが気になった事はある。
「違和感はありました。彼ら……隊長の遠藤くんですが、『一回殺す』など口走っていて、その時は単に喧嘩の常套句としか思ってませんでしたが、動けない畑くんに本気で木刀を振り下ろすなど、死に対しての忌避感が薄いというか……」
慣れてしまった、と言うのもあるかもしれないが今思えば彼らはまるで一度死んでも大丈夫とでも言うような口調だった。残りの四人も隊長が叩きのめされても余裕の態度が崩れず勧誘までしてきた。
「死を恐れない……と言う事ですか?」
優希くんが聞いてくるが、それだけだと情報云々の話が繋がらないだよな。
「かもしれない。ただ情報がってのも考えると、俺達の知らない事があるのかも。……使われた万能ナイフを見せてもらえますか?」
少しすると七瀬さんが袋を持ってきてくれた。机の上に袋を置くと、中には5本の万能ナイフが入っていた。四本は自害で使われたもの。一本は特攻服に入っていたものを回収したと言うことだ。血は拭き取られているが、これで人が死んだと思うと触るのが躊躇われる。
見た限りは何の変哲もないただの万能ナイフ。刃渡り5cm程度の簡単に隠し持てる物だ。俺は無言で万能ナイフの刃を出すと机に突き立てる。
「久我さん?」
優希くんが怪訝な表情を見せるが、すぐに納得したような表情になる。
俺が机に刺したら深々と刺さったのだ。これは強化されてる。鑑定メガネで見る必要もないだろう。
「見てもらった通りこのナイフも強化されている。ナイフに詳しいわけじゃないけれどこの薄い刃で机に深々と刺さるわけがない」
「それはわかるが……それと何か関係が?」
怪訝な表情で残りのナイフを見ながら赤城さんが疑問を浮かべる。
「【幽有斗飛悪】に武器防具を強化できる〝ステータス持ち〟がいるのはほぼ確定。もしかしたら強化できるのは武器防具だけじゃなく何かしらの通信機もあるのかもしれない」
俺の【幻想拡張】みたいに。やろうと思えば大抵のものは作れるだろう。それを最大限に使われたら一つのコミュニティが他を圧倒して強力になる。
例えばの話、俺が戦車を幻想拡張で強化すれば、弾丸も燃料もいらない今までの比ではない硬さを持つ兵器だって作れるかもしれない。
自殺との関連は不明だが、もしかしたら、洗脳系のスキル持ちもいるかもしれない。死を恐れぬ死兵を作り特攻させ何かしらで情報を集める。捕まったら自害させるなどどこかで見たようなシチュエーションだ。
そんなことができても不思議じゃないほどに【スキル】は恐ろしいものだ。
「わかった。では優希くん、優里亜さん、明日からはコミュニティの守りを固めるために探索班の担当を変更したいと思うのだが、いいかね?」
「ええ、そうしましょう。半分は残り半分は物資調達。ステータス持ちじゃない人にも荷物持ちをお願いすれば供給量はそれほど減ることもないと思います。メンバーに関してはこちらで調整します」
赤城さんがそう提案をしてくる。そこで一旦会議は終わり解散となった。
俺が自分が使っている教室に帰ると愛理さんが待っていた。
「大和さん。おかえりなさい」
何か本を読んでいたのだろう。パタンと閉じると笑顔で迎えてくれる。
「ただいま。そうだ、時間があるならちょっと手伝ってほしいことがあるんだ。これを見てほしい」
俺は回収してきた〝設定集〟を愛理さんに見せる。
「これは……」
中を見た愛理さんが驚いたようにページをめくっている。
「ああ、なぜこんなものがあるかわからないが、〝タイプ持ち〟と言われている人達の情報が書いてある資料だ。これを書き写したいんだけど手伝ってもらえないかな」
念のためだ。地下であった不可解なことがこのコミュニティに影響するのは俺は望んでいない。せっかく上手く行き始めているのに混乱させるわけにはいかない。なので原本だと思われるこれは俺が所持する。ただ情報は共有しておきたいから写本を作って渡したい。
愛理さんが快く頷いてくれる。
「これを探しに行っていたんですね。任せてください。二人でやればすぐに終わります」
アイテムボックスからノートとペンを取り出すと資料を半分に分けて写しにかかる。
暗くなった教室に蝋燭の灯りを頼りにペンを走らせる音だけが響く。
「あの……やっぱり人間同士で戦うことになるんでしょうか?」
ペンを止めて愛理さんを見ると、蝋燭の明かりに照らされた顔が不安そうな表情をしている。
何と答えたらいいものか……ゾンビとは戦える、だが人間と戦うのは殺すことになりかねない。俺だってできるかどうかはわからない。
それを彼女、いやこのコミュニティにいる学生達にやれと言うのは酷だと思う。
「戦うことにはなると思う。けど無理に殺す必要はないかな。愛理さんなら足を撃ち抜いて動けなくさせるってこともできると思うし」
そう答えて自分のダメさ加減に嫌気がさす。もっと安心させるような言葉を言ってあげられないものか、だが自分でもできるかわからないことを言う気にはなれない。
たぶん、俺の顔は安心させるような表情はできていなかっただろう。主人公なら、復活したっぽい優希くんあたりなら堂々と自信満々に〝俺が守るから大丈夫〟って言えるんだろうな。
彼女が不安になるような事を言ってしまったかと少し後悔していると、愛理さんの反応は違った。
「大和さんがそう言うなら何とか出来そうな気がします」
何処にそんな要素があったかわからないが、愛理さんは安心したように、またペンを走らせる。
ちょっと意味がわからない。




