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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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エーデルスト王国の噂

 フォルトハーフェンを出港して1週間、予定通りではあるが、ようやくエレナの故郷、ベイル村が見えた。

 道中ではフェイカーと名付けた資材運搬船の確認、パワーレベリングと銘打った資金稼ぎも行っている。


 レベルは俺が74、アリス57、エレナ44、エリア40、ルージュ39、エリザ47になり、エレナのMPも500を超えたことで、ストレージングを使えるようになった。

 インベントリングも使えるんだが、インベントリを合わせるには教会に行かなきゃいけないから、残念ながらそっちはまだ先になる。

 エリザはフォルトハーフェンまでの道中で使えるようになってたから、途中の町で登録済みだ。


 資金の方は、エラスモサウルスの他にもサウルスを5匹ぐらい狩れたし、サンダー・スクイドやシー・ヴァイパー、シー・サーペント、キラー・ホエールなんてのも遭遇したな。

 キラー・ホエールはエラスモサウルスと同じPランクモンスターだが、全長50メートル以上もあったから、倒すのが面倒だった。

 見た目はバカでかいシャチなんだが、アクエリアスと同じぐらいのデカさってこともあってか、換金額はエラスモサウルスより上だったのは嬉しかったな。

 初日に換金したゴールドも含めると、総額で30,000,000ゴールド以上稼げたから、温泉の設置は出来そうだ。

 まあ、設置するにしても、エレナの家族を移住させてからになるけど。


「あそこがベイル村か。マップでは見てたけど、町とか作ったら発展しそうな感じね」

「天然の湾になっていますから、港としては理想的ですね」

「実際、漁は湾内だけで済みますし、危険な魔物も入り込まないんです」


 湾内は深くても水深10メートル程度だから、大型の魔物は入り込めない。

 もちろん地上でも活動できる種もいるんだが、海の魔物は好んで陸に上がる種は少ない。

 この辺りにはそんな魔物は生息してないみたいだから、漁も比較的安全に出来るし、位置的に海路の要所にもなり得る。


 なのにベイル村は、まったく発展していない。


 これはエーデルスト王国が海運を重要視しておらず、造船技術も発達していないことが理由だ。

 エーデルスト王国は東西に長い国で、海に面しているのはベイル村以外だと隣にある男爵領の領都のみとなっている。

 その男爵領には船はあるんだが、魔導船は数隻しかなく、驚いたことに帆船すら希少で、多くは手漕ぎの船で、男爵が有する海上戦力の船はガレー船だったりする。


 ヘリオスフィアには魔導船が存在しているが、希少な代物でもあるため、一般的とは言い難い。

 実際漁船とかは手漕ぎも多いし、帆船や魔物が曳く船もある。

 しかも国によって造船技術や航海技術には大きな隔たりがあるから、エーデルスト王国みたいに魔導船を作る事の出来ない国も少なくなかったりする。


 航海中に書斎にある本でエーデルスト王国のことを調べてみたが、どうも男爵領含むベイル村一帯が開発されたのは50年ぐらい前で、それまでは完全な未開地だったようだ。

 元々エーデルスト王国は内陸国だったため、造船技術とは無縁だった。

 なのに海に面した領地を開発した理由は、隣接している小国が進出してくるという情報を入手したからだ。

 その小国も内陸国だが、グレートクロス帝国に一矢報いるために港町の開発を思案し、入植どころか見向きもされていなかったエーデルスト王国沿岸部に目を付けた。

 エーデルスト王国は海に興味は無かったんだが、それでも勝手に国土に進出されるのは面白くないから、先手を打って希望者を募り、開発と入植を開始したんだが、その小国からすれば情報が漏れてしまったことで先手を打たれてしまった形になる。

 しかもグレートクロス帝国側にもその情報が漏れてしまったため、その後すぐに滅ぼされてしまったって話だ。

 その小国はヒューマン至上主義国だったから、俺からすれば滅びて良かったと思える。


 ただ、そこまでして港を開発したエーデルスト王国だが、国内の流通には使う事が出来ず、逆に船や港の維持にかなりの費用が掛かることを知り、最近では放置気味のようだ。

 例のヒューマン至上主義の王太子妃も内陸国出身だから、港の重要性は理解しておらず、むしろ邪魔だと公言している。

 さらに王太子ばかりかエーデルスト王も同調してしまっているそうだから、本来なら伯爵、最低でも子爵が任されるはずのこの辺境地域の領主は男爵のままで、ほとんど密輸に近い形でフロイントシャフト帝国やヴェルトハイリヒ聖教国と貿易を行い、辛うじて赤字を回避しているのが現状だとあった。


 エリザも呆れていたが、俺も全く同感だ。

 港があれば他国との貿易で国を潤すことも可能なのに、目先の維持費に目を取られて軽視し、しかもヒューマン至上主義に傾倒することで他国を見下し始めているから、亡国まっしぐらなんじゃないかとすら思う。

 フロイントシャフト帝国がカルディナーレ妖王国に援軍を送る隙を付いて挙兵するっていう噂があるが、そんな頭の悪い国がフロイントシャフト帝国に勝てる未来が想像出来ないな。


