聖教国聖都
アクセサリーだけとはいえ、イーリスにもブルースフィアの装備スロットが解放されたから、早速アクセサリーを装備してもらうことにした。
定番のサクリファイス・リングにガード・ネックレスは当然として、あとはプレインズフィールドとエメラルド・リボンだ。
イーリスには装備品を偽装するプレインズフィールドはあまり意味がないんだが、LUKブースト値としてはこれが一番だからっていう理由になる。
エメラルド・リボンは女性専用装備だが、沈黙無効に水魔法と風魔法にブーストがかかるから、イーリスには相性が良いと思う。
まあエメラルド・リボンを選んだ理由は、アリスと同じポニー・テールにしたかったからなんだが。
本人が気に入ってるから、別に構わないんだけどな。
実際精霊の高MP、MND、INTが、更にブーストされてるから、魔法の威力がどんなもんになってるのか、考えるのも恐ろしいぐらいだ。
こんな感じで、MNDとINTは俺より全然高いからな。
「今更の話なんだけど、精霊って武器とか装備できるものなの?」
「聞いたことないけど、人間とも触れ合えるんだから、そんな精霊もいるんじゃないかな?」
中級精霊までは掌サイズでしかないから、装備を作るのも大変だし、精霊と契約している精霊魔法士は少ないから、普通に考えたら精霊用の武器防具は無いだろう。
だけど上級精霊に進化したら、人間サイズに体格を変化させられるから、そうすれば武器防具も使えるようになるはず。
だけど上級精霊は、ハイクラスどころかエンシェントクラスすら凌駕する魔力を持ってるって聞いたことがあるから、武器を使う必要性は薄い。
人と触れ合えるどころか関係まで持てる訳だから、武器を使う上級精霊もいるかもしれないが、ヘリオスフィアにどれほどの数の上級精霊がいるかは分からないし、そもそも普段の精霊は人間の目には見えないから、調べるのは無理か。
装備が決まってから狩りを開始したんだが、予想通りイーリスの魔法の威力はとんでもなく、SランクどころかGランクモンスターでさえ一撃、しかも素材として使えるような倒し方をする余裕まであった。
負けじとアリスも積極的に狩りをしてたし、俺もレベルを抜かされるんじゃないかと思ったから、普段より頑張ったよ。
他のみんなは呆れてたけど。
夜は夜で、ハイアルディリーに進化したアリスのおかげでみんなの負担は減ったようだが、代わりにアリスの負担が増した感じがする。
イーリスはまだ加われないと思ってたが、小さい体を活かしてくるとは思わなかったし、それもあってアリスの負担は予想より増えてないとも言われたが。
そんなこんなでフォルトハーフェンを発って1ヶ月後、俺達はヴェルトハイリヒ聖教国聖都ゼーレテンペルに到着した。
ゼーレテンペルの都は、白い石造りの建物が立ち並んでいて、その中にひと際大きな樹が目に付く。
あれがヴェルトハイリヒ聖教国にある世界樹なのか。
「ここから見ても、神聖な雰囲気が感じられるのね」
「ところどころ人工物的なものが見えるけど、聞いてた通りあの世界樹が大神殿そのものなんだね」
初めて見たアリスとルージュも驚いているが、俺も驚いたよ。
だけど本当に神聖で荘厳な雰囲気が感じられるし、ここがスフェール教の総本山だってのも納得だ。
「エリザさんは来られたことがあるんでしたよね?」
「1度だけですけど。カルディナーレに限らないお話ですが、北大陸の王家の者は5歳の誕生日を迎えると、必ずエスペリオ大神殿に参拝と洗礼に来ることになっていますから。ああ、もちろんヒューマン至上主義国は来ませんよ」
「そりゃそうだろ」
スフェール教の教義だと、神々は全ての人種を等しく祝福してるってことになってるのに、ヒューマン至上主義はその名の通りヒューマンを至上の種族としてるから、相容れる訳がない。
