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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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女王の意思

「アウトゥンノ辺境伯、其方から爵位を剥奪する。国防を疎かにしたばかりか他国と繋がっていたなど、国家反逆罪以外のなにものでもない。先代はもちろん、妻子も含め、レジーナジャルディーノにおいて公開処刑となる事を覚悟せよ」


 カタリーナ女王が入手した証拠によって、アウトゥンノ辺境伯は爵位剥奪の上で一家の処刑が決まった。

 アウトゥンノ辺境伯のやってた事はかなり雑だったようだが、周辺3ヶ国が奴隷狩りの兵を送りこんでた事もあって、カタリーナ女王は調査をする余裕も無かったみたいだ。

 証拠はとっくの昔に手に入れてたけど、それでも辺境伯を処罰するととんでもない隙になるから、今まで手出しが出来なかったっていう理由もあるらしい。


 ヒューマン至上主義者でもあるアウトゥンノ辺境伯は、一族全てがヒューマンのため、まだ未成年の娘や息子も含めて、全員がギロチンによる公開処刑になるんだそうだ。

 未成年は孤児院やら教会やらに送られるんじゃないのかと思ってたんだが、ヒューマン至上主義者の場合は矯正できるか分からないし、出来なかった場合はトラブルの元にしかならないから、カルディナーレ妖王国の場合はどれだけ子が幼かろうと、連座の場合は処刑と決まってるんだそうだ。

 ヒューマンにしか適用されない法だと思われがちだが、カルディナーレ妖王国は妖族の国でもあるため、稀に妖族至上主義者が出る事もあるし、竜族や獣族でも似たような事を言いださないとも限らない。

 だから全ての種族が対象の法なんだとさ。


「アウトゥンノ辺境伯家は国境守護を担う家ゆえ、そのまま取り潰すわけにはいかぬ。故に後嗣は、遠縁から選ぶ事としよう。新たなアウトゥンノ辺境伯については、数日中に公表する」


 4つある辺境伯家のうち、2家が敵国と内通してたっていう事実は、そのままカルディナーレ妖王国の国力の低下でしかないんだが、フロイントシャフト帝国が援軍を派遣してくれたおかげで、内部浄化をする余裕が生まれていた。

 だから今回のアウトゥンノ辺境伯の処罰も、既定路線ではあったみたいだ。

 そのおかげなのか、アウトゥンノ辺境伯は即座に兵に連行されていってしまった。

 見せしめのために俺を殺す、みたいなことを口にしてた奴だし、ざまあみろって気持ちだな。


「我が国の恥部を見せた。そなたへの褒賞は改めて決めるゆえ、場所を移す。宰相、案内を頼むぞ」

「はっ」


 ここで褒賞を決めるんじゃないのか。

 とはいっても、別に欲しいもんはないんだよな。

 しいて言えばエリザだが、エリザ本人はとっくに決意を固めてるし、無理やり解放させようとするなら強引に出ていって二度と関わらないだけなんだが、出来ればそれはやりたくない。

 エリザもそれで構わないと言ってるが、必ずどこかにしこりが残るし、エリザだって心の中じゃ気にするに決まってるから、長い目で見たらマイナスにしかならないだろう。


 とはいえ、ここまでは既定路線だったみたいだし、前座でしかない。

 俺にとってはこれからが本番だ。


 謁見の間を出た後、俺とエリザは宰相に案内され、王家の居住区にあるサロンにやってきた。

 本来なら俺みたいな一介のハンターが通される事はあり得ないんだが、俺がハイヒューマンだったりエリザを助けてたりするから、特例中の特例って事になってるそうだ。

 王家の居住区だけあって、貴族達も許可なく立ち入る事は出来ないから、俺にとってはありがたい。


 ソファーに腰掛けてしばらくすると、女王様と王女様2人がやってきた。


「待たせたな。改めて名乗らせてもらう。カルディナーレ妖王国女王、カタリーナ・ルーナ・ディ・カルディナーレだ。こちらが第一王女で王太子のシャルロット、第二王女のキアラだ」


 腰まで届きそうな綺麗な銀髪に紅い瞳をした、赤を基調としたドレスに身を包んでいるのが第一王女で、同じく銀髪だが肩上辺りで切り揃えた蒼い瞳に、青を基調としたドレスをお召しなのが第二王女か。

