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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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海戦終結

 魔物を倒しながら、逃走を企てていたリスティヒ海軍の魔導船を沈める。

 そんなことを繰り返していると、ようやくフロイントシャフト帝国海軍旗艦グランデ・アグアマリナが、リスティヒ海軍の旗艦を沈めることに成功したようだ。


「ようやく旗艦が沈んだか」

「はい。ですがリスティヒ側は、投降する素振りが見受けられません」

「まだ戦うっていうの?」

「おそらくは」


 それは非常に面倒臭い話だな。

 だけど向かってくるなら、こちらとしても迎撃するしかないだろ。


「それしかありませんね」

「ここで逃げたとしても、リスティヒに帰れば処罰は受けるだろうしな」

「ああ、だからリスティヒに逃げ帰るのではなく、海賊に成り下がる可能性があると」

「その可能性は高いですね。ですから可能であれば、リスティヒの船は全て沈めておきたいです」


 エリザにとって、リスティヒ王国は自国から国民を浚っていく盗賊国家でしかない。

 しかも連れ去られた人は不法奴隷として、死ぬまで扱き使われるんだからな。

 ヒューマン至上主義だからヒューマンが狙われることはないが、だからといってそんな無法を許す理由はない。


「そうだな。それじゃあ見える範囲の魔導船は、全部沈めよう」

「了解よ」


 リスティヒ王国の滅亡は、北大陸からヒューマン至上主義をなくすための第一歩になり得る。

 もちろんリスティヒ王国や、既に滅んだクリュエル王国、ディザイア王国以外にもヒューマン至上主義国はあるんだが、一国でも減れば俺としても目的のために動きやすくなる。

 俺はヒューマンだから大きな問題じゃないが、奴隷契約しているのはアルディリー、ウンディーネ、ライトエルフ、ラビトリー、そしてヴァンパイアだから、モロに影響を受ける。

 既に奴隷だから問題は最小限かもしれないが、エレナとエリザの家族は存命だから、下手したら家族に危害が及ぶ可能性が高い。

 だから俺としても、ヒューマン至上主義をはじめとした種族至上主義は相容れない思想だ。


「浩哉さん、あちらの帆船が、集中的に狙われています!」

「分かった、そっちに向かう!」


 だがリスティヒ海軍も必死だから、逃げるために手段を選んでいない。

 孤立しかけている連合軍の帆船に対して集中攻撃をかけ、突破口を開こうとしている。

 当然連合軍がそんなことを許すはずもなく、逆に沈められている魔導船も多い。

 だけど全ての魔導船が攻撃を受けているわけじゃなく、僚船が邪魔をして攻撃が届かなかったり、運良く死角に入ってたりで難を逃れている魔導船も少なくない。


 だけどブルースフィアのマップがある俺達からしたら、どこにリスティヒ海軍が潜んでいるかは丸わかりだ。

 運良く死角に入って攻撃から逃れている魔導船だろうと、しっかりと狙える。

 だから俺達は、そういった魔導船を優先的に狙うことにした。


「ちっ!今度はエクレール・ドルフィンかよ!」

「邪魔ねっ!」


 だけど魔物にとっては、俺達やリスティヒ海軍の都合は一切関係ないから、移動中だろうと魔法をぶっ放してる最中だろうと、お構いなしに襲い掛かってくる。

 今もエクレール・ドルフィンが海面から飛び上がってこっちに向かってきてるが、鬱陶しいったらないな。

 まあアリスのファイア・ジャベリンで迎撃されて、すぐにインベントリに回収してるんだが。


「魔物の数は減ってきてるようですけど、それでも多いですね」

「ですね。海戦ではこういったこともあると聞きますけど、結果がどうあれ、本当に命がけなんですね」


 エリアとエレナが言うように、海戦の際は敵軍とぶつかるだけじゃなく、魔物との戦いも余儀なくされる。

 むしろ敵船に沈められるより、魔物に沈められる船の方が多いぐらいだ。

 それでも海軍は重要な存在だから、正規海軍の他に犯罪奴隷なんかも徴兵されている。

 勝っても負けても魔物にやられる可能性があるから、実は海軍はあまり人気がなく、海戦直後はほぼ確実に人手不足に陥るって話も聞く。

 だから海軍の待遇は陸軍より良いんだが、陸軍より命を落とす確率が高いこともあって、あまり入軍者は多くない。

 待遇を良くする以外だと性能の良い魔導船を導入するしかないんだが、魔導船は高価だし、待遇が良くても数としては帆船の方が多いから、下っ端はどうしても帆船に乗船しなければならない。

