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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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実験と購入

 特に何事もなく夜が明け、俺達はフォルトハーフェンを出港し、再び外海に出た。


 夜はルーフデッキの浴場を楽しみ、その後でマスターズルームで頑張らせてもらったんだが、ルーフデッキからキャビンへの移動にリアデッキを経由しなきゃいけないから、人目を気にしなきゃいけないのが面倒だったな。

 今まではハイディングフィールドを使ってたから気にする必要なかったんだが、普通に港に係留しているから使えないし。

 動線をちょっと見直してみよう。


 外海で最初にすることは、大波に煽られた場合にどうなるかの実験だ。

 中型資材運搬船の購入は移動中でも問題ないし、無事に村の人達をフォルトハーフェンまで連れてくることが出来たらお役御免になるから、最低限の改装で済ませるつもりでいる。


「それじゃあ実験を始めるよ。『アクエリアス・アクティブ』」


 最初にアクエリアスを召喚。

 十分距離をとってから海面に手を当て、第4階梯水魔法アクア・ストームを使い、大波が起こるように進路を調整する。

 よし、上手くいった。


「おおっ!」

「け、けっこう揺れるわね」


 反動でアクアベアリもけっこう揺れた。

 セーフティーフィールドのおかげで転落しないで済んだが、無かったら危なかったな。

 ところがアクエリアスは、微動だにせずに鎮座していた。


「なんかおかしくない?」

「おかしいというか、波がぶつかった様子が見受けられませんでしたね」

「届く前に消えた?って感じがしたよ」


 俺もそう感じた。


「浩哉様、もしかしてハイディングフィールドを展開したままなのでは?」

「それだ!」


 エリザに言われて気が付いた。

 基本アクエリアスは、ハイディングフィールドを常時展開している。

 外海でもごく稀に船が出てくることがあるし、展開しておかないと常に魔物に襲われる危険性があるから、対処も手間だ。

 だから狩りぐらいでしか解除しないから、送還する時もハイディングフィールドは展開したままだ。

 そうすれば再召喚時もハイディングフィールドが展開されたままになってるから、陸の上でも人目を気にせず使う事が出来た。

 今回も同様で、ハイディングフィールドを展開したまま送還、召喚っていう流れだから、俺が起こした大波はハイディングフィールドに遮られてしまったっていうことなんだろう。


「ハイディングフィールドって、あんな大波も無効化してくれるんですね」

「嵐に遭遇する危険性はありましたから、助かると言えば助かるんですが……」


 エリアとエレナが少し引いてるが、気持ちは分かる。

 俺もまさか、完全にシャットアウトされるとは思ってなかったからな。

 陸上なら分からなくもないが、海の上なんだから、多少は揺れると思ってたよ。


「ま、まあ、安全第一ってことで」

「言いたい事は分かりますが、限度があると思いますよ?いえ、安全に航海できるのですから、文句はありませんが」


 エリザが呆れたような表情をしているが、確かに限度を超えてるよな。


「安全なのは、悪い事じゃないと思うけどね。それより浩哉、もしかしたらアクアベアリも、ハイディングフィールドを使ってれば波の影響を受けないってことにならない?」

「なるだろうなぁ。もう一度やるけど、今度はアクアベアリにハイディングフィールドを使って、逆にアクエリアスは解除してみよう」


 というわけで、再実験だ。

 アクアベアリにハイディングフィールドを使い、アクエリアスのハイディングフィールドは解除する。

 そして再びアクア・ストームを使って大波を起こしてみると、今度はアクアベアリは少し揺れた程度で済んだが、アクエリアスはそこそこ大きく揺られていた。

 あの揺れの大きさなら転落する心配はないと思うが、それでも転んだりはする気がする。


「結果がでましたね」

「はい。普段はハイディングフィールドを展開しておいて、狩りをする場合のみ解除が無難ですね」


 港に入る場合は、陸が見えそうな場所から解除しておかないといけないが、普段は展開しっぱなしで決まりだな。

 予想以上の結果になったが、安全に航海できることが確認できたんだから、俺としては文句はない。


 それじゃあアクエリアスに、と思ってたら、騒がしくしすぎたせいなのか、魔物の襲撃を受けてしまった。

 しかもシー・ヴァイパーだけじゃなく、上位種になるシー・サーペントまでいやがる。


「ちょっと騒ぎ過ぎたみたいね」

「あ、やっぱり?」

「そりゃ魔法を使って、あれだけ派手に大波を起こしてたら、魔物だって大挙してくるわよ」


 アリスの言う通りだよな。

 だけどブルースフィアの換金額は、シー・ヴァイパーが120,000ゴールド、シー・サーペントは530,000ゴールドだから、俺からしたら鴨が葱を背負って来たようにしか見えなかったりする。


