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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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目的達成

 フェイカーをアクアベアリで曳航しながら、男爵領領都の沖合に運ぶ。

 接岸してしまうと何事かと調べにくるのは分かり切ってるから、これ以上は無理か。


「俺達はサダルメリクを使うから、アリス達はアクアベアリで待機しててくれ」

「アクアベアリを使わなくてもいいの?」

「変に接岸すると、領都の方から人が来るしな。それにフェイカーのマスターズルームは狭いから、アクアベアリの方が寛げるだろ?」


 アクアベアリで接岸して、上陸と同時に送還っていうのが俺的には楽なんだが、そうすると残るアリス、エリア、ルージュ達はフェイカーのマスターズルームに詰める事になってしまう。

 そこそこの広さはあるから3人なら十分なんだが、それでも狭いのは間違いないし、俺やエレナがいないことでベイル村の人達といざこざが起きる可能性もあるから、アクアベアリは置いていくのが正解だと思う。


「それにこっちは、いざとなったらアクエリアスを召喚できる。帰りは明日になる可能性もあるしね」


 フロイントシャフト帝国に向かってるエレナの妹達は、4日前にベイル村を発ったそうだから、まだ領都近くにいると思うんだが、領都で騎獣を手に入れている可能性は否定できないし、運良く同じ移住希望者と合流している可能性もある。

 一帯を治めている男爵は、国に内密に貿易を行っているから、俺の予想だとヒューマン至上主義者じゃないと思う。

 ベイル村の状況を知ってるかまでは分からないが、エーデルスト王国の現状は理解しているはずだから、そういった移住希望者を援助している可能性も捨てきれない。

 人数が多過ぎるとフェイカーに乗りきらないから、出来れば3人だけで動いててほしいもんだ。


「分かったわ。それじゃああたし達は、基本アクアベアリから動かず、何かあったときだけフェイカーに行くってことね」

「悪いけど頼む」


 年齢的にはエリアに頼むべきなんだが、レベルはアリスの方が上だから、万が一荒事になってしまった場合、アリスの方が適切な対処をしてくれるだろう。

 食材なんかは既に渡してるし、設備の使い方も教えてあるから、よっぽどのことが無ければ呼ばれないと思うが、万が一に対する備えは必要だ。


「それじゃあ行ってくる。ああ、インベントリにある食い物とかは、好きに飲み食いしてていいから」

「ええ、ありがとう」


 俺がいないとブルースフィアで買い物は出来ないから、いくつか料理を購入してインベントリに突っ込んでいるし、食料庫には食材や調味料もストックしてある。

 それに移動中、いくつかの料理を買い足してインベントリに突っ込んで、それをアリスに出してもらうっていう荒業も可能だから、食事に関しては心配いらない。

 そう考えると、インベントリングっていう魔法も、けっこうな壊れ性能だな。


 海上にサダルメリクを召喚し、俺は運転席に、エレナは助手席に、エリザが後部座席に座る。

 不沈効果で沈まないとはいえ、サダルメリクは日本のステップワゴンに似た外観だから、普通ならドアを開けると水が入ってきてしまう。

 海上での乗り降りも想定していたから、ドアの前にはステップというか足場を設けて浸水しないようにしているが、長時間ドアを開けっ放しは怖いから、なるべく使いたくないな。

 と思ってたんだが、侵入不可のおかげで浸水しなかったよ。

 苦労して考えたんだけどなぁ……。


 気を取り直して、エレナ、エリザを乗せてからサダルメリクを発進させる。

 水上でサダルメリクに乗るのは初めてだが、思ってたよりも快適だ。

 陸上と違って凹凸がないから、安定してる気もする。

 ハイディングフィールドは使ってないから、領都から誰かが来るかもしれないのが気になるところか。


 フェイカーの停泊地点から数分ほどで、無事に上陸する事が出来た。

 男爵領の西は伯爵領となっていて、領主は生粋のヒューマン至上主義者らしいから、フロイントシャフト帝国に逃げる場合は進路から外れる。

 なので男爵領を南下し、ヒューマン至上主義者が増えてきている子爵領を通過するのが、最も安全なルートになる。

 捕まってしまったら旦那になるダークエルフとエレナの妹は奴隷になる可能性があるから、町には立ち寄らないだろう。

 ただフロイントシャフト帝国までは、徒歩だと20日は掛かるみたいだから、どこかで町に立ち寄らないと、食料が不足する。

 子爵領の南にある男爵領はフロイントシャフト帝国と隣接している関係もあって、ヒューマン至上主義とは無縁みたいだし、そこまでは徒歩で1週間ほどみたいだから、目指すとしたらその男爵領か。

