ハイクラスの価値
エリア、ルージュ、エリザの魔導水上艇を購入し、アクエリアスの改装を終えた後は、いつものごとくレベリングと金策に精を出した。
6人全員が魔導水上艇で動き回ると、魔物の数が少なければ翻弄出来てたんだが、逆に数が多いと動き回れなくて大変だった。
50ノットでも時速90キロ強だから、いかに海の魔物でも追い付くのは難しい感じがしたな。
ただ、今更気が付いた事がある。
アンカとアディルは最高速度60ノット、シトゥラ、アルマク、ミラクも最高速度55ノットだが、俺の愛車スカトは海上だと50ノット、サダルメリクに至っては40ノットだ。
今までは気にしてなかったんだが、さすがにこれじゃ狩りをするにしても足並みを乱すだけじゃないかと思うし、俺的にもちょっと思うところがある。
サダルメリクは移動用って割り切れるが、スカトはそういう訳にはいかない。
いや、移動時間短縮はヘリオスフィアだとアリバイに問題が出てくるが、ハイディング・フィールドを展開したアクエリアスなら時間も十分潰せるから、この際スカトだけじゃなくサダルメリクやアクエリアス、アクアベアリも強化改装してしまおう。
幸いにもカスタムショップは開放されてるから、機関部の換装だけで済む。
そうだな、スカトは60ノットにして、アクエリアスやサダルメリクは50ノットにしておくか。
ああ、アクアベアリは60ノットにしよう。
スカトは次からになるが、アクエリアスとサダルメリク、アクアベアリは再召喚すれば、宝瓶温泉の改装と同時に強化も済むし、とっととやってしまおう。
カスタムショップは俺の知ってるアイテムが全て開放されてるから、本音を言えばゆっくりと見たかったんだけどな。
「浩哉、ブルースフィアを開いたりして、どうかしたの?」
アクエリアス、アクアベアリ、スカト、サダルメリクの機関部換装の手続きを行っていると、アリスが近寄ってきた。
突然動きを止めてブルースフィアを開いたりしたら、そりゃ気になるか。
「アクエリアスとアクアベアリ、スカト、サダルメリクの強化をしようと思ってね」
「強化?ああ、速度向上ね」
「そう。フロイントシャフトでウォータージェット推進を使った船が作られてるから、今までのスピードだと何かあった時に振り切れなくなるかもしれない。攻撃されてもビクともしないけど、それはそれだから」
侵入不可のおかげで乗り移られる心配どころか攻撃すら通じないが、だからといってこっちと同じ速度で動かれてたら逃げるに逃げられない。
ウォータージェット推進でも40ノットちょいが限界だったはずだから、ブルースフィアで強化すればそうそう追い付かれることもないだろう。
「よし、これで終わり。これで次からアクエリアスもアクアベアリも、速度は50ノットになったよ」
確か50ノット近くになると、船体が浮き上がったとかっていう記事を見たことがある気がするんだが、そこはゲームの船だけあってなのか、そういった現象は起こらない。
最高速度60ノットのアンカやアディルでさえ、海面から離れた事はないし。
不倒の効果で船体も安定してるから、多分100ノット出しても問題ないんじゃないかな?
