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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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それぞれの本音

 妖王城でカタリーナ女王との謁見後、俺とエリザはそのまま逗留を勧められたがそれを断り、アクアベアリに戻った。

 女王との謁見についてはアリス達も気にしていたし、戦争についての話もあるから、しっかりと説明しないといけない。


「という訳で、俺はリスティヒとの戦争に参加する事にした。みんなも付き合ってもらう事にはなるけど、戦いを強要するつもりはないから安心してくれ」


 俺がそう告げると、エレナ、エリア、ルージュが安心したような顔になった。

 いくらなんでも人殺しを強要するような真似はしないし、今回の戦争なんてほとんど俺の都合なんだから尚更だ。


「あたしにとっては今更だし、浩哉だけじゃなくエリザも戦うつもりなんでしょう?」

「母国の事ですし、最悪の事態も考えられますから当然です。皆さんを巻き込んでしまう事は、申し訳なく思いますが……」

「あたしはそのつもりだったし、問題無いわよ。ヒューマン至上主義なんて百害あって一利なしなんだし、あたし達にとっても他人事じゃないんだから」


 申し訳なさそうな顔をするエリザに、アリスが答える。

 俺と契約している奴隷はアルディリー、ウンディーネ、ライトエルフ、ラビトリー、そしてヴァンパイアと、ヒューマンはいないし、ヘリオスフィアに来る前に聞いた話でも神の教えに反する行為と断言されている。

 だから俺にとっても、ヒューマン至上主義は敵になる。

 南大陸には、更に酷い人族至上主義国や竜族至上主義国もあるしな。


「分かった。もう一度言うけど、これは俺の都合でもある。だからエレナ、エリア、ルージュ、戦いたくないならそれで構わないし、契約を解除したいんならそれもいいと思う。だけどすぐに決めなくて構わないよ」


 今後の話にも繋がるが、多分他の大陸、特に南大陸に行けば、戦争ではなくとも人と人の争いに巻き込まれる事も増えると思う。

 移動はサダルメリクを使うし、レベルは高いから簡単に人質になる事はないと思うが、今までみたいに気楽に過ごせるかどうかは分からない。

 だからそれを理由に奴隷契約を解除したいっていうなら、残念ではあるけど俺としてはそれを受け入れるつもりだ。


「……いえ、私にそのつもりはありません。契約の際に旅に出られるというお話も、荒事に巻き込まれるかもしれないと伺っていました。私が思っていたより早かったので少し動揺していますし、未だに参加する決意はつきませんが、私は浩哉さんと離れるつもりはありません」

「ボクも……ちょっと怖いけど、お兄ちゃんだけじゃなくお姉ちゃん達も一緒だし、契約の解除なんて絶対にしないよ」

「無理に参加という事でしたら考えなくもありませんでしたが、こうやって気を遣って下さっていますから、その場の感情だけで判断しなくて済みます。ですから浩哉さん、私もこのまま継続を望みます」


 ところが3人とも、俺との契約は解除しないと口にしてくれた。


「旅を続けていれば、いつかは手を汚す日も来ると思っていましたから。東大陸は平和そうですけど、南大陸はそうではありませんからね」

「今更お兄ちゃんと離れられないっていうのもあるけど、それとは別に離れたくないっていう想いもあるんだよ」

「契約だけでしたら、多分解放を望んだと思いますけど、私達はもう浩哉さんのいない生活なんて考えられませんから。アリスやエリザさんも同じ気持ちだと思います。あ、ブルースフィアが理由じゃありませんからね」


 エリア、ルージュ、エレナのセリフに、アリスとエリザが深く頷いた。


「愛してるっていうのとはちょっと違うと思うけど、近い感情であるのは間違いないわね」

「はい。わたくしもお母様から浩哉様との結婚を仄めかされた時、戸惑いもありましたが歓喜もありましたから」


 そう……なのか。

 なんか愛の告白って訳じゃないけど、ここでみんなの本音が聞けるとは思わなかった。

 いや、もちろん嬉しいよ?

 だけどブルースフィアが理由じゃないって言われてしまったから、戸惑いがあるのも事実なんだよ。


「えっと……いや、みんなの気持ちは嬉しいけど、俺はブルースフィアっていうスキルのおかげでみんなと一緒にいられると思ってたんだけど……そうじゃないって事?」

「皆無っていうワケじゃないけど、浩哉本人も十分魅力的よ」

「はい。だからこそ私もアリスも、契約した当日に体を捧げたんです」

「わたくしも、助けて頂いた恩や契約だけで身を委ねた訳ではありません。おそらくですけど、エリアさんとルージュも同じではないでしょうか?」


 エリザに同意するかのように、エリアとルージュが笑みを浮かべて頷いた。

 これが所謂モテ気というやつか!

