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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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シュラーク商会フォルトハーフェン支店

 シュラーク商会は港の反対側にあったが、ルストブルク支店と同じく中庭があるような感じで、かなり大きい建物だった。

 違いはドックだか造船所だかが併設されてることか。

 海に面してるし、ルストブルクでも魔導船を主に扱ってるって話は聞いてるから、これは当然だな。


「さすがに大きいわね」

「ええ。確か乗物に関しては、フロイントシャフトでも大手だったわよね?」

「フロイントシャフトどころか、カルディナーレでもその商会は有名です。特に魔導車や魔導船の根幹となる魔導具は、シュラーク商会でしか制作できないとまで言われていたはずですから」


 マジで?


「実際にはそんなことはありませんが、性能的にはシュラーク商会製の魔導具が一番優秀です。簡易魔導車も、シュラーク商会が基幹魔導具のコストを抑えることに成功したからこそ、一般に出回っていますから」

「じゃあ簡易魔導車って、全部シュラーク商会製なの?」

「そこまでは分かりませんが、最低でも現在出回っている簡易魔導車は、6割以上はシュラーク商会製だと思いますよ」


 デカい商会だと思ってはいたが、さすがにそこまでとは思ってなかったな。

 ルストブルク支店でスカトを見せて魔導三輪の提案をしたけど、ある意味じゃ正解だったってことか。

 それにそんな有名な商会なら、魔導船にも期待が持てる気がする。


「過度な期待はしない方がよろしいですよ、マスター」


 俺の心を読んだかのようなセリフを呟くエリザ。

 確かにエリザの話は覚えてるけど、そこまで言いますかね?

 いや、俺がシュラーク商会で魔導船を見せてもらう最大の理由は、アクエリアスやアクアベアリとの違いをこの目で確かめるためだから、性能は二の次なんだが。


 ともかく、まずは見てからだ。

 俺は奴隷達を伴って、シュラーク商会フォルトハーフェン支店に足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ~」


 元気のいいダークエルフのお姉さんに迎え入れられた。

 確かダークエルフは水辺に多く住んでるって聞いてるから、港町のフォルトハーフェンに多いのは分かる。

 だけどこのお姉さん、胸が……。


「マスター、どこを見ているんですか?」

「いや、別に」


 エリアの笑ってない笑顔に冷や汗を掻きながら、露骨に視線を逸らす。

 比べてごめんなさい。


「どうかしましたか?」

「いえ、こっちの話です。それよりルストブルクの支店長から、これを見せれば商会の魔導船を見せてもらえるって話になってるんですけど、いいですか?」

「ルストブルクの支店長から、ですか?確かにこれは、シュラーク商会の印ですね。畏まりました、支店長に渡してきますので、しばらくお待ちください」


 そう言ってダークエルフのお姉さんは、奥に下がっていった。

 手紙は渡したし、ようやくヘリオスフィアの魔導船を見られるな。


 待つ事10分程で、ダークエルフのお姉さんが2人の男性と1人の女性を連れてきた。

 って、ルストブルクの支店長じゃないか。


「クラーク支店長?」

「お久しぶりですね、浩哉さん」

「ええ、お久しぶりです。どうしてフォルトハーフェンに?」


 フォルトハーフェンはフロイントシャフト帝国の南端でルストブルクは北端になるし、何よりルストブルクには海はもちろん湖すらないから、魔導船の需要は皆無だったはずだ。


「浩哉さんが提案された魔導三輪の発想を、商会長がいたく気に入られましてね。フォルトハーフェンに向かうと聞いていましたから、お会いできるかもと思い、商会長のお供としてやってきたんです」