船でそんな速度を出すのは不可能だし、ブルースフィア・クロニクルでも最高速度は70ノットだったから、確認なんて出来ないんだが。
「ホント、ブルースフィアってデタラメなスキルよね」
「俺もそう思う。だけどアリスも、一部だけとはいえ使えるようになったじゃないか」
「驚いたけどね。でも浩哉の手を煩わせなくてもよくなったし、お店も色々あるから、あたし達も楽しませてもらってるわ」
だろうねぇ。
なにせ服屋には試着サービスまであったから、自分が着たらどんな感じになるのかもすぐに分かる。
今までは俺が操作しなきゃいけなかったけど、ブルースフィア(簡易)が開放されてからはアリス達だけでも使えるようになったから、暇つぶしにはもってこいだ。
おっと、今は狩りの最中なんだから、のんびりと談笑してる場合じゃないな。
さすがにスカトを再召喚するのは厳しいから、次回の狩りで試そう。
今は現れたサンダー・スクイドを、とっとと倒すとしよう。
その後も30分程狩りを続け、全部で24匹の魔物を狩った。
今回狩った魔物はブレード・フィッシュやサンダー・スクイド、エクレール・ドルフィンっていうSランクまでの魔物ばかりだったから、ゴールド的にも経験値的にも微妙だったが、こんなことも珍しくはない。
それに今回は魔導水上艇の戦闘に慣れるっていう意味合いが強いから、下手に高ランクモンスターが出てきても面倒だったな。
今日は簡易版ブルースフィアの開放に新しい魔導水上艇の購入、宝瓶温泉の改装を行ったわけだから、夜は豪遊する予定になっている。
豪遊って言っても、宝瓶温泉に浸かりながら飲み食いするぐらいだ。
夜も、基本は全員でマスターズルームの寝室で寝てるから、飯が豪勢になるぐらいか。
もちろんヤることはヤってるし、そっちも堪能させてもらったが。
翌日、俺達はフォルトハーフェンのハンターズギルドでサンダー・スクイドを3匹とエクレール・ドルフィンを6匹、ブレード・フィッシュも1匹売り払った。
エクレール・ドルフィンはCランク、サンダー・スクイドはSランク、そしてブレード・フィッシュはGランクの魔物で、最近は水揚げも少なかったから、かなり喜ばれた。
Gランクのブレード・フィッシュは南方諸島付近にも度々出没しているため、年に数匹は討伐されている。
だが剣のように伸びている上顎は、鉄どころかミスリルより強く、槍の穂先にピッタリな長さだ。
海で活動しているオーシャン・ハンターは槍を使う人が多い関係もあって、オーシャン・ハンターの間じゃ大人気なんだが、年に数匹しか討伐されないため、需要に反して供給は全く足りていない。
一瞬もう1匹ぐらい売ってもいいかもしれないと思ったが、この2ヶ月で売った魔物はPランクもいるし、ブレード・フィッシュの上位種になるグレートブレード・フィッシュなんてのも売っているから、これ以上はヤバいんじゃないかと女性陣に言われて断念した。
ちなみにグレートブレード・フィッシュの上顎は、当然だがブレード・フィッシュのそれより強度が高く、槍に加工すると第3階梯雷魔法サンダー・ジャベリンも付与されるため、オーシャン・ハンターにとっては垂涎の逸品なんだそうだ。
まあ、前回俺達が売ったグレードブレード・フィッシュは、領主のシュトラント伯爵が丸ごと購入済みらしいが。
「魔物も売ったし、明日出港ね」
アクアベアリに戻り、ルーフデッキの温泉に浸かりながら、アリスがいよいよといった感じで口を開いた。
「ああ。だけど戦争中の国に行くわけだから、警戒は怠らないようにしないと」
「アクエリアスやアクアベアリなら安全ですけど、確かに警戒は必要ですね」
エレナの言う通り、アクエリアスやアクアベアリなら、例えリスティヒ王国の軍船に遭遇してしまったとしても、無傷でやり過ごせるし、逆に殲滅する事も不可能じゃない。
だけどその場合は面倒なことになるから、リスティヒ王国側には気付かれないようにカルディナーレ妖王国に入りたいと思う。
なにせカルディナーレ妖王国に入ったら入ったで、エリザの事で面倒な事になるのは確定してるからな。
