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7k:猫でなく兎


□ -266℃ □






「我輩はヴェルトのギルド長である。名前はまだ無い」


「どこかで聞いたフレーズだな」



しかし、目の前に座っているのは猫では無く、右耳が半分ほどしかない兎の獣人だ。しかし、名前が無いとはどういうことかな?



「元暗殺者でね、名前は持たない主義だったんだ。適当に、ナナシと呼んでくれ」



そう言って、ナナシさんは笑った。



「それで? 俺達に何かようですか?」


「何、悪いようにはしないさ。神牙(フェンリル)様や、犬族や狼族の連中を敵には回したくないからね。それで、バジリスクの牙なんだが………どうやって手にいれたんだい?」



ヤバい、どうしよう?


最適なのは、俺がバジリスク倒したことを誤魔化すことだが、どうしよう? フェルゥが倒したことにするか? うーん



『道中助けた人から貰ったことにすれば?』



いやいやいや、流石にそれはバレるでしょ。


こうなったら、正直に話して黙っててもらうことにしよう。



「俺が倒しました。倒しかたは秘密ですけど」



全身凍結させたり、脳を凍結させたりして倒したって言っても、信じないだろうし



「流石は牙選者だね。三選者の中でも最も力が強いと言われることはある」



あれ? あんま驚かれないな。でも、その口振りからすると牙選者っていうのはそうとう珍しいらしい。


いや、町の人の反応からして珍しいのか? 他に三選者がいないからよく分からないな。まぁ、そこら辺はそのうち詳しい人に聞こう。いるのか分からないし、何処にいかも分からないけど



「それで、白金貨10枚でいいのかな?」


「あ、はい。大丈夫です」



白金貨は異世界モノではかなりの額のハズだ。なので、一枚ぶんぐらいは細かくしておいたほうがいいだろう。



「あの、白金貨一枚ぶんだけ細かくしてくれませんか?」


「もしかして、無一文?」


「あははははははは」


「了解。白金貨一枚を銅貨や銀貨、金貨に崩しておくよ」



ありがたい。


ナナシさんが、ギルドの職員らしき人にお金を用意するように頼み、待っている間に色々と質問された。


何処から来たのかとか、神牙(フェンリル)とは何処で会ったのかとか、そのスライムはなんで喋っているのかとか………


うん。最初のには正直に異世界人と言って、気づいたら森の中にいて、偶然神牙(フェンリル)と遭遇。仲良くなって、娘さんを社会勉強のために連れて行くことになり、その最中にツクヨミと出会ったことにし、ツクヨミが喋っている理由は本人も分からないということにしておいた。



「はい。これがバジリスクの牙の代金」


「ありがとうございます」



ナナシさんから、大きめの袋を受け取る。ずっしりと重い。中を見てみると、茶色い銅貨や、銀色の銀貨、金色の金貨に、白っぽいおそらく白金貨が入っていた。これだけあれば、暫くはいい生活が出来るだろう。



「それじゃあ、色々と買いたい物とかあるので、失礼しますね」


「あぁ、また用があったら呼ぶから」


「分かりました」



ギルドから出て、受付嬢さんに聞いた色々なお店がある場所に向かう。お金のほうは、銅貨数枚、銀貨数枚、金貨三枚ほどを先ほど貰った袋に入れて、後は異空間収納に仕舞った。


ちなみに、町を歩いていると、やっぱり犬族や狼族の人達から崇められたりする。正直慣れない。しかし、強く言うことも出来ず結局そのままになってしまう。うーん。なんとかしたいんだけど……


そんなことを考えていたら、目的地に着いた。さて、先ずは何処から行きますかね。



「何を買うんだっけ?」


「調味料と調理器具、後は食器に………短剣も買おうかな? 解体用ナイフもあればいい」


「解体なら異空間収納でも出来るよ?」


「他人がいる時にそんなこと出来ないだろ? だから、一応買っておこうと思って」



しかし、どれがどんな店か分からない。


異世界モノだとだいたい鍛冶屋はあるが、他の物は『なんとか商会』てきな感じだったハズだけど、この世界ではどうだろう? ここにいるのは異世界人と、中身は異世界の神なスライムに、社会勉強中の狼…………


やばーい! ティオー。ルルー。ヘルプ!



「トーマ。頭抱えてどうしたの?」


「ルルー! ティオも、なんていいところに!」


「どうかしたんですか?」


「いやー。どれがなんのお店か分からなくて、トーマ君と一緒に困ってしまったよ」



俺がわけを話す前に、ツクヨミが話してくれた。それにしても、意外と早かったな。もう少しかかると思ってたんだけど



「事情を話して、簡単な手紙を書いて渡しただけだから」


「届くのに5日はかかるらしいので、旅を続けましょう。それで、先ずは何を買うんですか?」


「調味料と調理器具かな? あ、この世界って塩とか胡椒って高い?」


「いえ、この国では安いですよ。塩も胡椒も、ちゃんとした製造方法がありますから」


「砂糖は輸入だから少し高いわね。それで、調味料が売ってるのは………」



ティオとルルーに案内されながら、必要なモノを買っていく。


調味料は、塩、胡椒、砂糖に唐辛子っぽいモノを見つけたので購入。


調理器具は、包丁、鍋の大と小、フライパン、ボウル等々


短剣と解体用ナイフも購入。


その後も、皆で必要そうなものを購入していった。



「このぐらいでいいかな。それじゃ、今日の宿探しと、夕食を食べにいこうか」


「そうね。宿なら、黒耳亭がオススメらしいわよ」


「夕食もそこで食べられると思います」


「そうか、ならそこにしよう」



場所を教えてもらったというルルーについて、黒耳亭へと向かう。


黒耳亭は落ち着きのある木製の宿、夕食と朝食つきで、一人一泊銅貨5枚。フェルゥとツクヨミからはお金を取らないらしい。ちなみに、ティオとルルーが同室で、他は俺と一緒。



「黒パンって本当に硬いな」



異世界に来て初めてのちゃんとした食事。黒パンは、凄いゴリゴリしてる。


ちなみに、メニューは黒パン、コンソメっぽいスープ、鮭っぽい魚のムニエルだ。



「スープに浸して食べるんですよ」


「普段は白パンだけど、黒パンもいいわね」


「グルゥ♪」



フェルゥには、焼いた肉が沢山。



「美味いな。ここにして良かったよ」


「の、ようだね。そういえば、ここから王都へはどのくらいかかるんだい?」


「歩いたら1ヶ月はかかるわね。でも、ここの領主が馬車をくれるそうだから、2週間ぐらいで着くハズ」


「その間に、2つほど都市があります」


「とりあえずは、ここと王都の間にある一つ目の都市を目指せばいいのか?」


「そういうこと」



今後のことも決まり、腹を満たした俺達は久しぶりのちゃんとしたベッドという事で、泥のように眠った。





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