各国の状況とブルースフィアの新能力
エレナの家族をフォルトハーフェンに連れて行ってから2ヶ月経った。
改装、というか泉質をブルースフィアの温泉に変更した宝瓶温泉はみんなにも好評で、暇があれば入る事が増えた気がする。
今俺達は、アクエリアスに乗りながらカルディナーレ妖王国の南側に位置する外海で、レベリングと金策を兼ねた狩りを行っている。
カルディナーレ妖王国や隣国のリスティヒ王国は造船技術に優れているため、何度か遠目に船を見かけたが、本格的に外海まで出てくる事は無かったな。
気になったからハイディング・フィールドを展開してこっちから接近してみたが、アクエリアスの存在はバレてなさそうだった。
ついでって訳じゃないが、リスティヒ王国の軍船も間近で見れたし、性能も予想が出来たのは大きいかもしれない。
ヘリオスフィアの魔導船は、後方に風を噴出させて進む。
リスティヒ王国の魔導船もそうなんだが、どうやらリスティヒ王国は、風を噴出させる魔導具を増産し、通常なら1つしか装備されていない魔導船に3つも装備させて、速度を出すことに成功していたようだ。
とはいえ燃費はバカにならないだろうし、速度も35ノットが限界っぽいから、ウォータージェット推進を搭載したフロイントシャフト帝国の新造船には太刀打ちできないだろうな。
何度かフォルトハーフェンに戻って情報を仕入れていたが、既に新造船は3隻完成し、2隻はカルディナーレ妖王国に派遣されているみたいだ。
さらにクリュエル王国が全面降伏し、フロイントシャフト帝国に組み込まれたらしい。
カルディナーレ妖王国じゃないのかと思ったが、リスティヒ王国とディザイア王国はカルディナーレ妖王国に組み込まれる予定になってるから、クリュエル王国は援軍を派遣したフロイントシャフト帝国にってことなんだとか。
フロイントシャフト帝国とクリュエル王国の間にあった小国 バイラリン公国は、フロイントシャフト帝国に囲まれる形になってしまったが、逆にグレートクロス帝国やエーデルスト王国も手を出せなくなったってことで歓迎しているとも聞いたな。
現在フロイントシャフト軍はカルディナーレ妖王国に入っており、カルディナーレ陸軍と合流してディザイア王国を目指しているそうだ。
ディザイア王国は全軍をカルディナーレ妖王国との国境に集結させているが、数は2万ほどらしく、フロイントシャフト軍とカルディナーレ陸軍総勢6万を相手取るには足りないため、既に脱走兵も出ているって話だな。
早ければ2ヶ月で落ちるだろうって言われてる。
そしてリスティヒ王国だが、こちらはクリュエル王国やディザイア王国のように弱気じゃなく、逆にフロイントシャフト帝国とカルディナーレ妖王国を打倒し、グレートクロス帝国とやり合うつもりみたいだ。
フロイントシャフト・カルディナーレ連合軍とやり合っても勝てるっていう根拠は例の軍船のようだが、フロイントシャフト帝国はそれより性能も効率も上のウォータージェット推進と鉄の船体を実用化しているから、こっちも勝敗は決まっている。
リスティヒ王国は3国の中で一番手強いし、海戦がメインになるし、実際に戦端が開かれるのは半年ぐらい先の話になるみたいだが、その頃にはフロイントシャフト帝国もカルディナーレ妖王国も10隻以上建造してるだろうからな。
リスティヒ王国が先手を打ってレジーナジャルディーノに攻めてくる可能性は低くないが、そのためにフロイントシャフト帝国海軍もウォータージェット推進を搭載した鉄船2隻を派遣してる訳だから、レジーナジャルディーノが落とされる心配はないと思う。
「つまりフロイントシャフトやカルディナーレでも、リスティヒ王国には苦戦するかもしれないってこと?」
「ええ。リスティヒ王国は半島国家だけど、地峡は狭いし山も高い、森も深いから、陸路は使えないの」
リスティヒ王国が小国ながらも造船業が発達している理由は、エリザがルージュに答えた通りの理由だ。
地峡は数キロほどしかなく、2,000メートル級の山脈で遮断されてるし、魔物も手強いのが生息してるみたいだから、陸路を使う者はほとんどいない。
それもあってかリスティヒ王国の陸軍は、海軍程精強じゃないみたいだ。
