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テンプレ異世界から無事に帰れた後、美人で可愛い魔王を拾ったので一緒に住んでみた  作者: 春樹凜


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34.遊園地での遭遇②


 昼を食べた直後にアクロバティックな乗り物はどうかということになって、いったん俺達は絶叫コーナーを離れ、ほのぼのとした乗り物が多くあるエリアへと移動した。 


 ここには子供でも乗れそうなメリーゴーランドやコーヒーカップがあり、他にも小動物と触れ合えるエリアや、ヒーローショーをするステージがある。


「ヒーローショーとは、もしやあれか。我のような人類の敵に、勇者のような人間が立ち向かうという類いの」


 小声でのマオに対し、俺も同じ声量で返す。


「それ、自分で言っちゃうのか」

「事実であろう。いつの世も、魔王とは人間を脅かす敵なのだ」


 俺にとってはマオは救世主であり、ただの可愛い同居人に過ぎないが、世の中的にはマオの言っていることは間違っちゃいないだろう。


「それで、あの、日朝のテレビでやっているようなものをあのステージでするという認識で合っておるか?」

「だと思うぞ」


 するとマオの目が途端に尋常じゃないくらいに輝く。


 マオはこっちのテレビ番組の中でも、特に料理系のやつと、それから子供の頃は俺もよくかぶりついて見ていたあの戦隊モノの番組が大層お気入りに入りらしい。


 今からちょうどヒーローショーがあるんだろう。

 会場の席は、既にたくさんの家族連れで埋め尽くされていた。


 にしても本当に、えらく盛況だなぁと思いつつ今からの演目を確認すると、目の前のポスターにマオは興奮の声を上げた。


「なんと! これから始まるのは、我が毎朝見ている戦隊シリーズの『バクレツジャー』のショーらしいぞ!!  しまった、絶叫系のアトラクションばかり確認をして、こちらのエリアにはまったく目がいっておらなんだ。我としたことが不覚であった……!」


 マオの声が聞こえたらしく、先に行っていた夏樹たちも戻ってきた。

 そして分かりやすく目の奥に星をチラつかせているマオに、千草さんが尋ねる。


「マオさん戦隊シリーズ好きなんですか?」


 そうしたらマオは非常に力強く頷くと、熱く良さを語りはじめた。


「我はな、この番組がとても大好きなのだっ! だってカッコいいではないか。弱きを助け強きを挫く、五人のヒーロー。時に悩み、時に仲間同士で喧嘩をし、それでも絆を深めつつ巨悪に立ち向かうところが、我はとても気に入っておる。アクションもキレがあって、いつも我はその動きに見入ってしまう。あとやはり最後に合体してロボットになり、敵を倒すシーンは圧巻であるし感動する。仲間とはよいものだ」


 仲間といえば、魔族は基本単独プレイだったもんな。

 四天王だって別々に襲ってきたし。

 まあ、マオの場合、一人でも十分に強すぎて、変に仲間とかいない方が戦いやすいのかもしれんが。

 あと変態四天王と一緒に戦うのは、なんかマオが地味に大変そうだ。

 

 しかし偶然とはいえ、マオが好きな戦隊モノを間近で見られるなら、俺は一緒に見てもいいかと思った。

 ただ夏樹たちはどうかなとちらっとそっちに目線を送ると、俺が何か言う前に先に夏樹が口を開いた。


「それなら見ていこうか。後ろの方だったらまだ席は空いてるし」

「よいのか!?」

「いいよいいよ。僕もこういうの見るのって子供の時以来だから、ちょっとワクワクしちゃうな」

「私も兄がいてたまに連れられていましたので、夏樹さんと同じで久しぶりです」


 俺も異論はないしってことで、せっかくだから大人四人で横並びになってショーを観戦していくことにした。

 舞台は少し遠いが、ちびっこたちの邪魔をするわけにはいかんし、ちゃんと見えるからいいだろう。

  

 しばらくするとショーが始まった。

 流れでいえば、よくあるヒーローショーとあまり変わりはない。


 怪人が司会のお姉さんを捕まえて、彼女を盾にしてヒーローたちが攻撃できないのをいいことに、手下たちに攻めさせる。


 そこでリーダーであるレッドが、


「ここにいる子どもたちの声援があれば、敵を倒せるパワーがたまるから、みんな、応援してくれっ!」


 と熱く叫び、それに応じるように見ている子どもたちが必死になってヒーローたちに声を届ける。

 それらが力になって、最終的にはヒーローが見事に勝利を収めて、敵を倒すというものだ。


 当然マオもちびっこたちに負けじと、声を張り上げてヒーローに声援を送っていた。

 それがあまりにも大きな声で、なおかつ大人のものだったからなのか、被り物をしているヒーロー達にもバッチリ聞こえたようで、皆が声の方に顔を向けた。

 だがそれもほんの一瞬のことで、すぐに敵に視線を戻したヒーローたちは、そこから快進撃を見せる。


 まずは手下どもを華麗な技を繰り出して駆逐していく。

 そういう動きの出来る人が中に入っているからだろうが、皆動きのキレがいい。

 特に目を見張ったのは、ピンクのヒーローだ。

 正直主役のレッドを喰う勢いで、一人だけレベルが違う。


 特に雑魚敵を倒したあと、前に人質を差し出してきたボスに対して、その人質を避けるように正確に、けれど美しい飛び蹴りを敵の顔に一発お見舞いした場面は、見事としか言いようがなかった。