「シー・サーペントが2匹、シー・ヴァイパーは6匹みたいですね」

「ってことは、全部で……いくらになるんだっけ?」


 エリザは王家の教育で読み書き計算は出来てたんだが、ルージュは俺の持つ成長速度向上スキルと全言語理解スキルのパッシブ効果のおかげで、ようやくできるようになっている。

 それでも計算は苦手みたいだから、簡単な暗算でも誰かにやってもらう癖がついてるな。

 別に構わないっちゃ構わないんだが、役に立つんだから、それぐらいはしっかり覚えような。


「全部で1,160,000ゴールドだな」


 生活費は日に数千ゴールドほどだが、塵も積もれば山となるの言葉通り、魔物を倒さなかったらいずれは底を尽くし、アクエリアスの大改装のために資金を貯めないといけないから、ここで100万ゴールド以上稼げるのは嬉しい誤算だ。

 それに魔法で海面を荒らせば、魔物がおびき寄せられてくるかもしれないとなれば、思ってたより早く資金を稼ぐことも出来るかもしれない。

 今は魔物を倒すことを優先するが、これもしっかりと検証しないといけないな。


「検証は後でするとして、今はあいつらを狩るとしようか!」

「そうこなくっちゃね!」


 アリスはやる気満々だし、他の4人も同じか。

 アクアベアリに乗っての戦闘は初めてだが、デッキが低い分こっちの方が戦いやすいだろう。

 セーフティーフィールドを展開してるから、海に転落する心配もない。

 アクアベアリはアクエリアスの半分ほどの大きさしかないが、魔物の攻撃は衝撃も含めて侵入不可の結界に遮られるから、船体が大きく動かされたり持ち上げられたりすることもないだろう。


「いっくよー!『サンダー・アロー』!」


 最初に攻撃を開始したのは、ルージュだった。

 雷属性の第2階梯魔法サンダー・アローを連射して、シー・ヴァイパー達を纏めて足止めしている。

 ルージュの魔法スキルは4になってるから、第4階梯の魔法まで使うことが出来るし、装備しているサターン・ブレイブアーマーの効果でステータスはもちろん魔法スキルにも補正が入ってるから、第2階梯のサンダー・アローも第4階梯クラス、もしかしたら第5階梯と同等になってるかもしれない。

 そのサンダー・アローで足止めされていたシー・ヴァイパーは、ルージュの第4階梯闇魔法ダーク・ストームでアクアベアリの近くに引き寄せられ、エリアの雷の矢、エレナの槍、エリザの多節剣、そしてルージュの大斧の一撃を受けて動かなくなった。

 うん、Gランクの魔物をこんなにあっさり倒せるんなら、今後の狩りは楽になるな。


「っと!動くんじゃないわよ!『サンダー・ストーム』!」


 一方、俺と同じくシー・サーペントの相手をしているアリスは、鞭を体に巻き付けてからサンダー・ストームを叩き込んでいる。

 アリスも魔法スキルを統合してレベル4になってるんだが、今回は鞭を通してサンダー・ストームを使うことで、効果範囲を大幅に絞り、シー・サーペントの体を焼き尽くすことにしたみたいだ。

 俺はライトニング・ポールを使っただけだから、みんなみたいに工夫しないといけないと思ったね。


「それじゃあハイディングフィールドを展開するから、アクエリアスに乗り移ろう。少し休憩してからベイル村に進路をとって、中型資材運搬船も選ぶことにするよ」


 シー・サーペントとシー・ヴァイパーを全て倒し、出張買取を終わらせ、アクエリアスにハイディングフィールドを使ってからアクアベアリを近付ける。


 今更の話だが、アクアベアリはハイディングフィールドを使ってたから、魔物に狙われていたのはアクエリアスの方だった。

 だからアクエリアスにもハイディングフィールドを使えば、何もせずにやり過ごすことも出来たんじゃないかと思う。

 金策にもなるからそのつもりはなかったが、急ぐ場合は無視することもあり得るから、これも検証した方がいいな。


 予定じゃベイル村までは5日から6日掛かるし、航海中に一度召喚して中を確認しておく必要がある。

 確認に1日掛けるとなると、正味1週間は見ておかないといけないだろう。

 ギリギリっていうのは避けないといけないから、できれば2,3日以内に決めるべきか。

 買う船は決まってるんだが、内装をどうするかっていう問題もあるから、そっちの方が時間掛かるだろうな。


「その船って、今回限りなのよね?」

「そのつもり。名前の通り、大きな資材を運ぶ船だからね。改装して客船に出来なくもないけど、国に目を付けられるだろうから、エレナの村の人を運んだら、適当な時期を見計らって沈んだって言うつもりだよ」