「エレナ、領都までは獣車で1日、徒歩だと1日半なんだっけ?」

「はい。ベイル村には獣車はありませんし、騎獣もいません。ですから走るしか手がありません」


 冷遇されてるだけあって、移動手段も乏しいのか。

 いや、手漕ぎとはいえ船があるな。


「船はどうだ?」

「船を使ってしまうと漁が出来なくなるので、使った事はないはずです」


 船は漁以外で使ったことはないのか。

 まあ、手漕ぎだって話だし、徒歩で1日半も掛かる距離を漕ぎ続けるのは大変だから、試した事が無いのも無理もないか。


「となると、領都に連絡に行かれたとしても、すぐに戻ってくることはないか」

「それでも時間を掛けるのはどうかと思うから、やるなら迅速に、可能なら1日で終わらせるべきね」

「だな」


 手荷物は持ち運べるし、家財道具も俺達のインベントリに入れることは可能だから、決断さえしてもらえれば話は早いだろう。


「問題は、やはり村長とその子息でしょうね」


 エリザの言う通り、最大の問題は村長とその息子だな。

 特に息子の方は、レベル40を超えているって聞いているから、ほぼ間違いなく力で訴えてくるだろう。

 まあ、簡単に返り討ちに出来るから、力で訴えてくるんなら楽な展開になるんじゃないかと思う。

 ベイル村の亜人とされてる人達が虐げられている理由は、そのバカ息子の存在が大きいって話だから、叩きのめした後なら話も早くなるはずだ。


「じゃあベイル村には、明日の朝一で行こう。移住の準備もしやすいだろうし、バカ息子もいるだろうから、諸々の手間を纏めて片付けられる」

「そうね。いっそのこと、今夜中にフェイカーを横付けしとく?」

「威嚇行為にもなりますし、寝ている間に懐に潜り込んでいるわけですから、アリと言えばアリですね」


 アリスとエリザが過激な意見を口にするが、確かにそっちの方が話が早いし、逃げられることもないか。


「それじゃあ日が沈んだら、フェイカーを横付けしておくよ。夜中のうちにハイディングフィールドを解除すれば、気付かれることもないだろう」

「ああ、そっか。今から横付けしてておいても、ハイディングフィールドを使っておけばバレないんだったわね」

「それもあるけど、明日からしばらくはアクアベアリで過ごすことになるから、今晩はアクエリアスで豪遊でもしようかと思ってね」


 アクアベアリのルーフデッキにも浴槽はあるけど、アクエリアスの宝瓶温泉程じゃないから、しばらくは物足りなく感じるだろう。

 それにフォルトハーフェンに着いたらフェイカーもお役御免になるから、アクエリアスの改装も出来る。

 今の宝瓶温泉を楽しめるのはこれが最後になるかもしれないから、今夜は宝瓶温泉だけじゃなく食事も豪勢にして、文字通り豪遊したいと思うんだよ。


「そして浩哉は、酒池肉林を楽しむと。スケベよねぇ?」

「……その考えがあるのは否定しない。だけど心を読むのは止めてくれますかね?」


 アリスにニヤニヤしながらツッコまれたが、俺だって男なんだから、そんな考えを持ってても仕方ないじゃないか。


「浩哉が分かりやすいだけよ。だけどあたし達だって、イヤじゃないどころか楽しんでるんだからね?」

「お料理は美味しいですし、宝瓶温泉も気持ちいいですからね」

「移動中も、トランプとかチェスとかで遊べるから、気が付いたら時間が経ってることもあるよね」


 みんなも楽しんでくれてると知って、ちょっと安心できる。

 マスターとはいえ男は俺だけだから、ちょっとは遠慮した方がいいんじゃないかと思う時もあるからな。


 ルージュの言うトランプやチェスは、地球のと同じ物だが、ブルースフィア・クロニクルのミニゲームで使われているから、雑貨屋で買う事が出来る。

 他にも麻雀によく似たナンバーズアレンジっていうゲームにボードゲーム、カードゲームなんかもある。

 全部購入済みだが、ナンバーズアレンジは4人までしかできないし、カードゲームは対戦、ボードゲームは時間が掛かるから、手っ取り早く出来るトランプが人気だ。

 チェスも対戦ゲームだが、これはエリアとエリザが嵌っているから、移動中もよく2人で対戦している。

 ああ、最近はリバーシなんかもやってるな。

 陸路はサダルメリクだが、20平米のスペースを確保しているトランクルームがあるから、退屈な思いもしなくて済む。

 あと娯楽になってるのは、リビングやマスターズルームのモニターを使って、ブルースフィアの店を見ることか。

 いわゆるウインドウショッピングだと思うが、女性の買い物は長いっていうのが常だから、一度見始めるとけっこうな時間が掛かってしまうし、レベル5で開放された服屋は試着サービスがありやがったから、見つかってしまった時は大変だったな……。

 正直、一部の店ぐらいで構わないから、みんなが自由に覗いたり買い物出来たりしてもいいんじゃないかと思わずにいられなかった。

 モニターじゃ見るだけしか出来ないから、店を変えたり買ったりっていうのは俺しか出来ないし、そのおかげで3時間は拘束されたからな。

 まあ、ブルースフィアは俺のスキルだから、そんなことは無理なんだが。


 おっと、フェイカーも召喚しておかないとな。

 時間が時間だから、港には誰もいない感じだし、今のうちから横付けしておいて、寝る前にハイディングフィールドを解除すればいいだろう。

 アクアベアリで曳航するし、乗り移るためのステップや食料も購入済みだから、準備は万端だ。

 フェイカーのメインデッキ後部にはキッチンも取り付けたから、料理は自分達でやってもらう予定になってるし、あんまり必要はない気もするが。


 日暮れまではまだ時間があるから、ちょっと豪華な料理を食べながら、宝瓶温泉を一緒に楽しもう。

 明日からしばらくはアクアベアリで過ごすことになるから、しばらくは入れないし、温泉を設置する予定になってるから、今の宝瓶温泉を堪能するのはこれが最後になる。

 今日は存分に楽しませてもらおう。

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