貿易なんかも海路を使うしかないから、造船業が発達する立地は整っている。
そのくせ貿易国でもあるカルディナーレ妖王国に、奴隷狩りの兵を派遣してるんだから始末に悪い。
最大の問題と思われるエーデルスト王国だが、この2ヶ月で南端のフォルトハーフェンにまで挙兵の噂が届いている。
エレナの村の人達を連れ出した事は、亜人が減ったってことでエーデルスト王国の上層部は喜んでいるが、フロイントシャフト軍がクリュエル王国を落とした事が伝わり、身の危険を感じて挙兵したんじゃないかって事だ。
迎え撃つべくフロイントシャフト帝国も準備を進めていて、こちらには魔導三輪が配備されることも決まったと聞いた。
性能的には簡易魔導車と変わらず、それでいて3人乗りってことで騎馬以上に使い勝手が良く、小回りも利くから、戦場を縦横無尽に走り回るんだろうな。
魔導船に魔導三輪と、俺が提供した技術が早速戦争に使われることになってしまったが、俺としてはヒューマン至上主義を認めるつもりはないから、特に思うところはない。
国がヒューマン至上主義に傾倒しているからといって、全国民がそうとは限らないが、国という背景が無くなれば規模は縮小せざるを得なくなるから、むしろ早く滅ぼしてもらいたいぐらいだ。
そしてグレートクロス帝国だが、こちらは沈黙を保っている。
今も20年前の神罰の影響を払拭するために外征を控えているし、今回フロイントシャフト帝国がカルディナーレ妖王国に援軍を派遣したのも神罰に関係してるから、多分及び腰になってるんだろうな。
各国の情勢はこんな感じか。
俺達だが、2ヶ月間魔物を狩り続けてた事もあって、順調にレベルアップしている。
俺はレベル103のハイヒューマンに進化出来たし、アリスは90、エレナ71、エリア67、ルージュ66、エリザも86になり、全員がストレージング、そしてインベントリングを使えるようになった。
狩った魔物も、外海で狩りを続けてた事もあってサウルス種も少なくないし、シー・サーペントやグレートブレード・フィッシュなんていうのも多い。
フェイカーは既に売り払っているが、対外的にはエラスモサウルスを倒してから沈んだ事にしている。
エラスモサウルスはPランクのサウルス種で、フロイントシャフト帝国では何度か討伐された事があるんだが、フォルトハーフェンに持ち込まれたのは初めてだった。
最後に討伐されたのは100年近く前らしいから、買取額は1000万オールになっている。
ブルースフィアじゃ300万ゴールドだから、ヘリオスフィアの相場は600万ゴールドって事になるんだが、相場の倍近い額で買い取ってくれたから驚いた。
それでも一瞬で捌けるって言われたが。
他にも細々とした魔物を売ったから、全部で1200万オールになった。
エラスモサウルス1匹でとんでもない騒ぎになったから、他の魔物はブルースフィアで換金しといてよかったと思う。
あ、ブルースフィアでの換金額は、総額で1億ゴールドを超えたぞ。
さらに俺がハイヒューマンに進化した事で、ブルースフィアもレベル6になった。
ブルースフィア レベル6になったことで、ブルースフィア・クロニクルにあった店が全て開放され、念願のサクリファイス・リングも全員分購入する事が出来たから嬉しい。
食事処も、特にデザート類が増えたから、女性陣は大喜びだったな。
季節限定品なんかも、常時購入出来るようになったのも大きいな。
さらにブルースフィアの一部機能が、みんなにも開放された。
開放された機能は装備スロットの管理、マップの確認、店舗での買い物、俺が譲渡、もしくは貸与したアイテムの召喚や送還だ。
装備スロットの管理は、後述する店舗で購入したアイテムを自由に装備しなおす事が可能だから、ブルースフィア・クロニクルのお洒落装備なんかを普段着に出来る。
店舗での買い物は、俺的には一番ありがたいが、使える店舗は食事処か服屋、雑貨屋ぐらいで、武器屋や合成ショップ、ビークルショップは対象外だ。
店舗で買った物は自分の物って事になるから、装備スロットも使いやすくなってるはずだ。
まあ買い物にはゴールドが必要だから、俺がお小遣いを渡してるんだが。
最後に俺が譲渡か貸与したアイテムの召喚、送還は、装備品なんかも対象ではあるが、一番恩恵が大きいのはやはり乗物だろう。
