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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第3章・契約履行から始まる奴隷契約
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奴隷達の望み

 ナハトシュトローマン男爵の告発内容は、事前に報告を受けていた皇太子や大司教にとっても、大きな衝撃だったみたいだ。

 どちらも頭を抱えていたし、ナハトシュタットに残されている奴隷達も同様の手口で奴隷に落とされた可能性が高いから、保護はもちろん、故郷への帰還や仕事の斡旋も必要だろうし、しばらくの間は援助だってしないといけない。

 さらにカルディナーレ妖王国へも、皇帝直筆の詫び状を送らないといけないし、エリザベッタ王女が要請するはずだった援軍も、精鋭を見繕って送ることを考えているみたいだから、準備にも奔走する必要がある。


 細かい質問はいくつか受けたが、それに答えていたら時間になってしまったため、初日、というか2日目はお開きとなった。

 俺のスキルに対する質問も多かったが、ハンターにとってスキルは死活問題だから、レベルだけを開示してその理屈で押し通した。

 現在の俺のレベルは61になっているが、フロイントシャフト帝国でもレベル60オーバーは10人もいないそうだから、一応は引いてくれている。

 皇太子としては、俺を仕官、最低でも協力はさせたいと思ってるんだろうし、その証拠に爵位と領地を仄めかされたが、俺にそのつもりはない。

 アリスとの契約は達成されるが、エレナとの契約が残ってるし、爵位なんて受けてしまったら自由に動けなくなるばかりか、国のために尽くさないといけなくなってしまう。

 ヘリオスフィアを見て回りたいし、役目もあるから、フロイントシャフト帝国に限らず、他の国であっても絶対に断る所存だ。


 そして3日目、奴隷達の証言によって、ナハトシュトローマン男爵家は爵位剥奪、財産没収、領地接収、一族郎党の処刑が決まったと冒頭で伝えられた。

 ナハトシュトローマン男爵本人は神罰の対象だから、フロイントシャフト帝国が処罰を下すのは、神罰が下ってからになるんだそうだ。

 神罰で命を落とすこともあるが、その場合は嫡男に正式に相続させた上で処刑となるから、ナハトシュトローマン男爵の当主が公開処刑になるのは決まっている。

 あとナハトシュタットのトレーダーズマスターも、家族も連座で処刑になり、関わった者は良くて条件の悪い契約奴隷、最悪の場合は処刑になるそうだ。


 神罰に関しては、大司教の口から明言されたが、トレーダーズマスターの予想通り神託が下ったようだ。

 カルディナーレ妖王国にも、ナハトシュトローマン男爵がエリザベッタ王女を奴隷に落とした事は伝わったそうだし、神罰が下る事はヒューマン至上主義国も含めて知る事になったそうだから、これからのフロイントシャフト帝国は大変だ。

 ナハトシュトローマン男爵に神罰が下るのは、告発が正式に終了してからになることも、合わせて神託で告げられたみたいだな。

 ルストブルクで悪巧みをしているのか、ナハトシュタットへの帰路についてるのかまでは分からないが。


 その後で告発が再開されたが、今日焦点が当てられているのは、3人の奴隷達、特にエリザベッタ王女への対応だ。

 フロイントシャフト帝国としては、厳重過ぎるほどの護衛を用意し、皇太子も同行してカルディナーレ妖王国まで送り届ける用意があるそうだが、エリザベッタ王女は俺と奴隷契約を結びたいと考えている。

 神託でエリザベッタ王女の身分は証明されたから、懸念事項は1つ減ったんだが、帰国してからの待遇に関しては女王が決めることになる。

 エリザベッタ王女は、良くて王城の一室に軟禁され、死ぬまでそこで暮らすことになるか、しばらくしてから事故死、もしくは病死ということになるんじゃないかと予想しているが、何にしても王女としての待遇は受けられず、そればかりかひっそりと処分される可能性も低くない。


 だから俺と奴隷契約を結び、自身の安全と俺の秘密を漏らさない状況を確保してから帰国し、自分は死んだものとして扱ってもらい、その後は俺に同行するつもりでいる。

 ブルースフィアの食事やアイテムに魅了されつつあるのも確かだから、エリザベッタ王女にとってはこれが最善なんだそうだ。


 ところがフロイントシャフト帝国としては、自国の失態とも言うのも生易しい事態を挽回するためにも、エリザベッタ王女の身柄は、国の威信を掛けてカルディナーレ妖王国にまで送り届けなければならない。

 帰国後にエリザベッタ王女がどうなるかという問題に関しても、皇太子が責任を取って娶る用意があるそうだから、カルディナーレの女王が認ればフロイントシャフト帝国としても最低限の面目は保てるだろう。