 じゃなくて、俺はそこまで大した人間じゃないと思ってるんだが、こんな俺でもみんなは……。

 やべ、感動してきた。


「……ありがとう。俺もみんなの事は好きだけど、愛かどうかと言われたら分からない。何度も言ってるけど、俺の中じゃみんなは友達なんだ。だけどこんな俺でもいいって言ってくれるんなら、いずれはちゃんと考えるよ」

「それで十分よ」

「はい。現状でもわたくし達に不満はありませんし、明日はわたくしとの契約達成の手続きを行うのですから、此度の戦争さえ乗り切れば、しばらくはゆっくりとできます」

「狩りをしてもいいし、どっちかの大陸を目指すのもいいよね。っていうかエリザお姉ちゃん、契約達成の手続きってどこでやるの?」

「ここレジーナジャルディーノです。お母様の許可は頂いていますし、トレーダーズマスターや担当者も契約魔法で口止めをすると聞いていますから、わたくしの事が漏れる心配はありませんよ」


 ああ、そういえば明日はレジーナジャルディーノのトレーダーズギルドで、エリザとの契約達成手続きをするんだった。

 エリザが奴隷に落とされてしまった事は神託が下ってるから誰でも知ってる事実になってしまっているが、そのエリザが今レジーナジャルディーノに来ていることまでは一部を除いて知られていない。

 なのでレジーナジャルディーノどころかカルディナーレ妖王国で手続きを行ってしまうと、契約を達成したのに奴隷のままだって事を知られてしまう。

 これは妖王家にとってもあまり良い事じゃないから、トレーダーズマスターと奴隷担当の職員に契約魔法を使い、対外的にはエリザは奴隷から解放されたって事にしたいんだそうだ。

 奴隷紋は隠してあるし、エリザは俺に嫁ぐ形で旅に同行する事も併せて公表するから、よっぽどのことがなければバレる心配はない。

 俺も事を荒立てるつもりはないから、その措置を了承してきている。

 いずれは奴隷からの開放を考えていたし、今の告白で決意は固まったから、しばらくは無理でもいずれは真実にしたいし。


「という事は、明日は私達も上陸して構わないんですか?」

「何日も船に籠りっぱなしだったし、そのつもりだよ」

「許可も下りていますから。本来でしたら観光を楽しんでいただきたいのですが、戦時中ということで平時より幾分活気が落ちているのが残念ですけど」


 けっこう賑わってるように感じたけど、あれでもいつもに比べたら活気が落ちてるのか。


 いや、よくよく考えてみれば、カルディナーレ妖王国はフロイントシャフト帝国から援軍を得ているとはいえ、3つの国と戦争中だったな。

 しかも国境を守護する4つの辺境伯家のうち2家が国を裏切り、戦争中の国に与していたことも発覚しているから、国民が不安を感じても仕方がない気がする。

 既にクリュエル王国は滅び、ディザイア王国も時間の問題になってきているが、残るリスティヒ王国は海洋国家って事もあって陸路は使いにくいし、レジーナジャルディーノも海に面しているから、リスティヒ王国が健在である以上、守りが堅いレジーナジャルディーノでも不安は隠せない。

 リスティヒ王国が大量の魔導船を建造している事は一般には伏せられているはずだが、隠し切れるとは言い切れないし。


「結局はリスティヒを滅ぼさない限り、以前のような活気ある生活っていうのは難しいってこと?」

「そうなりますね」

「ただ空を飛べる騎獣と召喚契約している密偵を複数送り込んでいるそうだけど、ロイバーをはじめとした軍港は警備が厳しいから、魔導船艦隊のことまでは掴めていなかったらしい。なにせ護衛は必ず軍人がついて、その上で出入りできる商人も特定の個人のみらしいから」


 情報規制や隠匿に関しては、本当に徹底している感じがする。


「まあ、魔導船を大量に建造っていう時点で、フロイントシャフトやカルディナーレが黙っている理由はないものね」

「戦争準備してます、って言ってるようなものだしねぇ」

「ええ。特にカルディナーレは、その情報を掴んだ時点で兵を送りますね」


 だよな。


「だけどそこまでしてたのに、浩哉さんのおかげで情報は洩れてしまったし、さすがにそれだけの大船団が出航したら、隠し切れるものじゃないわよね?」

「無理でしょ。しかも行軍速度を乱す訳にはいかないから、レジーナジャルディーノまでは2日、場合によっては3日は掛かる。カルディナーレだって迎撃準備は整えているし、それだけあれば報告だって間に合うわよ」