 エリザもだが、カタリーナ女王も銀髪だから、ヴァンパイアの髪の色って銀色が多いみたいだな。

 それはともかく、シャルロット王女もキアラ王女も、俺に向ける視線が何とも言えず微妙だ。


「エリザベッタを救い出してくれた事、改めて感謝する」

「いえ、完全に偶然でしたから」


 元々はエリザを助けるためじゃなく、アリスの依頼を履行するためだったからな。

 アリスのお姉さんのエリアやエリザ、ルージュを助け出せたのは、本当に偶然の賜物だ。

 その後でエリザから身請けを提案されたのも、予想外過ぎる提案だったが。


「エリザベッタの事だが、身柄を引き受けさせてもらいたい。一人の母として、娘が不当に奴隷に落とされてしまった姿を見るのは辛いのでな」


 やっぱりきたか。

 俺としてはそうしてもいいと最初は思ってたんだが、今ではそんな考えは微塵も持っていない。

 エリザは王女という立場だったから、教養なんかも高いし、知識も豊富だ。

 ハンターをしていたアリスも知識はある方だと思うが、王女としての教育を受けていたエリザには及ばない。

 俺にとっても助かるような提案も何度かしてもらってるし、何よりエリザと離れるつもりはないから、その提案はさすがに断らせてもらう。


「申し訳ありませんが、その申し出はお断りさせていただきます」

「貴様っ!」


 キアラ王女が声を荒げたが、カタリーナ女王はそれを手で制した。


「理由を聞こうか」

「ええ。まずエリザベッタ王女との奴隷契約は、彼女が言い出した事、契約の関係もありますが、奴隷契約の強制力が必要な事、これらが理由になりますかね」


 エリザとの奴隷契約は、最初は望むどころか考えもしなかったが、エリザ本人から提案されてしまったし、拒否してカルディナーレ妖王国に送り届けたとしても、その後の結末が悲惨な事になるっていう話も聞いてたから、俺としてもあまり選択肢は無かったんだが。


 ブルースフィアの事を秘匿するだけなら契約魔法でもいけたと思うが、それだけだと強引に俺の身を抑えようって考える可能性は否定できないから、俺との奴隷契約は人質っていう意味も少なからずある。

 ハイヒューマンに進化出来たから、少々の事は力押しで乗り切れなくもないが、それでも意味がない訳じゃないし。


「エリザベッタからだと!いや、それについては予想できてはいた」


 激昂するシャルロット王女だが、予想ついてたのかよ。


「すぐに分かること故、隠す意味も無いが、エリザベッタには複数の貴族から縁談が持ち込まれている。そなたも察しているように、奴隷に堕とされてしまった王女でも構わないという家からな」


 その話を聞いた瞬間、俺の頭の中がすっと冷えた気がした。


「つまりエリザを嫁がせるから、解放しろと?」

「否定はしない」

「断る」


 自分でも驚くほど、冷たい声だった気がする。

 ただ確かなのは、ここでカルディナーレ妖王国との交渉が決裂しても、一向にかまわないと思っていた事だ。

 その証拠に、魔力も漏れてしまってたみたいで、エリザに注意されるまで気が付かなかった。


「……さすがハイヒューマンだな。凄まじい魔力だ……」


 女王も王女達も、真っ青な顔になって、息も切らせている。

 だけど俺は、悪い事をしたとは思っていない。

 どうせエリザが元奴隷でも構わないっていうクズ貴族に嫁がせて、妖王家への借りを作ろうって魂胆なんだろ?


「話は最後まで聞くものだ。確かに私はエリザベッタを嫁がせたいと考えているが、それは貴族ではない。其方だ」

「へ?」


 間の抜けた声が漏れてしまった。


「驚く事でもあるまい?そもそも本当にエリザベッタを解放させるつもりなら、我々だけで其方と話し合う訳がないであろう?」


 女王にそう言われて気が付いたが、確かにここは王家のプライベートスペースって事もあって、護衛も数人しかいない。

 カルディナーレ妖王国にはレベル108のハイラミアがいるが、それらしい人はいないみたいだ。

 ハイクラスは同じハイクラスでもなければ止められないから、無理やりにでもエリザを解放させるつもりがあったなら、そのハイラミアは傍に控えていないとおかしい。

 なのにいないって事は、そのつもりはなかったって事なのか。


「落ち着いてきたようだな。其方の思っている通りだ。だからこそ私は、エリザベッタを解放してもらい、其方に娶ってもらいたいと思っている。ハイヒューマンとの縁という下心もあるが、娘の幸せを願う親心も本当のものだ」


 女王は一転して、優しい目をエリザに向けた。

 うわー、これは無碍に断る訳にはいかなくないか?

