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テンプレ異世界から無事に帰れた後、美人で可愛い魔王を拾ったので一緒に住んでみた  作者: 春樹凜


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7.魔王と過ごす夜①


 とにかく善は急げとばかりにマンションのエントランスへ向けて歩きかけ、ここで俺はあることに気付く。


「魔王さんのその角って、隠せたり見えないようにはできるのか?」

「これか?」


 目の色はコンビニの店員さんみたいに、カラコンですって言うか、もしくは珍しいが元からそういう色なんです、で誤魔化せるだろうが、角はちょっとまずい。


 元から角が生えてる人間はこの世にはいないし、本物だと思われはしないだろうが、コスプレ臭が強すぎる。


 今のところ誰かと遭遇する気配はないものの、見られたら普通に怪しい。


 だからそう尋ねたら、すっと異物が消えた。


「これでよいか?」


 すると、あの角がなくなっただけで、そのコスプレ臭が消えた。

 ……やっぱ魔王って美人だよなと改めて認識する。


 そして今度こそとマンションの中へ向かうと、後ろから魔王が大人しくついてくる。

 そのまま鍵をタッチして自動ドアを開け、エレベーターに乗り込み15のボタンを押すと、すぐさま上昇する。


 その瞬間魔王は赤い瞳を輝かせた。


「なんと! この世界はすごいのだな! 実は外から大きくて頑丈そうなこの建物を見た時も思ったが、いつでもついている灯りといい、勝手に開く扉といい、この上に上がる妙な箱といい、魔法がなくともこのようなことができるとは……。我のいた魔界や主の召喚された世界とはまるで別物ではないか!」


 興奮した面持ちで喋る魔王は、先の戦いで王女たち以下数名をぼこぼこにしていた最強の魔王と同一だと思えないほどだった。


 そんな魔王をまるで小さい子供のようだなと思いつつ、俺は苦笑交じりに答える。


「そうそう。マジで全然違うからな。魔王さんの言うようにこっちには魔法はないが、代わりに便利なものがたくさんあるんだよ。食事もまったくもって比べものにならない。だからこそ俺はこっちの世界に戻りたかったんだけど」


 そんな事を言っている間にエレベーターは予定階に到着し、俺は外廊下の一番端にある部屋へと向かう。


「なあ、腹減ってないか? 飯も色々買ってきたから、どうせなら一緒に食べよう。あ、でももしかして魔族の食事って、血の滴る人肉ってことはない……よな?」

「安心せい。我らの食事は人間とそう変わらん。第一人間の肉など、臭味が強い上に食べられたものではないという話を聞いたことがある」


 さすがに人肉の入手は無理だったからほっと胸を撫でおろす。

 俺の身を差し出すつもりもないし。


 あと、その感じだとやっぱり魔族の中には人肉食べたことがある奴いるんだな……。

 この魔王がそのタイプでなくてよかった。


「我としては、肉といえばやはり牛に限ると思うのだ」

「奇遇だな。俺もそう思う。でも魔界にも牛っていんのか?」

「ミノタウロスという魔物だ。かなりの希少種だが脂も乗っており非常に美味な食材なのだ。よって人肉なんぞ必要ない」

「え、魔物って魔族の仲間じゃ」

「あれは動物の一種だ。主らで言うところの家畜と変わらん」


 そういやそんな名前の魔物を王女たちが倒していたな。

 確かに見た目はもろ牛だったし、俺も一瞬食べられるんじゃないかって思って聞いたら、魔物を食べるなんてとドン引きした目で見られた。

 魔王の口ぶりからして相当に美味しそうだし、やっぱ一度食べてみればよかった。


 そんなことを微妙に後悔しながら、俺は鍵を解除し、体感的には久しぶりの我が家へのドアを開く。


「どうぞ。あんまり綺麗じゃないと思うけど」


 が、俺は忘れていた。


「…………その、なんだ。ここは本当に主の部屋、なのか」


 魔王がすごく言いにくそうに口をモゴモゴさせている。

 なんか変なもんでもあったかなと暗闇の部屋を覗き込み、そこでようやく、この部屋の惨状に気が付いた。


 俺は昔から掃除や片付けが苦手だった。

 二十四時間ごみ出し可能なマンションに住んでおいて、その利点をまったく活かしきれないほどに。


 昔彼女がいた時は、いつ泊まりに来てもいいようにとなんとかそれなりを保っていたが、別れた途端まったくやる気が出ず、そもそも仕事に邁進していてここには本当に寝に帰っている状態ということもあり、久しぶりに見た俺の部屋は、自分でもびっくりするくらい、お世辞抜きでマジで汚かった。


 生ゴミ系は害虫が出たら嫌なのでこまめに捨てていたから異臭はしない。

 

