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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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海戦中盤

 アクアベアリをフロイントシャフト帝国軍旗艦グランデ・アグアマリナに向かわせながらも、ブルースフィアの簡易レーダーから目を離さない。

 上下だとどれぐらいの距離があるか分からないが、光点はゆっくりと濃くなっていくし、それどころかスピードが上がってるような気もする。

 幸いなのは魔物の浮上地点はグランデ・アグアマリナの真下じゃないから、突然の不意打ちで沈められてしまうようなことは無い。


「邪魔だっての!」


 アクアベアリの進路をふさぐかのように、リスティヒ魔導船が3隻流れてきた。

 海面が若干荒れてるから、誰かが第4階梯以上の水魔法を使ってのかもしれないが、今は確認してる時間も惜しい。

 俺は第7階梯雷魔法サンダー・ボルトをその3隻の魔導船に放ち、沈むのを確認せずにそのまま突っ切った。


「少しは加減したら?」

「そんな余裕は無いんだけど、何で?」


 レーダーでいる事は分かっても、何なのかまでは分からない。

 対処しやすい魔物ならいいんだが、こういう場合はヤバめの魔物だったりするのがお約束でもあるから、俺の意識は既にリスティヒ海軍より魔物に傾いている。

 だからあんまり、加減とかする余裕は無い。


「さっきのサンダー・ボルト、威力が強すぎよ。2隻は真っ二つになって沈んでいったけど、1隻は粉々に砕けたわ」

「……マジで?」


 思わず振り返ってしまったが、確かにアリスの言う通り、2隻は真っ二つになって沈んでる最中だし、もう1隻は影も形も見えなくなっていた。

 サンダー・ボルトは雷が雨のように降り注ぐ魔法だが、魔導船を真っ二つに出来るような魔法じゃなかったはずなんだけどな。

 それに粉々に砕けたって……いや、何かに誘爆とかする可能性はあるし、そっちの方がまだ可能性はあるか。

 ただどちらにしても、間違いなくオーバーキルだ。

 そこまでしなくても沈められるんだから、アリスの言う通り加減しないとだな。


「浩哉さん、グランデ・アグアマリナです!」

「お、間に合ったか」


 何とか魔物より先に、グランデ・アグアマリナに辿り着けたか。

 いや、この光点の濃さだと、ほとんど同時かもしれない。


「出たわね!」


 アリスの声が、その証拠だ。

 グランデ・アグアマリナの正面に、2匹の魔物が海中から姿を現した。


「まさかプリオサウルスとはね。こんなところにサウルス種が出るなんて、聞いた事ないんだけど?」

「数は少ないですが、年に数回は目撃されていました。討伐される事はありませんでしたから、情報が広まらなかったのでしょう」


 つまりプリオサウルスに遭遇した船は、全部沈められてたって事か。

 ただプリオサウルスはサウルスっていう竜種ではあるが、Sランクモンスターでしかない。

 だから俺どころかシャロンさんやラガルトさんも、倒すのは難しくないと思う。

 だけど念のために鑑定しておくか。


「げ、こいつ、プリオサウルスじゃないぞ」

「違うの?」

「ああ。どっちもプレシオサウルスだ。Gランクの」


 鑑定してみたら、まさかの結果だった。

 どっちもプリオサウルスの上位種になる、Gランクのプレシオサウルスかよ。

 しかもオスとメスだから、完全に番いじゃねえか。


「番いでここに来たって事は、メスの方は妊娠中か」

「だな。手軽に栄養補給できるって事で、魔導船の数が減るのを待ってたんだろう」


 沈んだ魔導船の乗員は、既にプレシオサウルスの腹の中っていう可能性も高いけどな。

 だからこそ海中でほとんど動かず、餌が来るのを待つ余裕もあったんだろう。


「考察は後程お願い致します!今は!」

「分かってる!」


 オスのプレシオサウルスは、割り込んできたアクアベアリに苛立たしそうな視線を向けながら、水魔法で槍を作り出し、撃ち込んできた。


「『スプリング・ポール』!」


 その水槍は、エレナの第5階梯水魔法スプリング・ポールが盾となる事で阻まれた。

 防御用の魔法がないのが不思議だったが、第5階梯魔法が防御にも使えるから無いのか。

 いや、今はそれより、プレシオサウルスを倒さないといけないな。


「ありがとう、エレナ!全員でプレシオサウルスに攻撃だ!」


 エレナのスプリング・ポールが無くてもアクアベアリには効かないんだが、その代わり結界の存在がバレてしまう可能性が高くなる。

 多少の攻撃を防ぐ結界は魔導船なら標準装備なんだが、さすがにGランクとなると防げないから、侵入不可の存在がバレなくても高性能な結界を使ってるって判断されて、最悪の場合は奪おうと考える貴族に付け狙われるだろう。