だけどグレートクロス帝国以外で、ヴェルトハイリヒ聖教国に攻め入った国は存在していないし、今ではそのグレートクロス帝国もスフェール教を国教としてるから、国土の広さがどうであっても、ヴェルトハイリヒ聖教国が滅ぼされることはあり得なかったりする。
フロイントシャフト帝国とグレートクロス帝国っていう、北大陸の2代列強を同時に相手することになるんだから、兵を挙げた時点で滅亡が確定するからだ。
「それで思い出したんですけど、エーデルストってどうなったんですか?」
「ああ、そういやどうなったんだろうな」
エリザのその説明で、エレナが思い出したように口を開いた。
俺もそれで思い出したが、エレナの故郷でもあるエーデルスト王国は、ガチガチのヒューマン至上主義者である王太子妃のせいで、王太子どころか国王ですらヒューマン至上主義者へと変貌してしまっている。
以前は隣接してることから、フロイントシャフト帝国とも良好な関係を築いていたんだが、そのせいで関係は極度に悪化しているし、その関係は数ヶ月前にエリザが違法な手段で奴隷に落とされてしまったことで敵国と断じれるものになってしまった。
更に俺がエリザを救い出し、エリザを奴隷に落としたナハトシュトローマン男爵に神罰が下される事態になったことで、フロイントシャフト帝国はエリザの故国カルディナーレ妖王国に、贖罪の意味も込めて近隣のヒューマン至上主義国を滅ぼすための援軍を派遣し、実際に滅ぼしてしまった。
それに焦ったエーデルスト王国は、フロイントシャフト帝国がカルディナーレ妖王国に援軍を派遣している隙に挙兵し、フロイントシャフト帝国に宣戦布告まで行っているんだが、それを見越していたフロイントシャフト帝国も、迎え撃つべく兵を挙げ、それを撃破したらしい。
ここまでがフォルトハーフェンを発つまでに聞こえてきた噂になるんだが、その先については全く分からない。
なにせ俺達は、海の上にいたからな。
順当に行けばエーデルスト王国王都に攻め入って、王や王太子、そして元凶でもある王太子妃の首を取ってるんじゃないかと思うが。
「そっちはゼーレテンペルでも分かるでしょう。それよりもエーデルストの王太子妃の母国の方が、どんな動きをしてるのか気になるわ」
「ああ、それは確かに」
エーデルスト王太子妃の母国か。
確かリューグナイト王国っていう国で、グレートクロス帝国の隣国だったはずだな。
谷を挟んでることもあって直接的な侵略は難しいらしく、グレートクロス帝国からの攻撃を受けたことはないそうだが、その隣はグレートクロス帝国の属国のセブンシーカー公国だから、そっちとはよく国境で小競り合いを起こしてたと思う。
「そっちもゼーレテンペルで、情報を集めておこう」
「しばらくは北大陸から離れるけど、帰ってきたら情勢が大きく変わってるかもしれないわね」
だな。
多分エーデルスト王国もリューグナイト王国も亡国まっしぐらだろうが、どこの国が統治するかっていう問題があるし、どちらもフロイントシャフト帝国がってことになったら、さすがにグレートクロス帝国も黙ってはいないだろう。
そんな事態を回避するために、フロイントシャフト帝国の特使がグレートクロス帝国に向かい、秘密協定を結んだっていう噂がある。
国境を接してる関係から、エーデルスト王国はフロイントシャフト帝国が統治するが、リューグナイト王国はグレートクロス帝国に、攻略から統治まで任せるっていう内容のようだが、あくまでも噂でしかないから、本当に特使が向かったかどうかも分からない。
ただエーデルスト王国はフロイントシャフト帝国に宣戦布告してるし、実際に戦端も開かれてるから、リューグナイト王国が援軍を出している可能性はある。
