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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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アクアベアリ進水

 起きて朝食を食べてから、俺達は予定通りアクエリアスからアクアベアリに乗り換えた。

 速度はアクエリアスと同じはずなんだが、小型船だからなのか、思ったより早く感じるのは俺の気のせいなんだろうか?


「さすがにアクエリアスとは違うわね」

「ですが居住性は高いですし、ルーフデッキは似た感じですから、窮屈さは感じません」


 何度か陸上で宿代わりに使っているが、こっちも海で使うのは初めてだから、みんなも新鮮な雰囲気を感じているな。

 アクエリアスの半分以下の大きさだから、海面もより近くになっていて、海を走ってるっていう実感も強いんじゃないかと思う。


「浩哉さん、ルーフデッキって、確か結界を張ってるんでしたよね?」

「ああ。そこだけカモフラージュフィールドとハイディングフィールドを張ってるから、外からだとちょっとした展望席程度にしか見えないはずだ」


 ルーフデッキ全域を宝瓶温泉に改装しているアクアベアリだが、覆いとかは一切ないから、入浴している姿は外から丸見えだ。

 さすがにそれはマズいから、ルーフデッキを偽装するためだけにカモフラージュフィールドとハイディングフィールドを余分に購入したくらいだ。

 ハイディングフィールドで覆うことで外からの視界や認識を防ぎ、カモフラージュフィールドでリアデッキにあるステップを使って展望席に出るように偽装したから、入浴中も覗かれる心配はない。

 さすがにアクエリアスと同じように裸で上り下りはマズいから、そこは注意しないと。


「そうだったわね。癖でそのまんま移動しそうだわ」

「アクエリアスなら誰からも見られる心配は無かったし、今後もそのつもりはないものね」


 余程のことが無い限り、アクエリアスで入港するつもりはない。

 偽装しているとはいえ中型船だし、たかがハンターが持つには過ぎた物ってことで、難癖つけて取り上げようとしてくる貴族や商人はいるだろう。

 アクアベアリでも危ないところだが、小型船なら持ってるハンターはいるし、いざとなったらストレージやインベントリなんかの空間収納に放り込んでおくことも出来るから、陸に上がる時は港に置きっぱなしにしなくても済む。

 俺の場合は送還になるから、空間収納を使うふりをすればどうとでも誤魔化せるというメリットもあるな。

 それでも取り上げようとするなら、こっちも黙っているつもりはない。


「浩哉にケンカを売ったりしたら、破滅しかないでしょうにね」

「なんで?」

「ナハトシュトローマン男爵に神罰が下った事は、既にフロイントシャフトどころか北大陸中に広まっています。さすがに浩哉様がわたくし達を連れ出したことまでは知られていないでしょうが、フロイントシャフト国内ならば知っている者も多いでしょう」


 つまり俺が告発したってことで話が広まってるってことか?


「そうなります。過去にも同じようなことがあったと聞いていますから、しばらくは浩哉様に手を出す輩は出てこないでしょう」


 告発者は神々によって守られているから、迂闊に手を出したりしたら自分も神罰の対象になる。

 神罰は貴族だろうと皇帝だろうと関係なしに下るから、確実に大丈夫だと判明するまで、余計なちょっかいを掛けてくる奴は出てこなくなるってことか。

 それはそれで、余計な手間が省けるな。

 いや、しばらくしたら、強権を使って取り上げようとして来る貴族とかも出てくるか。


「考えるとしても、その時になってからかな。そういやアリス、ハンターズランクって、上げといた方がいいかな?」

「そりゃランクが上の方が発言力も増すし、下手な貴族なら手を出してこなくなるから、上げといた方がいいわよ。ただ浩哉の場合だと、上げてもGランク辺りにしといた方が良いと思うわ」

「ああ、強制依頼や指名依頼、緊急依頼ですね」

「そういう事」


 やっぱりそれが問題か。


 強制依頼は王侯貴族やハンターズギルドから出される依頼で、断ると高額の罰金がかかるくせに報酬は安い。

 指名依頼も似たようなものだが、強制依頼ってわけじゃないから、報酬は適正額が支払われる。

 そして緊急依頼は、最優先で対処しなければならない事態が発生した場合に出る。

 緊急依頼は町や国の一大事でもあるから、俺としても受けるのは仕方ないと思ってるし、指名依頼も信頼できるハンターにしか行かないこともあって、俺に依頼が来ることはないだろう。

 だからこの2つは構わないんだが、問題になるのは強制依頼だ。


 強制依頼は緊急依頼と指名依頼の悪い所を合わせたような依頼で、高ランクであってもハンターに拒否権は無い。

 国やハンターズギルドにとって大きな利益となり、それでいて緊急性が低い場合に依頼されるんだが、報酬は適正額の半額以下ってのもザラで、ハンターにとっては受けたくない依頼の筆頭となっている。