 この戦争が終わったらカルディナーレ妖王国を離れるが、それはさすがに面倒だから、バレないに越したことはない。


「了解よ!」


 俺の号令に従って、真っ先にアリスがファイア・ジャベリンとサンダー・ジャベリンを放った。

 数が多いから、倒すためっていうより牽制が目的っぽいな。

 実際プレシオサウルスの片割れは、大量の火と雷の槍のせいで動けなくなってるし、さらにエリザのシャドー・バインドで動きを止められ、海中にも潜れなくなってるな。


「このまま終わらせる!『ジェミナス・トルネード』!」


 動けなくなったプレシオサウルスは、アリスが装備している双剣ディバイン・ジェミナスのアタックスキル:ジェミナス・トルネードの直撃を受けた。

 どうやらアリスは、ジェミナス・トルネードをプレシオサウルスの首に集中させているようで、プレシオサウルスの首からはおびただしい量の血が噴き出ている。

 やがてジェミナス・トルネードは一点に集束し、そのまま首を切断した。


 もう1匹はエレナのメイルシュトロームで動きを制限され、そこにエリアとルージュのアタックスキル、ピアシング・ストームとワイドリング・スラッシュが直撃している。

 2人のレベルも70は超えてるんだが、それでもプレシオサウルスに致命傷を与えれてないところを見ると、Gランクでもとんでもない脅威だってのが理解できるな。


「浩哉さん、お願いします!」

「分かった!」


 時間を掛けると被害が拡大するだけだから、セイクリッド・ブリンガーのアタックスキル:セイクリッド・ブラストを使い、プレシオサウルスの首を斬り落とす。

 斬撃を衝撃波みたいに飛ばすスキルだから、けっこう使いやすくて重宝してるんだよ。

 それにハイクラスなら、Gランクまでの魔物は簡単に倒せるって聞いてるから、相手がプレシオサウルスであっても言い訳は立つ。

 むしろアリスとエリザが2人で倒してしまった事の方が問題になるんだが、エリザはカルディナーレ妖王国の王女だから、貴族達だって何も言えない。

 アリスの方はちょっと怖いが、レベルがハイクラス間近っていう事はカタリーナ女王やキアラ王女は知ってるから、多分そっちから釘を刺してくれるだろう。


 ともかくプレシオサウルスは倒したし、インベントリに収納しよう。

 こんなとこで出張買取なんて使えないから、面倒だけど直接触って収納しないとだな。


「浩哉、あちこちで魔物が出てきてるわよ。多分だけど、プレシオサウルスがいなくなったから、遠巻きに見てた魔物が来てるんだと思う」

「マジで?」


 プレシオサウルスを収納し終わると、周囲の様子を確認していたアリスから報告があった。

 慌てて周囲を見渡すと、マジであちこちに魔物が現れていて、連合軍リスティヒ海軍問わずに襲い掛かっている。

 見たところCランクやBランクが多いっぽいが、デカいのもいるから面倒だな。


「サンダー・スクイドにエクレール・ドルフィン、ソニック・フィッシュもいるわね」

「しかも数も多いですね。これだけの数を相手にするとなると、私達でも時間が掛かります」

「しかもリスティヒを相手にしながらだから、沈められる船も出てきそうだよね」


 新型や旧式の魔導船は分からないが、帆船はかなりヤバいな。

 かなりの乱戦になりつつあるから、手当たり次第魔物やリスティヒ海軍を沈めていかないと、連合軍の被害も相当なものになりそうだ。

 あとリスティヒ海軍の旗艦は、グランデ・アグアマリナからの攻撃でかなりのダメージを受けてるから、放っておいてもそのうち沈むだろう。


「ともかく魔物は狩り、リスティヒの船は沈めよう。乱戦になるから、連合軍も余裕がなくなってくるだろうし」