 だけど俺の目的を考えたら、王家のお姫様を嫁さんにっていうのは、今後に差し支える可能性もあるし……マジでどうしよう……。


「お母様のお気持ち、大変嬉しく思います。ですが、マスター……浩哉様は、目的をもって旅をされておられます。そこにカルディナーレの王女が嫁いだとなれば、それは浩哉様にとって、障害にしかなりません」


 そう思ってたら、エリザがフォローに入ってくれた。

 俺にとって何が一番問題かといえば、行動が制限されてしまう事だ。

 文化拡散っていう大それた目的だから、下手に国に関わると貴族とかが邪魔をしてくるんじゃないかって気もしてるし、フロイントシャフト帝国では告発の関係で俺を囲い込もうという手が打てなかっただけでもある。

 ここでエリザを奴隷から解放して娶ったりしたら、それはそれでフロイントシャフト帝国が問題にしてきそうだし、そうなったら俺も当事者として行動が制限されるかもしれない。

 はっきり言って、それは勘弁だ。


「確かにフロイントシャフトは、其方の告発によって、其方を囲い込む訳にはいかなくなった。落ち着けば手を打つであろうが、その時になって既に、元とはいえカルディナーレの王女が嫁いでいたとなれば、我が国とフロイントシャフトの間では面倒な問題が起こりかねん、という事か?」

「いえ、元々フロイントシャフトの自業自得な面もありますから、そこは問題ではありません。浩哉様が、特定の国に肩入れしていると取られてしまう事が、大きな問題なのです」


 エリザの発言に、女王も王女達も、よく分からないという顔をしている。

 俺の出自にも関わる問題だし、いずれは俺のように、地球で死んだ者が転移なり転生なりしてくる予定もあるから、ここで俺が対応を間違えると、後々にまで尾を引く大きな問題になってしまう。

 だからこそ慎重に対応しなきゃいけないんだが、だからといっていつまでも隠し切れるとは思えないし、けっこう難しい問題だな。


「俺の出自も関係しますから、詳しくは話せません。だけど俺は、国に関わるつもりはないし、それが足枷にしかならないのははっきりしている」

「だから現状では、エリザを解放するつもりも、娶るつもりもないと?」

「いずれは分からないけど、少なくともいますぐっていうのは」


 エリザを解放しない理由は、直接的な繋がりっていう意味もあるが、カルディナーレ妖王国の思惑を押し付けられる可能性が低くないからだ。

 奴隷という立場なら、国がどう動こうが関与する事は出来ないんだが、解放してしまえばいくらでも付け入る隙が出来てしまう。


 そして最大の問題は、子供の事だ。

 ヘリオスフィアは地球より出生率が低く、子供が生まれない夫婦も珍しくない。

 だけど子沢山一家もいるし、何よりエリザが産んだ子は、もしかしたらカルディナーレ妖王国の王位継承権を与えられてしまうかもしれない。

 本来なら元奴隷の子が王位に就く事はないと思うが、カルディナーレ妖王国は代々ヴァンパイアが王位に就いてる事もあって、王位継承については微妙に問題になっている。

 だからエリザの子も王位継承権を与えられるどころか、王位そのものに就く可能性も低くない。

 その場合、国内が不安定になる可能性が捨てきれないし、その子を人質にとり、俺を傀儡にしようと考える貴族とかが出てくる可能性もある。

 後者については、アリス達との間に子供が出来た場合でもあり得るから、俺としては子供を作ろうとは思っていない。


「なるほど、確かにその可能性は否定できんな」

「というより、かなりの確率で的中しそうですわね」


 子供の事についての懸念を口にすると、女王もシャルロット王女も理解を示してくれた。


「あと、今思ったんですけど、エリザを解放した場合、エリザの王位継承権ってどうなるんですか?」

「エリザベッタの王位継承権か。奴隷となってしまった事で、王位継承権どころか家名すら剥奪されている故、再度与える事は現実的ではない。だからこそ、其方に降嫁と考えていたのだが」


 ああ、俺に娶らせるって、そっちの意味もあったのか。

 奴隷に落とされた事で資格は消えてるが、正当な血筋ってのは間違いないから、女王と養子縁組をおこなう事で継承権の復帰は可能なようだ。

 血のつながった実の親子なのに養子縁組ってのもおかしな話だが、それだけ奴隷契約の強制力が強いという事か。

 それを加味した上で降嫁っていう判断になるそうだが、王位継承権を放棄した上でっていうのが一般的になるそうだから、何があろうとエリザが王位に就く事は無い。


 俺としては、エリザと結婚っていうのはアリだと思ってるんだが、旅の目的や子供のこともあるから、どうしても考えてしまう。

 それにエリザだけっていうのも不誠実じゃないかと思うから、結婚するとしたらアリスやエレナ、エリア、ルージュも、解放した上で結婚するべきだと思う。


 うん、すげえ頭痛くなってきた。

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