 

「あのピンク、なかなかやりますね」

「体格も小柄だし、役柄的にも女の子かな」


 夏樹たちも同様のことを思ったようだ。


 だが、マオだけは一人反応が違った。

 目は未だにキラキラしているものの、その顔は何やら考え込んでいるような、そんな感じだった。


「どうした?」

「いや、あの蹴りに我は見覚えがあってな。……もしかしたらと思うのだが」

 

 そして再度ピンクが飛び蹴りをくらわし、明らかに俺たちの方に向かって決めポーズを見せつけてきたところで、マオの口からは予想外の言葉が飛び出した。


「やはりそうか。晃、あれはおそらく瑠衣ちゃんだ」

「…………って、一ノ瀬さんのこと、か?」


 聞くまでもない。

 マオの知る、そして俺の知る中で瑠衣ちゃんなんて人間は、一人しかいない。


 しかし、あのピンク、顔なんて全然見えないのに、なんでマオはそう思ったのか。


 俺が尋ねる前に、こっちの聞きたいことを察したらしいマオが、先に答える。


「あの飛び蹴りの角度、スピード、形……あれは瑠衣ちゃんが前に万引き犯を捕まえる時に我の前で見せたものと、まったく同じものであった。あのようなキレのある美しい飛び蹴りをする人間が、そうそう近くに二人とはおらん」

「だから一ノ瀬さんだと。だけど彼女、つい今朝までコンビニにいなかったか?」

「あちらの方をあがったら、次に別のバイトに行くと言っておったであろう。つまりあれが瑠衣ちゃんの次の仕事だと、そういうことであろう」


 まあ、一ノ瀬さんの実力はマオづてだが俺も聞いていたし、マオがそう言うんなら、多分それで合ってる気がする。


 ……道理でさっきから、やたらピンクだけこっち見てくるはずだ。

 多分マオのさっきの声で、こっちの存在に気付いたんだろう。


 しかし、夜勤のコンビニも、朝のコンビニも、そしてその後に体力的にハードなもんまでこなすとは。

 そういや前に、着ぐるみバイトもしてるって言ってたっけ。

 アレもまあ、見ようによっちゃあ着ぐるみか。

 何にせよ顔から爪先まで覆われているのは事実だ。


 その後、お姉さんも助け出され、ヒーローたちが完全勝利を収めると、これにてショーは終了だ。


「最後にヒーローたちと握手をしたい子たちは、前に来て並んでねー」


 お姉さんの言葉に、マオはソワソワとお尻をもぞもぞさせる。


「行ってきてもいいと思うぞ」


 並んでるのは子どもたちが多いが、中には大人も混じっている。

 だがちょっと恥ずかしそうにしているので、俺もマオに付き添って並びに行くことにした。

 ピンクの中身も気になっていたことだし。

 もしも本当に一ノ瀬さんがいるなら、何らかの反応はあるだろう。


 俺たちは最後尾に並び、グリーンから順番に手を握っていく。

 そしてレッドの一人手前のピンクの前に立った時、周囲に子供もいないからだろう。

 ピンクの中から聞き覚えのある声がした。


「今朝ぶりっすね、マオさんに霧島さん。まさかこんなとこで会うなんてビックリっすよ。世間は狭いっすね」


 顔を覆っているマスクのせいで声はくぐもっていたが、間違いなくそれは一ノ瀬さんのものだった。


「ほう、やはり瑠衣ちゃんであったか。とてもカッコよかったぞ」

「うちに気付いてくれたんすか!? ありがとうです! ちなみにこのあとは絶叫ちゃんの着ぐるみの中に入って閉園まで園内うろうろしてるんで、よかったら写真撮りに来てくださいっす」


 彼女のいう絶叫ちゃんとは、ここの遊園地のマスコットキャラで、三頭身の女の子だ。 

 確かに小柄だったし、一ノ瀬さんの身長にも合いそうだが、このハードな動きの後に着ぐるみの中に入るとか、体力がえげつない。

 俺ならこのヒーロー役だけで既にバテて動けないだろう。

 これが若さということか。

 もしくは鍛えてるから体力があるのか。

 多分どっちもだろう。

 

「そうか。了解した。しかし体には気をつけるのだぞ。水分補給もしっかりとな。では、また会いに行く」

「おう、見つけたらダッシュで撮りに行くわ」

「待ってるっすよ!」


 俺たちは小声でそう言い合い、ピンク改め一ノ瀬さんと握手をすると、最後にレッドとも握手をして夏樹たちの元へと戻った。

 

 しかし、偶然とはいえこうも知り合いに会うとはな。

 さすがにもうないよな、と思っていたが、二度あることは三度あるってのはよく言ったもんで、この後俺たちは別の知り合いにも遭遇することになる。



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