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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第6章・奴隷悶着からの神殿訪問
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聖都への航海

 ヴェルトハイリヒ聖教国に向かうためにフォルトハーフェンを出航してから、今日で5日経った。

 外海だから相変わらず船影は見えないが、それでも時折内海近くに来ている漁船が見える。


 今更の話ではあるが、外海とは湾や入り江の外側、陸地から遠く離れた海のことを指す。

 ヘリオスフィアでも基本は同じなんだが、地形によっては湾や入り江なんてものは存在していないし、魔物の存在もあるため、陸地が見える海域を内海、見えない海域を外海と呼んでいる。

 だから外海でも島が見えたりすると、その海域は島にとって内海ってことになる。

 あと外海の魔物は、基本的に陸地を敬遠しているらしいから、陸地が見えるとこでの出現頻度は低いっていう理由もあるか。


 俺のアクエリアスやアクアベアリは、壊れない、倒れない、沈まないっていうアビリティがあるし、どんな攻撃でも防ぐ結界もあるし、隠蔽結界まであるから魔物に見つかることもない。

 だから外海だろうと、これ以上無いほど安全に過ごすことができる。


 今日はゴールドを稼ぐために、もう少し外海に出てから狩りの予定だ。

 この5日はヴェルトハイリヒ聖教国への距離を稼ぐことを目的としてたから、ハイディング・フィールドは展開しっぱなしだった。

 だから狩りはしてないんだが、狩りをしないと勘が鈍るし、金策はしておいて困るもんでもないから、ヴェルトハイリヒ聖教国に到着するまでは1日か2日ごとに狩りをする予定だ。

 あとヴェルトハイリヒ聖教国聖都ゼーレテンペルのハンターズギルドで、少しは売れる魔物もあった方が不自然じゃないだろうっていう考えもある。


 正直、ハイクラスに進化したから、そこまで気を遣う必要は無いんじゃないかって気もするんだが、それでも傲慢な貴族とかに絡まれる可能性は少しでも減らしたいし、狩りをしとけばハンターズギルドも何も言ってこないだろうし。

 人付き合いは苦手だし、のんびり暮らしたいとも思ってるから、大変ではあるが頑張って狩ろうと思う。


「浩哉って、言う程人付き合いが苦手とは思えないけど?」

「わたくしもそう思います。お母様やお姉様達を前にしても、しっかりと受け答えされていましたし」


 その話をしたら、アリスとエリザに突っ込まれてしまった。

 いや、すげえ苦手だよ。

 人付き合いが煩わしいと思ったこともない訳じゃないけど、日本で暮らしてた時は、親戚すら信用できなかったから、正直どう対応していいのか分からないんだよ。

 バイト先の会社や先輩達には良くしてもらったから、その人達ぐらいだな、信用できたのは。


「浩哉さん、前の世界ではすごく苦労されてたんですね」

「生活は出来てたから、言う程って訳でもないけどね」


 高校大学の学費にある程度の生活費は、バイト先の店長が紹介してくれた弁護士さんが親戚から取り返してくれたから、バイトさえしとけば普段の生活は問題なかったし、ある程度なら遊びに使うことも出来たからな。

 だからこそゲーム機を買って、ブルースフィア・クロニクルにどっぷりハマることもできたぐらいだ。

 課金要素も少なかったし、イベントや金策なんかもソロでも問題無く出来るヌルい難易度だったから、パーティーを組むのはストーリー攻略時ぐらいだったな。

 もちろんイベントや金策も、パーティー組んだ方が遥かに効率良かったが、だからこそ人付き合いを気にせずできたんだよ。


「ということは浩哉さんは、人付き合いが苦手なのではなく、人と触れ合うのが苦手なんですね」

「そうなる、のか?」

「そうなりますね。私達とは普通に接してくれていますけど、ハンターやシュラーク商会との付き合いも最低限ですし、フロイントシャフトやカルディナーレとも、必要以上に接触しようとしていませんし」

「先の戦争ではカルディナーレに少し入れ込まれましたが、それもわたくしのためでしたからね」


 そう言われてしまうと、そうなのかもしれないと思ってしまう自分がいる。

 実際他のハンターからパーティーに誘われたこともあるし、パーティーを組まないまでも一緒に狩りにいかないかって誘われたこともあるんだが、適当な理由をつけて全部断ってるからな。

