第27話
距離を取られていた?てか何でワンド持ってるの!?
「ちょっと待って!どういう事?」
俺は焦りながらいつ攻撃されてもいいようにしっかりと優里亜さんを見る。魔法を見たいと思っていたがそれは今じゃない。
スッとワンドを俺に向けながら優里亜さんは教えてくれる。
「私、木を見たの。不自然にアスファルトから生えている木。お兄さんも見たことあるでしょ?私はそれを夜見たの。これで、わかったでしょ?」
「っ!?……」
そういう事か。確かに不自然に生えている木を俺も見た。そう、俺も見たんだ、夜に。夜に見ると不自然に薄らと魔力で光る木。
そして薄らと魔力を出している俺の身体。優里亜さんは同質のものだと考えている。何で俺の身体がそんな事になってるのか身に覚えが無さ過ぎて釈明の言葉も浮かんでこない。
「心当たりがありそうね。それが答えじゃないかしら。アロー」
優里亜さんの目の前に岩の塊ができる。すぐにそれが俺に向かって飛んでくる。これが土属性魔法か!?俺は避けることなくその場に佇む。これは威嚇射撃。
アローといわれた岩の塊は俺の肩を掠めることなく素通りして通り過ぎる。
「動かなかったところを見ると威嚇だとわかってたみたいね。白状しなさい。次は当てる。できないと思う?何人ものゾンビになった知り合いを私達は討ってきた」
「誤解だっ!俺はただの〝一般人〟だ」
俺の言葉に眉を吊り上げ、彼女の周囲に岩の塊が二つできる。呪文などを唱えなくても魔法が使えるのか。
「優希に勝てる〝一般人〟なんて存在しないっ!アロー」
ダメだ。説得の言葉が思い浮かばない。今度は直撃コース。俺は左に避けるとさらにそこにも飛んでくる。魔法がどんな挙動をとるかわからない以上ギリギリで避けるのはさけたい。接近したとたん爆発なんてされたら洒落にならないからな。
迫ってきた二つ目を大きく避けるとどんどん追加でアローが飛んでくる。後ろで屋上に張り巡らされているフェンスのひしゃげる音が聞こえてくる。
「俺はその木とは無関係ですっ!」
俺は円をかくように走りアローを避けていく。優里亜さんはもう俺の言葉は聞いていない。逃げたくても出入り口は優里亜さんの後ろにある。このまま回り込めればいいがそれはさせてもらえないだろう。
俺が逃げようとしているのを察したのだろう。前方にアローが着弾する。着弾した屋上のコンクリートにヒビが入り砕けちる。下階までは貫通してないがあんなのまともにくらったらただでは済まない。
ぞっとしながらどうすればいいか考える。考えるまでもない、結論、無力化。
優里亜さんの勘違いなのは仕方ないとは思う、だが俺に証明する手段がない。そして逃げ道も塞がれている。俺を追い詰めないでほしかった。
「逃がさないわ。お兄さんが何も持っていないのは確認済み。諦めて白状なさい」
優里亜さんが俺の周りを回るように歩いていたのは俺が武器を持っているかの確認と逃げ道を塞ぐためか。確かに今の俺は上着を着てないシャツだけなので何処にも武器を隠せない。
アイテムボックス化してあるポーチも外したままだ。まさか戦闘になるとは思ってもみなかった。だが、ゾンビとの戦いで培ってきた避ける技術と反射神経は問題なく使える。
俺は優里亜さんを観察する。アローが出せるのは二個同時が限界か?だが思い込ませる為に出してない可能性もある。
そして常に一つは自分の周囲に待機させている。まだ何か隠し球があるんじゃないか?