 ベイル村から男爵領領都までは、徒歩で2日、買い出しとかに1日使うと考えると、今朝出立した可能性も低くはないな。

 まあ、昨日出立してたとしても、歩く速度は時速4~5キロぐらいだから、今日中には追いつけるだろう。


「まだお昼を回ったばかりですから、朝一番で出立したとしても、そんなに進んでいないと思います」


 進んでたとしても、精々20キロってとこだろうな。

 サダルメリクなら30分もかからずに進める距離だから、上手くいけば日帰りでいけそうだ。


 その予想は当たっていて、20分程進んでいると、3人の男女が歩いてる姿が視界に映った。


「エレナ、もしかしてあの3人がそう?」

「はい!左のウンディーネが私の妹、アンジェリーナです!」


 よっしゃ、あとは3人をフェイカーまで連れていけば、ミッション完了だ。


「分かった。それじゃあハイディングフィールドを解除するから、エレナが声を掛けてくれ」

「はい!」


 3人の後方から近付いていくが、魔導車はエーデルスト王国にもあるから、3人とも特に慌ててはいない。

 いや、ヒューマン至上主義者が乗ってることもあり得るし、捕まることもあるだろうから、警戒はしているな。

 その3人に向かって、サダルメリクの窓を開けたエレナが叫んだ。


「アンジェ!」

「え?姉さん……なの?」

「そうよ!良かった、見つかって!」


 サダルメリクを停めると、エレナが飛び出し、妹さんに抱き着いた。


「本当に……姉さん!良かった……ごめんなさい!」

「アンジェが謝る事じゃないわよ」


 感動の再会だな。


「エレナさん、なんでここに?」

「奴隷になって、フロイントシャフト帝国に行ったんじゃありませんでしたか?」


 連れの2人は驚いているが、こっちの反応も当然のものだ。

 エレナが奴隷になった理由はベイル村の人達も知っているから、この2人が知っていてもおかしくはない。

 そのエレナが突然現れたんだから、驚くなって言う方が無理だろ。


「ええ、そうよ。そこで最高のマスターと巡り合う事が出来たから、私はここに戻ってきたの」

「エレナ、感動の再会中に悪いが、話は中でも出来るだろ?悪いが急ぐぞ」


 フェイカーが領都沖に停泊してるのは気付かれてるだろうし、そこからサダルメリクが出たようにも見えるはずだから、あんまり時間を掛けてると領軍が出てくるかもしれない。

 出てきたところで逃げるのは簡単だが、無用な騒ぎは起こしたくないから、積もる話はサダルメリクの中かフェイカーでお願いしたい。


「あ、申し訳ありません、マスター。3人とも、まずは乗って」

「え?」

「乗るって……この魔導車にか?」

「そうよ。大丈夫よ、契約でもあるから、あなた達をどうこうするつもりはないわ」

「契約って……姉さん、いったいどんな契約を……」


 気になるだろうが、家族でもさすがに内容を口にするのは憚られる。

 いや、家族だからこそ、だな。

 家族を含む村の人達をフロイントシャフト帝国に移住させることが出来たら、俺に身も心も捧げるなんて、言えるわけがない。


「契約だから話せないけど、あなた達を安全に移住させるためよ。お父さん達も、既に村を出ているわ」

「お父さん達も?」

「ええ。マスターの魔導船に、希望者を乗せているの。だからあなた達も、早く」

「う、うん」


 妹さんはともかく、他の2人はおっかなびっくりでサダルメリクに乗り込んだ。

 まだ大して疲れてないだろうが、フェイカーまではトランクルームでゆっくりと休んでもらおう。


「エレナ、3人のことは頼んだ。エリザ、インベントリの食事を出してくれ。朝から歩き通しだろうし、腹も減ってると思うから」

「畏まりました」

「ありがとうございます、マスター」


 休憩は入れてただろうが、朝から歩き続けてただろうから、腹は減ってるだろう。

 俺はサダルメリクの運転があるから手が離せないが、エリザもインベントリングを使えるから、食事ぐらいならすぐに用意できる。

 エリザに来てもらったのは、それが一番の理由だ。

 自動操縦を使えばいいかもしれないが、さすがに勝手に目的地まで行ってくれる魔導車なんて存在してないから、なるべく知られないようにしないといけない。

 さすがに50人弱の村人と契約を結ぶのは現実的じゃないから、漏れる可能性もあるしな。


 何事もなく、1時間程でフェイカーに到着。

 そう思ってたんだが、領都から船が向かってきているのが見えた。

 さすがに見つかったか。

 領都側からしたら不審船でしかないから、臨検はもちろん、俺達の捕縛も視野に入ってるんだろうな。

 だけど向かってきてる船はガレー船だから、辿り着くまでまだ時間は掛かりそうだし、無視して出港してしまおう。


 道中でエレナの妹達にも状況を説明しておいたから、すぐにフェイカーに乗り移ってくれた。

 家族とも再会を喜んでいたが、ヒューマンの女の子だけは少し寂しそうな顔をしてたのが印象的だった。