 だがエリザベッタ王女のセリフで、皇太子も二の句を継げなくなった。


「申し訳ありませんが、ナハトシュトローマン男爵を放置し、挙句神罰まで下される国を信用することは出来ません。少なくともわたくし自身は、そう感じています」


 貴族だからという理由だけでナハトシュトローマン男爵を放置していたのは事実だから、そう言われてしまっても仕方がないし、信用を失うのも当然の話だ。

 カルディナーレの女王としての立場なら、賠償によっては問題が少なくなるかもしれないが、エリザベッタ王女個人は信用を失っているから、フロイントシャフト帝国がどれだけ厳重な護衛を用意しようと意味がないばかりか、下手をしたら逆効果になりかねない。


「……分かりました。確かにあなたが奴隷になってしまった事実は変えられませんし、既にカルディナーレにも伝わっている。我々を信用できないのも、無理もないでしょう」

「わたくしが望むのは、カルディナーレへの援軍の派遣、そして同じようなことをする貴族が今後二度と出てこないよう、徹底的な調査を行っていただく事です」


 肩を落とす皇太子に、エリザベッタ王女が来訪の理由だった援軍要請を口にする。

 それで関係が改善されるわけじゃないが、今回の大失態は明らかにフロイントシャフトの失策だから、エリザベッタ王女の望みは最大限汲まないと、国としてのメンツも他国からの信用も失うだろう。


「エリザベッタ王女の意向は分かりました。僕では応えられませんが、必ず父に届けます。援軍も、奴隷狩りの兵を狩り尽くすどころか一国を滅ぼせる質と量を用意して見せましょう」

「ありがとうございます、殿下」


 纏まった訳じゃないが、皇帝にも進言しなきゃいけないってことで、この話はここまでとなった。

 既にカルディナーレ妖王国にも神託が下ってるから、ナハトシュトローマン男爵の悪行は伝わっている。

 だからこそ皇太子が同行してまで、エリザベッタ王女をカルディナーレ妖王国まで送り届けるつもりだったんだが、エリザベッタ王女自身に拒絶されてしまった以上、強引に送り届けても失態を重ねるだけだろう。

 俺と奴隷契約を結んでから、皇太子も含めてカルディナーレ妖王国まで行くっていう手もあるが、移動速度が違い過ぎるし、次はエレナの契約を達成しようと思ってるから、それは勘弁してもらいたい。

 エーデルスト王国はヒューマン至上主義に傾いてきてるから、早めに行かないとマズいことになるかもしれないから、そういう意味でも早めに行っておきたいんだよ。


「エリザベッタ殿下については、また後日ということになる。だから申し訳ないけど、先にエリアリアとルージュを解放しよう」


 エリザベッタ王女は俺との奴隷契約を望んでいるから、今の時点では解放出来ないし、する意味もない。

 だから先に、エリアリアさんとルージュの2人を奴隷から解放することになる。


「それなんですけど、あたしもできたら浩哉さんの奴隷になりたいです」

「私も、許されるならば……」


 なのに2人とも、俺の奴隷になりたいとか言い出しましたよ。

 なんで?

 いや、ルージュは確かにそんな事を口にしてたけど、なんでエリアリアさんまで?


「気持ちは分かるわよ。というか、マスター以上のマスターはいないから」

「いや、アリス。せっかくお姉さんが解放されるっていうのに、なんで諦めてんの?」

「今言ったことが全てだからよ」


 エレナも深く頷いているが、そこまで……ブルースフィアか!


「そういうことよ。あたしとしては、姉さんは解放された後で幸せになってもらいたかったけど」

「家族はもうアリスだけですし、浩哉さんには返し切れない恩が出来ましたから、足りるとは思いませんが、私自身を捧げることで、御恩に報いたいと思っているんです」

「あたしも、浩哉さんと一緒だと楽しそうだっていう理由もあるけど、恩返しがしたいのも本当です!」


 いや、恩返しは分かるが、だからって一生を捧げなくてもいいんじゃない?


