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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第2章・奴隷契約から始まる友人関係
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女神の神託

 ハンターズギルドでグラス・ウルフ、ゴブリン、スピッド・ラビット、アンダー・ボアを売り払い、グリズリーの巣穴に戻って夕食を食う。

 その後で部屋に戻ったんだが、ヘリオスフィアに来てから数える程しか人と喋ってない事に気が付いてしまった。

 しかもその喋った人達も、仕事で俺と話してたわけだから、思い返すと寂しさが込み上げてくる。


 母子家庭で育ち、高校に入学してすぐに母さんも他界してしまったから、高校時代はバイトに明け暮れてたせいもあって友達は出来なかったし、中学までの友達とも疎遠になってしまったから、慣れてるといえば慣れてるはずなんだけどな。

 いや、バイト先の先輩達が、何かと世話を焼いてくれたから、俺も気が付かないうちに甘えてたのかもしれない。

 親戚達は、父さんの遺産をむしり取った後は音沙汰無しだったから、先輩達の気遣いが嬉しかったのは間違いないんだよ。

 その親戚達が母さんに無理難題を吹っ掛けたせいで、無理をしていた母さんは病気を拗らせて、そのままだったからな。

 幸い、バイト先の店長が、会社に掛け合って紹介してくれた弁護士が親身になって相談に乗ってくれたから、高校どころか大学までの学費は取り返せたが、その後で縁切り宣言されて、父さんも母さんも墓に入れる事を拒まれたっけか。


 いかん、マジで落ち込んできた。

 こんな時、気の許せる友達がいれば、ここまで落ち込まずにすむのかもしれないが、ヘリオスフィアに来たばかりの俺は、顔見知りすら数人しかいないから、気の許せる友達なんてのはいないし、高校時代に友達が出来なかったから、どうやって話しかけたらいいのかも分からないぞ。