 シュラーク商会にも、魔導船や魔導三輪の技術提供、味噌や醤油の製法の伝達、ベイル村の人達の面倒を頼んだりしてるが、フォルトハーフェン支店に顔を出したのは数えるほどだ。

 カルディナーレ妖王国では王家の人達とも謁見してるけど、これは俺の事情の他にエリザのためでもあった。

 それでも奴隷契約を結んだのは、人との触れ合いがなくて寂しく感じたからだから……うん、確かに必要最低限の接触しかしてないな。


「ま、まあ、それはそれってことで。それよりそろそろ魔物が出てくる。みんな準備は出来てるか?」


 俺の人付き合いがどうとかは、俺としてもどうかと思うことが無い訳じゃないんだが、それでも今はどうでもいいと思ってる。

 それよりも、上手くすればこの狩りでアリスがハイクラスに進化できるかもしれないんだから、そっちの方が重要だ。


「もちろん、いつでも大丈夫よ」

「大丈夫です」

「これは……3匹だね」


 むう、みんな話に集中してるように見えて、ちゃんと魔物の動きは把握していたか。

 簡易レーダーの使い方も慣れてきてるようだし、3匹の魔物がアクエリアスに向かってきてるのも、しっかり把握してくれている。

 簡易レーダーだからどんな魔物が向かってきてるかまでは分からないけど、数が分かるだけでも十分ありがたい。


「1匹はあたしがもらうけど、残りはどうする?」

「わたくしも頂きたいです。急いで進化しようとは思っていませんけど、久しぶりの狩りですから」

「あたしもやりたいなぁ」

「じゃあルージュ、残った1匹は、私やエレナさんと一緒にやりましょう」


 しかも誰が狩るのかも、既に決められてしまった。

 俺の狩る分が無くなってしまったが、今日の狩りはこれが最初の獲物だから、今回はみんなに譲っておくとしよう。


「そろそろ接触ね。いったい何が来たのかしら?」

「海の中だと分かりにくいけど、アクエリアスに乗ってると沈む心配もないから、索敵方法はしっかりと勉強しておかないといけないわね」


 海の中だから、どんな魔物が来てるのかは目の前に現れない限り分からない。

 影から何となく判断はできるようになったが、それも絶対じゃないから、俺ももっと勉強するべきだとは思ってる。

 まあアクエリアスもアクアベアリも沈まないし、攻撃も通用しないから、二の次にしてるんだけど。

 おっと、海面が盛り上がったってことはお出ましだな。


「うわ、ハンマー・シャークじゃないの。最悪だわ」

「だなぁ」


 海面から飛び上がったのは、ハンマー・シャークというSランクモンスターだが、俺とアリスが最悪だと思った理由は、こいつからは素材が一切採れないからだ。

 肉は不味くて食えないし、牙は小さすぎて加工ができない。

 サメだから鱗も無いし、骨もBランクモンスター並みに脆いから、使われる理由がないんだよ。

 だから買取額もBランクモンスターより安くなっているし、ブルースフィアでも500ゴールドにしかならなかったりする。

 そのくせ体長は5メートル近いから、下手な船じゃ簡単に沈めらてしまうし、更に嫌らしいことに外海と内海の境辺りに出てくることが多い魔物でもあるから、討伐履歴はそこそこ多い。

 更に厄介なことに、ハンマー・シャークは必ず数匹単位で行動してるから、1匹だけで現れることはまず無い。


「これ、戦闘訓練にもならないんじゃない?」

「Sランクでも下の方の魔物だし、オーシャンハンターからも嫌われてる魔物の筆頭だしね。正直、なんでSランクモンスターなのか、疑問でしかないわ」


 数匹で現れるからSランクっていうだけで、単体ならBランク相当らしいって聞いた覚えがある。

 多いと10匹を超えることもあるそうだから、3匹ってのは少ない方なんだろうな。

 だけどそんな魔物であっても、襲ってきてるのは事実だから、さっさと倒しちゃってくれ。


「はい、終わったわよ」


 俺がそう言おうと思った瞬間、アリス、エリザ、ルージュの第3階梯魔法によって、ハンマー・シャークはあっさりと命を散らした。

 相手が相手だから、3人ともレベルが上がったような感じもしないし、それどころか無駄な戦いをしたった顔に書いてるぐらいだ。


「お疲れ。こんなこともあるさ」

「そうなんだけどね。だけど進化するつもりで待ち構えてたから、肩透かし感がすごいのよ」


 アリスはそうだろうな。

 ヴェルトハイリヒ聖教国に行くまでに進化したいって言ってたのに、そのための最初の狩りで出てきたのがハンマー・シャークだったんだから、肩透かしどころか脱力感も大きいと思う。