 だが、床は────かろうじて見えるが、服とか書類とか諸々がその辺に散乱していて、奥のリビングも似たような状態なのがここからでも分かる。

 

 正直今すぐドアを閉めてどっかに隠すなり何なりして、この惨状を見せた事実を無かったことにしたかったが、今更である。


 細かいことはいいかと早々に諦め、電気をつけながら靴を脱ぐと魔王を中に招き入れる。


「あー、大丈夫、虫とかはいないから。多分。心配なら靴のままでもいいよ」


 たが魔王は首を横に振る。


「その言い方からするにここは土足ではないのだろう? 案ずるな。血肉が撒き散らされていた戦場よりもこの部屋はずっと綺麗だ」

 

 そんな血生臭いスプラッタホラーな場所と一緒にしないでほしいが、彼女なりのフォローなんだろう。

 

 一応客人用にと買っていた新品のスリッパを下駄箱から出して魔王の前に置き、先にリビングへと向かう。

 

 部屋の中央には、まるでここの主だと言わんばかりに積み上げられた洗濯済みの山があった。


 中には下着もたくさん埋まっている為、その山ごと棚の中に無理やり押し込み、書類系はずざざざと壁の端に追いやり、ダイニングテーブルの上の物も端に寄せスペースを作っていたところで、魔王がやってきた。


「今場所開けたから、そっち座ってくれ」

「感謝する」


 興味深げに部屋の中をキョロキョロ見渡しながら、勧められた椅子に座る彼女の前に、コンビニの袋から出した食べ物を大雑把に並べる。


「そういや魔王さんの服って綺麗だよな。戦っている時結構血塗れな上にボロボロになっていた気がするのに」

「再生する過程で、傷も服の汚れも全てなかったこととなる。ついでに魔力も戻ればよかったのだが……。魔素の少ない世界だからかそれは叶わなかったな」


 なるほど。

 道理でさっき魔王に体を寄せられた時も、血生臭いというよりいい匂いがしたはずだ。

 

 ということはあの香りは魔王自体の体臭なんだろうか……って、これ俺口に出したら変態認定されそうな事案だな。


 一方の俺はというと、戦い直後の俺として再転移したわけで、お世辞にも綺麗とは言い難い。


 だから食事よりも先にシャワーを済ませてしまうことにした。


「おにぎりはこんな感じで、ここ引っ張ってしたらフィルム開けられる。サンドイッチもここをピッてしたら大丈夫。俺ちょっと汗流してくるんで好きに食べててくれ」


 それだけ伝えてまだ中に商品が残っている袋を手にしてキッチンへ行き、速攻で冷やし直す為酒は冷凍庫に、それ以外は冷蔵庫や棚にしまって浴室へ向かう。


 着ていた服はさすがに処分することにして、下着や籠に入っていた未洗濯の服を一緒にドラム式に放り込んで、俺が明日仕事から帰ってくる時間に終わるよう予約し、シャワーを浴びる。


 異世界での水浴びばっかだった頃と比べると、快適の一言に尽きる。


 なかなか泡立たなかった向こうの石鹸と違って、ポンプを押した瞬間泡となって出てくるボディーソープに、俺はこれほど感動を覚えたことはない。


 それから部屋着に着替え、髪を拭きながら戻ったら、魔王は俺が立ち去る前と同じ姿勢のままで、食事に手を付けていなかった。


「食べてないのか」

「家主を差し置き勝手に食べることはできん」

「さいですか」


 律儀な人だ。

 いや、人じゃない、魔族の長である魔王様か。

 

 なら一緒に食べようと、即席みそ汁を飲むためのお湯を沸かしに行くと、ついでに冷凍庫からハイボールと酎ハイを取り出し、魔王の前に置いた。


「さて。魔王さんって酒はいける口か?」

「ワインならばよくたしなんでおったが」

「それは買ってないけど、コレどうっすか? レモン味のしゅわしゅわするやつとか」


 と、口ではもごもごと、


「世話になる身で酒を飲むなど……」


 と言っているものの、魔王の目は欲望に忠実で、飲んでみたいと訴えていた。

 なるほど、いける口とみた。


 だから俺は笑顔で酎ハイの缶を魔王に差し出す。


「一人で飲むのもあれだから、できれば一緒に飲んでくれる方が俺は嬉しいんだけど」

「そうか……。ならばありがたくちょうだいすることにしよう」


 そしてキラキラした瞳で缶を見つめる魔王に、開け方をレクチャーする。


「ここをこうすると、ほら」

「むむ、ほう、なるほど開いたぞ!」


 プシュッという音は何度聞いても爽快感があっていい。


 上手に開けられ無邪気な笑みを浮かべる魔王に、そのまま缶をこちらに持ってくるよう促し、俺のハイボールの缶とこつんと合わせた。


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