 なんか思考が負の螺旋に囚われている気がしてきたから、ブルースフィアをいじって気分を変えよう。


 創造神様に貰ったスキル:ブルースフィアは、ブルースフィア・クロニクルというゲームのアイテムや乗物を召喚し、使う事が出来る。

 性能はチートそのものだが、だからこそ迂闊に人に見せられない。

 ハンターズギルドでヘリオスフィアの武器を鑑定してみた結果、ステータス補正があるのは確認出来たが、性能的には☆1か☆2だけだったし、補正値も微々たるものだったな。

 2人程☆3の武器を使ってたが、素材が鉄じゃなくミスリルだったから、ランクは素材の性能にも左右されてるんだと思う。

 というか、ミスリルでも☆3って、マジかよと思ったな。

 俺が使ってるのは☆4だし、アクセサリーは☆5、人がいなければ☆6なんていう装備も使うから、バレたら大変な事になるのは間違いない。


 装備品でこれなのに、乗物はさらにヤバい。

 なにせ不懐、不沈、侵入不可っていうアビリティのおかげで、魔物の攻撃は俺に届かない、なのに俺の攻撃は届くんだからな。

 移動速度も簡易魔導車の倍以上の速度が出るから、バレたらヤバいなんてもんじゃ済まないのは確定している。


 友達を作るにしても、ブルースフィアのことを話せるかどうかは別の問題なんだよな。

 パーティーを組んだら隠し通せるもんじゃないが、それで友情が壊れるなんてこともあり得るだろうし、人間不信になりそうな気もする。


 気分を変えるためにブルースフィアを開いたのに、さらに気分が沈んでしまった……。

 ここは俺の好きな船を見ることで、気分を吹き飛ばすしかない気がする。

 小型魔導船を買う方がいいかもしれないから、事前に下調べをしておくという意味も込めて。


 ビークルショップを開いて魔導船の項目を選択し、小型、中型、大型、特殊の4つの中から小型を選んでタッチする。

 すると、いくつかの魔導船が映し出された。

 モーターボートみたいなのもあれば、キャビンが小さいクルーザーや大型キャビンを持つクルーザーもある。

 奇抜なのは、モーターボートに近い見た目をしていながら、喫水が不自然に深い船だ。

 喫水が深い理由は、キャビンやマスターズルームがアンダーデッキに纏められているからだ。

 最大搭乗数は4名だが、キャビンやマスターズルームには小窓がいくつもついているため、窓の外は水の中という状況になる。

 トイレやシャワーはアンダーデッキに備え付けられているが、風呂はスペースの問題で備え付けらえていない。

 喫水は3メートルあるため、アンダーデッキは2層で構成されていて、マスターズルームは見た目以上に広く快適そうだし、ゲストルームも2部屋用意されている。

 ただ喫水が不自然に深いせいか速度にも影響がでているようで、最大速度は30ノットとアクエリアスより遅い。

 水中部屋みたいな感じだから嫌いじゃないんだが、不自然に喫水が深いと問題が起きる気もするから、これは見送ろう。


 他の船にも目を通していくが、生活空間は欲しいから、やっぱりクルーザー系を重点的に見る事になる。

 全長10メートル前後でもいくつか見つけられたんだが、生活空間が弱かったし、寝泊まりしようと思ったら頑張っても3人が限界だった。

 全長15メートルまでいけば、生活空間は確保できてたし、寝泊まりも6人ぐらいまでならできそうだったから、買うとしたらこれだな。

 実際買う場合は、それをベースにオーダーメイドする事になるから、内装は大きく変わるんだが。

 特に風呂は付けておきたいからな。


 カスタムオーダー画面をいじりながら、あーでもないこーでもないとやってるうちに、いつの間にか眠ってしまい、気が付いたら朝だった。

 ブルースフィアやステータスは閉じられてたから、意識が落ちると同時に閉じられたんだと思う。

 それでもどこまでいじったか気になったから、意識が覚醒してくるとブルースフィアを開いて、ビークルショップのカスタムオーダーを選択した。

 そこで見たのは、はっきりいって実現不可能と思えるほどの内装だった。

 いや、いくら気分を変えるためだったとはいえ、眠気も手伝ってこんな馬鹿な事をしてるとは思わなかったよ。

 そうだな、全長15メートルクラスのクルーザーをベースに、前後のデッキには庭園を造り、ルーフデッキにはジャグジーを設置、アンダーデッキはデカいベッドを置いたマスターズルームに、スカトを停めるためのパーキング・エリアまでありやがった。

 ルーフデッキのジャグジーやアンダーデッキのベッドはまだ分かる。

 だけど庭園にパーキング・エリアは、非現実的だと言わざるを得ない。

 特にパーキング・エリアは、停めたはいいが、どうやって外に出すんだという根本的な問題が存在している。

 なにせどれだけ探しても、ハッチは設定されてなかったからな。

 もしかしたらこれから設定する予定だったのかもしれないが、アンダーデッキは水面下だから、リアデッキ全面を使っても設置は無理だ。

 本当に、マジで何を考えてやってたのか小一時間問い詰めたい気持ちで仕方がない。

 当然だが、こんな船は論外でしかないから、即座にリセットだ。

 購入手続きまでいってなくて良かったよ。


 今日は狩りに行く前に、教会に行こうと思う。

 昨日時間が出来たから行っても良かったんだが、ポッカリと空いた時間で行くのはどうかと思ってしまったから、予定通り今日にした訳だが、今になって思うと昨日行ってても良かったかもしれないと思う。

 教会に行く前に、お布施となる現金を、トレーダーズギルドで下ろしておかないとな。

 お布施はいくらでも構わないし、聖職者からも文句を言われる事は無いんだが、俺をこの世界に送り、ブルースフィアっていうスキルまで授けてくれた創造神様にせめてもの感謝をと思い、10万オール下ろした。