 それはエリザも同じだし、今回は戦わなかったエレナとエリアも似たような感じだ。

 ルージュだけは、金策的に弱いハンマー・シャーク相手でも、全力出してたが。


「だけどさ、それって油断になるんだよね?アリスお姉ちゃんが強いのは知ってるけど、それはそれで危ないんじゃないかな?」

「分かってるんだけど、こればっかりはね。ルージュもいずれ分かると思うわ」


 ルージュはどんな魔物が相手でも全力で戦うから、加減なんかは得意じゃない。

 だから倒した魔物も、素材的に見ると微妙なことが多いんだが、ブルースフィアで換金する分には問題じゃないから、そろそろ加減や素材に合った狩り方も覚えてもらうべきか。


「あ、そっか。ごめんなさい、そんなことは全然考えてなかった」


 そう告げたら、すぐに頭を下げるルージュ。

 素直な子だよな、本当に。


「とはいえ、ハンマー・シャークは素材にならないから、あたしも適当になっちゃうんだけどさ」

「気持ちは分かる」


 ハンマー・シャークに限らず、素材価値のない魔物の狩りは、どうしても雑になりがちだからな。


「じゃあどんな魔物の素材に価値があるのかは、ちゃんと勉強しないといけないってこと?」

「そうなる。ちゃんとその本もあるから、暇な時にでも見とくといいぞ」


 書斎にはいろんな本があるが、魔物に関する本も多い。

 素材になる部位はもちろん、弱点なんかも記載されてるから、見ておいて損はないと思う。


「じゃあ狩りが終わったら見てみるね」


 俺も最近はあんまり見てないから、ルージュと一緒に見ておこう。

 っと、そんな話をしてる間に、また魔物が来たか。

 今度は100匹を超えてるが、何が来たんだ?


「魚影が小さいわね。なんかヤな予感しかしないんだけど?」

「本当ですね」


 アクエリアスに向かってきている魚影は、本当に小さく、全長20センチぐらいしかない。

 そんなサイズの魔物が高ランクであるはずがないから、あれは頑張ってもBランク程度だろうな。


「うわぁ……ダーツ・サーディンじゃないの。こんなとこにもいるのね」


 1匹海面から跳ねたから魔物の正体がわかったが、ダーツ・サーディンの群れだったのかよ。


「あれはスルーだな。狩る意味もないし、ブルースフィアでも1匹5ゴールドにしかならない」

「同感ですねぇ」


 すかさずエリアが同意するが、ダーツ・サーディンはIランクモンスターで、漁師が好んで狩る魔物だから、ハンターにとっては益が無い。

 群れてるからIランクに分類されてるってだけで、単体だとTランクっていう最低ランク相当でしかないから、港町や小さな漁村の主食として食われてるぐらいだ。

 だからブルースフィアの買取額も、ほとんど捨て値に近い。

 そんな魔物が、外海にもいるとは思わなかったぞ。


「外海だからって、高ランクモンスターが出てくるとは限らないってことね」

「大型種の餌になってるってことなんでしょうね。とはいえ、味は微妙なんだけど」

「わたくしは食べたことはありませんけど、レジーナジャルディーノでも水揚げ量は多いと聞いています」


 ベイル村は漁村だから、エレナもよく食べてたそうだ。

 だけどTランクに近いIランクってこともあって、味はお察しだとか。

 だから王女だったエリザの口には入ったことがなく、食べたいと思ったこともないらしい。


「こんな日もあるさ。それにゼーレテンペルに行くまでは、まだ何日かある。それだけあれば、アリスも進化できるだろ」

「そうであってほしいわね」


 焦る必要はないけど、進化目前なんだから、早く進化したいんだろうな。

 俺としても、是非とも進化してもらいたいと思ってるから、できればその機会が訪れてくれることを願う。

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