エリザはエリアやルージュと一緒にナハトシュトローマン男爵の屋敷から助け出したんだが、その時は王女様だとは思わなかったし、連れ出したのも偶然だった。
その後で素性を聞いて驚いたが、だからこそ最初はエリザと奴隷契約を結ぶつもりはなかった。
だがエリザの話も理解出来てしまったし、シュロスブルクでのやりとりもあったし、本人もブルースフィアの魅力に頭の天辺までどっぷり浸かってるから、俺が引き取るしかなくなってしまった。
いや、エリザは美少女だからイヤって訳じゃないし、ここまで来たら手放すなんてことは考えられなくなってるぞ。
だからカルディナーレ妖王国が何を言ってきても、何をしてきても、俺はエリザを解放するつもりはないし、相手がエリザの故郷であっても遠慮するつもりもない。
状況が状況だし、一戦交えるとかそんなことは考えてないが、力押しで脱出する事は想定済みだ。
カルディナーレ妖王家は無茶なことは言ってこないだろうとエリザが言ってたが、家臣とかが勝手に何かしてくる可能性は低くない。
特に注意しなきゃいけないのは、奴隷でも構わないからエリザを寄越せと言ってくる貴族か。
「そこは大丈夫じゃない?あたし達も全員がレベル60を超えてるし、浩哉なんてハイヒューマンに進化してるんだから、無茶な事を言ってきたらどうなるか、分からないはずないと思うわよ?」
「物理的に潰されるだけだもんね」
なんて事を言うアリスとルージュだが、思わず俺もそうかもしれないと思ってしまった。
いや、エリザを寄越せとかぬかしてくる貴族はヒューマン至上主義までいかずとも、それに近い思考や思想をしているだろうから、ほぼ確実に潰しにかかる気がする。
妖族中心のカルディナーレ妖王国でヒューマン至上主義なんて、さすがに蔓延しにくいとは思うが、皆無ってことはないだろうし。
「その時はその時だな。エリザ、前から言ってるが、俺はエリザを解放するつもりはない。先の事は分からないけど、少なくとも今は」
「承知しておりますし、わたくしも解放していただきたいとは思っておりません。もし母上や姉上達が浩哉様に兵を向けるようでしたら、遠慮なく迎撃してくださいませ」
その場合は遠慮するつもりはないが、流れ次第になるんだろうな。
エリザは、女王様や王女様方ならエリザを奴隷から解放しようとしてくるだろうが、ハイヒューマン相手に強硬策を取ってくる事は無いだろうとも言っていた。
むしろ自分の嘆願を受けたハイヒューマンが奴隷としてでも引き取ってくれたんだから、繋がりに使えると考えるんじゃないかとも言ってたな。
ヘリオスフィア全体でもハイクラスは20人もおらず、北大陸だけだと俺を含めても8人しかいない。
その内の1人のハイラミアはカルディナーレ妖王国所属だが、あとはフロイントシャフト帝国とグレートクロス帝国に3人ずつ、ヴェルトハイリヒ聖教国に1人だ。
ハイクラスは1人でも千の兵に匹敵すると言われているから、奴隷に落とされた王女を差し出す事で縁を紡げるのなら、カルディナーレ妖王国に限らず、ほとんどの国は喜んで差し出すだろう、っていうのがエリザの予想だ。
俺は基本旅暮らしだから連絡も取りにくいと思うんだが、それでもハイクラスと繋がりがあるのとないのとでは大違いなんだそうだ。
王族だから最大限の利益を得ようとって事なんだろうが、あんまり気分の良い話じゃない。
だけど今更エリザを解放するつもりはないから、エリザの予想が当たってるなら当たってるで、その場合はカルディナーレ妖王国に手を貸すぐらいは構わないと思ってる。
「どうするかは、流れ次第かな。エリザの故郷だし、なるべく決裂させたくはないよ」
「ありがとうございます」
浴槽の中を俺の隣に移動し、エリザが抱き着き、潤んだ目を向けてくる。
妖族は性欲が強いらしく、ヴァンパイアのエリザとウンディーネのエレナはいつも積極的だが、今日はいつもよりさらに積極的だな。
分かってますよ、ちゃんと期待に応えます。
エリザを抱き寄せると、エリザの胸を揉みしだきながら唇を塞いだ。