それでもフロイントシャフト帝国なら勝てるようだが、犠牲が増えるのは間違いないし、その後で挙兵するかもしれないグレートクロス帝国の相手はさすがに厳しいだろう。
だから特使がグレートクロス帝国に向かったっていう噂は、多分真実なんじゃないかと思う。
だけど、もしグレートクロス帝国に特使を送ってなかった場合、俺達が北大陸を離れている間に、フロイントシャフト帝国との武力衝突が起こってしまうかもしれないから、その辺の情報は、できる限り集めておきたい。
「という訳で、ゼーレテンペルには1週間ぐらい滞在するよ」
「情報は大切ですし、北大陸が戦火に包まれるかもしれないお話ですからね」
情報って、本当に大事だよな。
「ここが町なんだね。綺麗だなぁ」
初めて町にやってきたイーリスが、ゼーレテンペルの町並みを見て喜んでいる。
精霊って自然の化身みたいなもんだと思ってたし、実際そうだって言われてるんだが、イーリスを見てると本当にそうなのか疑問を感じるな。
「精霊が自然の化身だっていうのは間違いないけど、精霊だって実体化できるし、人間と契約したら町で暮らすこともあるんだから、それぐらいの感性は持ってるよ」
確かにそれもそうか。
「浩哉さん、衛兵の方が来られました」
「衛兵?ああ、フォルトハーフェンみたいな臨検と徴税か」
フォルトハーフェンでもそうだったが、港町は船を使った来訪者も多いから、海側もしっかりと監視されてるし、徴税も海上で行われることが多い。
ゼーレテンペルも、その例に漏れてないってことだな。
特に問題もなく入場税を支払い、停泊する港を割り当ててもらえたから、そこまでアクアベアリを進めよう。
「さて、いよいよゼーレテンペル上陸だな」
「浩哉さん、前から言ってましたものね」
「ああ。1年近く掛かってだから、感慨深い気もするな」
ゼーレテンペルに来た理由は、北大陸に唯一祀られているという創造神様の神像に、今までの感謝を込めて祈りを捧げるためだ。
創造神様の神像は、どこの大陸でも総本山と言われる神殿にしか祀られておらず、北大陸だとエスペリオ大神殿になる。
もっと早く来るつもりだったんだが、みんなとの契約達成を優先してたら1年近く経ってしまった。
感謝を捧げると言いながらこの様ってのは、我ながらどうかと思ってしまうが。
「今日は時間が時間だから、このまま港で夜を明かすけど、明日は早速エスペリオ大神殿に行こうと思う。その後は戦争に関する情報収集だけど、みんなはやりたい事とか行きたいとことかないか?」
「あたしは無いわね」
「私も、一番行きたいのはエスペリオ大神殿ですね」
「私もです」
「あたしも~」
「ゼーレテンペル、というよりヴェルトハイリヒの名所は、エスペリオ大神殿ぐらいですからね」
エスペリオ大神殿に行きたいっていうのは俺の都合だから、みんなも行きたいとこがあるかと思って聞いてみたんだが、特に希望は無い上に、エリザからエスペリオ大神殿以外に名所は無いと言われてしまった。
確かに世界樹の麓にあるエスペリオ大神殿は一見の価値があるし、世界樹は本来人跡未踏の地にあるらしいから、直接見ることができるのは、北大陸だとここゼーレテンペルだけになる。
それもあって、ゼーレテンペルには遠方からの参拝客も多く、常に賑わっているそうだ。
「分かった。それじゃあ明日はエスペリオ大神殿に行って、その後はゼーレテンペルで情報収集ってことで」
特に反対も無いし、明日の予定も決まったな。
参拝はともかく、情報収集はどうなるか分からないが、予想通りならエーデルスト王国もリューグナイト王国も風前の灯火になってるだろう。
噂が本当なら、グレートクロス帝国も動いてるだろうからな。
まあグレートクロス帝国も、俺にとっては相容れない国だから、行くかどうかは未知数だったりするんだが。