 もっと下ろしても良かったんだが、あまり多すぎても問題だろうから、これぐらいならいいかなと考えた結果だ。


 トレーダーズギルドを出て教会に向かうが、ルストブルクの教会はトレーダーズギルドやハンターズギルドのある中央広場より30分程北に進んだ所に建立されている。

 周囲に建物はないため、雅な装飾もあって、大きくて美しい教会が神聖な建物に見えてくるな。


 教会の入口で祈りを捧げに来た事を伝えると、すぐに礼拝堂に案内された。

 礼拝堂には女神像が4体祭られていたが、創造神様の神像は無かった。

 なんでかと思って聞いてみたんだが、創造神様の神像は、スフェール教の総本山でもあるヴェルトハイリヒ聖教国の聖都ゼーレテンペルの教会にしか祭られておらず、それ以外の教会は12体の女神像のうち数体になっているんだそうだ。

 フロイントシャフト帝国帝都シュロスブルクには、12体の女神像全てが祭られているらしい。

 ルストブルクの女神像は、結婚の女神、魔法の女神、武芸の女神、陸の女神の4体になる。


 創造神様の神像に祈りを捧げようと思ったら、ヴェルトハイリヒ聖教国まで行かなきゃならず、フロイントシャフト帝国からだと間に2つ国を挟んでいるため、長旅になるのは避けられない。

 幸いにも海の女神様もいるため、ヴェルトハイリヒ聖教国は聖都ゼーレテンペルも含めて海に面しているから、船で行く事も可能だ。

 問題があるとすれば、ヴェルトハイリヒ聖教国に隣接している国の1つがヒューマン至上主義国家で、しかもその国が海に面している事か。

 ヴェルトハイリヒ聖教国は5つの国と国境を接しているが、その国を含めて2つがヒューマン至上主義国家だから、小競り合いは絶えないようだ。

 物騒だと思うが、出来れば創造神様の神像に感謝の祈りを捧げたいから、いつかヴェルトハイリヒ聖教国にも行こうと思う。


 とりあえず、と言ったら失礼極まりないが、今回は4体の女神像に感謝の祈りを捧げる。

 授けて頂いたスキルが思っていた以上に強力でしたが、憧れの装備や船を手に入れる事が出来ました。

 心から感謝します。

 膝を付き、手を組んで真剣に祈る。

 すると幾人かの女性の声が聞こえたような気がした。

 声の数は……4つか?

 という事は、ここに祭られている女神様達なんだろうか?

 だけど囁くような声量だから、何を言っているのかよく聞き取れない。

 辛うじて『ドレー』だけは聞き取れたが、まだ何か続いてたような気がする。

 何かを伝えようとしてくれたんだろうけど、聞き取れなくて申し訳ない気持ちになるな。


 立ち上がり、もう一度女神像を見上げてから頭を下げる。

 それから踵を返して、礼拝堂を後にする。

 礼拝堂の外で待機していたシスターに、袋に入れたお布施を手渡し、軽く挨拶して教会を出る。


 感謝の祈りは捧げられたが、創造神様に直接ってわけじゃなかったから、遠くない内にヴェルトハイリヒ聖教国に行こう。


 それにしても、女神様方はなんて言おうとしてたんだろ?

 ドレーに続く言葉があったとしても、何なのか見当もつかないな。

 ドレーン……は、手術なんかで使うチューブっぽいやつだよな?

 トレー……お盆な訳がないし……あ、もしかしてトレーダーズギルドのことか?

 いや、それはそれで、意味が分からないな。

 なんで女神様が、トレーダーズギルドなんて言い出したのかもだが、トレーダーズギルドで何をしたらいいのかも分からないぞ。

 心当たりはシュラーク商会ぐらいしかないが、スカトを見せたのは昨日だし、本店のあるシュロスブルクまでは1ヶ月近くかかるって聞いてるから、魔導三輪の量産が開始されるとしても何ヶ月も先になるだろうから、俺に用があるなんて事もないだろう。


 ダメだ、いくら考えてもさっぱり分からない。

 意味が無いなんて事はないはずだから、とりあえずトレーダーズギルドに行ってみるか。


 後にこの選択が、俺の運命を変えたんじゃないかと思う。

 言える事は、神託はある意味では正しく、間違っていたという事だ。

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