第50話 機関銃
「やはり早いな」
再びダンジョンを潜ってくる村田達の姿に、ラズルは焦りを感じていた。
「今回は罠対策もしているでしょうね」
「前回はアイーナ様のうっかりで助かったが、相手は腐っても大魔王の娘。おそらくはトラップ対策のアイテムを独自に用意しているだろう」
「ますますやりづらくなりますね」
現状、ラズル達はリリルの育てた強力なモンスターを下層に配置していた。
更にコレまで購入してこなかった強力なモンスターも業者から購入しダンジョンの下層に放っている。
「地下20階のボスの頭を一撃で吹き飛ばした武器がある以上、ただ強いだけのモンスターでは不安が残る。時期尚早だがアレを高位モンスターに使わせるぞ」
「っ!? アレをですか!?」
モンスターに使わせると聞いて、ライナはラズルの言うアレが何の事を指しているのかを理解する。
「ああ、そしてフリーフロアでも新しい対策を行う」
「フリーフロアでもですか?」
◆
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
村田の部下である志野原が悲鳴を上げて十字路を曲がる。
ソレと同時に何十発もの弾丸が志野原の居た場所を通り抜ける。
「くそっ! モンスターが銃を使ってくるなんて、俺は聞いていないぞ!!」
大田が通路の影に隠れて毒づく。
「まったく、ファンタジーの住人が鉄砲なんざ世も末だぜ」
志野原が軽口を叩くが、その声は決して軽くは無かった。
「木が機関銃ぶっ放すなんて何の冗談だか」
村田も呆れてため息を吐く。
そう、今村田達を機関銃で攻撃してきているのは、モンスタープラントと呼ばれる植物モンスターだった。
モンスタープラントは自らの枝に大量のマシンガンを抱えて一人時間差で弾幕を張っているのだ。
枝が無数にある植物モンスターは大量の腕を持っているのと同義。
その為、大量の武器を同時に操る事が出来た。
更に腕が大量にあるので、機関銃が弾切れしても、他の機関銃で弾幕を貼りながらマガジン交換が可能であった。
更にモンスタープラントは村田達の魔法機関銃対策に対魔法装備の盾を幾つも持っていた。
その光景は、モンスタープラントの性質を知っている者からすれば信じられない光景であった。
「まさか、モンスタープラントに武器を装備させるなんて。でも一体どうやったら知能の低いモンスタープラントにあれだけ複雑な事をさせられるの?」
アイーナの言うとおりであった。
モンスタープラントは本来生命力が強いだけのモンスターである。
近づいた獲物を動く枝で捕まえて串刺しにして殺し、養分を吸収するモンスターである。
更に言えば植物型である以上その場から動けず、火に弱い。
決して賢いモンスターではないのだ。
「だと言うのに、あの器用さ。まるで人間の様だわ」
決して勝てない相手では無い。
だが面倒な相手だ。
それがアイーナの認識だった。
だが村田達の認識は違った。
彼等の認識は、これは不味いであった。
村田達がいかに最新の装備に身を包んでいても、身に纏うボディーアーマーは機関銃の弾幕に耐えられない。機動隊が使用するラウンドシールドでも耐えるのは困難だろう。
「こりゃあ装備を整えて出直さないとダメだな」
◆
「対象、ダンジョンから撤退しました」
モニターを見ながらライナが報告してくる。
「よしご苦労」
アイーナ達を見張っていたラズル達は、椅子にもたれかかりため息を吐く。
「何とか撃退できたか。よく頑張ったなリリル」
ラズルは珍しくダンジョンコアルームに居るリリルを労った。
「えへへ」
照れくさそうにはにかむリリルの頭にはヘッドセットがついている。
それは、先ほどまで村田達と戦っていたモンスタープラントに繋がっていた。
ラズルは、モンスタープラントにレシーバーを貼り付け、育成能力をカンストさせたリリルに逐次命令をさせていたのだ。
リリルに育てられた魔物は強力且つ従順。
大した知能を持たないはずのモンスタープラントが複雑な機械操作を出来た理由は正にそれであった。
「よし、モンスターに銃を使わせる実験も成功した。次は連中自ら銃を制限してもらう事にしよう」
ラズルはほくそ笑んだ。