アリスにアンカを、エレナにシトゥラを貸与しているから、開放されてからというもの2人は大喜びだったな。
エレナ、ルージュ、エリザが羨ましそうな顔をしていたし、資金も稼げてるから、そろそろ3人の魔導水上艇も買おうかと思っている。
なお開放されたブルースフィアは、みんなのスキル欄にも表示されているんだが、レベルは無く、名称もブルースフィア・イージネスとなっていた。
「という訳で、エリア、ルージュ、エリザ用の魔導水上艇を買おうと思う」
「ホントっ!?」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、浩哉様」
3人とも嬉しそうだな。
いずれ用意するとは伝えてたが、購入資金だけじゃなくアクエリアスの改装もしなきゃいけなかったから、どうしたもんかと頭を悩ませてたんだよ。
もちろんパーキング・エリアの改装は行うが、ブルースフィアの簡易版がみんなにも開放された事で、各人で召喚や送還が行えるようになったから、最低限でいいだろう。
アルマク
魔導水上艇:☆☆☆
最高速度:55ノット
全長:1,7メートル
全幅:1,1メートル
最大搭乗数:4名
アビリティ:不懐、不沈、不倒、侵入不可、自動操縦
貸与:エリアリア
アディル
魔導水上艇:☆☆☆
最高速度:60ノット
全長:1,2メートル
全幅:0,8メートル
最大搭乗数:2名
アビリティ:不懐、不沈、不倒、侵入不可、自動操縦
貸与:ルージュ
ミラク
魔導水上艇:☆☆☆
最高速度:55ノット
全長:1,6メートル
全幅:0,9メートル
最大搭乗数:3名
アビリティ:不懐、不沈、不倒、侵入不可、自動操縦
貸与:エリザベッタ
これが3人が選んだ魔導水上艇だ。
以前は無かったんだが、ブルースフィア・イージネスが開放されたこともあって、所有者が表示されるようになっている。
アンカとシトゥラもアリスとエレナに貸与済みだ。
譲渡すれば所有者扱いになるんだが、そうしてしまうと改装が出来なくなるし、自動操縦も所有者しか使えなくなるみたいだから、使い勝手も考えると貸与の方が良い。
船名はみずがめ座の恒星じゃなく、アンドロメダ座の恒星が由来だ。
みずがめ座の恒星もまだいくつか残ってはいるが、名称付きの恒星は数が少ないから、俺が使いたい時に残ってない可能性もある。
だから3人には申し訳ないが、みずがめ座の近くにあるアンドロメダ座の恒星を使ってもらう事にしたんだ。
アンドロメダ座はみずがめ座の近くにあるし、確かアンドロメダは王女様だったはずだから、エリザが使う魔導水上艇の名前としても悪くないと思うし。
3人が選んだ魔導水上艇だが、ルージュのアディルはアリスのアンカに、エリザのミラクはエレナのシトゥラに似ていて、エリアのアルマクは水上バイクというより小型モーターボートに近い。
早速魔導水上艇に慣れるために乗り回す3人だが、操縦方法は魔導車でも魔導船でも変わらないから、何度かアンカやシトゥラに乗ってた事もあって、乗りこなすのは早かったな。
せっかくだからって事で、俺もスカトに、アリスはアンカに、エレナはシトゥラに乗って、魔物を狩ることにしつつ、アクエリアスの改装も行うことにした。
アンダーデッキは3分の2をパーキング・エリアに変更し、キャリアーも設置している。
みんなもブルースフィアの一部が使えるようになったから、必要があるかは甚だ疑問だが、保持っていう意味もあるから、とりあえずは良しとしておこう。
1人部屋も何とか12部屋確保出来たが、ベッド以外はテーブルがあるぐらいだな。
みんなも1人になりたい時もあるだろうから用意したんだが、こればっかりは勘弁してもらおう。
ちょっと部屋数が多い気もするが、ナハトシュタットから連れ出した3人の事もあるから、今後も誰かを乗せる可能性はある。
だからメインデッキのデラックスルームと合わせて、客室として使う予定だ。
改装する事はみんなにも伝えてあるから、それぞれが魔導水上艇に乗ると同時に送還している。
これで再召喚すれば、アクエリアスの改装は完了だ。
宝瓶温泉も本当の意味で温泉になったから、今夜はしっかりと楽しもう。