 それでも受けないと、ランク査定に影響を及ぼしてしまうし、それを理由に除名されることもあるらしいからタチが悪い。

 ただ強制依頼は指名依頼でもあるから、基本的にPランク以上のハンターにしか出されないらしいし、そのランクのハンターともなれば金を稼ぐ手段はいくらでも持ってるから、国やギルドに貸しを作るために受けている人が多いようだ。


「ハンターって、そんな依頼もあるんですね」

「というか、エーデルストからエレナお姉ちゃんの家族や村の人を連れてきたら、普通に依頼出されるんじゃないの?」


 俺もアリスもエリザも、ルージュの呟きを聞き流せなかった。


「……どう思う?」

「否定できませんね」

「Sランクだから運が良かったって判断するかもしれないけど、浩哉のレベルを知れば、ランクに関係なく依頼を出してくる可能性はあるわね」


 だよな。

 ハンターズギルドを辞めるのも手なんだが、そうすると身分証をどうするのかっていう問題がある。

 ライブラリングでステータスチェックをしてもらう手もあるが、そのたびにレベルも見られることになるから、ある意味じゃこっちの方が問題になるな。


「レベルが非表示で助かった、って言うべきか」

「いずれバレますよ」

「そうね。そもそも皇族にはバレてるんだから、落ち着いたら勧誘されるんじゃないかしら?」


 また面倒な……。

 先にシュロスブルクで皇太子からエレナの村の亜人の移住許可をもぎ取っておくべきだったとも思ったが、それを貸しにされてたかもしれないじゃないか。


「確実に貸しになっていましたね。しかもエーデルストとの戦争のきっかけになる可能性もありますから、最悪の場合は浩哉様も参加を要請されていたかもしれません」


 しかもその場合、参加しなかったら村の人達の待遇にも影響が出るだろうから、参加しないなんていう選択肢は無いしな。


「いっそのことフロイントシャフトじゃなくて、ヴェルトハイリヒにするか?」

「まだそっちの方がいいかもね」

「グレートクロスのことがありますから、何とも言えませんね。あとは……どうなるか予想が付きませんが、カルディナーレという手も無い訳ではありません」


 カルディナーレ?

 いや、いずれ行くけど、さすがにカルディナーレは厳しくないか?

 エリザを解放したら受け入れてくれるかもしれないが、その後でエリザがどうなるか分からないし、お手付きどころか俺なしじゃ生きられないとまで言い切ってたぐらいだから、ちゃんと責任取って連れていくつもりでいるんだが?


「母上との交渉次第でしょう。もちろんわたくしも残るつもりはありませんから、流れてしまう可能性も低くありませんが」

「ってことだけど、エレナとしてはどう?」

「フロイントシャフトでもヴェルトハイリヒでもカルディナーレでも、村のみんなが安心して過ごせるなら構いません。ただ私も、浩哉さんやエリザさんに迷惑をかけてまでとは思いませんから、先に連れ出してから考えてもいいと思っています」


 エーデルスト王国に不穏な気配がある以上、そうしてしまうのも手か。

 だけど何ヶ月も海の上は大変だから、まずはヴェルトハイリヒ聖教国に行ってから考えるか。


「分かった。ただカルディナーレはどうなるかが分からないから、まずはフォルトハーフェンで受け入れが可能かどうかをさりげなく調べて、無理そうだったらヴェルトハイリヒに行こう」

「それが無難かもね。でも調べるって、どうやって?」

「世間話風にしかないって」


 フォルトハーフェン一帯を治める領主に直訴なんて、普通に無理な案件だし、可能だったとしても無理難題を吹っ掛けられるに決まってるからな。

 最終的には領主にも話が行くだろうが、連れてきた後で追いだしたりなんかしたら、評判だだ下がりどころか北側の領主達に何を言われるか分からないんだから、渋々であっても拒否される事は無いだろう。


「って思うんだけど、エリザはどう思う?」

「領主が評判を気にするかどうか、ですね。とはいえこの場合ですと、皇族からもお叱りを受けることになるでしょうし、南方諸島の開発に人手もいるでしょうから、邪険に扱われることはないと思います」


 元王女のエリザも大丈夫だと判断してるんなら、まずはフォルトハーフェンで受け入れが出来るかを調べて、それで無理そうならヴェルトハイリヒ聖教国で大丈夫だろう。


「決まりですね」

「ああ。それじゃあ全速……はマズいから、南方諸島を超えたら速度を25ノットに落とそう」


 ヘリオスフィアの魔導船は、中型だと20ノットほどだが、小型でも30ノットでたら快速と言えるぐらいの性能になっているから、40ノットまでだせるアクアベアリを欲しがる輩は多いだろう。

 少しでも安全に行くために、落とせる速度は落としておかないとな。


「フォルトハーフェンに着いたら、まずはシュラーク商会に行くんですよね?」

「ああ。ルストブルクの支店長から手紙を貰ってるし、それを見せれば魔導船を見せてくれるはずだから、まずはそれを見てみたい」


 シュラーク商会のルストブルク支店でスカトを見せて、魔導三輪の技術というか発想は出来たはずだから、数ヶ月もしたら試作が出来るんじゃないかと思う。

 実際にどうなるかは分からないが、支店長は会長に直訴も辞さない勢いだったし、ルストブルクを発つ挨拶に行ったときはいなかったから、今頃はシュロスブルクに行ってるかもしれないな。