「そうね。あたし達は沈む心配をしなくていいけど、普通はそういう訳にはいかないから、数を減らさないと新型魔導船でも危ないわ」

「そうですね。ではわたくし達は、魔物を優先的に倒す事にしましょう」


 それが無難だな。

 連合軍の船は守れるようなら守るが、リスティヒ海軍は知ったことじゃない。

 そもそも敵だし、船が沈んだらどうあがいても助からないから、そこは割り切ろう。


「浩哉、この状況でも魔導水上艇は使わないのよね?」

「ああ。俺も本音を言えば使いたいんだけど、乱戦になってるからこそ使いにくいし、魔物に狙われると逃げるのも難しいと思う」

「乱戦だからこそ、ですか」

「確かに魔導水上艇はスピードが売りなのに、この状況じゃそのスピードを活かせないですね」


 エリザの言う通り、魔導水上艇は小型であると同時に高速艇でもあるから、最大の特徴は機動力になる。

 だけどこの戦場は、周囲は連合軍の船で囲まれていることもあって、そんなに広いわけじゃないし、敵味方の船に加えて魔物まで入り組んでる状況だから、機動力を活かせない。

 正直、アクアベアリでも厳しいぐらいだ。


「確かにそうか。使えないのは残念だけど、仕方ないっちゃ仕方ないわね」

「俺もそう思うけど、人前で使うつもりもないし、機会があったらってことで」

「その機会が来るかはわからないけど、楽しみにしとくわ」


 いや、アリス、楽しみにしとくって言われても、本当に機会があるかは分からないぞ?

 というかブルースフィアのことを考えるんなら、ほとんど無理な気がするぞ?

 さすがに口にはしないが、それぐらいは分かってくれてるよね?


 まあ、可能性がないわけじゃないし、普段の狩りじゃ使えるんだから、しばらくはそれで勘弁してもらおう。

 今は魔物を倒さないといけないな。


「お兄ちゃん、あの船、逃げようとしてない?」


 リスティヒ海軍の船にサンダー・ジャベリンを放っていると、ルージュが逃走を企てている船を発見した。


「だな。魔物のせいで連合軍も隊列や陣形が乱れてきてるから、そこをついてるのか」

「フォローしなければ、多くのリスティヒ海軍を取り逃がすことになりそうですね」


 逃走を目論んでいるリスティヒ海軍船は、孤立しかけている連合軍帆船に狙いを定めているようにも見える。

 あの帆船が沈んでしまえば包囲網に穴が開くことになってしまうから、近くのリスティヒ海軍はそこから逃走していくだろう。

 いずれリスティヒ王国は滅びるから、そうなると海賊に成り下がり、近海の安全を脅かす存在になりかねない。

 魔物も早く倒さないといけないが、最優先は包囲網を崩されないようにすべきだったか。


「アクアベアリを突っ込ませる。だけど距離があるから、アリスとエリザは第3階梯魔法であの魔導船を牽制、可能なら沈めてくれ」

「分かったわ」

「畏まりました」


 もちろんアリスとエリザだけじゃなく、俺も魔法を撃つから、なんとか間に合うだろう。

 連合軍も帆船が孤立してることに気が付いてくれれば、フォローのために動いてくれるだろうし、そっち方面は俺より的確なんだからな。

 だけどそのためには魔物が邪魔で、魔物を優先してたらリスティヒ海軍が逃げ出す隙を与えることになる。

 どっちかにだけ集中してるわけにはいかないから、これはマジで大変だ。


 だからといってやらなきゃ戦いは終わらないから、周囲を警戒しながら魔物は倒し、リスティヒ海軍船は沈めるしかない。

 戦況は連合軍が優勢だから、俺達も頑張ろう。

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