 帆船は魔物に撃沈される可能性も高いから、乗りたがる者はいない。

 船に乗らないなら海軍に所属している意味もないから、軍に入るなら海軍より陸軍を選ぶ。


 だけどこの悪循環を断ち切れるかもしれないのが、俺が提供した推進機関を使用した新型魔導船だ。

 コストも既存の魔導船より抑えられるって聞いてるから、フロイントシャフト帝国やカルディナーレ妖王国では、近い将来帆船は無くなり、全ての軍船が新型魔導船になると言われてるぐらいだ。


「アクアベアリは沈まないから、なんか申し訳ないね」

「それを言ったらアクエリアスもだけど、おかげであたし達は安全にのんびりと過ごせてるんだから、あんまり気にしない方がいいわよ」

「そうですね。海の上ですから煩わしい人付き合いもありませんし、ブルースフィアのおかげで退屈もしていません。もちろんいつまでもそのような生活をするわけにはいきませんが、外敵の心配をしなくてもいいというのは、とてもありがたく安心できるものですよ」


 俺もルージュと同じく、絶対に沈まない船に乗って参戦してることを申し訳なく思うが、俺達だって死にたいとは思わないし、楽しく暮らしたい。

 だからアリスやエリザの言う通り、気にしないようにしようと思うし、海の上にいる間は面白おかしく過ごしたい。

 俺のスキルを知られたら騒動に巻き込まれるのは間違いないし、そうなったら穏やかな日々は訪れなくなるだろうからな。


「そうだな。それじゃあこのまま、魔物を倒していくとしよう」

「はい!」

「数が多いけど、そこも見えてきてるしね」

「早く倒して、アクエリアスの宝瓶温泉でのんびりしたいしね!」

「それはいいアイディアね」

「ええ。そのためにも、早く倒しましょう」


 ルージュの提案は、俺も大賛成だ。

 この戦いで、俺達は多くの人命を奪った。

 慣れてきてるとはいえ、落ち着けば心にくるんじゃないかとも思うし、実際俺も、この2ヶ月で何度かうなされることがあった。

 その都度みんなを抱いたりして誤魔化してたけど、それはみんなも同様だったから。

 だからこんな戦い、さっさと終わらせて、のんびりした生活に戻りたいと思う。

 そのためには魔物だけじゃなく、まだ人の命を奪わないといけないんだが、本当にもう少しで終わるんだから、ここまできたらやるだけだ。


「大賛成だ。ってことで、一気にやろう!」

「そうしましょう!」


 俺のサンダー・ボルトに合わせるかのように、アリスのブレイズ・ブラストが周囲の魔物を襲う。

 それに続くかのように、エレナ、エリア、ルージュ、エリザも魔法を放ち、魔物やリスティヒ海軍を倒していく。

 連合軍側も魔法を放ち、次々と戦果を上げている。


「浩哉さん!あちらを!」

「逃がさない!」


 包囲網を突破したリスティヒ海軍の魔導船が2隻あったが、ボルティック・ランサーを放ち、沈める。

 届くかどうか微妙な距離だったが、無事に届いてくれて良かった。


「とっとと沈みなさい!」


 俺の長距離攻撃に触発されたのか、アリスもゲイル・ランスを放ち、遠目の魔導船を沈めている。


「リスティヒの魔導船はほぼ沈み、魔物も現れなくなった。連合軍の諸君、あと一息だ!あと一息で、我らの勝利が決まる!この戦いに終止符を打ち、大敵たるリスティヒに天罰を下すのだ!」