 不沈、不懐、侵入不可の効果で、海賊とか魔物の襲撃は気にする必要が無い。

 だから客船にしたら儲かるのは間違いないんだが、そんな船を国が見逃すはずがないから、必ず徴発に乗り出してくるだろう。

 フロイントシャフト帝国なら大丈夫な気もするが、傲慢な貴族は少なくないみたいだから、そいつらが出てくる可能性も高いし、その場合は俺に無実の罪を着せてくる未来しか見えない。


 もちろん俺も黙っていいようにされるつもりはないが、そんな無駄な時間を使うぐらいなら旅をしてた方が有意義だ。


 後の事はシュラーク商会に任せるから、今回は隠す事が出来ないって理由も加味すると、適当な時期に適当な場所で沈んだってことにした方が後腐れはないはずだ。


「あたし達は違和感がするけど、普通なら諦めるでしょうね」

「船が沈むのは、特に珍しい話ではありませんからね」


 外海に出る船はもちろんだが、陸の近くでも魔物に沈められることは珍しくないって話だしな。


「それじゃあ俺は、今から資材運搬船を選ぶから、みんなは自由にしてていいよ」

「そう?じゃああたしは、宝瓶温泉に入ってくるわ」

「私も行くわ」

「私は書斎に行きますね」

「私は浩哉さんと一緒に、資材運搬船を選ばせてもらいたいです」

「あたしも見たい!」


 アリスとエリアは宝瓶温泉、エリザは書斎、エレナとルージュは俺と一緒か。

 エレナは村のことだから、少しでも関わりたいだろう。

 ルージュは興味本位だが、それもそれで問題無い。


「分かった。ベイル村の手前までは自動操縦で行く予定だけど、何かあったら呼びに行くから。ああ、あと道中でもパワーレベリングはするから」


 レベル上げだけじゃなくスキル上げにもなるし、何より海の魔物は金になるから、アクエリアスの改装費も稼ぎたい。

 安全過ぎる狩りだから実力がつくかは微妙だが、スキルが上がればある程度は力押しでも対処できるから、全くの無駄ってわけでもないし。


「分かりました」

「いつでも来ていいからね?」


 エリザは書斎に、アリスとエリアは宝瓶温泉に向かう。

 俺はエレナ、ルージュと一緒にメインデッキのリビングに設置している大型モニターを見ながら、中型資材運搬船の購入と改装を考えよう。

 あんまり派手にする必要はないし、ヘリオスフィアの常識に近い感じにした方がいいだろうから、アンダーデッキにいくつかの部屋を作って、メインデッキの3分の1ぐらいを日除けで覆えばいいかな。

 買うのは中型船だから、多分5,000,000ゴールドぐらいで収まるんじゃないかと思う。


 ヘリオスフィアの魔導船と比べても違和感が無いように、選んだ中型資材運搬船は全長48メートルの木造で、船体の色も木の色そのままだ。

 見た目は空母みたいな感じで、メインデッキの中央右寄りに小さなマスターズデッキが乗っかっている。

 マスターズデッキはコックピットと寝室しかなく、広さもアクアベアリより狭いから、俺達はアクアベアリを使い、資材運搬船を曳航していく形になる。

 メインデッキの後方3分の1ほどは日除け、雨除けの幌で覆われていて、アンダーデッキへの階段もここにある。

 アンダーデッキは4人部屋と6部屋を用意し、残りスペースは雑魚寝用の大部屋にした。

 連れてくる人数は40人程だから、トイレは男女別にし、数も5基ずつ配置している。


 エレナやルージュの意見を聞きながら決めたら、思ってたより早く決まったな。

 最終的には明日確認して手を加えるかを判断することになるが、大きく変更する必要は無さそうだ。


 一仕事終わったって感じもするし、書斎にいるエリザも誘って、俺達も宝瓶温泉に行くとするか。

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