 聞いた話じゃ、両親と弟はヒューマン至上主義に傾倒していて、自分の結婚も許される雰囲気じゃなかったようだ。

 だから意を決して村を出たんだが、その時は3人とも二度と家族に会えないと覚悟を決めていた。

 なのにエレナの妹とダークエルフは家族と再会できてしまったから、寂しく感じるのも無理もない話だ。

 悪いとは思うが、そこまでは俺も責任は持てないぞ。


 3人をフェイカーに乗せてから、俺達はアクアベアリに乗り込む。

 船が迫ってきている以外変わった事は無かったそうだし、律儀に臨検を受ける必要も無いから、このまま出航してしまおう。

 なるべく陸に近い航路を選び、自動操縦でアクアベアリを出航させる。

 さらにフェイカーも、アクアベアリに曳航されるだけじゃなく、少しでも速度を出すために自動操縦で進ませておく。

 25ノットぐらいになってしまったが、曳航するだけだと20ノットも出ないから、これは仕方がない。


「思ってたより、あっさりと連れ出せたわね」


 アクアベアリのリビングで寛いでると、アリスがそんなことを口にした。

 うん、俺もそう思う。


「妹さん達が村を出ていたのは驚きましたが、こちらも簡単に見つけられましたからね」


 エリザの言う通り、拍子抜けするぐらいあっさりと見つかったし、何事もなく連れてくる事が出来たからな。

 留守番してたアリス達にも、何かあったのかって心配されたぐらいだ。

 村を出て4日しか経ってなかったっていうのも、早く見つけられた理由だろう。

 1週間とか10日とか言われたら、さすがに大変だったし、そもそも見つけられるかも分からなかった。

 それでも、こんな簡単にいくとは思ってなかったから、逆に怖くなってくる。


「お兄ちゃんだから簡単に出来てるけど、普通の人なら大変なんて話じゃ済まないよ?」

「そうよね。村から連れ出すだけでも大変なのに、道中は魔物も襲ってくるし、領軍や、下手したら国軍だって関与してくるわ。すべてを撥ね退けるなんて、高ランクハンターでも無理よ」


 最近この状況に慣れてきてたから忘れてたが、確かにブルースフィアはチートの塊だったな。


 沿岸沿いはあまり魔物も襲ってこないし、来ても小型種ぐらいだから漁師とかでも簡単に倒せるんだが、稀に中型種が出ることもあるから、絶対に安全とは言い切れない。

 それに食料も保存食ばかりだから、大人数の輸送には向いていない。

 ストレージングやインベントリングが使えればまだマシだが、MP500以上の人は多くないっていう問題もある。


 翻って、フェイカーは中型資材運搬船だが、乗員にはまだ少し余裕がある。

 それでいてその上に大型船もあるし、不懐、不沈、不倒、侵入不可のおかげで安全に航海できるから、大量輸送にはもってこいだ。

 護衛は不要だが、俺のレベルは74だし、アリスもレベル57、他に4人もレベル40前後だから、少々の難事は乗り切れる。

 食事どころか嗜好品も、ゴールドさえあればどこでも買えるから、退屈な船旅もかなりマシになっている。


 うん、あまりにも違い過ぎるな。


「フォルトハーフェンに戻ったら、シュラーク商会も試作船を完成させてるんじゃない?」

「それに期待だな」


 シュラーク商会に鉄船やウォータージェット推進技術を教えておいて、本当に良かったと思う。


「マスター、お陰様でみんなを無事に連れ出す事が出来ました。本当にありがとうございます」


 俺に向かって、エレナが深々と頭を下げる。


「契約なんだし、俺に出来る事だったんだから、礼はいらないよ」

「いえ、そういう訳にはいきません。心から感謝します。あとはフォルトハーフェンでシュラーク商会にお願いするだけですから、今この時から、私の全てをマスター浩哉様に捧げます」


 思わずドキッとしてしまった。

 確かに村の人を無事に連れ出したら、エレナは俺に全てを捧げるっていう契約だったが、まだフォルトハーフェンに着いてないんだから、ちょっと気が早いんじゃ?

 いや、アリスもそうだったし、フォルトハーフェンまで無事に到着できるのは分かってる。

 到着後もシュラーク商会に後は任せてるから、後顧の憂いは無い状態……なのか?


「ま、まあそういう契約だし、これからもよろしくお願いね、エレナ」

「はい!」


 輝くような笑顔が眩しいな。

 フォルトハーフェンに到着したらトレーダーズギルドに行って、契約達成の手続きしないと。

 アリスは達成済みだし、エリアとルージュは契約が目的だから達成扱いになっている。

 そしてエレナも達成になるから、残るはエリザだけだな。

 既にカルディナーレ妖王国に援軍を送っているはずだが、武力衝突はまだ少し先のはずだから、いつ頃行くかはその辺の話を聞いてから決めよう。

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