「この先の話は、当事者同士で決めてもらいましょう」

「契約の話になる以上、確かに我々がいては問題か」

「では終わりましたら、声を掛けていただけますかな?」

「え?あ、は、はい」


 なんか皇太子や大司教も、気を利かせて出て行っちゃったよ。


「邪魔者もいなくなったし、これで話しやすくなったわね」

「そうね。エリザベッタ殿下はまだ正式にというわけではありませんが、元々契約を望まれているのですから、同席されていても大丈夫でしょうし」


 部屋に残されたのは、俺達6人だが、アリスとエレナも奴隷契約には賛成っぽい雰囲気を醸し出している。


「それはともかくとして、マジなのか?」

「マジだよ!浩哉さんより良い待遇なんて無いし、アクエリアスも凄かったもん」

「妹がお世話になっていることもありますから、私も安心できるんです。もちろん助けて頂いたことも、心から感謝しています。父や母達の仇も討てましたから」


 2人とも、既に決意を固めていらっしゃるのね。

 だけど契約は、奴隷の出す条件を達成することも含まれる。

 奴隷から解放されるのに奴隷として俺と契約する以上、条件を出すことはエリアリアさんとルージュにとっては当然の権利だ。


「条件って言われても、思いつかないよ。あ、でもシュロスブルクに来るまでの生活って、ずっと出来るんだよね?」

「旅に出るから、常にアクエリアスを使えるわけじゃないぞ?」

「あ、そうか。それならあたしの条件は、ずっと浩哉さんと一緒にいることにします!もちろんその対価に、あたしの全てを捧げます!」

「私は特に無いんだけど、必要なことだし、同じ条件にさせていただきますね」


 ずっと一緒にときましたか。

 つまり解放を望まないってことになるが、本当にそれでいいのか?


「アリスやエレナさんを見ていれば、奴隷だと感じることもないでしょう。アクエリアスもサダルメリクも、普通の魔導船や魔導車とは隔絶した性能ですし、浩哉さんも人付き合いが得意ではないみたいですから、あまり町には入られないのでは?」


 エリアリアさんのセリフは、さりげなく俺の心に突き刺さるな。

 いや、実際にその通りだから、何も言えないんだけどさ。

 普段は旅をしてるってことで、町に入るのはハンターズギルドに魔物を買い取ってもらったり、何か買い物をするぐらいのつもりだったし。

 アリスとエレナがいるから孤独感は無くなったが、それでもアクエリアスは広いから、もう少し人数がいてもいいなと思った事はある。

 3人をシュロスブルクまで連れてくる間は、人数が増えたこともあって楽しかったしな。


「マスター、あたしが言うのもなんだけど、姉さんがそう望んでるんだから、叶えてあげてくれない?」

「ルージュちゃんもですね。今更アクエリアスから離れての生活は、多分マスターが思っている以上に大変じゃないかと思います」


 確かに食事も美味いし風呂も広い、ベッドも柔らかいから、居心地は抜群だよな。

 トレーダーズギルドで用意してくれた貴賓室でさえ、アクエリアスには敵わなかったぐらいだ。

 貴族どころか皇族よりいい暮らしが出来るし、俺への恩返しも加わるから、奴隷でいることに不満はなく、むしろその方がってことか。


「それにね、そろそろ2人だと大変だと思ってたところなのよ。だから人数が増えるんなら、あたし達も楽になって助かるの」


 アリスの生々しい話に、エリザベッタ王女も含めて真っ赤になった。

 確かにアクエリアスに泊まると、毎晩俺はアリスとエレナ相手にハッスルしてしまうが、最近の2人はほとんど気絶するように寝ることが増えたし、朝も俺より遅くなってきている。

 はい、俺が原因ですね。

 どうも俺のレベルが60を超えた辺りからこんな感じになってきたから、レベルと性欲っていうの比例していて、さらに地球の知識まで加わっている俺の相手はかなり大変らしい。

 さすがにその話を聞いたのは初めてだが、アリスもエレナも、告発が終わったらシュロスブルクで新しい奴隷を買うことを提案しようとしていたんだそうだ。

 そのタイミングでエリアリアさんとルージュが名乗りを上げてきたのは、2人にとっても嬉しい誤算ってことなのか。

 まあ、エリアリアさんとルージュにも興味が無い訳じゃないし、そこまでアリスとエレナに負担を掛けてたとは思わなかったから、そういうことなら契約してもいいか。

 なんか色狂いのダメ人間になってきた気がするが、男なんだからしょうがない。


「あとはエリザベッタ殿下だけど、さすがにフロイントシャフトのメンツもあるから、勝手に契約は無理か」

「別に構わないと思うけど、余計な波風を立てる必要はないから、陛下の判断次第でしょうね」

「とはいえ、奴隷がマスターとの契約を望んでいるんですから、気にする必要もない気がしますが」


 エレナの言う通りかもしれないが、アリスの言う通り余計な波風を立てることになるから、結果が出るまでは保留だな。

 ついでってわけじゃないが、エリアリアさんとルージュの契約も、エリザベッタ王女がどうなるか決めてからにしよう。

 先に契約しても構わないと思うが、まだナハトシュトローマン男爵との契約が切られたわけじゃないからな。


 部屋の前に待機していた奴隷に頼んで、トレーダーズマスターを呼んでもらって、話が纏まった事を伝えてから、用意された部屋に戻る。

 俺達の話がどれだけ掛かるか分からなかったから、ナハトシュトローマン男爵との契約解除は明日で、早ければエリザベッタ王女のことも決まるだろうと言われた。

 フロイントシャフト帝国としては忸怩たる思いだろうが、放置した責任があるんだから、なるべくならエリザベッタ王女の希望に沿う判断をしてくれるといいな。

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