 おお、魔導三輪は商会長のお眼鏡にかなったのか。

 だけどそれだけで、会えるかどうかも分からないのにフォルトハーフェンまで来るなんて、さすがに思ってもいなかったな。


「というか、俺達シュロスブルクにいたんですけど?」

「ええ。ですから告発が終わってからお声を掛けさせていただこうと思っていたのですが、あなた方はフォルトハーフェンに向かった後でした」


 あー、そういや告発が終わってすぐに、俺達はシュロスブルクを発ったんだよな。

 旅をしながらフォルトハーフェンに向かうって言った覚えはあるから、それを頼りにわざわざ足を運んでくれたのか。


「あー、それはすいません」

「いえ、さすがに告発の最中に面会など、神罰が下るだけですからね。それにこうしてお会いできたのですから、何も問題はありませんよ」


 そう言ってもらえると助かる。


「クラーク支店長、そろそろ我々の紹介もしてもらえるかな?」

「失礼致しました。浩哉さん、こちらがシュラーク商会会長のアドルフ・シュラーク、フォルトハーフェン支店長のネージュ・リヴィエールです」


 壮年の男性ヒューマンがアドルフ会長、30代前半ぐらいにみえるウンディーネがネージュ支店長か。


「初めまして、ハンターの浩哉といいます」

「ああ、よろしく」

「うむ。先日クラークより報告を受けたが、魔導三輪の提案、誠に感謝するぞ」


 アドルフ会長、マジで嬉しそうだな。


「会長は魔導車に目がありませんからね。ご自身でも3台所有されていますし、うち1台は皇家に献上した物と比べても遜色ない性能です」


 ああ、いわゆる車狂いなのか。

 聞けばその魔導車は、見た目こそ普通の魔導車と変わらないが、最高速度は40キロにも達し、乗員も6名なんだとか。

 さらにキャリアーを接続することで倍の人数を乗せられるし、内装もキャンピングカーばりに整えられてるそうだ。

 フォルトハーフェンにも、その魔導車を使って来たみたいだな。


「魔導三輪だが、シュロスブルクで3台ほど制作してみた。まあ、最初の1台は構造に問題があったためすぐに壊れてしまったが、残り2台は実用に耐える仕上がりとなっておる。君の所有しているという魔導三輪と似たような形じゃから、製作費も3割は削減できた」


 そんなに削減できたのか。

 基本的に簡易魔導車と大差ない素材を使っているから、速度やパワーはほとんど変わらず、キャリアーを牽引させることも出来るって続いたから、ハンターや行商人からの人気が出そうだな。


「いや、騎士や軍、警備隊からも問い合わせが殺到しておるよ。簡易魔導車より小型化する事も可能じゃろうから、小回りも利きやすくなるじゃろう。さすがに予算の問題もあるから、すぐにとはいかんが、それでも我が商会にとっては稼ぎ時じゃ」


 確かにそれはあると思う。


「じゃが君は、トレーダーズギルドも介さず、500万オールと紹介状を受け取っただけじゃと聞いておる。さすがにそれは少なすぎると思ってな、礼も兼ねて直接フォルトハーフェンまで来させてもらったというわけじゃ」


 それはわざわざありがとうございます。

 だけど金は自分で稼げるし、欲しい物も特に無いんだよな。

 魔導船を見たかったっていうのが一番だったから、他はあんまり気にしてなかったし。


「マスター、お耳をよろしいですか?」

「エリザ?構わないけど?」

「それでは、失礼します……」


 エリザに耳打ちされた内容は、全く考えていなかった。

 だけどさすがに問題じゃないか?


「それは会長にお聞きになられてから判断してもよろしいかと」


 それしかないか。

 ともかく、聞いてみよう。


「えっとですね、契約の問題があるんで詳しくは話せないんですが、近いうちにフォルトハーフェンに避難民を連れてこようと思ってるんです。その人達に援助をしてもらうことって可能ですか?」