アローを右に左に大きく避けながら俺はゆっくりとだが確実に優里亜さんに近づいていく。優里亜さんはその分だけゆっくりと下がっていく。
「止まりなさい!それ以上近づかないでっ!」
少し焦った声で優里亜さんが叫ぶ。いや、彼女の事だ。それすら布石の可能性がある。
「そのアローを止めるのが先だ」
今止まったら直撃するでしょうが!コンクリ抉る威力は痛いじゃ済まないんだぞ!アローを躱しながら近づく俺、下がる優里亜さん。
とうとう優里亜さんが屋上の出入り口に背中が当たる。ここがチャンス。
俺は迫ってきたアローをギリギリで躱すと一気に踏み込んでいく。一瞬だけでも優希くん並みに動けるならいけるはず。
近づく俺に焦った表情見せた優里亜さんだが、後二歩で手が届く距離に来たところでニヤリと微笑む。
「掛かったわね。バレット!」
優里亜さんの左上に待機してあった塊が弾けるようにバラバラになり範囲を広くして俺に迫ってくる。こんなの食らったら顔面と全身ぐちゃぐちゃになるんじゃないかと恐怖しながら、俺も答える。
「それはこっちのセリフ」
バレットが弾けた瞬間に俺の身体が加速する。代わりにバレットのスピードが激減している感覚に陥る。
バレットが俺に届く前に、俺の身体は優里亜さんの右横、安全地帯に移動する。彼女が俺に反応する前に右手のワンドを叩き落とす。
――真上!
さらに真上から岩塊が落ちてくる。俺は優里亜さんにタックルするように彼女に突進し岩塊を躱すと同時に彼女を押し倒す。
「っ!……ぐっ……!?」
押し倒された痛みか、倒れた拍子に息ができなかったのか優里亜さんは苦しそうな表情を見せる。
「俺のか……がっ!?」
その瞬間俺の後頭部に激痛が走り優里亜さんに覆い被さるように倒れ込む。何が起きた!?まだ何かあったのか!?
だが下にいる優里亜さんは苦しいのかただもがいているだけで彼女の攻撃ではない?
涙目になりながら体を起こし後ろを振り向くと、そこには冷めた目で俺達を見つめる
——愛理さんがいた。
扉の真前で無力化したので、屋上の騒ぎに気がついた愛理さんが見に来たみたいだ。俺の後頭部の衝撃は……愛理さんが扉を開けた時にドアノブが直撃したものらしい。
無言で見つめ合う俺と愛理さん。
だんだん俺の全身が冷えていき、冷や汗がダラダラ出てきているのを自覚する。
釈明だ!何か言わないと!愛理さんが見た時はドアノブが直撃してたとは言え、完全に優里亜さんに覆い被さっていた。これは厳しい……。
「七瀬さん危険よっ!彼から離れてっ!」
この状況で七瀬さんに警告を発する優里亜さん。起きあがろうともがいているが俺が乗ったままなので起き上がれない。
「へぇ……」
底冷えするような冷たい声で愛理さんが声を出す。
あっ、これキレてるやつですよね?
俺は一つ咳払いをすると、ゆっくりと優里亜さんの上から退いてあげる。どうすればいいかわからない……。
俺が退いたと同時に優里亜さんが慌てて立ち上がり俺から距離をとる。ワンドは俺の足元に転がったままだ。
「七瀬さん、彼のいうことを信じちゃダメよ!」
俺が理由を説明しようとするとそれを感じ取ったのか優里亜さんが先に警告をしてくる。
ちょ……空気読んで欲しい!紛らわしいこと言わないでくれるかなっ!?
「愛理さん。周りを見てくれるかな。ほら、フェンスが千切れてぐちゃぐちゃだし、コンクリもボコボコでしょ。優里亜さんが突然襲いかかってきて危ないから取り押さえただけなんだ」
俺は悪くない。この状況を見ればわかってくれるはず。愛理さんも周りを見てくれた。これで大丈夫。
「何をっ!その男は危険なのっ!私達は騙されているの」
優里亜さんが必死に愛理さんに説明しようとしているが聞いちゃいない。
「二人とも……」
「はいっ!」
「はい……」
決して大きな声ではないが冷たい声で愛理さんの言葉が夜の屋上に響き渡る。雰囲気に押されて二人して返事をしてしまう。
俺なんて背筋伸ばして直立不動だ。
「もう、夜なんで静かにしてください」
そういうと愛理さんは静かに階段を降りていった。愛理さんが見えなくなると俺もささっと階段を降りて屋上から逃げ出す。
自分が使っている教室の前に戻ると愛理さんが立っていて待っていた。
そこから俺は愛理さんに事細かに事情を説明する羽目になったのだった。
◇◇◇
イトウ ユリア
タイプ:遠距離Bタイプ
レベル:14
HP:140
MP:154
筋力:C
耐久:C
俊敏:B
魔力:A
精神:B
固有スキル:流星魔法
スキル:魔力操作 土属性魔法
初期装備:マテリアルワンド