「わたくしはカルディナーレで乗った事がありますが、アクエリアスやアクアベアリに比べると、設備も性能も一段どころか二段は劣っていました」

「さすがに比べる対象が間違ってると思うわ」


 この中で魔導船に乗った事があるのは、予想通りだがエリザだけか。

 元王女様だし、カルディナーレ妖王国の妖都レジーナジャルディーノは海に面してるから、昔フロイントシャフト帝国に来た際には海路を使ったみたいだ。

 当時は初めて乗った魔導船に感動したそうだが、アクエリアスやアクアベアリを見た今では、どうしても劣るっていう感想しか出てこないとも言ってるが。


「速度はどうだったんですか?」

「聞いた話では、25ノット出ていたそうです。中型魔導船ですから、速度は出ている方ですね」


 中型魔導船の平均速度が20ノットだから、確かに速いな。


 カルディナーレ妖王国は海に面している都市が多いから、移動には船を使うのが早いし、輸送目的でも有用だから、魔導船技術は発達している方になる。

 兵を送ってる小国の1つとは内海を隔てていて、その小国も魔導船技術だけならフロイントシャフト帝国を凌ぐとも言われているから、海運より戦争目的の方が大きいか。


「ただ個室は、王族用に設えた部屋ではあったのですが、揺れも酷かったですし、調度品も固定された物ばかりでしたから、質素な物が多かったですね」


 水に浮かんでいる以上、アクエリアスやアクアベアリも波に揺られている。

 だけど意識しなきゃ分からない程度だから、ナハトシュトローマン男爵の元から助け出したエリザが驚いていたのも無理もない話だ。

 さらに調度品も、華美な物は少ないが、ルーフデッキを見るだけでも大きな違いだと分かるから、自国の最先端魔導船と比べてしまうと違いに驚くってことか。


「揺れに関しては、船を大きくすればある程度は解消できたはずだ。調度品も、全体的なバランスで考えれば、それなりに装飾を施せると思うけどな」


 船は揺れるから、調度品が固定されるのは仕方がないんだが、だからといって装飾が施せないわけじゃないと思う。


「揺れで壊れることが前提となっていますから、装飾を凝らす意味が無いんです」

「そんなに激しく揺れるんですか?」

「……はい」


 遠い目をしながら間をおいて答えるエリザがちょっと怖い……。


 エリザが乗った中型魔導船は、全長36メートル程で、速度を優先した造りになっているらしい。

 そのために安定性が犠牲となっていて、少々の波でも大きく揺れ、嵐とかに遭遇してしまったら転覆するんじゃないかと思えるぐらい揺れが激しくなるそうだ。

 フロイントシャフト帝国に来る際、嵐とまではいかないが強風が吹いた日があって、もしかしたら沈むんじゃないかと思えるほどの目にあったとも言っていた。

 カルディナーレ海軍でも問題視されたんだが、安定性を重視する派閥と速度を神聖視する派閥に別れてしまい、今でも結論が出ていないらしい。

 ただ王族を危険な目に合わせたのも間違いないから、王族が乗る船は安定性重視で再設計されて、その中型魔導船は少しの改装後、軍の快足連絡船として活用されているみたいだ。


「う~ん、その話を聞くと、アクアベアリでもマズい気がしてきたな」

「バレたらね。見た目は偽装してるんだから、少し珍しい船ってことで押し通すしかないわよ」


 アリスの言う通りなんだよな。

 シュラーク商会の魔導船がカルディナーレ海軍の魔導船以上ってことはないだろうから、どんな感じの性能なのかはしっかりと聞いて、陸の近くじゃなるべくそれに合わせるようにしておこう。


「そういえば、ルストブルクの近くで雨に降られたことはあったけど、海に出てからは一度も無いわね」

「そうね。いずれは嵐にも遭遇するだろうけど、アクエリアスだとどうなるのかしら?」


 アリスとエレナの感じた疑問は、俺も気になるな。

 海に浮かんでいる以上、アクエリアスであっても揺れと無関係じゃいられない。

 不沈、不倒があるから沈没することも転覆することもないが、それでもどこまで揺れるかは、その時になってみないと分からない。

 いや、試すことは出来るな。


「今は無理だけど、今度外海に出たら、水魔法を使って海面を荒らして、人工的に大波を作ってみよう」

「その手がありましたね」


 海面に水魔法を使えば、大波ぐらいは作れるだろうから、簡易的なテストとしては十分だと思う。

 雨や波は侵入不可で防げるから、船内が水浸しになることもないし、不沈、不倒もあるから、安心して試せるのも大きい。

 いざ嵐と遭遇して、激しい船酔いに襲われたりなんかしたらたまらないから、、なるべく早く試そう。

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