「避難民?もしや、エーデルストからですか?」

「ええ。北の方は避難民で溢れかえりそうになってるって聞きますけど、フォルトハーフェンは最南端ですから、そこまで混乱することもないだろうと思いまして」


 エリザの提案は、シュラーク商会にエレナの村の人達の世話を頼むことだ。

 一から十までなんてことは考えてないし、最初の1,2年ぐらいで構わないんだが、シュラーク商会が援助してくれるんなら俺も助かる。


「ふむ、それぐらいなら構わんが。というより、エーデルストからフォルトハーフェンまでは、かなり距離があるぞ?」

「そうですね。移動は徒歩になるでしょうから、3ヶ月はかかるでしょうか?」

「いえ、実は魔導船も持ってるんで、それで一気に運びます」


 さすがに徒歩だと距離がありすぎるし、道中の護衛もあるから、陸路は現実的じゃない。

 エレナの村は海沿いだから、船の方が早いし、ブルースフィア・クロニクルの中型資材運搬船を使うから、道中の護衛も気にしなくて済む。

 まあ、中型資材運搬船は、事が終わったら売り払うから、適当な時期に沈んだって事にしないといけないが。


「魔導船もお持ちなんですか?」

「ええ。実は死んだ師匠が道楽者で、魔導車や魔導船を作ってたんです。人間嫌いなんで、ほとんど町には行かなかったみたいですが」


 中型船をストレージに収納出来る人は少ないから、この説明は正直苦しいんだが、生まれつき魔力が多いってことで押し通す。


 魔力量は種族によって差もあるが、個人差もある。

 一番多い種族はフェアリーで、ヒューマンは少ない方になるんだが、稀にフェアリーに匹敵する魔力量を持つヒューマンも生まれるから、その理屈でゴリ押しだ。


「中型船を収納出来るほどの魔力を……」

「さらに小型船に魔導車も2台って……フェアリーでも無理ですよ?」


 やっぱり疑われているが、それぐらいは想定内だ。


「実際に入ってるので、こればっかりは信じてもらうしか」

「まあ、そうでしょうけど」


 ゴリ押しに次ぐゴリ押しだが、下手したらボロが出かねないから、早めに話題を修正しないと。


「それで、その中型船を使って避難民を連れてきたいんですが、構いませんか?」

「それが本当なら、ワシは構わん。ただ、ワシは基本シュロスブルクにおるから、諸々の手配はネージュ支店長に任せることになる。どうだ?」

「多少手間はかかりますが、何とかしましょう」


 よし、シュラーク商会は大手の大商会だから、援助してくれるんなら助かる。

 ただ、これだとシュラーク商会に負担を掛けるから、お礼にあれも提案しておこう。


「なんですか、これは?」

「お礼です。金属船を作るための方法と、沈みにくくするための工夫を書きつけてあります」

「な、なんですって!?」

「き、金属船じゃと!?」


 やっぱり驚かれたか。

 港を見た限りだが、ヘリオスフィアの船は魔導船も含めて木造だ。

 部分的に金属で補強していた船もあったようだが、それでも基本木製って事実は変わらない。


 翻ってアクエリアスやアクアベアリは、材木も使用しているが、基本的には金属船だ。

 今はカモフラージュフィールドで木造船に偽装しているが、解除すれば一発でバレると思う。


「え、えーっと……浩哉さん?金属は浮きませんが、本気で仰ってるんですか?」


 戸惑いながらクラーク支店長が口を開くが、当然本気です。

 というか、地球じゃ木造船の方が少なくなってなかったかな?


「本気です。簡単には信じられないと思いますけど、鉄を薄く伸ばすと、浮力の影響を受けて沈まなくなるんですよ。限界はありますけどね」


 理屈は俺も覚えてないけどね。

 アルキメデスの原理、だったかな?


「浮力、ですか。確かに水の中に入ると、軽くなった気がしますけど」

「それです。上手く使えば、大型船よりさらに巨大な船も作れます」


 ヘリオスフィアの大型船は全長50メートル以上っていう括りで、平均して70メートル、100メートルを超える船は存在していない。

 これは竜骨となる木材や魔物素材も理由だろうが、魔物に遭遇してしまった場合のリスクが大きいからっていう理由もあるだろう。

 木造船が海の魔物の攻撃に耐えられるわけないし、穴の1つでも空けられたらそれで終わりだから、大型船ともなると運用上のリスクが高すぎる。


「なるほどのう。それに水密区画か。船底部をいくつかの小部屋に分け、万が一船底に穴が空いた場合はその区画を塞ぐことで、沈没のリスクを減らそうということか」

「大雑把な概要しか書いてませんけど、だいたいはそんな感じです」


 隔壁をどうするのかっていう問題があるが、ヘリオスフィアには魔法があるから、上手く使えば何とかなるんじゃないかと思う。


「これは成功すれば、我が商会にとってとんでもない儲け話じゃな。ネージュ」

「はい、早速小舟を作らせます。水密区画については、小型船では難しいでしょうが、小舟が上手くいけばそれを使って何とかしてみます」


 さすが商人だけあって、儲け話には動きが早いな。

 あとは魔導船を見せてもらって、それからもう1つの図面を渡すかを決めよう。

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