 だな。

 空を飛ぶ騎獣は、ワイバーンが最も数が多いんだが、その代わり最もモンスターズランクが低い。

 それでも速度は時速150キロは出るそうだから、リスティヒ王国が船団を組織して出航させたとしても、レジーナジャルディーノへの報告は十分間に合う。

 しかもカルディナーレ妖王国海軍はとっくに臨戦態勢を整えているし、何度か沖合でリスティヒ王国海軍の偵察部隊とやり合ってもいる。

 リスティヒ王国が動けば、カルディナーレ妖王国もすぐに海軍を出航させるだろう。


「そうなりますよね。それでは私達は、海軍に合わせて出航ですか?」

「建前上はそうなってる。ただ俺は海軍どころかカルディナーレの所属ですらないから、特に行動に制限はないよ」

「軍功を浩哉様が独占する訳にはいきません。ですから面倒ではありますが、単独行動は禁止されているぐらいでしょうか」


 それがあったな。


 今回の戦争参加は、エリザを奴隷から解放しないための贖罪っていう意味が大きいが、対外的にはエリザを無事にレジーナジャルディーノに送り届けた後、リスティヒ王国との戦争で功績を立てた俺への褒賞として嫁がせるっていう事になる。

 だから俺もある程度は軍功を立てないといけないんだが、単独行動だと信じない輩も出てくるだろうし、海軍やフロイントシャフト帝国のメンツまで潰してしまう。

 非常に面倒くさい話だが、そんな訳で俺はカルディナーレ妖王国、フロイントシャフト帝国両海軍の前で、どちらも納得出来る程の軍功を立て、その上で両海軍のメンツを立てられるように配慮までしないといけない。


「そんな面倒な話になってるんだ」

「本当に面倒くさいわね。だけどエリザを引き取るための口実だから、どれだけ手間が掛かってもやるしかないって事か」

「そうなんだよ。開幕で広域魔法を使えたら楽だけど、出来るとは限らないからな」

「確かにそうですね」


 水流を渦巻かせて動きを封じ、その上でその水流で包み込む第7階梯水魔法ウォーター・ヴォルテックスっていう魔法を使えれば、結構な数の船を沈められると思うんだが、乱戦になったら使いにくいし、ハイヒューマンに進化している俺なら、第3階梯魔法を乱発するだけでも十分だって言われてる。

 むしろ魔力の問題もあるから、そっちの方が効率が良いらしいんだよなぁ。


「面倒だけど、その時になってから考えた方がいいんじゃない?」

「開幕で使えない可能性の方が高いだろうから、そうするかなぁ」


 フロイントシャフト帝国にとってもカルディナーレ妖王国にとっても重大な一戦になるから、開幕で魔法を使うのは無理だろうな。

 最初は軍のメンツを立てておかないと、せっかく功績を立てても面倒な事になりそうだし、行動制限が無いとは言え軍を無視する訳にもいかないから、最初は大人しくしといた方がいいかもしれない。


「それがいいと思います。軍のプライドを逆撫でしてしまうと、ロクな事になりませんから」

「正面からハイクラスにケンカを売るとは思いませんけど、搦め手を使われるかもしれませんしね」

「それが一番厄介だ」


 まあ、そんな事をしたら、カタリーナ女王だって黙ってないだろうけど。


 何にしても、リスティヒ王国が進軍を開始してからの話になるし、さすがに今日明日っていう話でもないだろうから、しばらくはレジーナジャルディーノの沖合で魔物でも狩っとくか。

 いや、一度ロイバーまで行っておくのもいいな。

 リスティヒ王国は船隊行動だから速度制限があるはずだが、こっちはそんなものはないし、アクエリアスは50ノット、アクアベアリは60ノットまで出せるから、最高速度で飛ばせば十分間に合う。

 普通ならそんなに速度を出したら船体が海面から離れて危険な事になりかねないが、アクエリアスもアクアベアリもゲームの船だからなのか、どれだけ速度を出しても海面から離れた事は一度も無かったし、不倒っていうアビリティもあるから横転する心配も無い。

 さすがにレジーナジャルディーノ付近まで来たら速度は落とすし、近場で狩りをしてたって言えば誤魔化せるだろう。

 行動制限があったら難しかったが、そんなものは無いし、ハンターだから魔物を狩っててもおかしくはないし、何とかなりそうな気がしてきた。

 実際に上手くいくかは分からないが、本当に魔物を狩っておけば疑われても言い訳も立つし、明日エリザとの契約達成の手続きを終えたら、しばらくは沖で狩りをする事を伝えておこう。

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