22K:獣人救出作戦実行中
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静寂が広がる真夜中、俺ことトーマは、ツクヨミ、フェルゥ、それに、隻眼で片耳の無い元奴隷の狼族のガルバさんと一緒に、眼下に広がる大きな穴を覗きこんでいた。
穴の中では沢山の獣人の人達が、老若男女問わず鉱石らしきものを掘る作業をさせられていて、少しでも休んだり倒れたりしたら、鞭や棒を持った男達に暴力を振るわれていた。
「それで、どういう手でいくんだ?」
「中にはガルバさんと同じで、元軍人も多いんですよね?」
「あぁ、全員が手練れだ。あのような卑怯な手を使われなかったら………いや、言い訳をしていても仕方ないな、クソッ!」
「まぁまぁ。とりあえず、一斉に隷属の呪いを解呪します。そしたら、ガルバさんが纏めてください」
「………無茶を言いやがる。だが、やってやろうじゃないか。サポートは頼むぞ」
「そりゃ勿論」
打ち合わせもすんだ所で、此方も準備が完了した。
そうそう、こうなった経緯を一応
獣人の国を出発した俺達は、情報収集をしつつ、異常と言ってもいい速度で人間の国々を周った。その結果、今いるリビド帝国が一番獣人に対する扱いが酷いことを知ったのだ。
ほぼ家畜同然、人体実験にも利用していたのだ。一瞬、こんな国滅ぼしてやろうかとも思ったが、それはそれで面倒なことになりそうだったので、当初の目的通り獣人の救出に専念することにした。
ちなみに、既にこの帝都以外の都市の獣人は救出済みであり、俺は奴隷泥棒仮面(笑)として警戒されている。まぁ、どんな警戒をされようと無駄なわけだけど。
それで、この帝都で最後というところなのだが、とりあえずどこから救出しようか考えている時に、森の中を多数の男達に急かされて移動しているガルバさんを発見。俺達が男達をしばき、【月之御鏡】を使って隷属化を解除、ガルバさんの案内で、帝都の殆どの獣人が集められているこの場所に来たというわけだ。
「獣人が約500人、帝都の人間が60人くらいか」
「ここから見える帝都の人は、20人くらいだね」
「逃げられる可能性も考えたほうがいいか?」
「そこは任せてくれ、ここから見ただけでも、かなりの数の知り合いがいるのが分かる」
ガルバさんの言う知り合いとは、おそらく軍人の時の知り合いだろう。なら、任せても大丈夫かな?
「一応、回復魔法もかけといたほうがいいかな?」
「だね、癒しの効果をのせとくといいよ」
「了解。“月映し”」
穴の中を、増幅した月の光が埋め尽くしていく
「よし、行くか!」
「応!」
フェルゥ、ツクヨミ、ガルバさんと一緒に、穴の中に飛び込んだ。
さてと、下は混沌な状況になっている。隷属の首輪と呼ばれる、奴隷である象徴であり隷属の呪いの根本となっている首輪が突然外れて戸惑う獣人さん達と、何が起こったか分からずにいる帝都の奴ら達。
「さてと、先ずは見える範囲を潰しとこう」
【温度調整】には範囲の限界がある。しかし、魔法に関して言えば、そんなことは無い。
転移で先に地面に着地した俺は、イメージを固める
「引き寄せ」
「なっ!?」
「凍結縛」
見える範囲にいた帝都の人間を【空間魔法】で俺の周囲に無理矢理転移させて、【温度調整】を使って捕縛する。
さてと、着地したガルバさんが説得している間に、フェルゥとツクヨミにはここにいない帝都の人間の捕獲を頼んでおく。
「くそ! 何者だ貴様」
「ん? ただの獣人奴隷解放のボランティアをやってるひとだよ」
「ま、まさか……最近噂の奴隷泥棒かっ!」
「奴隷から解放してるんだから、泥棒じゃないんだけどな」
ツクヨミからの捕獲(気絶させること)報告を聞きながら、辺りを見回す。ガルバさんは上手く獣人の人達を纏められたようで、知り合いらしき人達と一緒に一ヶ所に集めている。
『トーマ君!』
『どうした?』
ツクヨミが念話をしてきたのだが、なんだか焦っている感じだ。
『なんか、勇者って名乗る痛い少年が出て来て、そこそこ強いんだよね』
痛いって………実際勇者かもしれないんだから、そこはオブラートに包んでやれよ。
『獣人の皆さんは、フェルゥちゃんがなんとか守ってるんだけど、そっちに押されてるからトーマ君が相手して』
『りょーかい』
念話が切れると、通路の一つから獣人の人達が大急ぎでやってくるのが見えた。あそこだな
暫くすると、ツクヨミを乗せたフェルゥが出て来て、通路が爆発した。
おいおいおい。まぁ、崩れてないから別にいいけどさ。
「ガルバさん! なんかかなり強いみたいなんで俺が相手します。非戦闘員の人を守ってあげてください」
「分かった!」
獣人の皆さんを庇うように立つと、通路から高校生ぐらいの少年が出てきた。
軽鎧に、赤い刀身の剣を持った、黒髪黒目の日本人顔の少年。いやまぁ、実際に日本人だろうけどね、鑑定したら異世界人ってでたし
「へぇー、あんたが奴隷泥棒?」
「泥棒って言われるのは当然かもだけど、奴隷からは解放してるから厳密には違うよ」
「どうでもいいよそんなこと、死にたくなかったらケモミミ全員置いてけ、そしたら生かして逃がしてやるよ」
「悪いけど、急いでるんでね」
「後悔させてやるよ!」
勇者(笑)が此方に向けて、巨大な火の玉を放って来た。
炎系の勇者なのかな? かなり強力な魔法のようだけれども、炎系や氷系は俺が一番戦いやすい相手だ。
片手を火の玉に向ける。
「“消失”」
火の玉を熱で消しても意味無いので、温度を下げて消す。
何が起こったか分からないという顔をする勇者(笑)。まぁ、そうだよね
「集団転移」
勇者(笑)が呆けている間に、アススラの門の手前に獣人の皆さん全員と転移する。
ざわざわと驚く皆さんに、ガルバさんにも協力してもらって詳しく説明。
歓声をあげる獣人の皆さんを連れて、門の所に行く。
「お、トーマお疲れさん」
「どーも門番さん」
「今日はまた沢山だな、明日はお祭り騒ぎになりそうだ」
「最近ずっとじゃないですか」
「ハハハハハ! お前のお陰でな」
「そうですね、それじゃ、俺はまだ助けなきゃいけない人達がいるんで」
「そうなのか?」
「えぇ、でも、それが終わったら暫く休むつもりです」
「そうか、それじゃあ、盛大にもてなしてやらないとな」
「楽しみにしてますよ」
後のことを門番さんに任せて、俺は城や帝都の中にいる獣人の皆さんを助けるために、転移を発動させた。