 旗艦ピエトラ・ディ・ルーナに乗船しているキアラ王女の演説は、俺達の耳にも届いた。

 俺達は魔物もリスティヒ海軍も倒し続けてたから気が付かなかったが、新しく現れた魔物はいなかったのか。


「ああしてると、お姫様には見えないね」

「ルージュ、人前では言わないようにね?不敬罪で処罰されても文句言えないわ」

「キアラお姉様はそのような評判を気にする方ではありませんが、周囲が勝手に動きますからね。まあわたくしも、ルージュの言う通りだと思いますが」


 キアラ王女の堂に入った演説は、確かに王女っていうより姫騎士って感じがする。

 実際3姉妹の中で一番の武闘派らしいし、本人的にも軍に入りたいって考えてるそうだ。

 いずれ女王となるキアラ王女が軍に入るのは難しいが、不可能ってわけでもない。

 ただキアラ王女の次の女王となる王女はまだ幼いから、最低でも20年は先の話になるんだろうな。


 そんな先のことを今考えてても仕方ないが、キアラ王女の今後は俺達にも影響がないわけじゃない。

 エリザの姉だし、できる限りで力になるのも吝かじゃないからな。


「それじゃ、最後の追い込みと行きましょうか」

「だな」


 キアラ王女の演説で士気を上げた連合軍は、さらに勢いを増した魔法を放ち、次々と魔物とリスティヒ海軍を倒していき、俺達もそれに続く。


 そして30分後、魔物は全滅し、リスティヒ海軍の魔導船も全て沈んだ。

 連合軍側も帆船が3隻沈められてしまったが、魔導船は新型旧型問わず無事だし、新型に至っては大した損害も出ていない。

 快勝だな。


「諸君、よくやってくれた!だが、これで終わりではない!レジーナジャルディーノに凱旋し、少しの休暇と補給を済ませた後、我々はリスティヒ本国に攻め入り、愚王の首を取る!それができて初めて、カルディナーレに真に平和が訪れるのだ!盟友たるフロイントシャフトの皆も、それまではどうか、我々に力を貸していただきたい!」

「勇敢なるカルディナーレの兵達よ!そして友たるカルディナーレを救うべく立ち上がった我がフロイントシャフトの兵達よ!此度の戦、本当によくやってくれた!カルディナーレの平和は、我らがフロイントシャフトの平和でもある!よってキアラ王女の仰った通り、我が軍も共にリスティヒ王都に攻め入ることになろう!それまでしばしの間、ゆっくりと体を休め、英気を養ってほしい!」


 キアラ王女とヴァイスリヒト皇太子が終戦を宣言しつつも、リスティヒ本国への進攻も口にする。

 俺達の役目はここまでで、この後は両国で頑張ってもらう予定だ。


「浩哉殿、此度の活躍、実に見事でした」

「プレシオサウルスを含む魔物も多く討伐してくれたから、こちらの犠牲は最低限で収められたわ。これなら誰も、あなたの戦果に文句をつけることはできないでしょう」


 グランデ・アグアマリナとピエトラ・ディ・ルーナに近付くと、ヴァイスリヒト皇太子とキアラ王女にそんなことを言われてしまった。

 この戦いに参加したのは打算もあったから、戦果に文句をつけてくる貴族が出てくると面倒なことになると思ってたんだが、どうやらプレシオサウルスの番いを倒したことは大きくプラスに働いてたようだ。


「あなたの戦果については、フロイントシャフトも保障しましょう。なにせ下手をすれば、このグランデ・アグアマリナが沈められていたかもしれませんからね」

「勘に従っただけですが、それはありがたいです」


 正確には勘じゃなく、ブルースフィアのマップのおかげなんだよな。

 だけどプレシオサウルス相手だと、ミスリル製のグランデ・アグアマリナであっても沈められる可能性はあったし、旗艦が沈められればリスティヒ海軍の士気が上がるかもしれなかったから、絶対に沈められる訳にはいかなかった。

 だからグランデ・アグアマリナを守るためにアクアベアリを進めたんだが、それが功を奏して俺の戦果の保障にまでつながるとは思わなかったな。

 カルディナーレ妖王国だけじゃなくフロイントシャフト帝国までが俺の戦果を保障してくれるなら、貴族も文句はつけられないだろう。


「では俺達は、数日したらレジーナジャルディーノを発ちます」

「本音を言えばこの後も協力してもらいたかったけど、この海戦でリスティヒの魔導船はほとんど沈められたようなものだし、これ以上ハイハンターを束縛するのも問題か」

「残念ではありますが、元々浩哉殿の参戦がイレギュラーでしたからね。あとは我々フロイントシャフトに任せて下さい」

「よろしくお願いいたします」


 無理に引き留められるかもしれないと思ってたけど、ハイクラスに無茶を言ってそっぽを向かれる方が問題になるからか、キアラ王女もヴァイスリヒト皇太子も、あっさりと俺の離脱を認めてくれた。

 元々そういう話だったんだが、俺が加わったことで3人になったハイクラスという過剰戦力のおかげで損害を抑えられたっていう面もあるから、文句を言ってくる貴族や兵士はいるんだろうな。

 まあ、そこまで考えても仕方ないし、手を出してくるならこっちもやり返すまでだ。


 なんにしても、これで対リスティヒ王国の戦況も、連合軍が圧倒的に有利になった。

 あとは王都を落とせば、この戦争も終わりになる。

 フロイントシャフト帝国にとっては、隣国のエーデルスト王国の問題があるが、そっちも既に迎撃に動いてるって話だし、未確認情報だがグレートクロス帝国とも話を付けてるって噂があるから、しばらくしたら北大陸も落ち着くだろう。


 俺達もヴェルトハイリヒ聖教国を訪れて、その後で東大陸に向かおうかな。

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